2009年07月05日(日)  朝ドラ「つばさ」第15週は「素直になれなくて」

「つばさ」第14週「女三代娘の初恋」はいつにも増して反響があり、とくに劇中劇の「婦系図」を楽しまれた人が多かった様子。映画と鉄道を愛するご近所仲間のT氏からは、〈鏡花の「婦系圖」が出てくるとは思いませんでした! 映画の「婦系図」もいろいろ名作がございますよ。野村芳亭(田中絹代と岡譲二)、マキノ雅広(山田五十鈴と長谷川一夫)、衣笠貞之助(山本富士子と鶴田浩二)、三隅研次(万代昌代と市川雷蔵)…。どれも美男美女の組み合わせです。ある意味日本メロドラマの代表作。こちらも機会がありましたら是非どうぞ〉とのこと。こんな風に「つばさ」をきっかけにわたしの世界も少しずつ広がって、楽しませてもらっている。

さて、第15週では、第1週の第一声から美声で酔わせてくれている人気芸人ベッカム一郎(川島明)がついに姿を現すことに。ベッカム一郎の配役が決まったとき、わがダンナに「麒麟の川島明が出るんだよ」と報告したら、「麒麟の相方はシマウマか?」とボケた反応が返ってきたが、麒麟はお笑いコンビ名で、相方は、『ホームレス中学生』を書いた田村裕。「つばさ」の劇中では、ベッカム一郎の相方はロナウ二郎(脇知弘)で、この二人がコンビを解消した事情が第15週で明らかに。タイトルは「素直になれなくて」。シカゴのあの名曲を連想して、切ないイメージを足し、またしてもうまく名づけたものだとプロデューサーのネーミングセンスに感心。

全国放送に進出したつばさとベッカムとのラジオ共演にもご注目。大きな世界を見てしまったことで、足元にある大切なものを見失いかけたつばさを家族や仲間、そして最後はラジオそのものが引き戻す一週間。ささやかな日々をコツコツと積み重ねることが、大きな力になるというのは、コミュニティ放送だけでなく、和菓子の商いにも主婦業にもいえることで、子育てもそうだなあと実感。

演出は、第8週「親子の忘れもの」、第9週「魔法の木の下で」の福井充広さん。8、9、12週「男と女の歌合戦」に続いて4度目の今井雅子増量週間。「脚本協力 今井雅子」のクレジットが月〜土の毎日(通常週の6倍!)出るので、オープニングタイトルにもご注目。次回増量週間は第17週「さよならおかん」。第16週「嵐の中で」も恋の嵐が吹き荒れるドキドキの週なので、引き続きお楽しみください。

【お知らせ】7/22新宿バルト9で『ぼくママ』試写トークに出演

今井雅子脚本の6本目の長編映画『ぼくとママの黄色い自転車』は、いよいよ8月22日公開。その1か月前に「ママする主婦する自分する 働きたい女性のためのコミュニティサイト」キャリア・マム会員限定特別試写会を開催。上映前に、キャリア・マム代表の堤香苗さんと今井雅子のトークが決定。どんな話になるのか、わたしも楽しみ。

7月22日(水)11:10開場/11:30トークショー/11:50開映
新宿バルト9にて
40組80名様をご招待


他に7/21の大阪試写会に30組60名様、7/24の名古屋試写会に25組50名様をご招待。いずれもお子様連れOK。応募(7/13まで)はこちらへ。キャリア・マム会員限定なので、会員でない方は登録が必要。

2008年07月05日(土)  マタニティオレンジ309 ビデオより、輪になってあそぼ!
2007年07月05日(木)  桃とお巡りさん事件
2003年07月05日(土)  柳生博さんと、Happiness is......
2000年07月05日(水)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/28)


2009年07月04日(土)  整骨院のウキちゃん8 ノオッ!プリーズ!サンキュー!編

今井雅子日記の隠れた人気連載「整骨院のウキちゃん」、このところウキちゃんがかなり人間の掟を学習してしまってカルチャーショックを受ける機会が減ったせいでお休みしていたが、相変わらず整骨院通いは続いている。娘のたまを保育園へ迎えに行った帰りに子連れで寄ることが多く、先日、ウキちゃんがたまの診察券を作ってくれた。たまがいつも背伸びをしてわたしの診察券を箱に入れたがるのを見て、気をきかせてくれたらしい。

たまは大好きなウキちゃんに会いたくて、喜んでついてくるが、わたしは院長と助手のウキちゃんの掛け合い、さらに患者の皆さんを交えた会話を楽しみに通っている。ウキちゃんがダイエット話をしていると、「ウキちゃん、腰に浮き輪ついてるんです」と口をはさむ院長は、口が減らない患者さんに「ウキちゃん、口にテーピングしといて」と軽口で命じる。長屋のようなにぎやかなおしゃべりをうつぶせで聞きながら、肩凝りのついでに頭の凝りもほぐしてもらっている。

「頭の中のレコーダーを回せ」というタイトルで先日提出した「月刊ドラマ」8月号掲載の「セリフと寄稿」の原稿に、「会社を辞めてフリーになった今は、電車やカフェで過ごす時間がめっきり減ったが、整骨院で肩こりをほぐされながらテープを回す。うつぶせで施術されているので、台詞から人物を想像する練習になっている」と書いた。字数の関係でこのくだりを削ることになってしまったが、今のわたしにとって整骨院は格好の台詞収集の場。今日、隣のベッドで舌好調だった患者氏と院長のやりとりが、最高におかしかった。

