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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年11月30日(金) --

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『クリスマス人形のねがい』

☆いちばんすてきな奇跡の物語。

世界でいちばん、すてきな奇跡はなんだろう? 女性のほとんどは、「出会い」と答えるのでは ないだろうか。 星の数ほどいる人のなかで、求めている相手どうしが 磁石でひかれるように、タイミングよく出会ってしまえるのが この世界の法則みたいだ。 それがわかるには、何年も何年も生きなければならない。 あるいは、疑うことなく、ただ信じるだけだ。

そして、クリスマスイヴともなれば、 その出会いはとても偶然とは思われない。 寂しい人たちにとって、物語のなかであっても 奇跡を信じられることは、すばらしい贈りもの。

この物語は、ゴッデンの古い短編をクーニーの挿絵で 絵本として新しく出版された。(クーニーは2001年に他界) 『人形の家』でもおなじみの「おもちゃ文学」の巨匠・ゴッデンが描く、 とびきりの奇跡は、出会いと願いの物語。

クリスマス人形のホリー(ヒイラギ)を主人公に、 もうひとりの主人公、孤児の女の子アイビー(ツタ)との出会いのお話。 おもちゃはおもちゃ屋さんのなかではまだおもちゃではなくて、 誰かの家に行ってはじめて、おもちゃとして生きることができる。 だから、クリスマスのおもちゃたちは不安とたたかっている。

涙なしでは読めないのではないかと心配していたが、 主人公はどちらも気丈でけなげで、希望を捨てることはない。 希望を捨てたときだけが、敗北のときだと知っているかのように、 明るい未来を信じている。 泣かないセンチメンタリズムは、どこかハードボイルドめいてくる。 実際、アイビーの境遇や体験は、幼い少女には過酷である。

くじけそうな希望に疑いのクチバシを突っ込むやからもいて、 すべては終わったかのように感じられる瞬間。 それでも出会いを信じられたならば。 ホリーがきっと、助けてくれる。 あなた、アイビーが、まっすぐ前を見ていられるように。 (マーズ)


『クリスマス人形のねがい』 著者:ルーマー・ゴッデン / 絵:バーバラ・クーニー / 訳:掛川恭子 / 出版社:岩波書店

2000年11月30日(木) 『裏庭』

お天気猫や

-- 2001年11月29日(木) --

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『青蛙堂鬼談』

私が子供の時読んだ怪奇アンソロジーの中で 一番他と違っていて変な話だと思ったのが 『生首にかわったすいか』という作品でした。

話の前半は江戸時代の記録に載っていたという 西瓜が生首に見え、西瓜に戻り、また生首に見えて 西瓜に戻った、と言う話。
別に理由も何もなくて単にそんな事があった、と言うのです。
後半はその話を聞いて 「生首だと思い込んで見たからただの西瓜がそう見えたんだ」と 合理的な説明する青年と友人の体験する怪異。
どちらの話も「すいか」が絡むだけで関係はないし、 どちらの話も理由も因縁も何も説明をせずに終ります。

なんなんだろうなあこの話。
6歳の私は首をひねりました。

怪異の姿をはっきり見せず、その正体が説明されないのが 実は最も気持ち悪いという事は後になって知りました。
そういう「一体なんだったんだろう」という怪談の名手が、 実は江戸のシャーロックホームズストーリー、 『半七捕物帳』で「捕物帳」というスタイルの 推理小説を生み出した岡本綺堂。
同じ様に怪奇な状況を作り出しておいて 一方では合理的な謎解きがなされ読者は膝を打ち、 一方では不可解なまま謎が残され読者は肌を泡立たせる、 優れたミステリ作家は同時に優れた幻想作家でもあります。

様々な職種年齢の人々がいろいろな場所や時代の あれはいったい何だったんだろう怪談を 趣向を凝らして語る場所が『青蛙堂』。
現代ホラーとはひと味違った語りの妙技が繰り広げられます。
青蛙堂で披露された以外の名作怪談も収録されていて、
名高い『白髪鬼』なども載っています。

生首に変わってしまう西瓜の話もありました。
そういえば最後の

どうでも一度は荒れそうな空の色が、私の暗い心をおびやかした

という一文が、6歳の時からずっと心に残っていました。
やっぱり子供心にも響く、並々ならぬ名文だったんですねえ。(ナルシア)


『岡本綺堂集/青蛙堂鬼談』 著者:岡本綺堂 / 出版社:ちくま文庫

2000年11月29日(水) ☆ Web書店

お天気猫や

-- 2001年11月28日(水) --

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『雨月物語』

最も怖いと思った話は ジェイコブスの「猿の手」。 6歳の時から今に到るまであの怖さを 凌ぐ文章には出会っていません。 でもそれは外国のお話。 日本のお話で一番怖いのは?

