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☆希望の地をめざす、旅の仲間たちの絵本。
と書くと、指輪物語のようだけれど、この絵本には、
これといった敵はいない。
ただ、捨てられたりこわれたりしたおもちゃたちが、
仲間をふやしながら、そのひとりが夢に見た南の村へ、
長い旅をするお話。
旅の途中、人間との関わりは最小限で、
横長の大ぶりのページを次々と開いては、新しく加わった
おもちゃたちの姿や、もとからいるおもちゃたちの様子を
見守る楽しさ。
どこか、安野光雅さんのヨーロッパ紀行を眺めるのに似た、
人間の感性と指先から生まれた世界へのいとおしさ。
主人公のおもちゃは、クマのぬいぐるみ。
最初のページで、ゴミ捨て場へまっさかさまに投げ捨てられる
テオドールの姿を見たときは、どうなってしまうのかと
思ってしまったが、おもちゃという存在は、ほんとうに、
これでもかという場合でも、へこたれない。
楽な旅ではないのだけど、おもちゃの一行は、
これでもかこれでもかと、先へ進み続ける。
夢に見た村なんか、本当にあるんだろうか?
私達は、そんなことを心配するのだが、おもちゃは
こうと思ったら前進あるのみ。
40年も前に書かれた外国の話なので、次々に登場する
おもちゃたちのなかには、日本の子どもたちにはピンとこない
おもちゃもいるかもしれない。
でも、こんなおもちゃもあるんだね、と
親子で楽しませてもらえるおどろきと、地に足のついた豊かさが
この絵本には流れていて、おもちゃのデザインも手がけて
いたという著者の、ふところの広さを思わされる。
子どもたちがよく言う、
「仲間に入れてよ!」
という言葉の大切さとともに。
(マーズ)
「詩人が贈る絵本」シリーズに、「ゲド戦記」の大家、
グウィンの絵本がある。
リーゼ・ウェブスター、それが主人公のクモの名前で、
そのまま英語の題名にもなっている。
だれもいなくなった王様の宮殿で生まれたリーゼがつくる巣は、
だれもまねのできない巣。
いつも巣をかける場所をさがしていて、巣ができあがったら、
さっそく獲物をつかまえるクモ。
おたがいに干渉もしなければ、仲良くもしない。
そういう種族に生まれたリーゼの、普通のクモらしくないけれど、
でも、きらきらとしている生き方。
アメリカの作家で、クモの巣というと、E・B・ホワイトの
「シャーロットのおくりもの」を思い浮べるが、本書のリーゼもまた、
忘れがたい巣をかけてくれる。
私たちの想像する力に、もの思う力に。
どんな生き方をしても、自分らしくあれば、いつか私たちは出会える。
そのままの自分への、愛おしさに。
翻訳は、詩人の長田弘。
(マーズ)
2002年03月29日(金) 『グリーン・ノウのお客さま』
2001年03月29日(木) 『妖都』
■その後の「時の旅人クレア」
「Dragonfly in Amber」以降の流れを大胆に要約すると、
ジャコバイトの乱でジェイミーを失ったと思ったクレアは、
元の世界に戻り、娘・Briannnaを生み、20年の時が流れました。
しかし、カロデンの戦いでジェイミーが死んでいなかったことを知った
クレアは、再び、時を遡り、スコットランドに戻ります。
物語は、さらに、独立戦争前のアメリカに移っていきます。
やがて、Briannnaも時を越え、初めて父親に会うことになるのですが…
カロデンの戦いや独立戦争などの戦争、母娘の別れ、
夫や父を捜すための冒険、瞼の父との出会いなど、クレアとジェイミーの
愛と家族の物語だけでなく、ストーリーは娘BriannnaとRogerへと、
広がっていくようです。
「時の旅人クレア(3)」のあとがきによると、続編の翻訳も進んでいる
ようなので、刊行が楽しみです。
それまで、カタツムリのようにゆっくりと、
「Dragonfly in Amber」と格闘を続けます。
※ダイアナ・ガバルドンとアウトランダーについて
Bookworm's Lair(英語サイト)
http://www.bookwormslair.de/gabald_e.htm
Bibliographyや、上記の本のあらすじ、書評が紹介されています。
■おまけ:ジュード・デヴローの「Legend」について
この「タイムスリップ・ロマンス」にはまるきっかけになるのが、