患者「雷門のバス停に行ったらよ、外人のでかい女が、三人かけられるベンチを横向きで二人で占領してたんだよ。それで俺がノオッ!って言ってやったんだ」
院長「外人さん相手に、ビシッと言ったんですか」
患者「だって詰めりゃもう一人座れるんだよ。ベンチの横にいたんだよ。びっこのばあさんが」
患者「びっこは放送禁止用語ですけど」
患者「とにかくよ、かわいそうじゃない。それでノオッ!って言って外人さんどかして、プリーズ、サンキューって座ってもらったんだよ」
院長「ちょっと待ってください。そのおばあさん、日本人ですよね」
患者「ああ、そうだよ」
院長「だけど、プリーズ、サンキューですか」
患者「そうだよ」
院長「その外人さんもびっくりしたでしょうね。雷門に行ったら雷オヤジがいて」
患者「近頃はみんなガツンと言わないだろ。一人ぐらいうるさいのがいねえと」

隣のベッドでうつぶせになって笑いをかみ殺しながら、おいくつぐらいの方なんだろうと想像する。声の調子や言葉遣いからは高齢だと思われるが、やたらと他人を年寄り扱いするので、実は若いのだろうかと予想が揺れる。患者氏は雷門バス停のおばあさんの話を続けて、

患者「今日は4がつくババアの日だから、でかけてたんだな」
院長「ババアの日って……巣鴨の4の日のことですか」
患者「4の日はババアが多くて、バスなんか大変なことになってるよ。こないだも急ブレーキかけたら、杖ついて立ってたばあさんが腰でスピンして飛んできたからな。運転手に言ってやろうかと思ってよ。バスの前んとこに『4の日』って貼っとけって」

とバスの運転手をしかった後、話題は公園での健康体操に移った。

患者「公園でばあさんたちが体操してんだよ。人よりちょっとでも長生きしようと思ってさ、いじらしいじゃない」
院長「でもそのひとたち、年下なんですよね?」
患者「戸籍抄本とったわけじゃねえけど、八十過ぎてるってことはないだろ」

それを聞いて、隣の患者氏が八十を超えていることがわかった。

患者「俺は無駄なおしゃべりしてるヤツを見ると、注意するんだよ。口の体操はよそでやってくれって」
院長「口の体操……うまいこと言いますねえ」
患者「体操するときは、集中しろってんだよ。いじらしくやってるばあさんの横で、老いらくの恋だかなんだか知らねえけど、毎日しつこくしゃべりかけて邪魔している野郎がいるから、昨日注意してやったんだ。いい加減にしろって」
院長「話しかけられて困ってるって相談されてたんですか?」
患者「いいや」
院長「じゃあ、もしかしたら、その人、おばあさんのお知り合いだったかもしれないじゃないですか」
患者「知らねえよ、そんなこと。でも、今日はそいつ、現れなかった」

いいなあ、この怖い者知らずな独走ぶり。こんな威勢のいい80代を脚本に書いてみたい。「明日は休みか? 行ってらっしゃい」と院長とウキちゃんに威勢良く告げ、患者氏は風を切って出て行った。「いつ来たら、さっきの人に会えるんですか?」と思わずウキちゃんに聞いてしまった。

「整骨院のウキちゃん」バックナンバーはこちら。
2007年11月06日(火)  整骨院のウキちゃん1 伝説の女編
2008年01月08日(火)  整骨院のウキちゃん2 首都得意なんです編
2008年02月08日(金)  整骨院のウキちゃん3 となりのトトロ編
2008年02月20日(水)  整骨院のウキちゃん4 「ティ」ってどうやって打つの?編
2008年03月19日(水)  整骨院のウキちゃん5 東京の首都は?編
整2008年03月24日(月)  整骨院のウキちゃん6 ナターシャは白いごはんが大好き編
2008年06月25日(水)  整骨院のウキちゃん7 赤道ぐらい知ってますよ編
【お知らせ】『ぼくママ』ノベライズ予約受付開始

ノベライズ版『ぼくとママの黄色い自転車』(小学館文庫)が完成し、見本誌が到着。新堂冬樹さんの原作『僕の行く道』の映画化脚本(今井雅子)を藤田杏一さんがノベライズ。間もなく書店に並ぶ模様。ぜひご予約を。原作(文庫版が出て売れ行き好調だそう)と読み比べるのも、「ここが変わったのか」の発見があって面白いです。

2008年07月04日(金)  マタニティオレンジ308 パパのせつない片想い
2007年07月04日(水)  肉じゃがと「お〜いお茶」とヘップバーン
2006年07月04日(火)  2年ぶりのお財布交代
2005年07月04日(月)  今井雅之さんの『The Winds of God〜零のかなたへ〜』
2003年07月04日(金)  ピザハット漫才「ハーブリッチと三種のトマト」
2002年07月04日(木)  わたしがオバサンになった日
2000年07月04日(火)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/28)


