例えば、 其の時間は失われたのなら。
失われた分を、 積み直せば良い。
例えば、 其の時間が巻き戻ったのなら。
巻き戻った分を、 もう一度進めれば良い。
其れは。
飽く迄、 時間を与えられた側の、 言い分だけれど。
其の時間を恃む事が、 出来ぬ刻。
他に、 取り得る手段が在るのだろうか。
名前で無く。
あの子を、 嘗ての渾名で呼び。
「俺。」 「独身だよ。」
巻き戻った記憶を前に進めようと、 言の葉を伏せた。
半ば自棄糞で。
俺が四十の時に。
あの子が四十の時に。
其の一年の差に、 ずっと、 想いを委ねて来たけれど。
「お誕生日おめでとう。」 「痛みも少なく穏やかな一日だと良いな。」
あの子に贈った、 生誕祝いの電信で。
其の、 薄っぺらい根拠すら、 封じられる。
折角。
「四十になってお互いに独身だったら。」 「結婚しようねってやつでしょ?」 「小坊主ちゃん既に四十一じゃん。」
あの子には。
記憶の鍵が、 残って居たのにね。
---------- References Jun.21 2014, 「変わらぬ祝いの深夜便でしょうか」 Jun.21 2008, 「縒り逢う様に在るのでしょうか」 Jun.21 2007, 「求心力の一つでしょうか」
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