デヴローの「時のかなたの恋人」、という人は多いようです。
私も、最初の一冊は、「時のかなたの恋人」でした。
リンダ・ハワードの「夢のなかの騎士」で、このジャンルを強烈に意識し、
多少、毛色は違うけれど、アン・ライスの「ザ・マミー」以降、
熱心に、「タイムスリップ・ロマンス」を探すようになりました。
そのきっかけのジュード・デヴロー。
「Legend」も「タイムスリップ・ロマンス」です。
Elizabeth Kady Long は、30歳。レストランのシェフ。
オーナーの息子Gregory Normanとの結婚間近。
骨董品店で見つけたアンティークのウェディングドレスを身につけると、
彼女は、1873年のコロラドのレジェンドにタイムスリップしてしまいます。
そこでは、今まさに、Cole Jordan が絞首刑にされるところでした。
という、物語。
「Dragonfly in Amber」と比べれば、半分の416Pですから、
頑張れば読み終われそうな気もしますが。
「炎のゴブレット」の原書を7章で頓挫した私としては、
やはり気のせいだと思うので、是非、翻訳本で読みたいものです。
(シィアル)
■「時の旅人クレア / アウトランダー (1)-(3)」の背景
第二次世界大戦後の1945年、夫と共にスコットランドを訪れたクレア。
しかし、ストーンサークルの不思議な力で、
1743年のスコットランドに運ばれてしまう。
何とか、元の世界へ戻ろうとするクレアだが、
若き戦士ジェイミー出会い、お互いの身を守るために、
二人は結婚することになります。
当時のスコットランドは、1707年にイングランド(アン女王の治世下)と
合体し、連合王国の一部となったばかりで、複雑で不穏な時代。
スコットランドのクラン(氏族)の一部はスチュワート家を支持して
ジャコバイトと呼ばれ、イングランドに敵対していました。
物語の随所に、ボニー・プリンス・チャーリー(チャールズ・エドワード・
スチュワート;名誉革命で追放されたジェームズ2世/スコットランドでは
7世の孫)の名や、ジャコバイトだの、フォート・ウィリアムだのと、
ロマンスそっちのけで出てくる、スコットランドの歴史に、
興味をそそられたり、時に閉口したり。
この小説には、ヒストリカル・ロマンス、あるいは、
重厚な歴史小説の側面もありました。
イングランド軍と敵対し、執拗に追われるジェイミーと
行動を共にするクレアも数々の危険に見舞われます。
逃避行の中で、結婚し、二人の愛が深まっていくロマンスと、
残忍無比なイングランド軍大尉ランダルとジェイミーの対決がこの
「アウトランダー」編の山場。
(特に、ジェイミーが拷問を受けるシーンの残虐非道さは、
克明に描かれ、読んでいて気分が悪くなるほどでした。)
何はともあれ、スコットランド戦士ジェイミーのように、
ワイルドで骨太で、魅力的なロマンス小説であることには間違いありません。
■壮大な大河ドラマ、“Outlander”シリーズ
時は18世紀のスコットランド。
ストーンサークルの不思議な力で、
200年の時を遡ってしまったヒロイン・クレア。
クレアはそこで、若き戦士ジェイミーと運命の出会いをする。
壮大な物語はここから始まります。
クレアとジェイミーの物語は、ただ、ロマンティックなだけではありません。
原書で850P、翻訳版で3冊(387P+469P+434P)と、ぎっしりと中身が
詰まっているのです。
「時の旅人クレア」3冊を読み終わったといっても、まだ、
この壮大な物語の序章にすぎないのです。
この「Outlander」シリーズは、
Outlander (850P ※本書「時の旅人クレア」)
Dragonfly in Amber(947P)
Voyager(1059P)
Drums of Autumn(1070P)
The Fiery Cross (992P ※最新作)
以上の5冊が刊行され、現在、完結巻の刊行が待たれています。
しかし。
どれも、半端ではない大長編。待ちきれない私は、「時の旅人クレア」と
一緒に、続編の「Dragonfly in Amber」を買ったのですが、たぶん、
読み終えることはできないでしょう。。。
(シィアル)
☆“大河”な、Time-travel Romance!
