2009年07月17日(金)  一年ぶり!SKIPシティ国際Dシネマ映画祭

去年、国際長編部門の審査員を務め、とても刺激的な経験をさせてもらった埼玉県川口市のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭。早いもので、あれから一年経ち、ただいま第6回を開催中(今年は7月10日〜20日)。関係者パスを用意していただいているので、できるだけ足を運ぼうと思いつつ、開催一週間目の今日になってようやく行けることになった。

おめあては、去年のクロージングパーティで仲良くなった藤村享平君の短編『アフロにした、暁には』。彼は函館港イルミナシオン映画祭のシナリオコンクールで市長賞300万円をせしめていて、同じコンクールの受賞者という縁で声をかけてくれたのだけど、その後で月刊シナリオに載っていた受賞シナリオ「引きこもる女たち」を読んだら相当面白くて、これからどんな作品を作っていくのか楽しみな青年。

短編の上映は午後だけど、せっかくなので、午前の長編も観ることに。『神の耳』(God's Ears)というアメリカ作品(予告編はこちらで)。ボクシングに打ち込む自閉症の青年ノア(マイケル・ワース監督自ら主演)が、ポールダンサーのアレクシアと恋に落ちるという純愛もの。あらすじを見ただけでは「裸同然で男を誘惑する職業の女が障害を持った男の純真さに惹かれる」ありがちな話という印象を受けたのだけど、二人が惹かれあっていく過程がとても丁寧で、本当に恋の始まりを見守るようなドキドキ感があった。アレクシア役のマーゴット・ファーレイが、ポールダンサーの妖婉さと素顔の優しさと聡明さという両面を実に自然に演じていて、それも作品の魅力になっている。

ダイナーで「卵なんてどこで食べても同じ」とうそぶくアレクシアに、離れたテーブルから鶏の蘊蓄を聞かせるノアという出会いから互いを意識し始める二人。ノアが「母親を迎えに行く」旅行にアレクシアが仕事仲間のキャンディとともに同行したことで、二人の距離はぐっと縮まるが、旅先で会うノアの叔父や祖母のキャラクターやそこで交わされる会話もとてもチャーミングだった。「2秒あれば人生は変えられる。Yes,I willというだけの時間がある」といった説得力のある台詞がちりばめられていて、それでいて語りすぎない。ラストでアレクシアが「LIVE NUDE」(生ヌード)の看板が掲げられた店を後にする場面、振り返ると、「LIVE」だけが目に入り、「生きろ」というメッセージになるのは、とてもすがすがしい。脚本を書いているのも監督で、編集もこなしたとのこと。なんてマルチな才能なんだ! 

終映後のQ&Aで監督は「コミュニケーションの映画を作りたかった」と話していたが、まさに、人と人がつながるというのはどういうことか考えさせられる作品だった。以前、「障害者と性」をテーマにした映画を作ろうとして、結局企画が立ち行かなくなったことがあったが、そのときのテーマもやはりコミュニケーションだった。その映画でやろうとしたことは、わたしが考えた以上にうまく、自然に、この『神の耳』に込められていた。タイトルの由来は劇中のノアの台詞で明かされるが、「誰にも自分の言葉が届いていないと思っても、神様は聞いてくれている」というような意味で、この言葉もとても心に残った。

「ノアを鶏博士にしたのはなぜ?」という質問には、「自身も鳥好きだから」と監督。「鶏は翼があっても飛べないので、その閉塞感の意味も込めた」とか。また、アメリカ映画によくある「貨物電車の通過待ち」の場面は、意図したものかという質問には、「撮影中に偶然貨物電車が通りがかり、監督の直感で使うことにした。通り過ぎて行く人生にたとえられると思った」とのこと。

出口で監督をつかまえ、「ダイアローグがとても良かった」と伝え、「鉄道好きだそうですが、日本の鉄道は楽しんでいますか?」と聞くと、「JR is great」という返事だった。写真に一緒に写っているのが、終映後に合流した藤村君。

藤村君とお昼を食べようと2階のシネマカフェ(映画祭期間中、地元の川口のイタリアンレストランがカフェを開店)へ移動する途中、「これ知ってます? すごいんですよ」と藤村君が映像ミュージアムを指差し、通り抜けていくことに。パンフレットや映像での紹介は見ていて、気合の入った施設だなあと思っていたが、先日訪ねたNHKスタジオパークが広々となったような贅沢な空間に最新の機材がずらり。

「お天気コーナーやってみませんか」と係の人に声をかけられ、挑戦。カメラの前に立つ姿が画面に合成される。「地図を指差しながら話してください」などと、かなり細かい演技指導が入る。わたしはノリノリ、藤村君はカメラには弱いことが判明。「歌のお姉さんもありますが」とすすめられるが、こちらは見本を見せていただき、演技は辞退する。

その隣は「空飛ぶ絨毯」の合成映像コーナー。小学生と思われる女の子二人が世界一周に続けて恐竜時代へタイムスリップ。これまた「パンチとキックで恐竜をやっつけて」などと細かい演技指導があり、大忙し。見ているのは楽しいけど、絨毯の上の二人は恥ずかしそうだった。

他にもムービーカメラの操作を学べるコーナーもあり、いたれりつくせりな映像ミュージアム。夏休みに親子で行ってみても楽しそう。

シネマカフェでお昼を買って、一階のおひさま燦々の下でランチ。藤村君とは去年のパーティで会ったきりだけど、今回の短編の製作話(函館の賞金を映画製作に使っている。えらい!)や脚本の話(商業映画は興行を考えて、若い男女を出す必要がある!というとこで盛り上がる)など、話題はいくらでもある。カレーもなかなかおいしく、去年食べたカレーパンもおいしかったのを思い出した。

さて、いよいよ短編上映。藤村君の『アフロ〜』の前に『ブランコ』『太陽の石』を上映し、合計85分の短編1(予告編もこちらで)というプログラム。

『ブランコ』はフリーのCMディレクター藤田峰人さんの初監督作。小学生の頃「ブランコ」というラジオドラマに衝撃を受けたわたしは、ブランコが出ているだけで心が揺れてしまう。まだかすかに揺れているブランコを見て、「誰かいたんだ」なんて情を描くというところは、ブランコらしくて心憎い。ブランコが物悲しいのは、あのきしみの音と、人が去っても揺れ続けるせいかもしれないと思ったりする。ブランコにかわるがわる座るカップルの会話がオムニバス形式で綴られ、その会話もそれぞれ興味深く、舞台劇のような味わいもある。短編にしては長い48分というある程度の時間をかけているので、もうひとひねりあると、より見応えのあるものになった気がする。それぞれのカップルが実はつながっていた、のような驚きが用意されているのではと期待が膨らんでしまった。わたしも広告業界から脚本の世界に飛び込んだので、広告出身の才能に、大いに共感と期待。今後の作品に注目したい。

『太陽の石』の遠藤潔司監督は75年生まれで、これが初監督作品。「影絵で映画をやろう」と思いつき、人集めを始めたもののなかなか集まらず、少しずつ支援の輪を広げていったそう。「とにかく影絵でやるんだ!」という真っすぐな想いが伝わってくるような作品で、太陽のかけらのような赤い石を拾う主人公の少年の気持ちに寄り添って観た。「デジタルだからできた」という影絵の表現が素晴らしい。あごから滴る滴で、少年が泣いているのだとわかったり、ところどころドキッとしたり、ハッとしたりする場面がある。発見と言ってもいいかもしれない。シルエットにすることで見えることがあるんだなと。音楽も監督がつけたそうで、これもデジタルだからできたという。

少年の横顔の美しさが印象的だったが、Q&Aのときに少年を演じた高岩彩さんが登壇し、女の子だとわかった。監督が脚本を相談していた脚本家さんの姪っ子だそう。男の子のように髪をばっさり切ったことについて、「男の子の気持ちでやりたかった」と答え、役者魂を見せていた。『太陽の石』はロサンゼルス国際短編映画祭(去年「つみきのいえ」が出品された映画祭だそう)にも出品しているとのこと。