2009年07月03日(金)  なぜかショップ99で話しかけられる

取り置き期限が昨日までの図書館の予約図書を取りに行くのを忘れていて、今朝電話をかけた。
「すみません。取りに行けなかったんですが……」
と切り出して、はて、こういうときは、何と続けるのだろうと適切な言葉を探したものの見つからず、
「流れてしまったでしょうか」
と言ってしまってから、質流れのようだと思った。だが、応対した男性は動じることなく、
「確認してみますね」
と明るい声で受け止めて、電話を離れた。
待つこと数十秒、再び電話口に現れた男性は、
「ありました! 流れていませんでした!」
と電話の向こうから声を弾ませた。どうやら「流れる」という表現を気に入ってくださった様子。
「よかった。流れていませんでしたか」
「いやー、危なかったです。流れる直前で止めました!」
電話の向こう側とこちら側で「流れる」を連呼しあううち、「流れる同盟」のような連帯感が生まれ、顔を知らない図書館員さんに親しみを覚えてしまった。

見知らぬ人との小さな企みごとは楽しい。先日、ショップ99で娘のたまが「コンコンほしい」と真空パックのゆでトウモロコシを手にしたときのこと。原産国を見ると「中国」となっていた。できれば国産がいいのだけど……とためらっていると、「中国産? 微妙だねえ」と心の中を見透かされたように声がした。見ると、わたしよりひと回りぐらい年上の女性が親戚のおばちゃんのような気安さで話しかけていた。思わず「そうなんですよねえ」と応じていると、すぐそばに皮のついた生のトウモロコシがあるのに二人同時に気づいた。こちらは国産。「ひげつきにしたら?こっちのほうが楽しいよ」と言い残し、彼女は店の奥へ消えたが、会計を終えて店を出るときにまた会った。「どっちにした?ひげつき?」と聞かれて、「はい、ひげのほうに」と答え、二人で満足そうにうなずきあった。99円のトウモロコシ一本の買い物がちょっとした冒険に思われて、愉快だった。

なぜかショップ99で話しかけられることが多い。たまが売り場を歩き回りながら「ママ、ぎゅうにゅうかおうよ」などと声を張り上げていると、「お手伝いしてるんだ?えらいねえ」と買い物客から声がかかる。幼子連れなので声をかけやすいのかもしれないが、コンビニではレジのおばちゃんとしか言葉を交したことがない。99は棚が密集していて、通路が狭く、人と人の距離が近いせいだろうか。

うちの近所の99の特長なのかもしれず、コンビニと99の違いを断じることはできないのだけど、99は「よろずや」に近いという感覚がある。まだコンビニなど知らなかった子どもの頃、親戚の田舎町を訪ねたとき、小さな間口の店に野菜からおもちゃまで並んでいる光景が不思議だった。そこは近所の人たちのくつろぎと情報交換の場でもあった。あのよろずやの匂いを99に感じてしまう。コンビニと品揃えに大きな差があるわけではないのに、この違いは何なのか。レジに焼き芋があるせいだろうか。

【お知らせ】「つばさ」が切手になりました

アンジェラ・アキさんの主題歌『愛の季節』とともに「つばさ」のオープニングを彩る佐内正史さんのスチール写真がフレーム付き切手に。購入はエンタメポストへ。佐内さん、映画『ジョゼと虎と魚たち』の劇中で使われた写真も撮られているのですね。お会いしたことはないけれど、「つばさ」のクレジットで「タイトルバック制作 佐内正史」「脚本協力 今井雅子」が隣り合わせになることが多いので、勝手に親しみを覚えています。

2008年07月03日(木)  マタニティオレンジ307 シール貼り放題!段ボールハウス 
2007年07月03日(火)  マタニティオレンジ140 七夕に願うこと
2005年07月03日(日)  親子2代でご近所仲間の会
2000年07月03日(月)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/28)


2009年07月02日(木)  「胸が痛む」のではなく「おっぱいが泣く」という感覚

先日、じいじばあばの家にお泊まりして帰ってきた娘のたまが、「たまちゃん、ないたの。ママがいいようって」と言った。最近たまは自分が泣いたときの気持ちを後から振り返り、整理し、言葉にしてくれる。泣いているときは大人だって冷静にはなれないが、子どもなりに泣く理由に思いを馳せるというのは面白い。

「たまちゃん、泣いちゃったの」とわたしが聞き返すと、「ちいとんもないたの ママがいいようって」とたまが言ったので、ドキッとした。ママのおっぱいを「とんとん」と名づけたたまは、自分のを「ちいとん」と呼んでいる。とんとんには友だちのような親しみを感じているようだが、ちいとんにも感情があるらしい。もしかしたら、自分の分身のように思っているのかもしれない。

「胸が痛む」「胸が苦しい」といった喩えがあるけれど、比喩ではなくほんとうに「おっぱいが泣く」のか。子どもは詩人だなあとしみじみ思った。

何気ない鋭い一言にハッとさせられる一方で、子どもらしい無邪気な言葉には和ませてもらっている。「ママのちゅばさのおしごとおわったらねえ、ほいくえんごっこする」と言ったり、絆創膏とバンドエイドが合体して、「ばんそこエイド」という新語が生まれたり。でたらめな電話番号にかえて、「お客様がおかけになった番号は現在使われておりません……」という機械音声の応答に、「おかけ? おかけがないの? そう? そっか、そっか、しょうがないねえ」と相槌を打っていたりする。先日は、おむつを換えながら「どうしてトイレでしなくなったの?」と問いかけたら、童謡「おもちゃのチャチャチャ」の替え歌で「おむつでチャチャチャ」を歌い出した。

