スガシカオの新しいアルバム。
頭にきて時計を壁になげつけたら、 裏返って91時91分と表示された、という状況の歌。
世界の時刻は、本当は91時91分なのだが、 それは隠されている事実なのだと彼は歌う。
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「私達は真実の一部しか知らない」「裏側にはひどい事実が隠されている」 という不信の空気は、ネット社会で芽を出し、政治経済を俯瞰する時の姿勢として、いささかの市民権を得た。
その不信の空気ですら、市民が獲得したものではなく予め用意されていたもの、かもしれない。
世界は周到に計画実行されている。 きっちり計量され、温度とタイミングを管理されている。
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隠してやがる 裏側全部 みんな疑わしい 本当のこと 誰もいわない 現在・現在・本当の時刻は 91:91 91:91
スガシカオは歌う。
本当は91時91分なんだろ?などと真顔で言えば、頭が狂ったかと思われる。 黒澤明の映画「生き物の記録」の中島喜一みたいな末路が待っている。
アーティストというのは、社会常識という正面玄関からは受け取れないものを、 メタファーという衣をまとい、人の心の裏口からそっと、届けることができる。
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中島喜一、否、黒澤明の原水爆に対する妄想が、世界を危機から回避させたと言えないことはない。
肌で感じる不信やいかがわしさを表明するのは、無意味ではない。 法律も社会常識もへったくれもなく、遠慮なく「よくわからないがとにかく嫌だ」と、人が唖然とするまで言えばよい。
狂ったと思われる頭をどう活用するかが大切だ。
2008年05月26日(月) 赤い大地を守れるか 2007年05月26日(土) 2006年05月26日(金) 文を盗む 2005年05月26日(木) 修繕日 2004年05月26日(水) 学校の話
環境省は21日、新潟県佐渡市で抱卵(卵を温める行為)をしていた放鳥トキのつがい(4歳雄と2歳雌)が温めるのをやめたため、この巣の卵はふ化しないと考えられると発表した。産卵が確認されたつがい4組すべてが繁殖に失敗した。というニュース。
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政府の行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)は二十五日、政府系の公益法人などを対象とした事業仕分け第二弾の後半四日間の作業を終えた。七十法人の八十二事業のうち六十三事業について、廃止か事業の実施に競争性の導入を求めた。今回対象となった事業の77%が、公益法人による国や公的機関の発注業務独占を厳しく問われる結果になった。というニュース。
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仕分け残しがありますよ!と、誰か言ってもよさそうではないか。
別にトキに恨みがあるわけではないし、現場の専門家の使命感を尊重しないわけではない。飛来を見守る人達の心優しい気持ちも素晴らしいと思う。 繁殖に失敗したということも、残念で気の毒と思う。
でもしかし、このプロジェクトに一体いくらつぎ込まれたのか、 この先どうするつもりなのか、私は鵜の目鷹の目ならぬ、蓮舫の目になって知りたいと思う。
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単独の生物の繁殖に金と人と時間を注ぎ込むことに、私は賛成しない。そのパフォーマンスはスナップショットに過ぎず、また他の生物の生息を必ず圧迫する。自然界へ変に執着することは様々な不自然を生じさせるのだ。
あちこちでトキを存在させたければ、ペットショップにでもまかせればよい。心配しなくても、日本固有種のトキはもうとっくに絶滅している。
2007年05月25日(金) 2006年05月25日(木) 滋養電池 2005年05月25日(水) 迎合文 2004年05月25日(火) 謝意
夜の来客。J君とS君が望遠鏡を借りに来た。 日本で、いや世界で最も脂がのったクライマー2人にHという身内を加えて、濃いい連中が3人、狭い部屋の中にいる。 急に、部屋の空気が薄くなった感じがする。ここは標高何mか。
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アラスカ帰りのJ君とS君は、太陽と月みたいに対照的だ。
まあとにかく、次の山も無事に行ってきておくれという気持ちで見送る。
若さという勢いのある二人だから、きっと楽しんでくることだろう。
2007年05月23日(水) 2006年05月23日(火) 大河への憧れ 2005年05月23日(月) 2004年05月23日(日)
夕食後、家のまわりを夕涼み。呑気なものである。
田植えの終わった田へカエルを見に行こうとブラブラ向かう。 Aは得意そうに自転車に乗っている。
いつもは賑やかな田の中のカエル達は、静寂を保っている。 みると、向こうの畔で、一羽のトビがカエルを喰っている。
カエル達は、殺戮の現実をわかっているのだろう。 泥の下でじっと身を潜めている。
喰ったトビとて、こちら側にいる我々人間を警戒して、 「おかわり」のために田のまんなかへ出るのをためらっている。