『アフロにした、暁には』は、事前に「シュールですよー」と藤村君本人から釘を差されていたのだけど、驚きよりも、「わあ、藤村君らしい」という納得が勝った。彼の作品は去年もこの映画祭の短編部門にノミネート(数百本の応募から2年連続で勝ち抜くとは、強運と実力の証)されているのだけど、わたしは見逃してしまっているので、映像を観るのは初めて。でも、函館のコンクールの受賞脚本と、今日観た映画には同じ匂いを感じた。ぶっ飛んだ設定を、ありそうに思わせてしまうのは、登場人物の存在感のチカラなのか。キャラクターと台詞がうまいというか独特というか、テクニックとは違う光るものがある。カセットコンロがライター代わりとか、泡風呂に入る彼女の脛毛を剃ってあげる男とか、細かいところが面白い。アフロにして映画を観に行ったら後ろの客が困る、怒るという場面、わたしもまわりもかなり受けていたけど、この作品を思いついたのは、「映画を観てて、頭が邪魔なヤツがいる」ということだったとか。

もうひとつ、藤村君の作品は、セックスがとても当たり前な顔して登場する。あるけれどないものとして描く「避ける派」でもなく、描くからには意味を持たせる「掘り下げる派」でもなく、食事の場面のように普通のこととして描いていて、無駄な力が入っていないところが、かえってユニーク。ぜひ、『引きこもる女たち』の脚本も自ら監督して、映像にしてほしい。

アフロになるダメ男役の柄本時生さんは、柄本明さん(『ぼくとママの黄色い自転車』の岡山のシーンで、正太郎じいちゃんを熱演)の次男だそう。なんともいえないとぼけた味わいがあった。去年同じくクロージングパーティで仲良くなった西田薫さん(去年の日記を読み返したら、西田さんがまず声をかけてくれて、藤村君を紹介してくれたのだった)も出演していて、「お元気そう!」をスクリーンで確認し、なんだかうれしかった。

短編映画を観る機会はなかなかないのだけど、短編こそスクリーンで味わうのはいいものだ、と感じる。3監督そろってのQ&Aも三者三様の映画への姿勢がうかがえて、聞きごたえがあった。

映画祭事務局の木村美砂さんとも一年ぶりに再会。映画祭スタッフの方にbukuのエッセイ連載を読まれている方もいたりして、故郷で歓待を受けたような楽しい一日となった。

2008年07月17日(木)  最近食べたお菓子
2007年07月17日(火)  マタニティオレンジ147 働くお母さんの綱渡り
2005年07月17日(日)  阿波踊りデビュー
2004年07月17日(土)  東京ディズニーシー『ブラヴィッシーモ!』
2000年07月17日(月)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月14日(火)  「好き!」を見せるとトクをする

隙を見せると損をすることが多いけれど、「好き!」の意思表示をすると、トクすることが多い。かかりつけの整骨院のウキちゃんの元には、「おいしいもの大好き!」(実は好き嫌いが多く、食べられないものがかなりあるのだけど)と声を大にして言っている成果で、患者さんが次々と食べものを持って来る。治療のついでだけじゃなく、食べものだけを届けに来る人も後を絶たない。そのたびにウキちゃんは「わあ! これ食べたかったんですよ!」と小躍りして喜ぶので、おいしいものが手に入ったら「ウキちゃんに食べさせてあげたい」と思う皆さんの気持ちがよくわかる。

わたしもけっこう「好き!」を言いふらしているので、甘いものやハートの形のものが集まってくる。昔からの友人だけでなく初めて会う人が、いまいまさこカフェのギャラリーを見て、わたしの甘いもの好きやハート好きを知り、「こんなの知ってます?」と差し出してくれる。合体してハート型のチョコレートになることもある。

日曜日、朝ドラ「つばさ」のファンミーティングでNHKへ行った帰りのこと。朝から「ブーブーのりたいよー」と言い続けていた娘のたまのリクエストに応えて、タクシーに乗った。原宿駅までだとあっという間なので、「代々木まで行くと、いくらぐらいかかりますか」と運転手さんに尋ねたら、「千円ぐらいかな」。だったらと山手線でひと駅先の代々木駅までお願いした。わが家は自家用車を持たないので、たまにとってタクシーに乗ることは非日常。すっかり興奮しておしゃべりになっていると、「お嬢ちゃん、いくつ? おしゃべり上手だね」と運転手さん。「この子、ずっとタクシーに乗りたがってたので、よっぽどうれしいみたいです」と言うと、「よーし、じゃあ、おじさん、ワンメーターで代々木まで行っちゃう」と運転手さん。「え、いいんですか」と驚いていると、途中でメーターを切ってしまった。わたしは感激しきりだったけど、たまはおまけのありがたみがよくわかっておらず、お礼も言わずにタクシーを降りてしまった。日本交通無線番号135番の運転手さん、ありがとうございました。

「好き!」は幸運を呼び寄せる魔法の呪文みたい。今日の子守話も魔法のお話。あいかわらず、たまには不評で「やめて〜」と逃げてしまった。
子守話88「まほうつかいのたまちゃん せんたくもののまき」

たまちゃんが まじょに でしいりして まほうを おそわりました。
「まほうは よくきく くすりだけど
 かしこく つかわないと どくに なるよ」と 
まじょは こわい こえで たまちゃんに いいました。
たまちゃんの まほうの ききめは たった3かですが
たまちゃんは まじょの ことばも 3かで わすれてしまいました。

あるひ たまちゃんは ママの おてつだいが
めんどうくさくなって せんたくものに まほうをかけました。
「ちちんぷいぷい。せんたくもの おりこうさんになあれ」

おりこうさんになった せんたくものは じぶんで
せんたっきの ドアをあけて そとに とびだし
いちもくさんに ものほしだいまで かけていきました。
そでのながいシャツが ものほしざおを もちあげると
シャツたちは するすると さおに そでを とおしていきます。
そのあいだに ブラウスは ハンガーに とびついて ひっかかり
くつしたとズボンは われさきにと たこあしに ぶらさがりました。
みんなで いっせいに とりかかると あっというまでした。

せんたくものたちは おひさまに あたって かわくと 
さおや たこあしや ハンガーから はなれて へやに とびこみました。 
シャツや ブラウスや ズボンは ふたつおりになったり よつおりになったり
じぶんで じぶんを きれいに たたみました。
くつしたは あいてを みつけて くるりと まとまりました。

らくちん らくちん。
たまちゃんは まほうの ききめに だいまんぞくでした。

ところが こまったことになりました。
おりこうになりすぎた せんたくものたちの
いやいやが はじまってしまったのです。
たまちゃんが シャツを きようとすると
「やあだよ」とシャツは にげていきました。
ズボンは「おむつと くっつくのは やあだよ」。 
くつしたは「どろんこに なるのは やあだよ」。
たまちゃんは むりやり シャツをきて ズボンをはいて
くつしたを はきましたが げんかんを でるまえに
「ほいくえん いくの やあだよ」と みんなが にげだして
たまちゃんは はだかんぼに なってしまいました。

やれやれ ほいくえんまで いくのも ひとくろうです。
まほうの ききめが つづく 3かかんが
なんと ながく かんじられたことでしょう。
いつも たまちゃんに てを やいている ママの きもちが わかって
たまちゃんは すすんで おてつだいするように なりました
「あら たまちゃんに まほうが かかったみたい」と
ママは おおよろこびです。

2008年07月14日(月)  英国ロイヤル・バレエ団 日本公演2008『眠れる森の美女』
2007年07月14日(土)  マタニティオレンジ146 コンロの火を消した犯人
2002年07月14日(日)  戯曲にしたい「こころ」の話
2000年07月14日(金)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月13日(月)  ちびっ子総立ち!東京大学奇術愛好会のマジックショー

先週の土曜日、近所の公民館で開かれた東京大学奇術愛好会のマジックショーに出かけた。今回で第5回で、初回の2005年を観て以来、毎年できる限り足を運ぶようにしている。今年は、保育園へ向かう道すがらの店先に貼られた告知ポスターを娘のたまと見つける遊びをしながら、指折り数えて当日を待った。

はりきりすぎて開場時間の7時を開演時間だと勘違いして会場に乗り込んでしまったが、7時半になると畳に座布団を敷き詰めた会場は親子連れでぎっしり。マジックへの期待で目がらんらんの子どもたちの熱気はすごい。前座で町内会の世話役らしいおじさんが「がまの油売り」をコミカルに演じ、子どもたちは大受け。いよいよマジシャンの入江田翔太さんが登場すると、「あんた知ってる!」の声が飛んだ。去年、新しいレモンを切った中からお札を取り出すというマジックで驚かせてくれた人。

ジャケットを後ろ前に着て登場した入江田さん。「ぼく、ファッションセンスがないって言われるんですよ」。会場からボランティアを募り、袋に入ったネクタイから一本を選んでもらうことに。女の子が選んだのは、蛍光のグリーンのネクタイ。はたして、入江田さんがジャケットを裏返すと、身につけているのは、なんと同じ色のネクタイ! 「ええーーーーーーっ!」の声とともに、子どもたちが一斉に立ち上がった。