匂いを取るのが脱臭剤なら、力を抜いてくれるのは脱力剤か。柔軟剤の働きもあり、娘の言葉のおかげで、幾分ふんわり仕上げになれている気がする。

今日の子守話は、布団の中でたまと交わした一問一答をそのままあんこに使ったお語。やりとりの中で「夢はどこにもない。生きていることそのものが夢」というセリフが生まれて、シェークスピアみたいだと唸ってしまった。遠くにある夢を探して、ないないと嘆くより、近くにある夢を感じられたほうが幸せかもしれない。そんなことを思っていたら、最近新聞で読んだ興味深い記事を思い出した。地球に戻った宇宙飛行士(向井千秋さんだった気がする)が、地上に降り立って、「重力がある」ことに感激し、感謝したという話。重力のない世界を体験した人ならではの実感だなあと感心したが、人として生きるということは、重力のある世界に暮らすということなのかもしれない。その発見で会話のあんこをはさんだ。

子守話86 「たまちゃんの てつがく」

たまちゃんは 2さいです。
そらの うえから ちじょうに やってきて まだ2ねん。
だから ちじょうに ながく くらしている ママが 
すっかり わすれてしまっていることを まだ おぼえています。

そんなたまちゃんと おはなししながら
ママは そらの うえに いたころの とおい むかしを
おもいだします。

「たまちゃん、どうして泣いちゃったの?」
「だって、こころが、あっち」
「心があっち?」
「うん」
「心ねえ。たまちゃんの幸せって、どこにあるのかな?」
「(上を指差し)こっち」
「こっちって、どこ?」
「あたまのうえ」
「頭の上?」
「きのうのあしたの、あしたのきのう」
「昨日の明日の明日の昨日……じゃあ、夢はどこにあるの?」
「どこにもないよ」
「じゃあ、たまちゃんは、なんで生きてるの?」
「ゆめじゃないかねえ」

たまちゃんと おはなしを していると
ママは ふわふわした きもちになって
たまちゃんより さきに ねむってしまいました。

そして しあわせな ゆめを みました。

2008年07月02日(水)  マタニティオレンジ306 雨の日も風邪の日もビデオ三昧
2007年07月02日(月)  マタニティオレンジ139 マジシャン・タマチョス
2006年07月02日(日)  メイク・ア・ウィッシュの大野さん
2005年07月02日(土)  今日はハートを飾る日
2004年07月02日(金)  劇団←女主人から最も離れて座る公演『Kyo-Iku?』


2009年07月01日(水)  2才10か月で「夏の扉」を開ける

会社勤めをしていた頃、髪を切って出社したら、ひとつ違いのアートディレクター男子のソエちゃんが「今井ちゃん、夏の扉を開けたね」と声をかけた。それを聞いて、まわりにいた「松田聖子を聴いて大きくなった」世代の同僚たちが、「今井、切ったんだ?」と振り返ったが、『夏の扉』がリリースされて10年以上経つのに共通言語になってるってすごいねえと感心し合った。深夜の残業時に誰かがパソコンで聖子ちゃんをかけると、フロアに残っている人たちが次々と口ずさみ、いつしか大合唱になり、「なんでみんな歌えるの?」と驚き合ったこともあった。

そんなことを思い出したのは、娘のたまが生まれて初めて髪を切り、夏らしいすっきりショートになったから。生まれたとき、産道内を旋回してとんがった頭に髪がぐるぐる巻きに張りついてポンパドール夫人状態で生まれてから2才10か月。髪は腰あたりまで伸びた。「切らないの?」「どうして伸ばしてるの?」といろんな人に聞かれたが、ここまで伸ばしたら3才の七五三まで……と思ううちに、また夏がめぐってきた。子どもは汗をかく。加えて、たまは最近お風呂を嫌がり、パスすることも度々。髪からすえた匂いを放つようになり、ダンナの両親からも「切ったら?」とせっつかれるようになった。

たま本人は長い髪を結わえるのを気に入っていたようだけど、保育園の先生からも「たまちゃん、切ったほうがいいわよ」と言われたらしく、自分から「かみ、きる」と言い出した。「かみきりやさんで きる」と言っていたのだが、美容院に連れていける日を待っているといつになるかわからない。わたしも中学校に上がるまでは親に切ってもらってたよな、と思い出し、「ママの髪切り屋さんで切ろっか」と聞くと、あっさり「いいよ」。先週の金曜日、二人きりの夕食の後に「じゃあ、今切る?」「うん」。

最初にハサミを入れるときにはそれなりのためらいがあったけれど、たまは何の感傷もない様子で、「もっと きって」と催促してくる。こちらもザキザキ、ジョキジョキと遠慮の取れたハサミで切り進めるうち、『ほたるの墓』のせっちゃんのようなおかっぱ頭になった。短いほうが子どもらしい愛らしさがあって、母娘ともに気に入った。

ダンナにもダンナ両親にも好評で、保育園の先生方からも「たまちゃん、切って可愛くなりましたね」と褒めていただいたのだが、たまは、「たまちゃんね、まえはかわいくなかったねっていわれたの」。どうやら「可愛くなった」と繰り返し言われるうちに「前は可愛くなかったのか」と深読みしたらしい。子どもながら、なんともフクザツな乙女心。ずいぶん大きくなるまで伸ばしたんだなあと感じた。

さて、25センチの髪は、どうしようか。筆にしても、使うのはもったいないし、飾っておいても埃をかぶりそう。「よく針刺しの中に髪入れたりしてるよね」とダンナに言うと、「たまの髪に針を刺すの?」の顔をしかめられた。それもそうだ。だったら、小さなぬいぐるみの中に入れようか。それはそれで変に命が宿りそうな不気味さがある。カツラに寄付するには短いし……今のところ、ヘアーゴムでしばった束をたまが振り回して遊んでいる。