──「きびつのかま」。

児童向け怪奇アンソロジーの中で、 内容とあまり関係ないタイトルは 子供に判り易い題に差し換えてしまう出版社も、 不思議な事にこの題だけは変えていませんでした。 実際には「釜」はあんまり関係がないのに。 きっと選んだ人にとっても 「吉備津の釜」はそのタイトルを聞くだけで 寒気がするほど怖いのでしょう。 などと思いつつ『雨月物語』で検索していたら ポプラ社の本に子供向けに変更したタイトルが載っていました。 「呪われた恋占」。 ‥‥。‥‥。 あの吉備津神社の神託は恋占いなのか‥‥。

後になって読んだ児童向けの本の中にも 上田秋成作品はいくつか載っていました。
「へび女の呪い」(蛇性の婬)
「菊の花の約束」(菊花の契)
あんまり怖くないですね。 中学生になってから『雨月物語』を読んでみました。 けっこう怖いのあるじゃないですか、 「青頭巾」とか ‥‥あ、子供向きじゃないやこれは(汗) 「白峯」の魔王となった崇徳院はすごく格好良いです。

「手」も「釜」もクライマックスは 化物の姿は登場しないで「音」だけで攻めかかります。 怖いもの知らずの私の弱点は「音」かも。(ナルシア)


『雨月物語』 著者:上田秋成 / 出版社:ちくま学芸文庫
『新釈 雨月物語』 訳者:石川淳 / 出版社:ちくま文庫

2000年11月28日(火) 『ザ・マミー』(その1)

お天気猫や

-- 2001年11月27日(火) --

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『ランプ』

6歳の時に読んだ怪奇アンソロジーは 原文の雰囲気がそのまま味わえるように 収録作品の文章にはあまり手を加えていませんでした。 しかし、タイトルのいくつかは子供向けに 分り易くつけ直してあるものがありました。 「ひらいたまど」(サキの「開いた窓」)のように 大抵は漢字をかなに直してあるだけなので問題はないのですが、 中には作者が付けたひねってあったりそっけなかったりする題を 内容を現したものに変えてあったりします。 本そのものが手元にあれば原題も作者も記してあるのですが、 本が手元になかったために原作を探すのに苦労したものもありました。 例えば。

「ふしぎな足音」  
古い屋敷に女の人と彼女の父親、彼女の子供が引越して来る。  やがて男の子が「屋根裏部屋に知らない子供がいる」と言い出す。  何も言わないでじっとこちらを見詰めている子供がいるのだと言う。

さて、この話がみつからない。 本邦童話作家小川未明のとある名作に通じるような 詩情溢れる作品だと思ったのですが。 「不思議な足音」と言ったら有名なチェスタトンの短編、 名探偵のブラウン神父が足音を聞くだけで 謎を解く話ではありませんか。 大人には姿の見えない子供が出て来るから 「ふしぎな足音」と判り易いようにつけたのでしょうが、 原題はたぶん全然違うものでしょう。 うーん、どうやったらみつかるかなあ。 そして答えまるっきり思いがけない所からやってきました。

本筋とは関係ない場面で、老人が少年にこんな風な事を語ります。 子供が持っている輝きは大人になると小さくなってしまう。 しかし儂のように死ぬ前の老人では一時その輝きが ぱっと強くなる事がある、 まるでランプの燃え尽きる前のように。 ──原題は「ランプ」でした。

あー!見つけた! なんと、本好きならば知らぬ者はない 英国ミステリ界の女王、アガサ・クリスティの作品でした! 児童書巻末の作者紹介に載っていたはずですが、 不思議なプロフィールの八雲や 変な名前でとんでもない生涯を送ったポーなんかと較べて ちゃんとした女の人だったので印象に残っていなかったのでしょう。 それにしても優れたミステリ作家は皆間違いなく 優れた怪談の書き手でもあったと再確認。(ナルシア)


『検察側の証人(クリスティ短編全集1)』 著者:アガサ・クリスティ / 出版社:創元推理文庫

2000年11月27日(月) 『Spells for Sweet Revenge』(2)

