2008年09月02日(火)  マタニティオレンジ328 買い物ごっこ

牛乳を買いに行こう、と娘のたまを誘ったら、「おかね ちょうだいな」と小さな手を差し出された。買い物は今、たまにとって、ちょっとしたブーム。日曜日の夜、いきなり「コロッケ ちょうだいな」とわたしをお店の人に見立てて話しかけてきた。「お店入ってくるところからやってよ」とわたしが言うと、「がらがらがら」と言いながらドアを開ける仕草がつき、買い物ごっこが始まった。

「コロッケいくつ?」と聞くと、ニコニコしながら「うん」。もう一度聞いても同じ。何言われてるんだかわからないけど愛想笑いを浮かべてその場を切り抜ける能力は、2才にして備わっている。「いくつ? 一個? 二個?」と聞くうちに、「いくつ」は数を尋ねているのだとわかってきて、「いっこ」と答えが返ってきた。ちんぷんかんぷんだった言葉の意味が、やりとりを重ねるうちにぼんやり見えてきて、やがてくっきりとなり、そうかこういう局面ではこのカードを切ればいいんだ、と試しにやってみたら、欲しいものが手に入る。言葉が通じない国で買い物するときのあのワクワクドキドキする感じを、母国語で味わっているのだろう。面白いと思ったら飽きることを知らない2歳児の好奇心も手伝って、またやるの、まだやるのと「コロッケちょうだいな」を繰り返すうち、一種類だったコロッケは二種類から選べるようになり、ソースがつき、店を出て数歩あるいて家に帰り、「ピンポーン。パパ、コロッケ かってきたよ」とパパと食べる続きが生まれ、演劇でエチュードを繰り返しながら場面が出来上がっていくように、会話が進化していった。

たま「がらがらがら(と音とともにドアを開ける仕草)」
わたし「いらっしゃませ。今日は何にしますか」
たま「コロッケちょうだいな」
わたし「何コロッケにしますか?」
たま「うん」
わたし「野菜コロッケとカレーコロッケがありますが、どちらにしますか?」
たま「やさいコロッケ」
わたし「大きいのと小さいのがありますが」
たま「おおきいの」
わたし「大きい野菜コロッケ、おいくつ包みましょうか?」
たま「うん」
わたし「いくつ?」
たま「(うなずきながら)いくつ」
わたし「い・く・つ?」
たま「(指を一本立てて)い・く・つ」
わたし「一個ですね?」
たま「(うなずいて)いっこ」
わたし「ソースもつけますか」
たま「うん」
わたし「お代は90円です」
たま「(笑って)」
わたし「お客様。笑ってごまかされては困ります。お金をちょうだいできますか」
たま「(ますます笑って)」
わたし「いえいえいただくものはしっかりと。90円です」
たま「はい、ばっちーん(とわたしのてのひらにお金を置く仕草)」
わたし「あるじゃないですかお客様。百円お預かりしましたので、10円のお返しです。ありがとうございました」
たま「またねー」

2007年09月02日(日)  マタニティオレンジ170 せらちゃんのおさがり
2004年09月02日(木)  「とめます」と「やめます」
2002年09月02日(月)  My pleasure!(よろこんで!)


2008年09月01日(月)  『ブタがいた教室』と『ヤング@ハート』

8月の試写最終日に駆けつけたら満員で入れなかった『ブタがいた教室』の追加試写を観る。『パコダテ人』の前田哲監督の最新作で、撮影の葛西誉仁さん、制作の田嶋啓次さん、現場スタッフの澤村奈都美ちゃんと『パコダテ人』関係者率高し。3月にロケにお邪魔した(>>>2008年03月15日(土) 前田組「豚のPちゃん」に会いに行く)こともあって、身内の作品のような親しみを寄せている。

