■柳家小三治さんの『ま・く・ら』が思いのほか面白かった。電車の中で何度も吹き出し、まわりの乗客に怪しまれてしまった。事件を笑いに昇華出来る落語家と、彼を次々と巻き込む奇怪で愉快な事件。才能と状況の出会いが抱腹絶倒のエピソードの数々を生み出した。小三治さんは、物事を楽天的にとらえ、悲劇の中にも笑いの種を見出だす余裕を備えた人であるらしい。そうでなければ駐車場に住み着いたホームレスのことをあんなにユーモアたっぷりには話せないだろう。この人、アメリカでの短期語学留学にも果敢に挑戦している。その成果には自信がなさそうだが、海外や外国語に目を向けていることが。小三治さんのまくらを豊かにしていることは間違いないだろう。本の終盤に「アメリカでは最近、You are welcome.のかわりにMy pleasure.を使うことが多い」というくだりがあった。お礼を言われて「ユア・ウェルカム」と返すのも感じがいいが、「マイ・プレジャー」はそれ以上に気持ちのいい言葉だ。仕事でも頼まれ事でも「喜んで!」と思って引き受けることができたら、自分もまわりの人も幸せになれそうな気がする。柳家小三治さんは、My pleasure.の心で高座に上がっているのではないだろうかと勝手な想像をし、ひさしぶりに落語を聞きに行きたいなあ、できれば、この人の噺を聞いてみたいなあと思っている。