「今日は、靴下も同じ色でそろえてきました」と足を上げて、靴下をアピールしたあと、カップ&ボールのマジックを披露。カップをたたくとボールが出てくる、そのボールも同じく蛍光グリーン。やっているうちにボールが靴下になってびっくり。入江田さんが足を上げると、靴下をはいていた足がいつの間にか裸足に! 「あれは、さっきと逆の足とちゃうかな?」と同じクラスのカナコちゃんのママ(関西人)が後ろからささやき、「なるほど。その手があったか」などと話していたら、カップからネクタイが出てきて仰天。いつの間にネクタイを外したのか! カップの中からオレンジジュースの入ったトールグラスが現れるのも不思議不思議。

他に手元のカードが一枚ずつそでの中を通り抜けるマジック、ちびっ子3人が選んだカードを次々と当てるマジックなどを披露。去年と同じくレモンから千円札が出てくるマジックも。切り目を隠しているのだろうか。2回見ても、さっぱり種がわからない。一年経って、去年よりも動きがこなれていた入江田さん。ショーの後、子どもたちにサインを求められ、「今もらっとくといいかもね。今度世界大会に出るんですよ」と話していた。健闘を期待したい。

マジシャンといえば、友人の城光一君もかなりの腕前。以前二人でカウンターの店で食事して、テーブルマジックを独り占めで見せてもらったが、贅沢な時間だった。大阪のNHKで番組制作をしている彼が作った「その時歴史が動いた」の「戦国のゲルニカ〜大坂夏の陣、惨劇はなぜ起きたのか」の回は、今でも検索してこの日記(2008年6月26日)にやってくる人が多い。仕事でもマジシャンぶりを発揮している様子。

今日の子守話はマジックにちなんで、魔法のお話。なぜか、たまは怖がって、不評だった。
子守話87 まほうつかいのたまちゃん れいぞうこのまき

たまちゃんが まじょに でしいりして
まほうを おそわりました。
まほうつかいの たまごの たまちゃん。
まほうの ききめは たったの 3かです。

さあて なにに まほうを かけようかな。

たまちゃんが さいしょに まほうを かけたのは
れいぞうこでした。

ちちんぷいぷい れいぞうこの なかの
たまちゃんの すきなもの
たまごを うんで どんどん ふえろ。

じゅもんを となえて どれどれと
れいぞうこを あけてみると
だいすきな プリンの となりに たまごが ひとつ。
わってみると なかから プリンが でてきました。
そのプリンを たべている あいだに
れいぞうこの プリンが また たまごを うみました。

バナナも りんごも チョコレートも 
たまごを うんで れいぞうこの なかは たまごだらけ。
だいすきな おやつを たべほうだいです。

ところが こまったことが おきました。
たまちゃんの きらいな にんじんや ピーマンも
たまごを うんで しまったのです。
たまちゃんの まほうが へたくそだったのでしょうか。
にんじんを いやいやたべても
れいぞうこの にんじんは なくなりません。

「さあ たまちゃん これを たべなさい」
ママが ホットケーキを やいてくれました。 
ほんのり あかくて あまあい ホットケーキです。
こんなに おいしい ホットケーキを
たまちゃんは たべたことが ありませんでした。
「その あかいろは にんじんの いろよ」と ママが いったので
たまちゃんは めを まんまるくしました。
ホットケーキには すりおろした にんじんが はいっていたのです。
まるで ママが にんじんに おいしくなる まほうを かけたようでした。

たまちゃんは すっかり にんじんが だいすきになって
「もっと もっと たべる!」といいましたが
まほうの ききめが きれて にんじんは もう ふえませんでした。

2008年07月13日(日)  マタニティオレンジ311 東京ディズニーシーでパークデビュー 
2002年07月13日(土)  『寝ても覚めても』『命』
2000年07月13日(木)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月12日(日)  朝ドラ「つばさ」第16週は「嵐の中で」&「ラジオぽてとin渋谷」

昨日の川越参りに続いて、今日は渋谷で開かれた「つばさ」ファンミーティングにお邪魔する。子守の都合がつかず、娘のたまを連れて行くことに。会場は親子連れが多く、ほっとしたが、始まるなり、たまは「ちゅばさ どこ?」を連呼。「つばさ、見にいこうね」と話していたのだが、つばさ=玉木つばさに会えると期待してしまった様子。多部ちゃんはビデオレターで何度か登場したが、たまは本物を所望。そこまでファンになっていたとは知らなかった(後でじいじばあばに報告するときも「ちゅばさ テレビだったの」)。

今回は「ラジオぽてとin渋谷」ということで、真瀬昌彦役の宅間孝行さん、丸山伸子役の松本明子さん、浪岡正太郎役のROLLYさん、ロナウ二郎役の脇知弘さんが登場。まず、寸劇で幕が開いた。つばさがベッカム一郎とラジオで共演する初日のラジオぽてとという設定で、二郎が気象情報コーナーをやっているブースの外では、あとの3人がベッカムの番組に大受け。放送を終えた二郎が出てくると、「よし、戦略会議だ。この波に乗って、ラジオぽてともメジャーになるぞ」と真瀬。すかさず、歌を作って売り出せば、と算盤を弾く伸子。だが、浪岡の考えた旋律は、つばさがいない淋しさで暗く沈み、「それじゃあメジャーはダメじゃー」と二郎が突っ込む。伸子に「くだらない」と言われた二郎は「日本一くだらないラジオ局ですから」と開き直る。儲けることしか頭にない伸子は「ラジオぽてとの金庫番ですから。といっても、金庫は空っぽですけど」。だったらグッズ作る金もないのでは、と「♪集金だ〜」「♪スポンサー探し〜」とミュージカル風に出て行き、二郎も「♪街ネタ探し〜」。浪岡は「やはり、地道に精進するしかありませんね」と一同を見送ってギターを鳴らし、お茶目に舌を出す……という2分ほどの内容。

続いて、ぽてとメンバーのトーク。司会は埼玉放送局の結城さとみアナウンサー(たぶん……)。後藤高久チーフプロデューサーも参加。関西出身の後藤さんはかなり話し上手なのだけど、同じく大阪・高槻出身のROLLYさんの面白さが炸裂で、イントネーションもかなり大阪弁が出ていて、ノリノリでお話しされているのがよくわかった。『ロッキー・ホラー・ショー』を3回、『星の王子様』を2回観に行ったファンとしては、ROLLYさんの素のおしゃべりをたっぷり聞けて、大満足。ROLLYさんは宅間さんを「いじめっ子のジャイアンキャラ」だと位置づけ、「パン買って来いとか言わないでくださいよ」などと言っているらしい。控え室でのおしゃべりもとても楽しそう。「みんな自分の楽屋に帰らないんですよ」という松本さんの言葉にも、メンバーの仲の良さがうがかえる。

各自がお気に入りのシーンを紹介するコーナーでは、まず脇さんが放送したばかりの第15週「素直になれなくて」でつばさに「なんで僕じゃなくてつばさちゃんなんだよ」と本音を漏らすシーンを。演出(福井充広さん)から注文された通りに演技した後で「今までのこと忘れて、素でやってください」と言われて、納得のいく演技になったそう。

松本さんは、第12週「男と女の歌合戦」の「あなた」熱唱のシーンを。スクリーンとスピーカー音声で再生すると、あらためて歌のうまさが際立つ。松本さんが少女時代に田川陽介さん(夫の良男役)のファンクラブに入っていたのは、びっくり。ここで登場した息子の隼人役の下山葵君が妙にトーク慣れしているのも、びっくり。「松本さん、どうなんだろと思ってた」「うちの母親に似ていて「やりやすかったです」と言う下山君に、「お前、上から目線だな」と隣から宅間さんが突っ込む。

ROLLYさんが選んだのは、第10週「愛と憎しみの川越」で、ブロッグ塀を壊して玉木家の庭に乱入する場面。撮り直しがきかない一発勝負のこの一瞬で「できるだけ派手に、しかも足は地面と直角に」を狙ったとか。家に帰って何十回も再生し、よくやったと自賛したというのがお茶目。スクリーンで観ると迫力もお茶の間の数倍で、会場は大いに沸いた。