お天気猫や

-- 2001年11月26日(月) --

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『黒猫』

6歳の私にくっきりと記された刻印。 先日紹介した児童向け怪奇アンソロジーの 冒頭を飾り、底知れぬ衝撃を与えた短編です。

好きな話ではありません、猫を虐める話ですから。 しかし「やってはいけない」と思う事を どうしてもせずにはいられないしんり (心理なんて言葉は私は知らなかったと思う)、 お化けかと思ったらちゃんと理由のあったラスト (巻末の作者紹介紹介には探偵小説を作った人とも 書いてありました)、 「ポー」と言う変わった名前の「おさけをのみすぎて しんでしまった(と巻末紹介にあった) がいこくのひと」はすごい、と思いました。 ゴシック風幻想小説家、推理小説の父、 詩人エドガー・アラン・ポーとの出会いでした。

だから後に小学校の先生が 「エドガー・アラン・ポーは日本に来て 江戸川乱歩になったんだよ」と無茶苦茶を児童に教えた時、 思わず私は手を上げて言ってしまいました。 「江戸川乱歩は平井二郎という日本人です。 先生が言っているのはギリシャ系アイルランド人の ラフカディオ・ハーンだと思います。 日本で結婚して小泉八雲になりました」 先生は仰天しましたが、 全部作者紹介に書いてありました。 (八雲は「雪女」「むじな」等が載っていたのです) でもさすがにポーがアル中の末ボルチモアの街角で 凍死した、なんて事までは言いませんでした。 師匠・ポーの名誉のためでなく教室の混乱を避けるために。

『黒猫』に出会ったのは13年後、 大学の英語の授業ででした。 専門とは関係のない教養過程なので、先生も 難しい事はせずに簡単で読み易いテキストを配り、 それさえ読んでいれば絶対大丈夫な試験をして 全員に単位をあげようという思惑です。 やったラッキー。 『黒猫』なら子供の時読み込んだおかげで、 まだほとんど暗唱できるくらいです。 という訳で全く予習もせず試験に向かうと。 教室でしくしく泣いている同級生がいます。 昨夜一人で夜中にテキストを読んでいるうちに 怖くて怖くてたまらなくなり 途中で止めてしまったのだそうです。 ええ、それはまずいよ。 じゃあ内容を話すからね。

いつのまにか。 「極めて奇怪で極めて素朴な物語」を語る私の周りには 固唾を飲んで聞き入る人垣が出来ていました。(ナルシア)


『黒猫・黄金虫』 著者:エドガー・アラン・ポー / 出版社:新潮文庫
『黒猫』/ 青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/

2000年11月26日(日) 『Spells for Sweet Revenge』

お天気猫や

-- 2001年11月23日(金) --

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『世界の名作怪奇館』

それは衝撃の出会いでした。 小学校に上がる頃に買ってもらった一冊の児童書。 多くの作家の作品を一つのテーマで集めた短編アンソロジーでした。 その本を読んだ6歳の春以来、私は その時に打たれた驚きに匹敵するものを求めて 読書を続けてきたと言えるかもしれません。

はじまりは和やかに。
やがて感じる違和感。
次第に高まる緊張。
そして襲い来る破局。

ああ、お話とはこんなに面白いものなのか。 もう一つ。もう一つ。 全部読んでしまった後、同じシリーズを もう一冊買って貰ったのだと思います。 全て「怖い」お話でしたが、 もともとお化けも暗闇も怖くないくせに 怖いお話の大好きな六歳は これまで幼児向けのお話では見た事も無いような お話の巧みさに魅了されてしまったのでした。

それもそのはず。 その児童書に収録されていたお話は全て 選び抜かれた東西きっての幻想短編の古典だったのです。 その後、大人の本を読めるようになってから 私と弟は「どの話が誰の作品か」探しあてるのを 楽しみにしました。 引越する度子供の本や服は処分されたので、 あれほどの愛読書も手元にあったのは僅かの期間でした。 しかし姉弟はいつでも人に話して聞かせてあげられるくらい くっきりと記憶していたので、ちら、と見れば それが探しているお話だとすぐに分るのです。 嬉しい事に、子供向けの本でありながら 原作の表現を大切にして、分りにくい部分以外は ほとんどそのまま原文に近い形で現されていました。 ですから、原作を読んで懐かしい語り口や 忘れかけていた描写に出会うと、 今でもぞくぞくしてしまいます。