■タイムスリップ・ロマンスのいろいろ
ロマンス小説にもいろいろあって、サスペンス系から歴史物まで、
多岐にわたって、艶然と花開いているようです。
「タイムスリップ・ロマンス」、あるいは「タイムトラベル・ロマンス」
というのも、今や一ジャンルをなしています。
ヒロインがタイムスリップするもの、ヒーローが時を越えてやってくるもの、
いろいろありますが、時空を越える愛は、
究極のロマンティックなシチュエーションでしょう。
・時を越えるヒロイン
「夢のなかの騎士」 著者:リンダ・ハワード / 出版社:二見文庫
「時の旅人クレア」著者:ダイアナ・ガバルドン / 出版社:ヴィレッジブックス
「Legend」著者:ジュード・デヴロー(Jude Deveraux)/ 出版社:Pocket Books(未読)
・時を越えるヒーロー
「ライトニング」 著者:ディーン・クーンツ / 出版社:文春文庫
「二千年めのプロポーズ」 著者:ダーリーン・スカレーラ / 出版社:ハーレクイン
「ザ・マミー」 著者:アン・ライス / 出版社:徳間文庫
「ニューヨークの恋人」脚本:ジェームズ・マンゴールド、スティーブン・ロジャース / 編訳:池谷律代 / 出版社:竹書房文庫(※)
「時のかなたの恋人」 著者:ジュード・デヴロー / 出版社:新潮文庫(※)
(※ヒロインも、タイムスリップしています。)
これらの本の中でも、この「時の旅人クレア」は、
ロマンティックな「タイムスリップ・ロマンス」であるだけでなく、
そのボリューム、内容からも、ロマンス小説と簡単に括りきれない、
スケールの大きな小説です。
(シィアル)
☆小さな木馬の大きな冒険。
ピノキオがゼペットじいさんに再会するまで、
冒険をしながら大人に(人間に)なるように、
この木馬は、純粋な熱意で、生みの親、ピーダーじいさんのもとへ
帰ろうと一生けんめい。
それなのに、どんどん、おじいさんのいる村から
意に反して遠ざかってしまう。
しかも、放浪と冒険の間に、ピーダーじいさんを
楽にするためのお金を稼いでは失い、稼いではまた失い、
身体をいため、悪いやつらにもだまされ、さんざんな目にあう。
人間だったら生きていないような目(首が取れたり)にあっても、
そこは木馬だから、なんとか回復できるのだが、
そこがおもちゃ文学ならではの醍醐味でもある。
もちろんその反面、成長するにつれ、
良い人や良いめぐり合わせにも木馬は出会う。
まさに人生そのものを、小さな木馬は凝縮して味わうのだ。
タイトルどおり、木馬の冒険ははてしない。
自分はおとなしい、ただの小さな木馬で、ご主人のところに
帰って、しずかに暮らしたいだけなのです、と
いくら木馬が願っても、試練はさいごまでくぐらねばならない。
そして、いざとなると、自分は強い木馬です、がんばれます、と
生身の馬たちより勇気をもって状況に立ち向かう。
そういうことをくりかえしながら、
泣き虫だった木馬は、誇りのある木馬になる。
名前をほしがりもしない。
決して、木馬以上のもの、馬や人間といった生命あるものに
なりたいとは望まずに。
この古典作品は、2003年1月に、文庫で復刊された。
古書をさがそうかと思っていたところだったので、
うれしい出会いとなった。
ところで、私流の『おもちゃ文学』というジャンルは、
一般的に『トイ・ファンタジー』と呼ばれているらしい。
が、おもちゃ文学のほうがしっくり来るので、
当分この呼び方をしようと思う。
(マーズ)
☆シンデレラの、生きるちから。
「ハウルの動く城」シリーズ第一作。
スタジオジブリによって、現在映画化が進んでいる。
ファンタジーであると同時に、ロマンスであり、
ミステリであり、シンデレラ物語であり、オズの魔法使いでもある。
主人公は18歳のソフィー。
長女は成功できない、というジンクスを信じ込んで
妹たちに道をゆずりながら生きていたのに、
魔女の怒りにふれ、おそろしい魔法にかかってしまう。
そして老婆となったソフィーがたどりついたのは、
プレイボーイ魔法使いハウルの住む、神出鬼没なお城。
このお城の感覚、昔夢で観たことがなかったか?と
思ってしまうようなリアルさがある。
ゆっくり動いていく感じとか、浮遊感とか。
ちょうど夢のなかの、いごこちのよい穴ぐらにも似て。
アニメもきっと観るだろうから、そのあたりが
どんな風にビジュアル化されるのか、楽しみだ。
さて、魔法で姿を変えられるソフィーの物語は、
シンデレラをベースに進んでゆく。
オズのかかしや、アラビアンナイトを思わせる火の悪魔、
魔法使いの弟子、王族や街のひとびと、荒地の魔女。
ジョーンズらしく、異次元の世界として、私たちの世界も
登場させている。
ハウルがくりひろげる魔法の決闘シーンは、目のさめるような
魔法的迫力で、大魔法使いクレストマンシーのシリーズとは
またちがった冒険を味わうことができる。
アニメになるとわかっているせいか、ついつい、
動く絵を想像しながら読んだ。
最後にきっと待っているはずの、甘いときめきをも
期待しながら。