宅間さんは、第9週「魔法の木の下で」の優花と心を通わせる場面。抱き上げた瞬間、「くさい!」と優花が逃げる演技に、「あれはアドリブ?」と視聴者からの問い合わせが多数あったそう。優花ちゃん役の畠山彩奈ちゃんの演技がそれほど真に迫っていたということ……と話題は真瀬より優花に集中。

最後に多部ちゃんが選んだのは、第10週の頭でラジオぽてとメンバーが川越キネマに優花ちゃんを迎える引っ越しを総出で手伝う場面。その理由をビデオレターの中で「ぽてとメンバーのもうひとつの家族らしさがよく出ているから」と多部ちゃん。彼女らしい(つばさらしい)選択。「僕は手伝えよ、と思いましたけど」と後藤さん。この場面の最後でつばさと伸子は座っておしゃべり。その後ろで荷物を運ぶ二郎が転んでいるのだが、転んだのはアドリブだとか。ROLLYさんは「本当は冷蔵庫ぐらい一人で運べますが、あの場面は重いフリをしていたんです」(たしか実家が電気屋)と勝ち誇るが、「あれ? さっき、あれは重かったって言ってなかったっけ」とすかさず真瀬さんが突っ込む。

ROLLYさんが「受けを取った場面」として紹介されたのが、第15週で真瀬が「お電話代わりました」と受話器を奪う瞬間。肘鉄を食らった浪岡の眼鏡が吹っ飛び、あわててかけ直しているのだけど、わたしは見落としていた。スローモーションで観ると、ますますおかしく、会場は大爆笑。眼鏡が飛んだ瞬間、ROLLYさんの頭の中では「ここで演技をやめるべきか、続けるべきか」の二択がよぎったが、「おいしくなるかも」と判断して続行。よく見ると、真瀬もつばさも顔が笑っているのだが、「ぽてとが話題になって喜ぶ場面だからいいでしょう」と宅間さん。「高槻出身のROLLYさんには、すぐにかけ直すんじゃなくて、這いつくばって探してほしかったな」のような突っ込みをすると、「やってましたね、あれは」と負けず嫌いなROLLYさん。あの一瞬で?? 松本さんの「もう一回観たい〜」に応え、結局3回再生。

多部ちゃんが再びビデオレターで登場し、これから20週までの特別ダイジェストを上映。川越の重鎮、城之内エンタープライズを仕切る房子(冨士真奈美さん)が登場したり、真瀬と翔太のつかみあいがあったり、真瀬の胸で泣くつばさがあったり、竹雄と麻子が怪しい仲になったり、包丁がぎらついたり……短い時間に「!」の連続で、会場は「ええっ」とどよめいた。これからの「つばさ」もますます目が離せません。

最後はROLLYさんのギターに合わせて「あなたが好き」を合唱。ファンミーティングのことを略して「ファンミ」と呼ぶそうだが、三位一体ならぬ「ファンミ一体」ないい雰囲気。今日集まった方のつばさ熱は相当なもので、「川越へ行かれたことのある方?」の問いかけに、ほぼ全員と思われる数の手が一斉に挙がった。川越で開催中のつばさ展ではスタジオセットの再現も見られるそうで、これを目当てにまた行ってみたい。

会場を出て、スタジオパークへ。撮影日には上からセットをのぞけるコーナーがあるが、今日は撮休日。つばさ出演者のサインはそれぞれの役者さんの個性が出ていて、読み物としても面白い。たまがいちばん喜んだのは、「おかあさんといっしょ」のビデオコーナーと飲食コーナーの横浜豚まん(280円。大ぶりで予想以上においしい)だった。

さて、明日からの第16週は「嵐の中で」。8、9週で登場した横矢みちる(山本未来)が再び登場。彼女が取材している河川敷に住むホームレス(永島敏行)が実は翔太(小柳友)の父で、父子をつなげようとするつばさ(多部未華子)と拒む翔太(小柳友)の関係に波風が立つ。さらに、真瀬に思いを寄せるみちる、つばさをますます意識する真瀬も加わり、川もあふれる、思いもあふれる一週間。小豆の煮え方から台風接近を察知した竹雄(中村梅雀)は、防災で存在感を発揮しようと試みるが、防災グッズの「防災くん」を売りさばくことを思いついた加乃子(高畑淳子)に相手にされず、心穏やかでない。

今週のキーアイテムは「ぬか床」。漬け物から家族の秘密が明らかになるというのも、「つばさ」ならでは。

停電中の玉木家のドタバタぶりは健在。ラジオの男のお茶目な台風ネタにもご注目。今週も本筋の重苦しさを小ネタのバカバカしさが救っています。タイトルは「嵐の中で」。打ち合わせで「台風一家」というタイトルを提案したら、笑いだけは取れた。子どもの頃、ニュースで「台風一過」と聞くたびに、台風の親子を想像した人は多いのでは。演出は1〜3週、6週、10週、14週の西谷真一チーフ・ディレクター。続く第17週「さよならおかん」は再び今井雅子増量週間。

2008年07月12日(土)  ログ解析〜みなさんどこから飛んで来るの?
2005年07月12日(火)  『子ぎつねヘレン』打ち上げで ipodをゲット
2003年07月12日(土)  15年目の同窓会
2002年07月12日(金)  『真夜中のアンデルセン』小原孝さんのピアノ収録
2000年07月12日(水)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月11日(土)  川越でおいしいものと「ちゅばさ」探し

朝から「つばさ」第15週「素直になれなくて」の感想が続々。ベッカム一郎(麒麟の川島明)とロナウ二郎(脇知弘)の漫才に泣かされた方、多数。見逃した方は、NHKオンデマンドでつかまえる手も。涙の雨の後は、台風で暴風雨が吹き荒れる第16週「嵐の中で」。つばさや翔太や真瀬の心にも、嵐が吹き込む予感……引き続きお楽しみください。

「つばさ」の脚本開発が一段落つき、他の仕事が動き出す前の今週末は、娘のたまと遊ぶことに。「どこ行く? 川越行こっか?」と候補のひとつに挙げたら、「かわごえ いく!」とノリノリ。ゴールデンウィークにじいじに連れて行ってもらったのが楽しかった様子。ちょうど電話をかけてきたじいじも誘って、3人で出かけることに。「かわごえ ひと いっぱい いるよ。ちゅばさ いっぱい いるよ」と先輩ぶって教えてくれた。


東武線の川越駅に着くなり、「あ! ちゅばさだ!」とポスターに駆け寄るたま。今や積水ハウスのCMを見ても「ちゅばさ」と指差すほど、多部ちゃんセンサーは発達。加えて、ひらがなはまだ読めないのに「つばさ」のタイトルロゴも識別でき、今日はこのあと行く先々で「ちゅばさ」を発見することになる。


巡回バスで蔵造り通りまで出て、まずはトイレ。川越まつり会館の外にある身障者対応トイレには、子ども用便座がついていて感激。子連れ外出の強い味方! 無事用を足せて、よし、しばらくオムツが持つぞと喜んでトイレを出ると、「大丈夫ですか?」と女性が駆け寄ってきた。いつの間にか、たまが非常用ボタンを押していたようで、こちらは平謝り。もう一人、後から飛んできた男性職員さんが女性職員さんから報告を聞いた反応が「大丈夫だったんだ? 良かった」というあたたかいもので、恐縮しつつ、川越の人の優しさに触れられる場面となった。

トイレから駐車場を抜けたすぐ先からは菓子屋横町。前回来たときに気づかなかったワゴン車でスコーンを売る楽楽カフェに目を留める。「スコーンには目がないんです」と名乗りを上げてバナナチョコスコーンを買う。その場であたためてもらい、併設されたアウトドアのテーブルでいただく。お店の顔のゴールデンレトリーバー君がずっと狙ってて可愛かった。

その向かいは同じ名前のベーカリー楽楽(サイトもあったかみがあって素敵!)。気になってのぞいてみると、なんとまあわたし好み。内装にふんだんに使われた木とパンの色がいい感じに溶け合って、ブラウンのグラデーションのようなあたたかな店内。どのパンもとてもおいしそうに見え、実際とてもおいしかった。パンを買った人にサービスされるドリンクとともに、建物の庭先にあるベンチでいただく。

菓子屋横町探険をさらに続けると、こんなのぼりが。「15分では観られない川越がある」。うまいコピー。飴細工の実演販売、量り売りの金平糖、駄菓子屋さん……懐かしさと楽しさがまじりあって、ウキウキしてくる。ノスタルジーのないたまは、「べべ(=せんべい)ばべたいよー」を連呼。