さて、気になる仕上がりは……試写室を出た瞬間、「よかった!」と監督に興奮して電話してしまったほど、引き込まれた。最後に食べるという前提で6年生のクラスで飼い始めたブタのPちゃんに次第に愛情が湧き、食べることに葛藤する子どもたち。名前をつけてしまった時点から家畜ではなく友だちになり、食べられなくなってしまう。Pちゃんを食べるのか、食べないのか。その答えを子どもたちに導かせようとする先生。卒業の日というタイムリミットに向けて学級会議が重ねられる。一緒に過ごす時間が長くなるほど離れがたい気持ちはふくらむ。けれど、食べないことが愛情なのか。Pちゃんを残して卒業するのは無責任ではないのか……。子どもたちのやりとりに口をはさまず、腕組みしてじっと成り行きを見守っている妻夫木聡演じる星先生の姿は、そのまま撮影現場の姿勢を思わせた。子どもたちには議論の台詞部分を白紙にした台本を渡したと聞くが、子どもたちの本音を引き出した演出は見事。大人の用意した言葉ではなく、自分たちの言葉で自分たちの結論を導いた子どもたち。説教臭くもなくお涙頂戴にもならず、映画のモデルとなった実話の教室で起きた化学変化を映画という形で表現することに成功していて、新鮮だった。公開は11月1日。前田監督の飛躍作になりそうな予感。

続いて、同じ試写室で『ヤング@ハート』を観る。ロックを歌うおじいちゃんおばあちゃんのコーラス隊を追ったアメリカのドキュメンタリー映画。シネカノンで予告を観て、これはいかにもわたし好みと思っていたら、先日『トウキョウソナタ』の試写で試写状をもらった。かわいいおばあちゃんになるのが夢のわたしにとって、チャーミングなお年寄りは人生のお手本。期待通り、いくつになってもヤング@ハートなコーラス隊の面々を観て、年を取るのが楽しみになってしまった。年を取っても趣味を持って仲間を持って張り合って負けたら悔しがって、ずっと自分らしく生きていけたら幸せだ。長生きしても人生から引退してしまったら時間を持て余すだけ。お年寄りがみんなこんなに元気なわけじゃないだろうけれど、人生が詰まった歌声を聴きながら、アメリカは日本に比べて寝たきり老人の数が圧倒的に少ないという話を思い出した。

2007年09月01日(土)  第2回ユニバーサル映画祭
2004年09月01日(水)  年を取らない誕生日
2003年09月01日(月)  「うんざりがに」普及運動


2008年08月31日(日)  マタニティオレンジ327 くるくる ぐるぐる 何度でも

広告会社時代の同僚、E君T嬢夫妻の新居を一家で訪ねる。三人で同じ得意先を受け持っていた仲で、わたしが会社を辞めてからも、二人が結婚しても、親しくおつきあいしている。料理上手、もてなし上手の夫妻は交替でキッチンに立ち、生ハムでアスパラやチーズを巻いたもの、かぶとクルミのサラダ、ビシソワーズ、庭で育てたバジルのジェノヴェーゼ、カレイのパン粉焼き、チキンライスを次々と手際良くテーブルに出してくれた。その連携は美しく楽しげで、バタバタアタフタしてばかりのわが家のせわしなさとはえらい違いだった。

余裕があると言えば、「前の家から二倍になった」という間取りもそうで、アジアン家具がゆったりと配された広いLDKでベランダの向こうの緑を望みながら食事をしていると、リゾートにいるみたいな気分になった。

床のない(物があふれているせいで)家に暮らし、歩くときは膝を大きく持ち上げないと転ぶような生活を強いられている娘のたまは、広々としたフローリングを駆け回り、ウッドデッキのベランダに飛び出してキッチンのドアから入る遊びを覚え、大はしゃぎ。キッチンに立っているT嬢が「あらあ、たまちゃん、来たのねー」と大げさに喜んで出迎えてくれるのがうれしいらしく、LDKからベランダ経由でキッチンに入りLDKに戻ってくるルートを何度もめぐり、そのたびにT嬢は「あらあ、たまちゃん」を繰り返す羽目になった。