シンデレラとは、生き抜いて幸せを手にする女性の
代名詞なのだから。
(マーズ)
☆なつかしい、やさしいきりん。
誰しも、子ども時代でなくては味わえない本との
しあわせな出会いをもっているとすれば、「ももいろのきりん」は、
私にとって、あのころ、小学校の図書館で出会い、よく遊んだ
幼なじみのような本である。
同じ著者の「いやいやえん」もまたそうなのだが、
「ぐりとぐら」は、私にとってそういう本ではない。
出版時期のずれもあるのだろうけど、今でもどっちがぐりで、
どっちがぐらだか、わからないくらいだから。
ピンクではなくて、ももいろ。
ももいろのきりんは、大きなももいろの紙でできている。
つくったのは、るるこちゃん。
きりんは、キリカという名前。
ふたりの名前も、忘れていたなぁ。
くたっとしたキリカを洗濯ばさみで乾かすところは、おぼえてる。
数十年ぶりに『自分の本』として手に入れ、読み返してみて
おどろいたのは、るるこちゃんの泣き声。
うおーっ、うおーっ、と大泣きするので、
どうしようかと思ってしまう。
キリカとるるこちゃんが行った、クレヨン山のこと、
クレヨンの木のこと、動物たちのこと。
忘れていたことは、たくさんある。
きっと記憶のどこかの部屋にしまいこまれているのだろう。
るるこちゃんと私の共通点も、今になってわかった。
画用紙を与えておくと、手のかからない子だったのだ。
私はどちらかというと、昔から『きりん』という動物には
思い入れがなくて、動物園に行っても、あぁきりんがいる、
足が細いなぁというぐらいだった。
でも、ももいろのきりんには、弱いのだ。
ももいろの紙だけでできている、やさしくておっとりした、
遅れてきた恐竜みたいな『ももいろのきりん』には。
(マーズ)
☆夢図書ほのぼのミステリ短編集3
現代日本の本格中の本格ミステリ作家、と言えば有栖川有栖。
毎回毎回、おお、と読者を関心させるトリックを考えるのって
どんなにか大変でしょう。
と、いう訳でこちらは「うひゃあ、作家さんって大変(笑)」
という作家のこぼれ話的悪夢の短編小説集。
遅筆、駄作、締切、鬼編集者、サイン会などなど、どんな作家さんも
恐れる恐怖の数々。
本文中で引用されている星新一さんのネタを生む苦しみ、私も読んだ覚えが
ありますが、SFやミステリのようなアイデア勝負の非日常的
エンターテイメント作品はネタを考えるのが本当に大変でしょう。
しかし有栖川さんはネタを無駄にしませんねえ。
日頃の作家生活での出来事ならば誰でもネタにするでしょうが、
没ネタや仲間うちでの思いつきのような「どうすんじゃこんなネタ」
みたいな小ネタまで、まとめて作品にしてしまうんですから。
貧乏性の私は「その馬鹿ネタ、もしかしたら本編に使えるかも?」
とか思ったりして──有栖川さんも「もしや」と思ったかも。
しかし、火村が真顔でこんな謎解きをしたらアリスにハリセンで
殴られるでしょうから、そっちでは使わない方がいい。やっぱり。
それにしても、本編の上品で穏やかな文体では忘れてしまいそうですが、
有栖川有栖にはさすがに大阪人の血が脈々と流れておりますな。
「作家漫才」の「名作文学イントロあて」、以前読んだとき
あんまり感動(笑)したので一時BBSの話題にしたところ、
物凄いメイ作を頂きました。
「作家漫才」(コンビ名)の芥川君と直木君に教えてあげたいわ。
「悪夢」ばっかりじゃないですよ、小説家ならではの見果てぬ「夢」の
作品もあります。
それからサイン会もこんな怖いものではないようです。
有栖川さんの手のひらはとっても柔らかい、とネット仲間の間では
握手好感度ナンバー1です。
(ナルシア)
☆夢図書ほのぼのミステリ短編集2
ミステリを書いても遠い異世界を感じる恩田さんと正反対に、
ファンタジックな異世界を書いてもどこかが必ず「本格ミステリ」に
なっているのは加納朋子さんでしょうか。
「日常の謎」ミステリの代表選手、加納さんの短編集
「沙羅は和子の名を呼ぶ」はなんと「幽霊作品集」です。
本物の幽霊が出るのに、幽霊自体は超常的存在なのに、
それでもそれぞれに「ある意味で」ミステリ。
いよいよ加納さんも「非日常の謎」をレパートリーに入れられましたか。
それにしても、この短編集の凄いところは、それぞれの短編は全くバラバラに
書かれ、単独で読めば普通に単なるファンタジーだったり、いつものように
トリックのあるミステリだったり、ジャンルが全く異なっているように
見えるのに、この「一冊」にまとまると、単独では見えないテーマが
浮かびあがってくるところなのです。
集英社版なのに、まるで加納さんのデビュー出版社のよう(笑)。
いや、出版社は意図していないのでしょうが、構造的にトリッキー。
これはもう、性分なのですね。
作品一つ一つは文芸好きな女子校生が書いてみたいと憧れるような、
可憐で透き通った少し哀しげなお話です。
加納さんの短編集の習いで、最初から順番に数本読み、なるほど、
この本は「幽霊」テーマなのだな、と自分で勝手に決め込んだころ、
とある一作で「あれ?これは普通のファンタジーだな?