以前食べた「亀どら」がおいしかったのを思い出し、亀屋さんへ。たまが「亀どらのつばさ」ののぼりを指差し、「あったよ」と教えてくれた。試食したうぐいす豆亀どらが気に入ったので購入。ここでもお茶サービス。「ひるたま」紹介のポスターの下でお茶を飲む、わが家のあまたま(=甘えん坊たま)。亀屋さんでは、あまたまそっくりな「あんこ玉」が亀どらと並んでよく出ていた。

時の鐘がある鐘つき通りを歩いていて、たまがいきなり興奮してつかんだのが、ふかしいもとあんこを薄い皮で包んだ「いも恋」。前回わたしと来たときに食べておいしかったのを思い出したのか。じいじと3人で分け合って食べる。たまがむさぼるように食べるのを見て、「これは『いきなり饅頭』ってやつだ。今度作ってあげるよ」とじいじ。


かなりの勢いで食べ続けているので、お昼は食べなくてもいいかなと思っていたら、「大八 勝山」という店の前で「ちゅる ばべる」とたまが言い出し、店内へ。名物の川越ラーメン(いもの素挙げが乗った醤油ラーメン)と紫いも餃子(紫いもを練り込んだ皮で特許を取っている)を注文。ともに、いもが入っている以外はオーソドックスな味だけど、旅先の食事らしくて、よい。たまはラーメンに入ったコーンを熱心に食べていた。お店の人が子連れに優しく、ありがたかった。


再び蔵造り通りを歩いていると、「あれ、甘玉堂じゃないか?」とじいじが指差したのは、陶器を扱う「やまわ」というお店。「ここがロケ地です!」と主張していない奥ゆかしさが老舗らしい。ここもあまたまに似た「くらたま」というお菓子を扱っているが、2時過ぎですでに品切れだった。店の中から奥の蔵にかけてトロッコの線路が続いていて、今は使われていないレールの間に手書きのタイルが埋め込まれているのが愛らしい。前に川越に来たときはトロッコの線路に気づかなかったが、今回はあちこちで線路跡を見つける楽しみがあった。

終始「ちゅばさ」探しに活躍したたまは、歯科医院の入口に置かれたバスケットの中の「つばさ」をガラス戸越しに発見。建物の全景写真を撮りそびれたが、元は川越で最初のデパートだったそう。その向かい辺りにあるりそな銀行川越支店の洋館も美しい。


もうひとつ、前回来たときに気になっていたのが、パリの香りがする石造りのカフェ エレバート(CAFE ELEVATO)というカフェ。ゆったりした椅子のカウンター席で、子連れ入店には不向きと言えるが、たまを膝に乗せてアイスカフェオレを飲む。置かれているグッズもセンスがよく、居心地のいい空間。新宿三丁目のカフェ・ユイットがトップスビルとともに幕を閉じてしまった(最後にもう一度と思っていたら、6月28日に閉店していた)喪失感を和らげるかのように、ここと楽楽ガーデンカフェに出会えたのは収穫だった。お気に入りのカフェがあることは、その街を訪ねる理由になる。

「呉服かんだ」というお店の店先に子ども用の草履がセールになっていたのが目に留まり、買い求めようと店内へ進むと、今度は子ども用のじんべいと目が合った。白地にスイカ模様のものに一目惚れしたが、90センチサイズだと来年はきついし、110センチサイズだと今年はぶかぶかだし……と迷っていたら、子犬模様の100センチを見て、たまが即決。さっさとレジへ持って行ってしまった。「これはまけられないのか」とじいじが交渉したら、割り引いてくださり、いい買い物ができた。家に帰って着替えたたまはすっかり気に入り、町内のマジックショーに着てでかけた。

2008年07月11日(金)  マタニティオレンジ310 「きー」ときどき「あれ?」
2007年07月11日(水)  マタニティオレンジ145 皆様のおかげの空の旅
2004年07月11日(日)  ヤニィーズ第7回公演『ニホンノミチ』
2002年07月11日(木)  映画『桃源郷の人々』
2000年07月11日(火)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/28)


2009年07月10日(金)  リチャード・ギアが「ヘァチ」と呼ぶ謎『HACHI 約束の犬』

「あのハチ公物語がハリウッド映画に!」と映画関係者の間でも話題の『HACHI 約束の犬』。先日新宿ピカデリーにて『築城せよ!』(7/8の日記にて紹介。おすすめです!)を観たとき、初めて予告編を観たのだが、リチャード・ギア演じるロマンスグレーの大学教授がHACHIを「ハチ」ではなく「ヘァチ」と呼ぶのがツボに入り、泣ける映画のはずなのに笑いをこらえることに。というのも、最近「カバは英語でヒポパタマス」だと知った娘のたまが「たまは英語で何ていうの?」と聞いてきて、「たまはTAMAよ」と最初のAをAPPLEのAにして発音すると、「テァマ」とうれしがって繰り返したことを思い出してしまったから。隣の席で観ていた友人アサミちゃんに後で事情を話すと、「うちの甥っ子も、幼稚園の頃英語を習い始めて、玉子をテァマーゴって呼んでた」とアサミちゃん。

オリジナルのハチ公物語に敬意を示して日本語の名前にしたのだろうとは想像するが、劇中ではどういう経緯で「ヘァチ」と呼ばれるようになったのかが気になり、ちょうど試写状が届いていたマスコミ試写で確かめることに。受付で『子ぎつねヘレン』の宣伝担当だった清宮嬢と数年ぶりに再会。

以下、ネタバレが気になる方は読み飛ばしていただいて……。

「ヘァチ」の謎は、迷子の子犬の首輪についていた「八」という数字の名札にちなむものだった。犬を拾った教授が友人の日系人に「八」の札を見せ、「ラッキーな数字だ」と教えられて気に入り、それを名前にする。英語での映画化にあたり「名前はハチにすること」という縛りがあり、その設定が成立する理由を考えたのだろうか……と脚本開発の背景を想像した。納得してしまえば、「ヘァチ」が不自然に聞こえることはなく、あとはHACHIの仕草やHACHIが引き起こす事件のひとつひとつに笑いつつ、物語に引き込まれていった。そして、迫り来る悲劇の結末がわかっているだけに、教授とHACHIの絆が深まるほど、切なさをかき立てられるのだった。

犬の映画はズルい。犬を飼っていた人は、劇中の犬に「うちの犬」を重ねて観てしまうから、共感度数が数割増になる。HACHIの場合、ハリウッド映画でありながら、日本人になじみの深い秋田犬であるところも、さらにズルい。わたしが中学生の頃から十年あまり飼った雑種のトトは柴犬っぽい顔立ちだったけれど、HACHIの顔がしばしばトトにだぶった。犬らしい芸当をやらず、ボールを投げても取ってこないところもそっくりで、HACHIを見ていると、20年以上前の記憶がどんどん呼び起こされ、家の外で抱きしめて眠ったときのトトの体のあたたかさを思い出したりした。母を怒らせて閉め出されたときだったか。愛想よくシッポを振ることはしない代わりに、わたしの笑顔も涙も同じように受け止めてくれる寄り添い上手だった。

トトと一緒に思い出したのは、チャコのことだった。愛らしい顔をした茶色い小型犬で、うちに迷い込んだのを一週間ほど預かる間にもらい手がみつかり、歩いて10分ほどの距離の家で飼われることとなった。ところが、うちの母になついてしまったチャコは、しばしば夜中に脱走し、うちの玄関先で「入れてよ」と言わんばかりに甲高い声を上げた。母はとりあえず家の中に上げ、一緒の布団で添い寝してやり、朝が来ると申し訳なさそうに新しい飼い主に電話をかけていた。そんな感傷を抜きにしても、会いたい人に向かってひた走る犬の一途さは涙を誘う。昔の傑作長尺CMで、ひたすら走る犬を追ったものがあった。お酒の広告だったか、コピーもナレーションもほとんど入っていなかった気がするが、観るたびに泣けるCMだった。犬があれば、コピーはいらず、台詞もいらないのかもしれない。

記憶の箱の蓋が開くたびに温かい涙がこみあげ、40度以上のお湯で落とせるマスカラが流れてしまうのではと心配になったほど。8月22日公開の今井雅子の6本めの長編映画『ぼくとママの黄色い自転車』は「今年いちばん泣ける映画」というふれこみで、こちらも愛らしい犬が登場するが、「8月8日(ハチでそろえて、覚えやすい!)公開のHACHIに涙を持って行かれないか?と心配したり、「HACHIで犬映画需要が高まれば、ぼくママにも追い風になるかも」と思い直したり。