ベランダぐるぐるの後、たまの関心は広いお風呂に移った。お湯を張ってない浴槽の中でひと暴れし、温泉みたいな腰かけられる段差にちょこんと座り、わたしやT嬢にも横にかけろと誘い、女三人で縁側トーク。「たまちゃん、悪い男にひっかかっちゃダメよ」とT嬢に言われて、たまはキャキャッと笑っていた。空のお風呂から上がると、「くるくるこっこ るー」と,家でお風呂に入ったときみたいにバスタオルで体を巻いてとおねだり。お風呂に入って、おっちんたんして、くるくるっこ。それを何度も繰り返すので、家中の大きなタオルが尽きてしまった。

「バレリーナ」が持ち芸のたまのために、マシュー・ボーンの『SWAN LAKE』のDVDも流してくれ、半日がかりでさんざん遊んでもらったのに、帰り際、「今日何がいちばん楽しかった?」と聞くと、「ニャーン」と猫の置き物を指差した。ちなみに「いちばんおいしかった」ものは、最後に食べたクッキーとのこと。

2007年08月31日(金)  『怪談』より怖い話
2005年08月31日(水)  佳夏の誕生日
2004年08月31日(火)  東京ディズニーランド『ブレイジング・リズム』


2008年08月30日(土)  インド三昧、のち、『ペガモ星人の襲来』

銀座のメゾンエルメスで「南インドの食事を食べ終えた風景」をアートにした『レフトオーバーズ』という展示があることを知ってしばらくしてから、同じくメゾンエルメスで上映中の『India:Matri Bhumi』の案内をいただいた。エルメスの10階に「ル・ステュディオ」という40席のプライベートシネマがあり、季節ごとに興味深い映画作品を紹介していることを教えてくれたのは、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭事務局の木村美砂さん。

「ついでにインド料理をどう?」と友人アサミちゃんを誘い、ダバ・インディア姉妹店の南インド料理屋『グルガオン』で気分を盛り上げた後、これまで前を通り過ぎるだけだったメゾンエルメスに初めて足を踏み入れる。事前情報なしに観た『India:Matri Bhumi』が始まって間もなく、掘り出し物!と内心で快哉。ドキュメンタリー映像に淡々としたフランス語のナレーションが添えられた90分は、象、川、虎、猿という自然と人間が織り成す4つの物語になっている。腕を組むように雄象の牙に長い鼻をからめる雌象。そんな象の恋を自分の恋に重ねる象使い。ダム建設の犠牲者の名が刻まれた記念碑を見上げ、洪水の被害者の名を刻むならダムの長さの碑が必要だっただろう、と自分の仕事を誇らしく振り返る作業員。飢えて人を襲う虎を退治しようとする村人に先回りし、地上は全員が住めるほど広いのだから、と虎を説得して他の場所へ行かせようとする老人。死んだ主人の亡骸に取りすがった後、単身で町に戻り、サーカスの男に拾われる見世物の猿。裸足で踏ん張って生きる人たちは、大地のエネルギーで充電しているかのような生命力を感じさせ、人間も動物も緑も水も異なる姿かたちをした自然の一部なのだと感じさせる。自然と人間の距離は近く、結びつきは強く、寄り添い、助け合い、ともに生き、「共生」という言葉がしっくり当てはまる。自動車は走っているけれど他の機械はほとんど登場しない時代の風景だから、インドでも今日では昔話なのかもしれない。

見終わってから、ロベルト・ロッセリーニ監督が1959年に発表した作品だとわかる。「有名な映画監督だよ。『緑の光線』とか」とアサミちゃんに嘘を教えてしまった。『緑の光線』の監督はエリック・ロメールだった。ではロッセリーニ監督の代表作はというと、作品一覧を見ても、観たことあるものがないという勉強不足。