『幽霊』は出なかったな?」。
しかし。読み終わった直後、愕然としてしまいました。
ああっ!違う、『幽霊』は出ていたっ!
とんでもないものが幽霊だったっ!
恐るべし、加納トリック!
(ナルシア)
☆夢図書ほのぼのミステリ短編集1
恩田陸さんって人気ミステリ作家でもあるけれど、
いわゆる「本格ミステリ」の書き手とは雰囲気が違いますよね。
不可思議としか思えなかった謎が、謎解きによってすとんと日常に着地して、
「おお、そういう事だったのか!」と読者に膝を打たせるのが
「本格ミステリ」なら、描かれる世界が常に何かしら「大きな物語」に
つながっている感覚のある恩田作品は、謎が解かれて着地すべき堅い地面に
着いても、終点らしく感じないのです。
ですから、恩田作品の中で推理好きの血が騒ぐのは本筋よりも、
登場人物達が「日常」の中にいて、「これは何?」とちょっとした
「謎」を感じたとき。
例えば「木曜組曲」や「黒と茶の幻想」等の長篇で、気のおけない仲間達が
提出するような小さな謎の数々。
もしかしたらこうかも、いやいやこういう事なんじゃ、と意外で鋭い意見が
飛び交い、あれよあれよという間にほんの小さな不思議が、思いがけない
「物語」になってしまうあの高揚感。
それが本当に正解かどうかは読者には分かりませんが、そこに紡ぎ出された
「仮説」の美しさ、驚き。
恩田作品のミステリとしての輝きは、こういう小さな場面にこそ本領が
発揮されていると言っても過言ではありません。
だとすれば、こういった「小ネタ」ばかりで編まれた短編集「象と耳鳴り」
のような形こそが恩田ミステリの究極の形なのでは。
宇宙を思わせる曜変天目茶碗、住宅地の中に残された給水塔、
中原中也の詩の一節、アンセル・アダムスの写真、薔薇の廃園、
雨の待ち合い室。
心の琴線に触れる、数々のノスタルジックなモチーフに触発された謎が、
思いもかけない形で解かれる──というよりはやはり、隠された物語が
生み出される過程はなんとも言えぬ心地よさです。
全編通しての案内役は大柄で飄々としたオシャレな老紳士。
あれ?以前お会いしましたよね?末の息子さんはお元気ですか?
お話とっても楽しかったですよ、またお会いしましょうね。
(ナルシア)
みなさま、いつもご訪問ありがとうございます。
ただいま、夢の図書館は、恒例の「春休み」となっております。
また3月17日(月)から、再開いたします。
どうぞよろしくお願いします。
お天気猫や 拝
今や、中国茶は定番のお茶で、紅茶や日本茶よりも、
頻繁に飲むようになりました。
そうなると、それなりに、味や値段、品種、お店にも
小うるさくなってきます。
一番のお気に入りは、台湾系の烏龍茶。
かつて、ウーロン茶というと、缶入りのお茶の、
濃い茶色で味もちょっと苦め、という印象がとても強く、
初めて中国茶を買ったときも、烏龍茶は避けて、
ジャスミン茶や桂花茶など、香りのあるお茶を選んでいました。
ある時、紅茶屋さんで、「金萱(きんせん)」の烏龍茶を
大量に買っている人を見ました。
そんなにおいしいのだろうかと、試しに買ってみたのが、
烏龍茶の魅力に気づいたきっかけ。
緑茶のように薄い水色で、香りもさわやか。
苦みもこれっぽちもなく、すがすがしいお茶でした。
そんなに高いお茶ではなかったのですが、今でも、あれ以上に、
おいしい!と、感激するお茶には、まだ出会っていません。
缶のウーロン茶の味しか知らなかったので、思いもよらない、
驚きのおいしさだったのです。
以後、いろいろ中国茶を飲むようになったのですが、
一番好きなのは、やはり、烏龍茶です。
さて。中国茶といっても、ピンからキリまで、多種多様。
たかだかお茶に、何千円とか、何万円とか。
ものによっては、十万円単位。
「大紅袍(だいこうほう)」というお茶は、百万円単位
(オークションでは、20グラムで250万円!)だとか。
「大紅袍」は、武夷岩茶の最高峰で、歴代皇帝に献上されたという
伝説的な銘柄。
「大紅袍」にまつわるエピソードはたくさんあるようです。
現在も樹齢400年の茶樹から、お茶が作られているのですが、
オリジナルの母樹は4本と、本物の「大紅袍」は稀少で
(わずか1キログラムほどの茶葉しかとれない)、
一般人の手にはいるようなものではありません。
それなのに、中華街のお土産物やさんで、500円くらいで
小さなパッケージ入りの「大紅袍」を売っているのが、
ずっと不思議だったのですが、本書を読んで、しみじみ納得しました。
(『第2章 大紅袍と商標権』)
今まで、中国茶のカタログ(「中国茶図鑑」/ 工藤佳治著 / 文春新書)を
眺めながら、「これ、飲んだ」、「あれ、飲んでない」と、