さらに、駅で教授を待ち受け、飛びつくHACHIの姿が娘のたまに重なり、困った。毎日6時15分に保育園へ迎えに行くわたしが現れるタイミングを、時計を読めないたまは感覚で測る。あの子のママが来たから、次はわたしのママの番という風に。駅の出口から吐き出される乗客一人一人の顔を確かめるHACHIの顔を見ていると、たまもこんな顔をしてわたしを待っているのだろうかと胸がしめつけられた。たまは最近『クイール』にはまり、毎日のように「わんわん みる」とせがむのだが、クイールが悲しげな顔をすると、「ママがいいようって いってる。たまちゃんみたい」などと言う。そんなことも思い出されて、涙ダムはますます決壊するのだった。

『HACHI』を観て、なるほどと思ったのだが、教授が急に還らぬ人となって引き裂かれたのは、「HACHIと教授」だけではない。HACHIよりも、もっと長い時間を彼とともにして来た家族もまた引き裂かれる悲しみを味わい、背負う。その部分の膨らませ方はとてもハリウッド的で、後日談で回想をサンドイッチするスタイルもこれまたハリウッドお得意の手法なのだけど、家族を膨らませたことでサンドイッチスタイルが効いているという図式はハリウッド的脚本の王道といおうか模範解答といおうか……ピースはぴったりはまっているけれど、予定調和ともいえて、ないものねだりだけれど、そこは物足りなく感じた。

もうひとつ、HACHIのフルネームが「HACHIKO」となっていて、ところどころで「HACHIKO」が出てくるのだが、「HACHIKOありき」だと知らない海外の人が観たときに「このKOは何ぞや?」とならないのか、気になった。エンディングで「実際のハチ公は……」と日本での実話が紹介されるので、劇中でもHACHIKOとしたほうがつながりが良かったのだろうか。「モデルとなった日本のHACHIはハチ公と呼ばれ……」とナレーションで解決する方法もあったような……などと代案まで考えてしまうのは困った職業病だが、リチャード・ギアが子どものように号泣したという脚本は、出演者(もちろんHACHIも含めて)の熱演に支えられ、いっそう感動的な映画に仕上がっている。渋谷のハチ公を見る目が数倍優しく温かくなるのは間違いなし。パンフレットを読んで知ったのだが、ハチ公像は第二次世界大戦中に「鋳潰」されたものを1948年に地元有志が再建したものだという。その辺りのことは日本版の『ハチ公物語』に描かれているのだろうか。こちらも観たくなって調べてみると、「『HACHI 約束の犬』公開記念 期間限定スペシャルプライス」の廉価版DVDが7月29日に発売とのこと。

2008年07月10日(木)  脚本家デビュー9周年
2007年07月10日(火)  マタニティオレンジ144 離乳食も食いだおれ
2005年07月10日(日)  12歳、花の応援団に入部。
2003年07月10日(木)  三宅麻衣「猫に表具」展
2002年07月10日(水)  『朝2時起きで、なんでもできる!』(枝廣淳子)
2000年07月10日(月)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/28)


2009年07月09日(木)  1962年の広告ウーマン『その場所に女ありて』

映画と鉄道を愛するご近所仲間のT氏から「神保町シアターで成瀬巳喜男特集がありますから、ぜひ」と熱い推薦状と資料が届いた数日後、今度は「京橋のフィルムセンターで広告業界を描いた映画の上映があります」とメールが届いた。1962年の東宝作品『その場所に女ありて』(鈴木英夫監督)と1958年の大映作品『巨人と玩具』(増村保造監督)。「どちらも当時の俊才監督の手によるものです。この監督達の名前は知っていて損はありません。広告業界の人が見たら、これはどうしょうもなく全く違う世界なんでしょうけれど、もう半世紀近い昔の日本のこととして見れば、これはこれで面白いと思います」とのことで、まずは『その場所に女ありて』を観た。

最初はバカでかいタイプライターやそれを扱う「幹事長」と呼ばれる女社員の男言葉や事務所のような座席配置といった違和感に気を取られてしまったが、司葉子が演じるコピーライター上がりの営業職のヒロイン律子に乗っかって観始めると、律子が広告代理店のコピーライターだった頃の自分や同僚の姿に重なり、いつしか時代の違いよりも「昔も今も同じ」という想いが勝っていた。

「数字を上げたい」得意先と「表現」にこだわる代理店との攻防、競合他社とのコンペでの仕事争奪戦、その戦い方をめぐる社内での駆け引き……自分が体験した出来事と重ね合わせ、緊張感や焦燥感が生むサスペンスに引き込まれ、はらはら、どきどき、きりきりと大忙しの鑑賞となった。(以下、ネタバレがあるので、8/26(水)7:00pm〜の回を観る予定の方はご注意を)

広告表現は進化しても人間は進歩していないのだなと感じさせるエピソードがいくつか。たとえば、キャッチコピーが決まらないアートディレクターの倉井(なんと山崎努!)に相談され、律子が即興で答えたコピーが採用となり、その広告が賞を取る(今で言うADC賞のようなものだろうか)が、ゴーストライターである律子の名前は当然クレジットされず、アートディレクターは自分一人の手柄にし、受賞を手土産に転職を決めるというエピソード。実力がないゆえ先行きに不安を感じ、アルバイトでコピーを書いてくれと律子に頼む情けなさが、とてもリアルだった。クレジットから名前を外された誰かがくさるとか、自分の仕事を大きく見せて引き抜かれたものの後が続かないとか、そういう話はゴロゴロしていたが、それをやってしまうクリエイターにも「自分を売れるうちに高く売りたい」という野望や将来の不安がある。映画ではその部分も実に説得力ある台詞で描いていた。

もうひとつ、広告キャンペーンのコンペでの競合代理店が取った「相手の代理店に抜け駆けでアイデアを出させる」というずるい手も、決して映画のために誇張されたエピソードではなく、アルバイト感覚で他社のプレゼンを手伝うという話はけっこうある。そういうアイデアがコンペを勝ち抜いて世に出てしまって、コマフォトや宣伝会議に載ったりTCC賞やADC賞を取ったりしたら、クレジットはどうなるんだろう、などと余計な心配をしてしまう。

仕事でも麻雀でも男と互角に渡り合える律子は、よりによって製薬会社のコンペを競う競合代理店の担当営業の坂井(なんと宝田明!)と恋に落ちて一夜を共にする。だが、坂井は律子の会社のチーフデザイナーにコンペ用のアイデアを出させていた。最終コンペに勝ち残った両社のレイアウトを見せられたときに、律子はチーフクリエイターの裏切りを見抜くと同時に坂井が勝つために卑怯な手を使ったことを知ってしまう。

律子に問いつめられたチーフクリエイターは辞表を出すと約束するが、それを会社ではなく「私に出してね」と言う律子が何ともカッコ良く、惚れ惚れした。人を責めるのではなく、失敗を悔いるのでもなく、立ち止まらずに前へ進み続ける。広告の人間はこうでなくちゃ、時代に置いて行かれる。

その後、アイデアが律子から競合へ漏れたとあらぬ疑いをかけられ、解雇をほのめかされたときも、律子はチーフクリエイターの裏切りは自分の胸に秘め、自身の潔白と仕事への情熱を訴えて会社に留まろうとする。弱音を吐かなかった律子がこのときばかりは男連中を前に「女が一人で仕事だけの七年はご想像以上のものがあります」と切実に訴えるのだが、半世紀前の広告業界で女性が働くということは、今とは比べ物にならない窮屈さや重苦しさがあっただろうと想像する。わたしのいたマッキャンエリクソンという会社は外資系のせいか、若い女子も好き勝手発言出来る空気があったけれど、組合の担当で広告労協の女性会議なるものに関わったとき、平成の世になってからも、女泣かせな話はいっぱいあった。

脚本は鈴木英夫監督、升田商二という男性二人だが、仕事を背負って生きる女のしんどさがとても丁寧に描かれている。ただ、酔いつぶれて坂井の部屋に運び込まれて、互いの気持ちを確かめ合う場面で「僕の気持ちは決まっている」と言われて、「愛してるってこと?」と律子が答えたのが、強がりの鎧を一気に脱いだ気がして、もったいなく感じた。その前にネックレスを外す仕草だけで女モードのスイッチが入ったことを見せてくれたように、ここは潤んだ目でうなずくだけのほうがときめいた気がする。さらに欲を言えば、仕事一筋だった律子が坂井と一夜を共にした後の恋の高まりをもう少し見たかった。本当なら毎日でも会いたいのにコンペ準備でお互いそれどころではない。残業の合間にせつない電話の一本でもあれば、ようやくコンペ案の提出日に得意先で再会できた喜びと、その直後の失望の大きさが増したと思う。全体的に女は生き生きとしてたくましく、男はだらしなかったり情けなかったり。森光子と児玉清が演じる律子の姉とそのヒモの二人にも、それは象徴されていた。