2008年07月01日(火)  マタニティオレンジ305 トイレトレーニングは「まだ!」
2007年07月01日(日)  マタニティオレンジ138 いつの間にか立ってました
2005年07月01日(金)  ハートがいっぱいの送別会
2003年07月01日(火)  出会いを呼ぶパンツ
1998年07月01日(水)  1998年カンヌ広告祭 コピーが面白かったもの


2009年06月30日(火)  『1Q84』の話題からエリックさんにたどり着く

こないだまとめて読んだはずなのに、いつの間にか未読の新聞が山積みになっていて、それをまたまとめて読む。6月25日朝日オピニオン面、天野祐吉さんの「CM天気図」に「地球の出」の話。「月の地平からゆっくり昇ってくる地球」という風に「かぐや」から眺めた地球の映像を紹介している。そうか、月から見れば地球はまた昇るのか……。考えたこともなかったそのことを知り、そのうれしさだけで今日の元は取ったような気分になる。ぜひ想像だけでなく映像を見てみたい。「JAXA・NHK」とあるからCMではないのだろうか。

6月27日朝日別刷りbe「サザエさんをさがして」には、「人の痛みは見えません。痛度計があればいいな、と思っていました」と日本リウマチ友の会の長谷川三枝子会長の話。温度計(体温計)ならぬ痛度計。痛みの当事者でないと出てこない言葉だと感じ入った。

折しも「月刊ドラマ」の「セリフとト書き」欄に寄せた原稿(7月中旬発行の8月号に掲載)に、「実感のある言葉を脳内ハードディスクに蓄積することが大事」ということを書いた。身近な家族や知り合いの日常会話、たまたま居合わせた他人の何気ない言葉を頭の中のレコーダーを回して録音する方法を紹介したが、新聞にも無数の名言がちりばめられている。

このごろは新聞を開くと必ずといっていいほど『1Q84』の話題を目にする。「読んでみなくてはわからない」「紹介しきれない」と皆さん書かれているものの、連日の書評を積み重ねると、読んだような気になり、現物を手にする頃にはハングリーマーケットの裏返しの満腹状態になってしまいそう。映画『アメリ』を観たときのように答え合わせにならなければいいのだけど……と思いつつ、読者ごとに視点や印象が異なるのが面白く、つい記事を拾ってしまう。

村上春樹作品で最後に読んだのは、高校時代ぶりに再読した『ノルウェイの森』で、その前は『海辺のカフカ』だった。『海辺のカフカ』を読んだときに、「わたしは昔の作品のほうが好きだ」とあらためて思ったのだが、『パン屋襲撃』『1973年のピンボール』『TVピープル』を好んで繰り返し読んだ。

『ノルウェイの森』以来遠ざかっていた村上作品に『TVピープル』で再会したのだが、それを教えてくれたのは、通っていた京都の大学の近くにある古民家に暮らすエリック・ガワーさんというアメリカ人のフリージャーナリストだった。彼が日本語の小説を読むのを手伝うというアルバイトを知人から引き継ぎ、いくつかの短編を一緒に読んだ。他の小説は何を読んだか記憶が飛んでしまったが、『TVピープル』の記憶だけが突出している。これが最初の一篇だったのかもしれない。外国人は村上春樹が好きなのか、という発見とともに、その作品を楽しんだ。つっかえつっかえながらも漢字を読めるのだから、エリックさんの日本語レベルは相当なものだった。政治にもとても興味があり、わたしよりも日本の政治家をよく知っていた。趣味も多彩で、アルバイトというより、こちらが広い世界を教えてもらっている感覚だった。

そんなわけで、『1Q84』の記事を見るたびエリックさんを思い出し、今どうしているのだろうと気になり、「Eric Gower」で検索してみると、『日本は金持ち。あなたは貧乏。なぜ?―普通の日本人が金持ちになるべきだ』『 エリックさんちの台所 (海外シリーズ)』『 英文版 エリックさんの新・和食 - The Breakaway Japanese Kitchen : Inspired New Tastes [Illustrated] (ハードカバー)』と3冊の著書にヒットした。本を出していることは意外ではないし、一冊目はエリックさんらしいと思ったが、料理の著書があるとは意外。料理本の紹介から行き着いたThe Breakaway Cookというサイトで、顔写真のエリックさんに再会する。20年近い歳月が経っているので、最初は「こんな顔だったっけ」と思ったが、しばらく眺めているうちに、だんだんエリックさんに見えてきて、そうだ、やっぱりこの人に違いないと確信に至った。

劇団Motherにいた宮村陽子のことをアメリカ人の友人が「Yoko Miyamura」で検索して発見し、「女優になっていたとはビックリ!」とメールが来た、というエピソードを彼女に聞いたことを思い出したが、エリックさんが料理研究家になっていたとは驚いた。彼が京都を去った後、彼の友人のこれまたエリックさんが新しい住人となり、わたしは引き続き日本語教師となった。2号さんは料理好きで、毎回レッスンの後にランチをふるまってくれたのだが、1号さんも料理をする人だったのか。

京都を去ったエリックさんは鎌倉のほうへ引っ越した記憶があるが、今は日本を離れてアメリカにいるらしい。おいしそうな料理とレシピが並ぶブログを眺めながら、書き込んだら驚いてくれるかしら、とドキドキしている。