カエル達は、空高くから物色され、選択され、 連れて行かれた仲間が喰われる気配を感じながら、 「今回はあいつで俺じゃなかった」とか、思っているのだろうか。
観察に飽きたAが、また自転車に乗って、行ったり来たりし始める。 小さい弟は、自分も乗りたいと後を追う。
2009年05月19日(火) 固執する意味 2005年05月19日(木) 旺盛な気分 2004年05月19日(水) 国語の時間に教わったことの話
2010年05月18日(火) |
品格と権威のある正当な評価 |
アラスカへ遠征に出掛けていた、OさんとJ君の最新情報。 やるなあ、と、Hが朝から感心していた。
なかなかの快挙なのらしい。 地元紙ぐらい少しは取り上げてほしいよなあ、とHが残念そうに言う。
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ここ数年、お山の業界において、 日本人は、結構存在感を示しているのである。
そしてそれらは-ほかの色々な分野と同様に-、 国内ではなく海外で、正当な評価を得ている。
もちろん、ほかの色々な分野で実績をあげている人々と同様に、 当事者本人達は、評価されるためにやっているのではない。 自分が満足するかどうか、それのみである。
社会的評価はあってもよいし、なくても別にかまわない。 チンプンカンプンな褒め方や期待をされなければ、別にいい。 本人達はおそらく、そんなところじゃないかと想像する。
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世界をリードする日本人を、誰でも彼でも闇雲に日本の誇りにすることもないだろう。
少なくともアルピニズムの世界で活躍する彼らについては、日本国内に品格と権威のある評価がない以上、いたずらにマスコミの手垢まみれにすることもないだろう。
2008年05月18日(日) 現代非国民-消費せぬ者は国民にあらず- 2005年05月18日(水) 高度な理知の手 2004年05月18日(火) 資質かシステムか
朝、小さな出店みたいな八百屋に立ち寄る。
朝の肌寒さに羽織ってきた上着を褒められたところから、 店のおじいさんの昔話のはじまり。
おじいさんの母親は、はた織が上手で色々なものをこしらえていた。 上手が高じて、出かけた先で姿かたちの気に入った人を見つけると、 その見ず知らずの人のイメージで着物の柄を考案し、こしらえるのだそうである。
一ヶ月もして着物が仕上がると、今度は着ている絵姿を描いて息子に渡し、 「この辺りにこうした人がいるから、この着物を差し上げて来い」と使いに出し、息子であるおじいさんはその場所へ通いつめ、昔話の絵姿女房のごとく「こんな人なんだが」と絵姿を見せて探し回って、無事に見つけることができると、事情を説明して着物を渡してくるのだそうである。 一度や二度ではなかったのらしい。
あげた人にはずい分恐縮されちゃってねえ、と思い出し笑い。 そうでしょうねえと相槌をうつ。
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随分昔の、小さな村の中での出来事ではあるけれど、 何もかもが途方もないこの話が、私は何だかすっかり気に入ってしまった。
その人-おじいさんのお母さん-の発想の、なんと面白いことか。 人間が「思い立つ」ということに、無限の可能性を感じてしまうのである。
またそれに応じて、「そうかいそれじゃ」と、探し当てて届ける息子の素朴な素直さがよい。
母と息子のどちらも損得や効率で労を惜しまないのが、昔の人らしい。
日頃から損得や効率で労を惜しまない習慣をもっていると、 物事を思い立つ幅が広がるということなのだろう。
2007年05月17日(木) 苦を救う その2 2006年05月17日(水) 罪にすることができる 2005年05月17日(火) 芯折れ鉛筆 2004年05月17日(月) サマワに降る雨
地域生活の色々な役目や、家の中の雑事に忙殺される。 年度はじめの仕事、衣替えや季節の変わり目の仕事や何かである。
それはそれなりに必要性や重みや意義があるのだけれど、 自営業がそれにかまけていると、自分の首をしめることになる。
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かくして、気がつけば、連休前からほとんど仕事に時間を使ってないことに気づく。 久々にシャバの動きを洗い出してみれば、なんと、重要な情報を取り逃がしていた。
油断した。 ちょっと、のんびりしすぎてしまった。まだ先と思っていた締め切りも近い。 大いに悔やむ。
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さあ、顔を洗って、今年のビジネスにとりかからねばならない。
暮らしや地域から与えられた役目や仕事は大切だけれど、 稼ぎ仕事と一緒に抱えるには、少々重荷と感じなくもない。
地域のしがらみのない都会に一人身でいて、衣食住の雑事は自分のための最小限であり、集中をそがれることなく、やりがいのある仕事に好きなだけ時間を使うことができる。
なんと素晴らしいことか。
こんな王子と乞食の王子のような無い物ねだりを想像してしまうほど、 つまりは役務疲れしているのである。
2007年05月14日(月) 仕事放棄・子育て支援 2006年05月14日(日) 当然とは何か 2005年05月14日(土) 慕情の日 2004年05月14日(金) 三倍速の一日
大事なお客さんを二人、家に招いて昼食をとる。
食事によぶというのは、私にとって特別な意味がある。 元気になってもらいたいとか、親密になりたいという願いが込められる。 そして、本日は後者の方である。