広告業界を映画で観るのは面白い。T氏におすすめされたもう一本、『巨人と玩具』もぜひ観てみたい。こちらも1回めの上映は終了していて、2回目は8/20(木)7:00pmから。

2008年07月09日(水)   ダニに噛まれたり 毛虫にかぶれたり
2007年07月09日(月)  マタニティオレンジ143 はじめてのお泊まりに大興奮
2003年07月09日(水)  LARAAJI LARAAJI(ララージララージ)
2002年07月09日(火)  マジェスティック


2009年07月08日(水)  『築城せよ!』がヒットすれば、日本映画の未来は明るい。

打ち合わせの帰り、銀座界隈から有楽町へとぶらぶら歩きながら、なんと多くの映画館があり、多くの映画がかかっていることだろうと思った。

年に数百本観るツワモノがいる一方で、何年も映画館へ足を運んでいないという人もいる。年に数本止まりが大多数で、月に一本なら観ているほうかもしれない。そんな限られた中の一本に選ばれるのは熾烈な競争だなあ、と作り手の一人として切実な気持ちになった。

ある映画制作会社の社長さんが以前「何行く?と友人や家族で話題になったとき、候補に挙がるのは3本まで。そこに入ってないと勝負にならない」と話されていたことも思い出した。

わが身を振り返れば、6月に映画館で観た作品はなく、今月は『風の絨毯』プロデューサーの魔女田さんこと益田祐実子さんが代表を務める仕事人集団・平成プロジェクトの最新作『築城せよ!』を新宿ピカデリーで観たのみ。『スラムドッグ$ミリオネア』も『グラン・トリノ』も『剣岳 点の記』も観たいけれど、一番終了が迫っている作品を優先させた。観たいリストのうち、あといくつ、スクリーンでかかっているうちにつかまえられるだろうか。

その『築城せよ!』は、6月20日公開で、新宿ピカデリーでの上映は当初2週間の予定だった。その間に駆けつけるのは厳しいかなあと危ぶんでいたら、口コミ人気に加えて、『徹子の部屋』に宮大工・勘助役の阿藤快さんが出演されて制作風景が紹介され、上映期間が延長されることに。

「7/9までは確実にやります」と古波津陽監督(クレジット映えするカッコいい名前。波田陽区にも似てるけど)から案内メールがあり、何とか滑り込めたのだが、帰りがけに受付で「いつまでやっていますか」と聞いたら、「17日までは確実に」とのお返事。間に合う方はぜひ!の気持ちを込めて、鑑賞の感想を。携帯で撮ったピンぼけ写真は、ロビーに飾られていた甲冑とダンボールのシャチホコ。 

60分サイズの『築城せよ。』を観て、あまりの奇抜さにぶっ飛び、上映会場にいた古波津監督をつかまえて「最高!!」と伝えたのが、2006年の暮れ(>>>2006年12月12日(火)  あっぱれ、『築城せよ。』!)。その上映会自体は、『私、映画のために1億5千万円集めました。―右手にロマン、左手にソロバン!主婦の映画製作物語』を読んだ古波津監督が「こんな映画を作ったのですが、宣伝の知恵をお借りしたい」と魔女田さんに連絡を取ったところ、持ち前の行動力でシアターサンモールを借りて実現させたものだった。

そこで話を終わらせず、愛知工業大学の記念事業と結びつけて、「『築城せよ。』を劇場版長編にしよう」と思い立った上にあれよあれよという間に形にしてしまったのが、魔女田マジック。その実行力はもちろん、先立つ物(=製作費)を調達した錬金術に脱帽。この不景気に、大口ドカンではなく小口の出資先を説得して回り、3億5千万円を積み上げた。朝日新聞の別刷りbe一面のフロントランナー欄を「平成プロジェクトの益田祐美子」が飾る日も遠くない気がする。

こう書くと、とんでもない豪傑を想像されそうだけど、魔女田さんは、わたしを紹介するときに「今井さんとはウマが合うの。レズみたいな感じ」などと爆弾発言をして相手を面食らわせるような人。天才というより天然で、無意識のうちにまわりを天災に巻き込むところが、いかにも魔女。『築城せよ!』の中で「頼りないぐらいがちょうどよい。手助けせんと人が集まり、心がひとつになる」といった台詞があったが、これは魔女田さんのことではなかろうか。

映画の成立については、先日ひさしぶりに連絡を取り合ったシネマジャーナルの景山咲子さんが立ち会った監督と魔女田さんのインタビューが詳しいので、こちらをぜひ。魔女田さんの顔を覚えておくと、スクリーンの中に見つける楽しみが。こんな登場の仕方も、さすが魔女。

さて、映画の内容について。公開時の新聞批評に「設定が奇抜な割に出来事が想定内」だと書かれていたが、エピソードに「あるある」というリアリティが宿っていたからこそ、「現代に蘇った戦国武将がダンボールで城を建てる」という突飛な設定に感情移入して観られた。数百年の時を超えて現代に迷い込んだ侍の戸惑いやドタバタを愛せるからこそ、彼の晴らせなかった恨みに心を寄せ、悲願の城を建てるために民と心を通わせようとする姿を応援したくなるのだった。

はまり役を配したキャスティングも、そのリアリティを支えていて、とくに殿様の霊に乗り移られる役場職員の「ふらぼん」(=ふらふらしたぼんぼん)を演じた歌舞伎役者の片岡愛之助さんの二面性がお見事。よく通る声と歌舞伎の所作の美しさに殿様の説得力が宿っていた。

江守徹さん演じる敵役の町長は、さすがの存在感。それでいてお茶目。海老名はなさんの建築科学生、その教官の藤田朋子さん、ふせえりさんの役場職員と女性も生き生きしていてチャーミング。各登場人物のキャラクターづけがうまく、一人一人が取る行動が実に自然で納得でき、悪役も愛せるところがわたし好み。

ちりばめられた小ネタと伏線が楽しく、ところどころに光る台詞があり、よく練られた脚本に感心した。日本らしい物づくり精神や故郷への思い、輪廻転生思想なども盛り込まれ、『築城せよ。』から長編らしい大きな物語に飛躍した『築城せよ!』。海外の映画賞で評価された短編と同じく、こちらの劇場版も世界に打って出て欲しい。

特筆すべきは、ラスト近くの絶景の息をのむ美しさ。ここ数年観た映画で最も美しく、映画らしいスケールのあるシーンで、これだけでもスクリーンで観る価値あり。欲を言えば、もう少し長く観たかった。あと5秒あれば、盛り上がった涙が落ちた。

しかし、その後、まさか烏に泣かされるとは。ダンボールと烏にこれほどの意味と愛情を込めた映画も珍しく、それらに注ぐ目線が優しくなってしまっているの自分に気づいて、不思議な余韻を味わっている。

宣伝にお金をかけられない映画は、存在を知られる前にひっそりとスクリーンから消えてしまいがちだが、この作品は、見過ごすのがもったいない掘り出し物。物語も井戸の底で眠っていた霊が眠りから覚めるという掘り出し物の話だし、撮影のために実際にダンボールで高さ25メートルの城を建てたエキストラやボランティアスタッフの底力を見せた点でも掘り出し物。

民が心をひとつにすればダンボールで城が建つように、一人一人が力を合わせれば、オリジナルでこれだけパワーのある映画を作れるのだ、と勇気が湧いてくる。今月の一本、この夏の一本に選んでも、損のない作品。これがヒットしたら、日本映画の未来は明るいと思う。

皆の者、築城せよ! 愛知、大阪他、全国で公開中。

2008年07月08日(火)  同級生さっちゃんと19年ぶりの再会
2007年07月08日(日)  マタニティオレンジ142 布の絵本とエリック・カール絵本のCD
2005年07月08日(金)  いまいまぁ子とすてちな仲間たち
2000年07月08日(土)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月07日(火)  彦星は一年ぶりの会津の酒!「第5回 天明・七夕の宴」