2008年06月30日(月)  『蘇る玉虫厨子』洞爺湖サミットへ!
2006年06月30日(金)  中国語版『子ぎつねヘレンの10のおくりもの』
2002年06月30日(日)  FM COCOLOで『パコダテ人』宣伝
2001年06月30日(土)  2001年6月のおきらくレシピ
2000年06月30日(金)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/28)


2009年06月29日(月)  涙は世界でいちばん小さな海

昨日の夜、娘のたまがお風呂に入るときに泣き(このところ毎回ぐずる)、お風呂上がりに「たまちゃんの なみだ すっぱいよ。なめてみて」と言ってきた。「すっぱいじゃなくて、しょっぱいだよ」と訂正しながら、映画『子ぎつねヘレン』でヘレンが太一の涙をなめてあげた場面を思い出し、連想の糸をたどって「涙は世界でいちばん小さな海」という言葉を思い出した。

脚本を書き始めた頃、コンクール入賞が縁で初めてディレクターから「ラジオドラマのプロットを書いてください」と声がかかり、大はりきりで書いた。今だったら本命の一本に注力して、保険でもう一本という出し方をするけれど、当時は「やる気を見せることが何より大事!」だと鼻息を荒くし、10本ほどを送りつけた。帯に短し襷に長しの10本で、どれも採用には至らなかったが、その中の一本に「世界でいちばん小さな海」の話があった。この言葉を発見して、何かで使いたくてしようがなかったのだ。コピーライターとして勤めていた広告会社の仕事でも提案した覚えがある。

10年ほど前の出来事ですっかり忘れていたけれど、2才児のしょっぱい涙に思い出させてもらった。「世界でいちばん小さな海」というタイトルに惹かれているので、ドラマでも小説でも何か作品にしてみたい。まずは手っ取り早く、子守話で。一昨日の土曜日、子守のあてがなく、自宅でたまを見ながら原稿を書いていることになったのだが、たまは朝から「じんじゃ いく」と呪文のように唱え続け、「後でね」「これ終わったらね」と言っているうちに日が暮れ、それでも「じんじゃ」と食い下がっていた。罪滅しの気持ちを込めて。ママが約束を破ったお話。もうひとつは、遠い海へ去った友だちの話。

子守話84「せかいでいちばんちいさなうみ その1」 

こんどの にちようび うみに つれていってあげるねと
たまちゃんの ママは やくそくしていたのに
おしごとで うみに いけなくなって しまいました。
「ママの うそつき」
たまちゃんは かなしくて なみだが こぼれました。
なみだは しょっぱくて うみの あじが しました。

ひとつぶめの なみだで たまちゃんは 
きょねんの なつに いった うみを おもいだしました。
ふたつぶめの なみだで たまちゃんは 
さかなが あしの あいだを すりぬけた くすぐったさを おもいだしました。
さんつぶめの なみだで たまちゃんは 
うきわで なみに ゆられた きもちよさを おもいだしました。

「たまちゃん ごめんね」と ママが だきしめて
たまちゃんの なみだは かぞえきれなくなりました。
「いいの たまちゃんは いま うみに いるから。
 せかいで いちばん ちいさな うみで あそんでるの」と
たまちゃんは いいました。
すると ママの めからも なみだが ふってきて
たまちゃんの ほっぺたに ちいさな うみが できました。
ほんものの うみは つめたいけれど
おふろみたいに あったかい うみでした。

子守話85「せかいでいちばんちいさなうみ その2」

たまちゃんが かっていた かめの タートルが 
にげだして いなくなってしまいました。
「きっと タートルは ふるさとの うみに かえったのよ」と 
ママが いいました。
タートルのことを おもいだしていたら
たまちゃんは なみだが ぽろぽろ こぼれてきました。
「ママ なみだが しょっぱいよ」と
たまちゃんは なきながら いいました。
「なみだは せかいで いちばん ちいさな うみだから」と
と ママは いいました。
タートルの いる とおい とおい うみが
たまちゃんと つながった きが しました。
これから なみだが こぼれるたびに
たまちゃんは タートルのことを おもいだすでしょう。


ちなみにボツになった「世界でいちばん小さな海」のプロットを読み返すと、テーマは「誰の心にもある優しさ。悪人になりきれない人間」で、「タクシーに乗り合わせた妙な4人の交流」と一行コピーがある。老婆をひき逃げしたタクシー運転手が、老婆を後部座席に乗せて走っていると、逃走中の強盗と迷子の5歳児が乗り込んで来て……というドタバタ珍道中もの。死んだと思った老婆が息を吹き返し、大人二人を説教すると、おばあちゃんっ子の二人は号泣。それを見た5歳児が「なみだはせかいでいちばんちいさなうみなんだよ」と言い、タクシーが海へ向かう頃には家族のように打ち解けているという話。

2008年06月29日(日)  マタニティオレンジ304 「たらちねの母」と「たらちねの女」
2007年06月29日(金)  マタニティオレンジ137 おっぱいより朝ごはん
2002年06月29日(土)  パコダテ人大阪初日
2000年06月29日(木)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/28)


2009年06月28日(日)  朝ドラ「つばさ」第14週は「女三代娘の初恋」

全26週156話の「つばさ」は半分にあたる第13週第78話までが放送終了。ストーリー上は前半後半と分けているわけではないけれど、明日の第14週第79話から後半となる。