『レフトオーバーズ』がこれまた楽しい。バナナの葉っぱにのっかった南インドの定食、ミールスが、ざっと数えて百人前。ずらずらっと床に並んでいる。親戚の集まりがあったのか、村の寄り合いだったのか、車座になって食事を囲んでいた人たちはいなくなり、食べ残しだけが残された(つまりレフトオーバーズがレフトオーバーされた)風景がアートになっている。バナナの葉も、その上のおかずもごはんもモンキーバナナも日本の食品サンプル技術で表現されていて、ひとつひとつ盛りつけも食べられ具合も微妙に違う。「この人全然手つけてないよ」「ごはんは白いのとドライカレーっぽい茶色いのと2種類あるね。機内食みたいに選べるのかな」「ドライor ウェット?」「そもそもこれはどうやって盛りつけるの? バイキングだと葉っぱがしなって食べものが偏っちゃうから、葉っぱの上に配膳係が配っていくのかな?」などとアサミちゃんと突っ込みを入れながら見て回った。作者のN.S.ハーシャさんは「食と人」の関係に注目する1969年生まれのアーティスト。気が合いそうだ。

『レフトオーバーズ』は9/15まで。『India:Matri Bhumi』は9/27まで。毎週土曜11時/14時/17時。入場無料、完全予約制(03 3569 3300 同伴1名まで予約可能)。近くの銀座ハンズ8階では、友人の絵師ミヤケマイが益子焼の作家さんと作った土鍋や鍋敷や香炉を展示販売している「火の道具」展を9/30まで開催。

シモキタに移動して、夜はG-up企画・製作の第6弾『ペガモ星人の襲来』を駅前劇場で観る。脚本が後藤ひろひとさん、演出が関秀人さん、キャストには五反田団の後藤飛鳥さんや絶対王様の有川マコトさんや小椋あずきさんやあひるなんちゃらの黒岩三佳さんなど、これまで舞台を観て心惹かれた役者さんたちが名を連ね、おまけに「ラジオドラマ全盛期、アメリカの『火星人襲来』に触発されて製作したラジオドラマの効果音をめぐる物語」。NHK-FMで放送された今井雅子脚本のオーディオドラマ『昭和八十年のラヂオ少年』では、大正生まれの少年と平成からタイムスリップした少年が日本版『火星人襲来』の脚本を練る。そんな親しみもあって、チラシを見ただけで期待値は跳ね上がった。

現在と過去を行き来しながら、なぜか第一回で打ち切られた連続ラジオドラマ『ペガモ星人の襲来』の謎が明らかにされていく。合間にはさまれるお遊びのバカバカしい番組がいいスパイスになって、笑いの要素もたっぷり。音響効果スタッフが物語の鍵を握るだけあって、傘の開閉で鳥の羽ばたきを表現したり、風船をこすって蛙の泣き声を出したりといった効果音の実演が視覚的にも楽しめる仕掛けになっている。小学校時代、必修クラブの放送劇で手づくりの効果音を工夫した思い出が蘇った。コピーライターになってラジオCMを作る頃には一枚のCDに納まっていて、ミキサーさんに「20番の『水を流す』の後に21番の『野菜を切る』を入れてください」などと指示するだけで間に合った。それはそれで便利だったけど、てんやわんやの効果音作りを見ていると、ああいうことやりたかったなとうらやましくなった。

幻のドラマを再現するにあたって集められたメンバーはオリジナル版の制作メンバーとの一人二役で、血縁者だったり顔が似ているという設定だったり。究極の音を追求した音効スタッフが奇跡を呼んだせいで事件が起こり、その記憶は打ち切られた番組とともに封印された……というファンタジーっぽい落ちもわたし好み。遊気舎二代目座長だった後藤ひろひとさんが今から13年前、1995年にはじめてギャラをもらって立身出世劇場にあてて書いた作品だという。達者な出演者もアッパレ!