2006年05月13日(土) politeであること 2005年05月13日(金) どこまで東京 2004年05月13日(木) 資質と備えの話
2010年05月10日(月) |
それを想像しない権利 |
夜中のラジオが、どういうわけか高校生向けの現代文の番組。
題名はわからずじまいだったが、タイが舞台である。 日本向けのキャットフード製造工場で働く16歳の女の子が出てくる。 わずかな現金収入のために農村地帯の故郷を離れ、一人で暮らしている。
キャットフードは一缶130円。筆者の飼い猫は1回で1.5缶食べる。 件の女の子の一日三食の食費は、日本円にして130円程度。
日本向けのキャットフードを安賃金で作っていることについてどう思うか、 という作者の不躾な質問に、女の子は答えず不快感を示す。 そこで初めて、作者は自分の無神経さに恥じ入るわけである。
「彼女にはそれを想像しない権利がある。 自分達日本人は、それを想像する義務がある。」
筆者は、反省をそう総括している。
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沈み行くようなこの日本国にあって、この小説のようなシチュエーションがいつまで読者に有効かわからない。
既に「それを想像しない権利」を手に入れた日本人も沢山いる。 そしてこれからもっと、増えるかもしれない。
ひとごとではないのだ。
2006年05月10日(水) 3時間と一生 2005年05月10日(火) 夢ログ 2004年05月10日(月) 命の著作権
長野県下諏訪町の諏訪大社下社で開かれている御柱祭で、柱(高さ約17メートル、周囲約3メートル)を垂直に立てる「建て御柱」の最中、柱に乗っていた氏子の男性3人が十数メートル下の地面に落下した。というニュース。
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全国ニュースで報道されていたから、驚いた。
衝撃を演出するマスコミによってこの祭りが氏子や神社から引き剥がされていく。 祭りの精神性は、責任の所在とか、安全確保を怠ったとか、およそ似つかわしくない言葉によって損なわれていく。
かくして翌日継続された祭りの様子は、すっかり魂の抜け落ちたものになってしまっている。
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建御柱から人が落ちたことを決して是認するわけではない。
けれども、御柱祭のことを理解しない人間によって騒ぎ立てられ、 今後の祭の在り方が定義されようとしていることに、深い違和感を感じる。
精神性を損なわれた祭りは、ただの集客装置に成り果てる。 饐えた、嫌らしい無責任な盛り場の臭いを発し始める。
そして、祭りを失い精神の行き場を失った人々は、ある部分で心が死んでしまう。 精神文化とは、そういうものである。
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今回の残念な出来事があっても、御柱祭はそんな無表情な公共行事になってほしくないし、 諏訪の祭りのことは諏訪の人間の好きにさせ、よそ者がとやかく言うべきではないと、私は強く思うのである。
2007年05月08日(火) 2006年05月08日(月) 教育騒乱 2005年05月08日(日) Ping9
2010年05月07日(金) |
カビは表面から生え、腐敗は内側からすすむ |
油断していたら、夏みかんのジャムにカビが生えた。 びんの中の一部が、うっすら白くなっている。
我が家のジャムは糖度を抑えて拵える分、足がはやい。 冷蔵庫できっちり保管して、早く食べきるのを旨としているのだが、 急に暑くなった昨日今日、テーブルの上に放置していたのがよくなかった。
表面のカビをそっと除去し、再び熱を加え、 パウンドケーキに焼きこんで食べてしまった。 今のところ、なんともない。
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同じく油断から、こんどは新玉ねぎを腐らせた。 水分の多い新玉ねぎは、風通しの良い場所か冷蔵庫で保管が定石だが、 ビニール袋に入れたまま台所の隅に放置していたのがよくなかった。
半分に切ると、中が茶色くどろどろになっている。 せっかく無事に育って収穫されたというのに、かわいそうなことをした。
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カビは表面から生え、腐敗は内側からすすむ。 諸々の変化に対して油断していると、そうなる。 いつの間にか、知らないうちに、手遅れになる。
それが替えがきくものであればお払い箱にもできるけれど、 決して失ってはいけないものにカビや腐れが入ったときは、 それはもう、本体を蝕もうとするものを全力で取り除いていくしかない。
2007年05月07日(月) 過酷なレッスン 2006年05月07日(日) 男合宿 2005年05月07日(土) 悪の研究 2004年05月07日(金) 不機嫌スパイラル
山の家で4日遊んで、家に戻る。
不意の来客で、完全なアテンド疲れ。
こちらが命の洗濯をしようという心づもりのところへ急にやってきたから、なおのことくたびれた。
そんなに頼りにされても、困るんだけどなあという心情である。
2005年05月02日(月) 忘れ霜
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