第14週のタイトルは「女三代娘の初恋」。妻になっても母になっても女であるように、母になっても祖母になっても娘なのだなあとタイトルを見て思う。子どもの頃、母の恋を聞き出すのが好きだった。見合い結婚だった父とのドタバタコメディのようなデートの話に何度も笑ったが、わたしが生まれる前に他界していた祖母の恋の話もよく聞かせてもらった。何をするにも熱く激しく、恋愛もそうだったらしく、会ったことのない「恋するおばあちゃん」にかっこいい人という印象を抱いている。そんなわけで、第14週で千代の恋が明らかになるのは、なんだかうれしい。女に年齢制限はないのに、日本のドラマや映画は、おばあちゃんの恋を封印してしまっている傾向がある。とくに朝ドラでおばあちゃんを恋する存在として描くのは、珍しい気がする。

キーアイテム(アイテムなのか?)は大衆演劇。鏡花原作の「婦系図(おんなけいず)」を翻案した大衆演劇をラジオぽてとのイベントで上演するのだが、それに乗せて玉木家の千代(吉行和子)、加乃子(高畑淳子)、つばさ(多部未華子)の女三代の初恋を描いてしまうという「つばさ」の中でもとくにアクロバティックな展開。舞台用の台本に本番の大胆なアドリブが加わり、それでいて筋の通った一本の芝居に見えて、それが劇中劇として機能する……という脚本が組み上がっていくのを、魔法を見るような思いで見ていた。これまた離れ業な演出は、1〜3、6、10週を担当したチーフディレクターの西谷真一さん。

人物相関図、練習風景など、お芝居がらみの小ネタも満載。どの登場人物が劇の中でどの人物を演じるか、キャスティングの過程やそれぞれのキャラクターの活かし方にニヤリとさせられる。演出を買って出るのは、なんとあの人。演出モードの彼女の新境地も楽しいし、つばさワールドの住人の新たな魅力をそこかしこに発見できる一週間。着物姿のみなさんも新鮮で、つばさも真瀬も麻子も和装がよく似合う。川越キネマのホールで演じられる大衆演劇の本番は、ナマで見たい!と思わせる気合の入った熱演。のど自慢のときからさらに進化したホールにも注目。

新しい登場人物は、品のある渋い存在感を放つ葛城清之助(山本學)。文化振興財団の理事長としてラジオぽてとに現れる彼には、別な顔が……。葛城さんに注目して観ると、よりハラハラ感が高まって楽しめるかも。

続く第15週「素直になれなくて」には、「ベッカム一郎の朝イチ! 豪快シュート」のベッカム一郎(麒麟の川島明)が、ついに登場。今井雅子のクレジットも毎日出るので、第14週から引き続きお楽しみください。

2008年06月28日(土)  読んで満腹『おとなの味』(平松洋子)
2006年06月28日(水)  ロナウジーニョとロナウドは別人?
2002年06月28日(金)  シンデレラが出会った魔女の靴


2009年06月26日(金)  江ノ島の大道芸人「のぢぞう」さん

遺伝というものがどの程度あてになるのかわからないけれど、娘のたまを見ていて「わたしの子だなあ」と感じるのは、「芸好き」なところ。マジックや大道芸を見るのがわたしはとにかく好きで、出先のデパートや路上で遭遇すると予定を大幅に変更して見入ってしまう。「愛・地球博」でもいちばん心惹かれたのはそこかしこで繰り広げられていた大道芸だった。その趣向を引き継いだのか、たまは素人手品に歓喜し、シルク・ドゥ・ソレイユに身を乗り出し、わたしはその場にいなかったけれど、猿回しを見たときには異様な興奮ぶりだったという。

先日江ノ島へ遊びに行ったとき、わたしが条件反射的に大道芸に足を止め、ダンナに肩車されたたまがまばたきを忘れたかのように釘づけになり、そのまま最後まで見ることになった。「のぢぞう(野地蔵)」さんという大道芸人で、最初はパントマイム風のパフォーマンスをされていたが、夕方で観客がまばらだったことから、例外的という口調で「しゃべります」と宣言し、トークを交え出した。最初は風船で動物等を作る芸で、見始めてすぐに、目が合って、かもめをいただいた。それから大きな糸巻きのようなコマを空中に上げる芸や、空中の定位置を動かないトランクを引っ張るパントマイム芸があり、観客のカップルをアシスタント役に巻き込んでのジャグリング芸。このカップルに贈った「ハートの止まり木に止まった二羽のキスバード」の風船がとてもかわいかった。

印象に残ったのは、最後の催眠術。観客から引っ張ってこられた若い男性4人が「催眠術」にかかって、「背もたれ90度倒し空気椅子」の状態で静止する。バランス力学的にこんなことが可能なのか、とこちらは瞠目した。間の取り方が絶妙で、何ともいえない味があるのぢぞうさん。気になって調べてみると、江ノ島の方で、横浜大道芸倶楽部というアマチュアサークルの事務局長さんとのこと。

大道芸といえば、20年ほど前に旅行先のニューオーリンズで見た光景が忘れられない。観客から募ったボランティア13人を地面に這いつくばるお祈りのポーズで並べ、何が始まるのかと思ったら、黒人の男の子が助走をつけて、その上を前方宙返りで飛び越えてしまった。走り幅跳びでも驚く距離を前宙で! あまりのことにしばし呆然、その後で拍手喝采。相撲でいえば座布団を投げたくなる気分でドル札を帽子に放り込んだ。