G-up presents vol.6 ペガモ星人の襲来
【CAST】
ポキ(大谷雄二)    吉岡毅志 (演劇集団スプートニク)
クリさん(栗山寛之進) 有川マコト(絶対王様)
仁太          瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ) 
ミッチ(春本美智子)  後藤飛鳥(五反田団)
黒さん(黒田甚五郎)  赤星昇一郎
チョロ(宇野弘)    森啓一郎(東京タンバリン)
岸田浮世        小椋あずき
林田藤吉        岩井秀人(ハイバイ)
岡田良         大内厚雄(演劇集団キャラメルボックス)
木浦夕子        町田カナ
プロデューサーほか色々 柿丸美智恵(毛皮族)
ミゴー佐々木ほか色々  黒岩三佳(あひるなんちゃら)
ひろみほか色々     森下亮(クロムモリブデン)
ディレクターほか色々  板倉チヒロ(クロムモリブデン)
AD          森田祐吏(北京蝶々)
守衛さん        関秀人   

【STAFF】
プロデューサー     赤沼かがみ
脚本          後藤ひろひと(Piper)
演出          関秀人

2007年08月30日(木)  マタニティオレンジ169 布おむつはエコかエゴか


2008年08月29日(金)  下手な運転手さん

打ち合わせが終わると、「外、嵐なので車で帰ってください」とタクシーチケットを渡していただいた。雷の轟きは届いていたけれど、会議室には窓がなく、外がどういうことになっているのかわかっていなかった。建物の前にはタクシー待ちの行列。近づいてくるタクシーも明かりしか見えないほどの猛烈な雨。

今日の運転手さんは、よく言えば腕に自信のある職人気質、悪く言えば自慢が鼻につくタイプ。スピードを抑えて慎重に進みながら、「ブレーキにも水が入って、利きが悪くなるんですよ。急ブレーキかけたって間に合わないんです」などと解説しつつ、「下手な運転手につかまってたら危なっかしかったですね」とさりげなく恩着せがましいことをおっしゃる。道路が低くなって水がたまったところに突っ込み、急流滑りのようなしぶきを上げながら走り去ると、「今んとこ、下手な運転手だったら、焦ってふかしすぎてエンジン空回りして動けなくなってたね。そしたら後から後から追突されて大惨事ですよ」。トンネルに入って行くよそのタクシーに目をやり、「トンネルなんか入っちゃいけない。水がたまりやすいし、視界も悪いし、あんなとこで立ち往生したら大変だ」と警告。ラジオをNHKに合わせては「まだナイターやってやがる。こんなときに」と毒づき、TBSに替えて雨情報を収集する間にも水たまりにザブンと突っ込むたびに「下手な運転手だったら……」の名調子が出た。

「よかった。うまい運転手さんで」とわたしが相づちを打ち、「あちこちで事故とか起きてるかもしれませんねえ」と“下手な運転手さん”たちの心配をすると、運転手さんは得意げに「お客さん、帰ったらテレビすごいことになってますよ」。家に帰るなりテレビをつけたけど、雨量以外はすごいことにはなっていなかった。

2007年08月29日(水)  マタニティオレンジ168 「白山ベーグル」参り
2004年08月29日(日)  東京都現代美術館『日本漫画映画の全貌』


2008年08月28日(木)  3年ぶりの健康診断

3年前に会社を辞めて以来、健康診断を受けていない。会社員時代は年に2回、強制的に受けさせられたのだけど、申し込み用紙が回って来て、いつにしますかとせっつかれないと、つい機会を逸してしまう。それでも突然受けようと思い立ったのは、先週から頭痛とだるさが続いていて、健康に不安を覚えたからだった。

保険組合に電話をし、提携している病院施設の一覧をファックスしてもらい、最寄りのクリニックに電話をかけ、「急なんですけど、今週の木曜日はどうですか」と問い合わせると、あっさり予約が取れた。なんだ、こんな簡単なことだったのか、と拍子抜けする。案内と検便用キットはすぐさま速達で発送され、火曜日の午前中に届いた。