のんきなものでしたが、さわやかな味わいの背後にある、
生臭いビジネスのからくりを知り、ちょっとスリリングな感じです。
値段が高ければ高いほど、いいお茶だと思ったり、かびくさければ
かびくさいほど、古くて上等なお茶だと思ったり(プーアール茶)、
人工の香料にだまされて、お茶の質に気づかなかったり。
高すぎるお茶も、プーアール茶も買わないけれど、それでも、
単純な私なんかが、一番だまされやすいようです。
もっとよく考えて、お茶を買おうと、
気持ちをひきしめたりしています(笑)
でも、この本を読んで初めて、「中国茶」というものが
わかってきました。
もちろん、そんなことを知らなくてもおいしいものはおいしいけれど、
「中国茶」とか、「烏龍茶」とか、今までおおざっぱにひとくくりに
していたお茶の個性、「顔」が少し見えてきた感じです。
たとえば、最近よく、「金萱」・「四季春」・「翠玉」などの
烏龍茶を見かけると思っていたら、
台湾が力を入れている「御三家」であったとか。
お茶(プーアール茶)の衛生問題など、初めて知ったこととか。
その他、缶・ペットボトル入りのお茶の略史など、
身近な話も、面白かったです。
また、この本は、中国茶ビジネスにとどまらず、「茶」から見た、
中国社会のルポともいえます。
「茶」という切り口で見た、中国は、やはり、したたかだった。
(シィアル)
2002年03月07日(木) 『オーディンとのろわれた語り部』
2001年03月07日(水) 『一瞬の光のなかで』
100円ショップの本に「ミニミニ辞典シリーズ」
というのがあるが、ついつい2冊買ってきた。
現在、20冊は出ているようである。
買わないけど、全部買っても2000円(税別)。
私にとって辞書は、どれだけ持っていても多すぎない
アイテムのはずが、実はあんまり持ってないし、
このごろではたいていPCのなかに入れた広辞苑とか英語の辞典で
用を足してしまっている。
それでまにあわなければネットで検索してしまうから、
ゆったり物思いにふけりつつ辞書の薄いページを
繰る、という仕事からの逃避行動はあまり起こらない。
他に逃げる道はいくらでも転がっているから、
仕事自体は進まないのだが、そこはそれ。
で、買ったのは、「四字熟語辞典」と
「世界の名言名句」の2冊。
世界の名言というと、数年前に3800円を投じて買った本を
持っている。ぶあつい。一度だけ仕事で使った。
それはそれでもちろんありがたい内容なのだが、
100円の本には、原典(英語と、一部漢文)が並べて
紹介されている名言があるのは、小回りが効いていて、
今回はそこに惹かれて買ってしまった。
「四字熟語」に関して面白いのは、
一部の言葉に英訳がついていること。
たとえば、『以心伝心』は『テレパシー』でもある、
という不思議。
「何を笑うかによって、その人の人柄がわかる。」(パニョル)
(/引用)
ちなみに、どちらも数の弱点には触れていない。
だから、掲載されている言葉の総数は不明。
100円辞書に求められるものを考えても、紙の厚さからも、
一般の辞書には遠く及ばないが、それでも200ページ近くある。
文字が大きいのは、規制を逆手に取った、
読者への配慮でもあるのだろうか。
用途によっては、多ければいいというものでもない。
100円で、ねぇ。
という驚き。
誰にでも手に入る100円辞書のページを
次々とめくっては、これも知らない、あれも知らないと、
己れの無知への驚きもまた、前者を凌いでいる。
(マーズ)
2002年03月06日(水) 『指輪物語』(その3)
2001年03月06日(火) 『クリスマスに少女は還る』 その(2)
もうすぐ、2002年のアカデミー賞の発表である。
映画は大好きだけれど、最近、アカデミー賞には、
あまり、興味が無くなっている。
B級映画や、ミニシアター系の映画の方が最近の
好みだからかもしれない。
それでも、作品賞受賞作を調べてみると、
意外と結構、受賞作を映画館で見ているので、
自分ながら、驚いてしまった。
もう、10年以上前の本だけれど、
思い出したように時々開いているのが、
この本「アカデミー賞−オスカーをめぐる26のエピソード」。
もともと映画は好きだったけれど、
映画の本当の面白さを知ったきっかけ、
真に映画への目を開かせてくれたのが、
大学生の頃にあった、「シネマクラシック」という、
ハリウッドの古い白黒映画時代の名作を特集した企画だった。
フレッド・アステア、マルクス兄弟、オーソン・ウェルズ、
マリリン・モンローやヒッチコックの映画を映画館で見ることができた。
今でこそ、手軽にビデオやDVDになって、自宅で見ることができるけれど、
