さて、お待ちかねの本編。同じくイーストウッド監督作品の『チェンジリング』にも言えることだけど、扱われるエピソードが劇的でショッキングである分、演出は抑制がきいていて、観客を目撃者の目にさせるところがある。その結果、すごいことが起こってるぞと見せつけられるよりも、むしろ画面に引き込まれ、息を呑んで見守ることになる。そして、「物語を転がす事件のために事件を起こす」ような無理やこじつけを感じさせず、映画の中で起きている出来事が真実味を帯びてくる。ともすれば嘘っぽくなりそうな題材をそれっぽく描く。その違いは、細やかな心配りの積み重ねだろうか。根性焼きやリンチの生々しさ。パンク娘や新米神父や街のゴロつき、隣家に集うモン族の一人一人に至るまでがまとう、いかにもな雰囲気。そして、もちろん、主演のイーストウッド演じる偏屈者の元軍人のもっともらしさ。キャラクターから傷までが映画の時間を生きている。タイトルにもなっている自慢の名車グラン・トリノもまた、主人公に永年寄り添ってきた確かな存在として息づいている。God is in the details(神は細部に宿る).「作り込む」というのは凝りまくることではなく、細部まで目を配り気を抜かないこと、「作り抜く」ことなのだと作品のあちこちに宿る神たちが語っている。
一人目の女性は元客室乗務員で、今は後輩の指導に当たったりマナー講座で活躍するベテラン講師。先だってはサミット通訳の指導もされたとかで、人をひきつける話術はさすが。本文に出てきた「パックス・ヤポニカ」(日本の平和)という単語に言及して、「航空業界では、パックス(=PAX)といえば、パッセンジャー、乗客のことで。C23のパックスがタラタラで……などとCA同士で連絡を取り合ったものです。タラタラとは、タラップ to タラップのことですが、専門用語を知らない人が聞いたら、お客さんどうしちゃったんだろって思いますねえ」。