人間ドックを最初で最後に受けたのは、10年以上前。一泊二日プランで、宿泊先は赤坂のニューオータニ。同期のママチャリ嬢と金曜日を午後半休し、旅行気分で出かけた。一日目の検診は視力検査と身体測定だけ。さっさと済ませた後は、まわる展望カフェで、ひと駅先に見えるわが会社を見下ろし、優雅にお茶をした。夜はコイバナをし、「今のわたしの人生に男は邪魔」と言い切るママチャリ嬢に驚いた。翌日の検診を終えるとホテル内のレストランでランチをして帰った。

そのときの記憶があるので、今回は日帰りドックといえども半日ぐらいはかかるんだろうなと覚悟していたら、朝9時に始まり、オプションの婦人科検診二つ(子宮がんと乳がん)を終えても10時半。子どもの頃、父親が「お父さんな、明日、人間ドックやねん」と言うたびに、「犬になるん?」「ドッグやなくて、ドックや」「ホットドックの親戚?」のようなやりとりがあった。検査入院を船の点検修理をするドックにたとえたのはうまいけれど、1時間半では通常の検診よりも早いぐらい。スピードの秘密は流れるような連携にあり、ひとつの検査が終わると、「こちらです」と次の検査からお呼びがかかる具合で、持ち歩いた本を読む時間はほとんどなかった。きびきびした中にも血は通っている感じで、戸田恵子似の元助産師だったという看護師さんに採血されながら、「子どもの写真ってのは親のためにあるのよねえ」なんて話をした。

検査終了から15分ほど待ち時間があり、最後のお医者さんからの聴診と説明がたっぷり30分。「脳梗塞になったとき、最初の10秒が勝負です。10秒で気を失いますから、すぐに携帯で110番してください」。脅すような一般論を言った後に、「おたくは大丈夫のようです」と安心させ、「症状は30ぐらいありますが、覚えきれませんから4つだけ教えます」とお役立ち情報が続く。心筋梗塞や脂肪肝が増えていることに触れてから、「おたく(わたしのこと)の場合、内臓脂肪は少ないので心配はありませんが、脂肪が少なければいいというものではなく、適度についているほうが長生きするんですね。そういえば、あのニュースキャスター、最近見かけませんが、どこか悪いのかもしれませんねえ」……。

どなたにでも懇切丁寧なのか、わたしが聴き入ったせいなのか、話せば話すほど調子が出て来て、いつ終わるのだろうと不安になってくる。今日診た限りでは、わたしの体調不良は先週からの風邪の名残と夜中の授乳による寝不足が原因のよう。「子育てでいちばん大事なのは、あなたの精神が健康であることです。そのためには趣味を何かお持ちなさい」と言われて、「仕事が趣味みたいなものなので、いい息抜きになっています」と答えると、不思議そうな顔をされたが、検診結果をネタに際限なく話を膨らませるお医者様も楽しそうだった。

2007年08月28日(火)  マタニティオレンジ167 ベビーシッター代ぐらいは稼がないと
2005年08月28日(日)  高円寺阿波踊り2日目
2004年08月28日(土)  『心は孤独なアトム』と谷川俊太郎


2008年08月27日(水)  『トウキョウソナタ』『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一髪』

黒沢清監督の『トウキョウソナタ』を試写で観る。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した作品。家族のひずみが奏でる不協和音が、再びひとつの響きに合わさる日は来るのだろうか。ソナタは音楽のsonataだけれど、タイトルをつけた人がそこまで意図したかどうか、わたしは「其方」という漢字を思い浮かべた。

親密から始まる家族という単位であってもアナタはソナタになり、やがてドナタになり、とうとうカナタになる。そんな危うさがタイトルからも感じられて、興味深い。

先日観た『歩いても 歩いても』は、とくに何も起こらない家族の一日に生じる微妙なすれ違いを描いていたけれど、『トウキョウソナタ』は次々と大変なことが起こる。そこはもう少し引きずってもいいのでは、と思うような重い出来事がさらっと通り過ぎられたりするのだけれど、いちいち立ち止まってなんかいられないのが人生なんだなあと妙に身につまされる。