それでも、スクリーンで見られたのは幸運だったと思う。
私の贔屓する今は亡きスターたちは、どうやら、
オスカーにあまり縁はなかったようだ。
この本の、『オスカーをとれなかった人々』の章によると、
ヒッチコックは監督賞に5回ノミネートされたが、
監督賞は取れずに、功労賞(1967年)をもらっているだけだし、
オーソン・ウェルズは1970年の、グルーチョ・マルクスは1973年の
名誉賞を、それぞれ“お詫び”の意味でもらっているに過ぎないのだそうだ。
また、モンローの場合は、さらに悲惨で、ノミネートすらされず、
臨んだもの(オスカーと赤ん坊)が手に入らない苦しみの中、破滅していく。
もちろん、オスカーを手にした名優たちのエピソードは、
どれも興味深い。
26のエピソードは、かつての名優たちの受賞の軌跡を記している。
また、最近、あまりアカデミー賞への興味の薄い私でも、
映画雑誌のみならず、ファッション雑誌でも特集の組まれる、
授賞式での「セレブのファッション」は、楽しみだ。
さすがと感心させられるセンスから、
それはそれで楽しませてくれる悪趣味なドレスまで、
見所に事欠かない。
こんな風に、ハリウッド・スターたちのドレスが華美になり、
熾烈なファッションの闘いが始まったのは、
1952年に授賞式がテレビ中継されるようになってからだという。
(/『授賞式はファッション・ショー』)
『アカデミー賞の誕生』
『オスカー像』
『赤狩り時代のオスカー』
など、久々に、アカデミー賞の歴史を読み返しながら、
3月24日の授賞式を今年は見てみようかなあと、
思ったりしている。ファッションも気になるし、
もちろん、受賞のスピーチも、聞きたいし。
過去、数々の感動を伝える名スピーチも、紹介されている。
(/『名スピーチ』)
しかし。
最近、興味が薄かっただけあって、(「千と千尋の神隠し」が長編アニメ
映画賞部門でノミネートされていること以外)ノミネート作を知らない
ところが、ちょっと困りものである。
(シィアル)
※参考
第75回アカデミー賞 ノミネーション
アカデミー賞[作品賞]受賞リスト
☆新味のリンダ。
今までに読んだリンダとは、ちょっと毛色のちがう作品。
主人公のジェインを含むOL仲間の4人は、
ある日、理想の男性・Mr.パーフェクトについての
リストを作成する。
(リンダだから、もちろん、微に入り細に入り徹底している)
しかし、あろうことか、冗談と本音をないまぜにした
そのリストの存在が外部にもれ、マスコミに取り上げられた後、
執拗な犯罪の手が彼女達に狙いを定める。
ジェイン・ブライトは三回の婚約破棄を経験していて、
今回のお相手となる警官のサム・ドノヴァンも
びっくりの強気な人生を歩んでいるが、
結婚できるかどうか自信をなくしている。
ジェインの口の悪さ(いわゆる悪口雑言)は格別で、
口にするたび仲間に罰金を払っているほど。
毛色がちがうと感じたのは、前半、
4人の仲間たちが次々と登場し、
リストに振り回され生活が破綻しかける状況を追うため、
「ヒロイン対ナイト」の関係がすぐには見えてこないから。
後半は、リンダ復活!ともいいたい猛ダッシュを見せるが、
事件の展開も、背筋の凍るサイコスリラー系で
後味は重い。
読み終わった後、
イントロダクションで描かれる、歪んだ母と子の
エピソードを、まさに「手遅れ」だったことを思いながら、
もう一度読み返す。
(マーズ)
作品賞
「シカゴ」
「ギャング・オブ・ニューヨーク」
「めぐりあう時間たち」
「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」
「戦場のピアニスト」
監督賞
ロブ・マーシャル 「シカゴ」
マーティン・スコセッシ 「ギャング・オブ・ニューヨーク」
スティーヴン・ダルドリー 「めぐりあう時間たち」
ロマン・ポランスキー 「戦場のピアニスト」
ペドロ・アルモドヴァル 「トーク・トゥー・ハー」
主演男優賞
エイドリアン・ブロディ 「戦場のピアニスト」
ニコラス・ケイジ 「アダプテーション(原題)」
マイケル・ケイン 「ザ・クワイエット・アメリカン(原題)」
ダニエル・デイ=ルイス 「ギャング・オブ・ニューヨーク」
ジャック・ニコルソン 「アバウト・シュミット」
主演女優賞
サルマ・ハエック 「フリーダ(原題)」
ニコール・キッドマン 「めぐりあう時間たち」
ダイアン・レイン 「運命の女」
ジュリアン・ムーア 「エデンの彼方に」
レニー・ゼルウィガー 「シカゴ」
助演男優賞
クリス・クーパー 「アダプテーション(原題)」
エド・ハリス 「めぐりあう時間たち」
ポール・ニューマン 「ロード・トゥ・パーディション」