大塚にある『串駒』にて、一年ぶりの「天明」の会。会津坂下の曙酒造さんがお酒をひっさげて参上し、それを極上の肴とともに心ゆくまで味わう。今宵が5回目で、過去の日記をたどると、わたしは第1回、第4回についで3回目の参加。写真は発泡した澱酒の瓶を開け、しぶきを見守る蔵元の鈴木氏。

2008年07月06日(日)  串駒 天明(曙酒造)七夕宵宮の会
2005年07月07日(木)  串駒『蔵元を囲む会 天明(曙酒造) 七夕の宴』

今回通されたのは本店から数件離れた串駒房会場。ご近所仲間のT氏の大学時代の友人のH氏・W嬢カップルと折り紙名人のT2氏、T氏の鉄道仲間の飲み鉄氏と大きな年輪テーブルを囲む。H氏、W嬢、T2氏とは数年前に串駒で同席(>>>2005年09月27日(火)  串駒『蔵元を囲む会 十四代・南部美人・東洋美人』)して以来。飲み鉄氏とはSL只見号で同席(>>>2004年10月23日(土) SLに乗ったり地震に遭ったり)して以来。テーブルの全員が只見線のSLに乗ったことがあり、T氏推奨の日本映画を観たことも一度や二度ではないという顔ぶれ。共通の話題には事欠かず、お酒が入ると、ますます話が弾んだ。

ご両親の出身地ということで会津に肩入れされている飲み鉄氏は、「ようこそ会津へ」のバッヂをつけて参加。「極上の会津へ」の観光パンフレットを配り、「たまちゃんにどうぞ」とあかべこのぬいぐるみをお土産にくださる(日記を読んでくださっているそう)。さらにわが家のファミリーネームの駅名が刻まれた貴重な昭和52年の硬券(駅員さんがハサミを入れる硬い切符)まで頂戴する。

名物の店主は、初めて見たときから見事なまでにイメージが変わらず、今宵も仙人のような風貌と引き笑いは健在。「よく5回も続いたもんですよ」と自虐的ぼやき口調のオヤジトークも相変わらず。「私も党を作ろうと思ってるんです。民に酒と書いて民酒党」(後で知ったのだが、実際に民主党がそういう名前の店を出してすぐに畳んだことがあったとか。店主はご存知だったのかな)などとのたまい、似顔絵入り串駒給付金を発券。

さて、毎回かなりレベルの高い音楽や芸能のサプライズが登場するのが串駒会の魅力のひとつ。今回はナポレオンズのボナ植木さん(背の高い眼鏡のほう)と声帯模写の丸山おさむさんが登場。丸山さんの紹介でボナさんがカードマジックを披露。その前に、まず腕まくり。ちょうど目の前で目を輝かせているわたしと目が合い、「好きなマークと数字は何ですか?」。「ハートの7」と答えると、なぜかそのカードがいちばん上に。さらに、カードに名前と電話番号を書き入れ、折り目をつけ、真ん中に押し込むと、いつの間にか一番上に上がっている。20センチの至近距離でも何が起きているのかさっぱりわからなかった。カードは裏面にボナさんのサインを入れてもらい、記念にいただく。「せっかくですから電話番号も書いてください」と言ったら、律儀に書いてくださった。ほんとに通じるのかな。「ナポレオンズを二人で呼ぶと金がかかりますけど、一人なら酒飲ませればやってくれますから」と店主。洋酒のナポレオンがコンビ名の由来だそうだが、日本酒もいけるらしい。丸山おさむ氏にも何かやってとお願いしたら、「よそで言わないでくださいよ」な物真似を披露してくださった。

さて、今宵のメニュー。まず、お酒は、
1 天明 純米仕込み一号五百万石
2 央 純米吟醸 黒ラベルKN 中汲み澱絡み 無濾過本生原酒
3 天明 純米 みずほ 無濾過 瓶火入れ瓶囲い
4 天明 純米吟醸 美郷錦 無濾過 瓶火入れ瓶囲い
5 天明 さらさら純米
6 央 袋垂れ 純米吟醸 白ラベルN 山田錦 無濾過本生原酒
7 天明 純米大吟醸 中取り 亀の尾 無濾過本生原酒

酒の肴は、
い 枝豆(早生茶豆)
ろ みねおか豆腐の胡桃みそ
は 鮭の田舎焼き
に 季節のサラダ(会津地物 天明さんのトマト)
ほ ソーメン 七夕仕立
へ ワタナベ黒豚 肩ロースステーキ(鹿児島産)

と 酒の友&胡瓜(会津地物 天明さんのきゅうり)
ち 会津産みずほ米のおむすび
り 味噌汁

会津地物のトマトときゅうりは生命力ほとばしる採れたて。胡桃みそ、鮭の田舎焼きは、素朴で奥深い味。素材の力を活かした串駒さんの肴は、日本酒が進む。鹿児島産の黒豚の登場に、飲み鉄氏は「会津と仲が悪いはずなのに、なぜ?」。「やっつけろってことでしょう」と解釈して平らげる。去年は遅めの昼食を食べたせいで胃が本調子ではなかったけれど、今年は絶好調。日本酒を飲むのは、去年のこの会ぶりではというほど久しぶりで、彦星様に再会する気持ちで喉がときめいた。市販されていない業務用専用という1番の「天明 純米仕込み一号五百万石」がいちばんわたし好み。酸味が強く、ワインのような味わい。3と6もすいすい飲めて、食事が進んだ。3は新米として食べられる極早稲種「瑞穂黄金」を使ったお酒。同じお米で作ったお酒とおにぎりを同時に味わう。チェイサーが仕込み水というのもなんとも贅沢。

去年の回で蔵元の鈴木夫人の話に繰り返し登場した「五ノ井酒店のごん太君」は今年、ご本人が参上。「どんな人なのかなと思ってたんですよ」と話しかける。100キロ級の大きな体に、愛らしい目で、まさにごん太君。一年前に話に聞いて、一年経って姿を確かめるというのも、七夕の会ならでは。

2008年07月07日(月)  この夏の目玉作品『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』
2007年07月07日(土)  マタニティオレンジ141 5人がかりで大阪子守
2005年07月07日(木)  串駒『蔵元を囲む会 天明(曙酒造) 七夕の宴』
2002年07月07日(日)  昭和七十七年七月七日
2000年07月07日(金)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月06日(月)  恋に落ちて、掃除する。

昨日、日付が変わる頃、恋をしてしまった。今日は、その相手のことばかり考え、仕事が手につかない。写真を見ては、素敵、とため息。遠く九州のほうにおられるその方は、WA-PLUSという「和モダン家具」ショップのチェスト氏。「一本の木(ONE WOOD)から生まれる形」がコンセプトで、年輪がくっきりな刻まれたお顔は品とセンスの良さが滲み出ていて、惚れ惚れ。これまで出会ったどんなチェストとも違うこの存在感、今すぐわが家にお呼び寄せして、一緒に暮らしたい!

ちょうど、そろそろ脚本開発が一段落する朝ドラ「つばさ」のお仕事記念に何か買い物をしようと思っていた矢先。宝石には興味ないし、洋服にはシーズンがある。家具なら家族みんなで永年楽しめそう。

しかし、どこに置こう、と狭い上にちらかり放題でますますスペースがないわが家を見回し、まずは掃除が必要だと思い至る。チェスト氏も遠路はるばるやって来て、こんな汚い家に押し込められては不本意かもしれない。欲しいものがあるとき、「お金を貯めてから」はよくあるけれど、「場所を貯めてから」の壁にぶちあたった。

少し前に人づてに存在を知ったそうじ力研究会によると、掃除には力があり、幸運を呼び込むという。逆に言うと、掃除をしていない家にはマイナスパワーがはびこっているらしい。そうじ力の基本は「換気」「すてる」「汚れ取り」「整理整頓」「炒り塩」だそうで、「換気」と「汚れ取り」は心がけているものの、「すてる」と「整理整頓」は相当努力が求められる状態。娘のたまが床の障害物をよけ続けた結果、段差に強くなったのは不幸中の幸いだけど、急な来客があってもとてもお通しできない状態。

そういうわけで、WA-PLUSのサイトを開いたまま、チェスト氏の写真を励みに掃除と整理整頓に励んでいる。他にも積み木のパッチワークみたいなチェストがあり、こちらもまた強烈な誘惑。

2008年07月06日(日)  串駒 天明(曙酒造)七夕宵宮の会
2004年07月06日(火)  拝啓トム・クルーズ様project
2003年07月06日(日)  池袋西武7階子ども服売場
2002年07月06日(土)  とんかつ茶漬け
2000年07月06日(木)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)

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