周囲には、 幾重かに築かれた郭が在って。
其れ其れに与えられた、 格付けに従って。
辿り着く事の許される層が、 定められて居るから。
虎口を壊し、 塀を崩しても。
内なる郭へとは、 進めずに。
扉が開かれ、 逆茂木が除かれ、 招き入れられる様にして。
初めて。
其の内側へと 進めるのかも知れない。
一方的に相手を追い求め。
「こっち来てよ!」 「抱っこさせてよ!」
がむしゃらに、 自分の希望を押しつける、 姫を。
「抱っこするぅ!」 「抱っこするぅ!」
がむしゃらに、 覚えたての言葉を放つ、 娘を。
奇異な生物を、 目の当たりにした様な表情で見つめて。
「うにゃぁ!」
黒猫は、 押し入れの奥へと逃げ込んだ。
想いを、 交わし逢う事無しには。
内になど、 辿り着けやしない。
俺には、 其の身体を許しながらも。
其の黒猫が、 娘にも、 姫にも、 身を委ねない理由は。
ちゃんと在るのにね。
---------- References Aug.15 2006, 「針が進んだ証拠でしょうか」
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