ジョン・C・ライリー 「シカゴ」
クリストファー・ウォーケン 「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」
助演女優賞
キャシー・ベイツ 「アバウト・シュミット」
ジュリアン・ムーア 「めぐりあう時間たち」
クィーン・ラティファ 「シカゴ」
メリル・ストリープ 「アダプテーション(原題)」
キャサリン・ゼタ=ジョーンズ 「シカゴ」
長編アニメ映画賞
「アイス・エイジ」
「リロ&スティッチ」
「スピリット」
「千と千尋の神隠し」(英語題“Spirited Away”)
「トレジャー・プラネット」
※短編アニメ映画賞には、山村監督「頭山」も。
2001年 第74回 ビューティフル・マインド
2000年 第73回 グラディエーター
1999年 第72回 アメリカン・ビューティー
1998年 第71回 恋におちたシェイクスピア
1997年 第70回 タイタニック
1996年 第69回 イングリッシュ・ペイシェント
1995年 第68回 ブレイブハート
1994年 第67回 フォレスト・ガンプ/一期一会
1993年 第66回 シンドラーのリスト
1992年 第65回 許されざる者
1991年 第64回 羊たちの沈黙
1990年 第63回 ダンス・ウィズ・ウルブズ
1989年 第62回 ドライビング Miss デイジー
1988年 第61回 レインマン
1987年 第60回 ラストエンペラー
1986年 第59回 プラトーン
1985年 第58回 愛と哀しみの果て
1984年 第57回 アマデウス
1983年 第56回 愛と追憶の日々
1982年 第55回 ガンジー
1981年 第54回 炎のランナー
1980年 第53回 普通の人々
1979年 第52回 クレイマー、クレイマー
1978年 第51回 ディア・ハンター
1977年 第50回 アニー・ホール
1976年 第49回 ロッキー
1975年 第48回 カッコーの巣の上で
1974年 第47回 ゴッドファーザーPART II
1973年 第46回 スティング
1972年 第45回 ゴッドファーザー
1971年 第44回 フレンチ・コネクション
1970年 第43回 パットン大戦車軍団
1969年 第42回 真夜中のカーボーイ
1968年 第41回 オリバー!
1967年 第40回 夜の大捜査線
1966年 第39回 わが命つきるとも
1965年 第38回 サウンド・オブ・ミュージック
1964年 第37回 マイ・フェア・レディ
1963年 第36回 トム・ジョーンズの華麗な冒険
1962年 第35回 アラビアのロレンス
1961年 第34回 ウエスト・サイド物語
1960年 第33回 アパートの鍵貸します
1959年 第32回 ベン・ハー
1958年 第31回 恋の手ほどき
1957年 第30回 戦場にかける橋
1956年 第29回 80日間世界一周
1955年 第28回 マーティ
1954年 第27回 波止場
1953年 第26回 地上(ここ)より永遠に
1952年 第25回 地上最大のショウ
1951年 第24回 巴里のアメリカ人
1950年 第23回 イヴの総て
1949年 第22回 オール・ザ・キングスメン
1948年 第21回 ハムレット
1947年 第20回 紳士協定
1946年 第19回 我等の生涯の最良の年
1945年 第18回 失われた週末
1944年 第17回 我が道を往く
1943年 第16回 カサブランカ
1942年 第15回 ミニヴァー夫人
1941年 第14回 わが谷は緑なりき
1940年 第13回 レベッカ
1939年 第12回 風と共に去りぬ
1938年 第11回 我が家の楽園
1937年 第10回 ゾラの生涯
1936年 第9回 巨星ジーグフェルド
1935年 第8回 戦艦バウンティ号の叛乱
1934年 第7回 或る夜の出来事
1932〜1933年 第6回 大帝国行進曲
1931〜1932年 第5回 グランド・ホテル
1930〜1931年 第4回 シマロン
1929〜1930年 第3回 西部戦線異状なし
1928〜1929年 第2回 ブロードウェイ・メロディー
1927〜1928年 第1回 つばさ
2002年03月01日(金) 『ザ・ホテル』
2001年03月01日(木) 『ディズニー7つの法則』
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管理者:お天気猫や
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