さて、のぢぞうさんにもらった風船のかもめをたまはすっかり気に入り、わらしべ長者の少年よろしくぶんぶん振り回して江ノ島を後にしたのだが、そのとき大声で歌っていたのが、「とんぼのめがね」。たまは、かもめではなくとんぼだと思った様子。というわけで、今夜の子守話は、「かもめかもね」のお話。風船は日に日に張りを失い、やがてすっかりしぼんで、かもめに見えなくなってしまった。風船がしぼむのは物悲しいけれど、生き物の形をしていると、なおさら哀愁を感じる。

子守話83「かもめかもね」

だいどうげいにんの おにいさんが たまちゃんに
みずいろの ふうせんで つくった とりを くれました。
「これは かもめよ」とママは いいましたが
たまちゃんは かもめを しりません。
「みずいろだから とんぼさんだ」
たまちゃんは そういって 
とんぼのめがねの うたを うたいだしました。
「とんぼの めがねは みずいろめがね
 あおい おそらを とんだから とんだから」
みずいろの ふうせんは
「とんぼかもね。でも、かもめかもね」と
こまった かおを しながら 
たまちゃんに ぶんぶん ふりまわされて
そらを とんでいました。

そのひから まいにち たまちゃんは
みずいろの ふうせんと あそびました。
おさんぽも おかいものも いっしょに でかけます。
「とんぼさん とんぼさん」と たまちゃんが よぶたびに
「かもめかもね」と みずいろの ふうせんは こたえました。

ふうせんの なかの くうきが すこしずつ ぬけて
みずいろの ふうせんは しょんぼりして いきました。
たまちゃんが ぶんぶん ふりまわしても
もう そらを とびまわる げんきは ありません。

あるひ ママが ずかんの ページを ひらいて いいました。
「たまちゃん これが かもめよ。
 ほら ふうせんの とりさんに よくにているでしょう」
たまちゃんは やっと みずいろの ふうせんが
とんぼじゃなくて かもめだと わかりました。
そして 「かもめさん かもめさん」と はじめて
ほんとうの なまえで よびかけました。
でも ふうせんは すっかり くうきが ぬけて
ぺしゃんこになって ゆかに ひっついていました。
「かもめかもね」とは いってくれませんでした。

2008年06月26日(木)  知らなかった、大坂夏の陣『戦国のゲルニカ』 
2007年06月26日(火)  マタニティオレンジ136 サロン井戸端
2004年06月26日(土)  映画『マチコのかたち』


2009年06月25日(木)  眞木準さんのコピーが大好きだった

朝刊でコピーライターの眞木準さんが亡くなったと知る。享年60才。まず名前の活字が目に飛び込んだが、まさか訃報記事だとは思わなかった。

コピーライターとして広告会社に入社したものの、コピーのことを何もわかっていなかった頃、TCC(東京コピーライターズクラブ)のコピー年鑑や月刊誌のコマーシャルフォトや宣伝会議に載っているコピーを片っ端から読んで、いいコピーとはどういうものかを研究した。「これ好き」と思ったコピーが、かなりの確率で眞木準さんの書いたものだった。「わたしは、この人のコピーが好きだ」と学習するまでに時間はかからなかった。その好みは、コピーライターの経験を積んでからも変わらなかった。

いちばん好きだったのは「恋が着せ、愛が脱がせる」という伊勢丹のコピー。恋愛とファッションの関係をこんなに的確に、そして美しく、品よく、さらには伊勢丹というブランドらしさも匂わせて、短く鋭いコピーに閉じ込めてしまった。この一行で、いろんな恋を思い出したり、思いめぐらせたりしてしまう。そんなチカラを秘めたすごいコピーだった。

TCCコピー年鑑の記念号で、会員が「自分の書いたいちばん好きなコピー」を挙げる特集があって、眞木さん本人は何を選んだかと注目したら、「夏野(娘の名前)」と書かれていたように記憶している。その年鑑が手元にないので確かめられないけれど、わたしの記憶が正しければ、出産どころか結婚もしていなかったその当時は、マイベストコピーに娘の名前を選ぶということが変化球のように感じられた。でも、今は、むしろ素直で素敵だと思える。お話しして、人柄に触れてみたかった。

「お話しして」と書いてみて思い出したのだけど、眞木さんとお話しする機会が一度あった。宣伝会議賞というコピーのコンテストで入賞したとき、その授賞パーティにいらしていて、名前を呼べば振り返るようなすぐ近くに憧れのその人がいた。審査員の一人だったのだろうか。会場で出会った他の受賞者に「眞木さんのファンなんだけど、声かけようかな、どうしよう」と相談し、「迷ってないで、声かければいいじゃない」と背中を押されたことは覚えているのに、声をかけたのか、かけなかったのか、結果が記憶から抜け落ちている。おじけづいて逃げたのかもしれないし、言葉を交わしたとしたら、舞い上がって、頭の中がマッシロになったのだろう。

コピーライターから脚本家という道に進んでしまったけれど、眞木準さんの書くコピーから受けた刺激は、今脚本を書く上でも活きていると思う。言葉を面白がる、それが、言葉を面白くする。そんなことを片想いの師匠に教わった。感謝を込めて、合掌。

2008年06月25日(水)  整骨院のウキちゃん7 赤道ぐらい知ってますよ編
2007年06月25日(月)  割に合わない仕事
2005年06月25日(土)  『子ぎつねヘレン』ロケ見学最終日
2002年06月25日(火)  ギュッ(hug)ギュッ(Snuggle)
2000年06月25日(日)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/28)

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