アプローチはまったく違うけれど、家族について考えさせられる二本の映画をスクリーンで観られたのは、この夏の大きな収穫。

ちょうどうまい具合に時間が空いたので、試写室と同じ建物内にあるシアターNで『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一髪』を観た。洞爺湖サミットを堂々とパロディーにした調子の良さに惹かれて気になっていた作品だけど、窓口で間違って「『キングギドラ』ください」と伝えてしまった。

中国の不良品衛星が爆発して生じたエネルギーで怪獣が生まれ、洞爺湖サミット開催中の日本に上陸し、サミットは急遽対策会議に変更というストーリー。「ここで活躍すれば支持率が上がる」と各国首脳に逃げるのではなく残ることを要請するアメリカ大統領をはじめ、次々と繰り出される作戦も各国のお国柄を反映した毒が効いていて、ニヤリとさせられる。おなかが痛くて退席したアベならぬイベ首相に代わり、小泉ならぬ大泉元首相が登板するが、彼の正体はサミット乗っ取りを企む某国総書記で、通訳の美女たちも彼の手下だった……という展開。

冒頭のクレジットの文字は無駄にでかく、音楽はとことん派手に盛り上げ、登場人物のネーミングも演技も大真面目にふざけていて、ここまでやるかと呆れながら徹底したB級ぶりを楽しむ。

なんたって、地球の危機を救う全身きんぴかのタケ魔人役は、ビートたけし。日本に向かって打ち込まれた核ミサイルを肛門で受け止め、あわや大惨事を免れるという活躍を見せる。世界の北野武監督のこんな贅沢な使い方があったとは。しかも、タケ魔人を呼ぶ儀式の怪しい踊りは「ネチコマ、ネチコマ」と唱えながら、懐かしのコマネチポーズを繰り返すというもの。

やっぱりこの人美形だなあとあらためて感心したヒロインの加藤夏希も真剣な表情で延々と踊っていた。毒が中途半端に効いてハイになったギララが舞う浮かれた盆踊りも愛らしかった。

2007年08月27日(月)  ひさびさのおきらくレシピ「野菜いろいろジュレ」
2005年08月27日(土)  高円寺阿波踊り1日目
2004年08月27日(金)  汐汲坂(しおくみざか)ガーデン
2002年08月27日(火)  虹の向こう


2008年08月26日(火)  ゴ○○リから「テン」を取って「マル」をつけたら

ゴで始まってリで終わる四文字、ゴマスリではなくゴムマリでもなく、茶色い背中に長い触覚の嫌われ者のアイツが我が家を徘徊している。夜中に喉の渇きを訴える娘の手を引き冷蔵庫へ向かうと、流しの辺りでガサゴソ動いている。トイレで出くわすこともある。一匹ずつしか会わないから、一匹があちこちに出没してるのかと思ったら、始末してもどんどん代わりが出てきて、いやはや層が厚い。食べこぼし放題のほったらかし、ゴ○○リの足で三歩あるけば食料に当たるわが家は、そりゃ居心地よかろう。先日の大地震の噂に続いて、またもや大掃除の切実な理由ができた。

ゴ○○リ氏が現れると、どうしてああも大げさに驚き、嫌がり、怖がってしまうのだろう。元同僚でわたしのシナリオのご意見番のアサミちゃんは、「あの濁音がいけない」という意見。濁音を取り、なおかつチャームポイントに撥音を加えて「コキプリ」と呼ぶと、たしかに小粋でポップなフレンチ風の響き。やっぱり愛せないことには変わりはないけれど、名前だけでもかわいげがあったほうがいい。それにしても、単語に撥音(パ行)が入ると、文字通り「撥(は)ねた」感じになる。この発見が、函館を函°館(パコダテ)と呼んだパコダテ語のルーツ。映画『
パコダテ人』の誕生にはゴ○○リも一枚かんでいる。

2007年08月26日(日)  マタニティオレンジ166 お風呂で初U  
2005年08月26日(金)  『道成寺一幕』→『螢光 TOKYO』
2004年08月26日(木)  土井たか子さんと『ジャンヌ・ダルク』を観る
2003年08月26日(火)  アフロ(A26)
2002年08月26日(月)  『ロシアは今日も荒れ模様』(米原万里)


2008年08月25日(月)  新藤兼人監督最新作『石内尋常高等小學校 花は散れども』

96才、新藤兼人監督の最新作『石内尋常高等小學校 花は散れども』を試写で観る。ほとばしる勢いとポップな感覚。「現代のピカソ」という評になるほどとうなずく。個人的には熱血教師が大好きなので、新藤監督の恩師をモデルにしたという柄本明さん演じる先生の人物像をとても好ましく、「こんな先生、見なくなったなあ」というまぶしい思いで見た。父兄やら教育委員会やらの目が厳しくなり、やってはいけないことが多すぎて、先生たちは個性を発揮し辛くなってきている気がする。むちゃくちゃなところが愛せる先生を子どもたちが慕い、親たちがあたたかく見守った、そんな大らかな時代を懐かしんだ。

2007年08月25日(土)  マタニティオレンジ165 誕生日の記念写真
2005年08月25日(木)  『クライマーズ・ハイ』(横山秀夫)
2004年08月25日(水)  アテネオリンピックと今井雅子
2003年08月25日(月)  冷凍マイナス18号
2002年08月25日(日) 1日1万


2008年08月24日(日)  マタニティオレンジ326 あかちゃんとポポちゃん

大学の応援団時代の後輩カジカジ君とマサコさん夫妻の愛娘ヨウコちゃんは、娘のたまより1年と2日後に生まれ、今日で2才。一家でわが家に来てくれて、ささやかな合同誕生会ランチをする。結婚を機に九州から上京したマサコさんとはカジカジ君のお嫁さんとして知り合ったのだけど、妊娠中に何度か一人で遊びに来てくれ、「一年後はこんな感じなんですね」とたまを見て想像をふくらませていた。マタニティビクスにも励み、おなかの大きな時代をしっかり楽しみながら出産の日を心待ちにするたくましい妊婦さんだった。予想通りの安産で、子育てもマイペースに取り組んでいる様子がメールのやりとりで伝わっていたけれど、なかなか会う機会がなく、生まれて一年経ってようやく再会そしてヨウコちゃんとの初対面となった。

わたしのペンフレンド、ドイツのアンネットから誕生日に贈られた赤ちゃん人形「ポポちゃん」のお世話ごっこに夢中のたまは、本物の赤ちゃんに興味津々。普段は甘えてばかりのくせに、後輩の前ではスプーンで上手に食べるところを見せつけたりする。だけどまだ一緒に遊ぼうと誘うほど気はきかず、むしろ無邪気な一歳児の予測不能な動きに戸惑い気味。たまとヨウコちゃんの顔合わせは交流のない平行線のまま終わった。ところが、一家が家に帰ってから、たまは「あかちゃん またくる?」を連発。そんなに気になるんだったら、うちにいるうちに一緒に遊べばよかったのに。人形と違って思い通りに動いてくれない赤ちゃんは、2歳児の手に追えないらしい。

ポポちゃんは妙にリアルで、目は青いし、頭はスキンヘッドだし、子どもには怖いかなと思っていたのだけど、慣れるとかわいげが出て来てきた。たまはおんぶにだっこ、おっぱいをあげたり着せ替えをしたり変なポーズを取らせたり、赤ちゃんのお世話というより子分をおもちゃにしているような感じだけど、仲良く遊んでいる。ポポちゃんというのは保育園にいるお世話人形と同じ名前。保育園のポポちゃんはいかにも日本の赤ちゃんで、黒髪もちゃんとある。

2007年08月24日(金)  半年ぶりに髪を切る
2004年08月24日(火)  TOKYO OYSTER BAR 
2002年08月24日(土)  『パコダテ人』ビデオ探しオリエンテーリング

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