地道にこれはと目星をつけた本を読んだり 思いがけない作家の作品集に懐かしい一編をみつけたりして 長い間にだいたいの原作は判明しました。 さてあの優れた作品ばかりを選んだ 「児童書」そのものはどこの何という本だったのでしょう。 便利きわまりないインターネットのお世話になり、 記憶の本を探してみました。 キーワードになるのは原作のタイトルとは異なっていた 各話の子供向けタイトル。 「黒ねこ」「さるの手」「吉備津のかま」等はほぼ同じですが、 「壁の中のアフリカ」(原題は「アフリカ」) 「魔のトンネル」(原題は「信号手」) など、大人の本が引っ掛からないようなタイトルを入れてみます。 検索結果。 『世界の名作怪奇館(講談社)』 ああ、かなりの話がこの中に含まれているし、 タイトルにも覚えがあります。 あれ?でも「ろくろ首」や「ダンウィッチの怪」が入ってない? 読んだ事のない話が入っている? 私が読んだのとはどうも編集や版がかなり変わっているようです。

現在『怪奇館』シリーズも一部の 図書館に残っているだけのようですが、 講談社の『青い鳥文庫』収録分の中に組み合わせを変えて 懐かしいタイトルが並んでいました。 さあ、子供のためのお話に飽き足らぬ 怪奇と幻想を愛する子供達よ。 世界には数々の恐ろしく美しい物語が存在する。 いざその手にこれらの書を‥‥え、嫌? こんな大人になりたくないって?→(ナルシア)


『世界の名作怪奇館』(絶版)『青い鳥文庫・Kシリーズ』 / 出版社:講談社

2000年11月23日(木) 「ナイチンゲールの屍衣」

お天気猫や

-- 2001年11月22日(木) --

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『横溝正史集/面影双紙』

──おお、それは何という奇怪な顔でありましたろうか。

「探偵小説」と申しますと、多くの方が かのヨレヨレ袴の我らが名探偵・金田一耕助の活躍する 不気味で耽美な事件の数々を思い浮かべられるのでは ありますまいか。 金田一シリーズが戦前戦後を通して 最も愛される探偵小説となったその人気の秘訣は その愛嬌のある名探偵のキャラクターに負うものなのか、 本邦怪談調のおどろおどろしい舞台設定の魔力なのか、 当時の読者にとってはリアルであり 後年の読者にとってはノスタルジックに映る 時代の雰囲気の魅力か、 それとも海外本格ミステリと較べても遜色のない トリックと論理性が評価されたのか。 いずれの点を見ても数限り無く書かれては消えて行く 凡百の探偵小説からは抜きん出てレベルが高いのは確かですが、 子供の頃の横溝ブームの時は気がつかなかったある点が 実は思っていたよりも重要だったのではないかと 後になって思うようになりました。

そのある点というのは。 ひどく単純な事なのですが。 横溝氏の文章は「読み易い」という事。 絢爛たる世界を構築するのに 言葉を華麗に過剰に飾り立てるのではなく、 対象をはっきりと平易に表現して、 作者の思い描く光景をそのまますとんと 読者の脳裏に映してしまうような、そんな文体です。 内容を理解できるかどうかを別にすれば 子供でも読む事ができます。 いや、大きな声では言えませんが 現に私は小学生の頃親の本をこっそり拝借して 『獄門島』や『悪魔の手鞠歌』を読んでいました。 平易に書く、という事は簡単なようで実は難しい。 着想や論理の点においては勝るとも劣らぬと思われる 数多くのミステリが生まれては次々と忘れられて行きますが、 それは設定が非現実的だとか人間が書けていないだとか そんな事が第一の問題点なのではないと思います。 最も大きな理由は「文章がヘタ」な事。 エンタテインメントとして楽しむためには やはり読者のストレスにならない程度の文章力は必要です。 巨匠横溝氏とて、同じ題材同じキャラクタ同じトリックでも、 持って回った読みにくい文章の書き手だったらこれ程の 長期に渡る人気は保てなかった事でしょう。

この短編集は金田一さん誕生前、 戦前『新青年』などに発表された 横溝氏の幻想耽美的作品集です。 初期の怪談から、肺を病んで熱に苦しみ 療養生活の無聊をかこちながら紡ぎ出された浪漫的作品、 本格探偵物まであと一歩の論理的決着のある怪異譚まで、 月明かりが照らし出す血塗られた古風な犯罪が、 如何に平成の読者の目前に繰り広げられるのか。 やっぱりねえ。後世に残る作家は秘かに文章が上手い。 (ナルシア)


『横溝正史集/面影双紙』 著者:横溝正史 / 出版社:ちくま文庫

2000年11月22日(水) 『フラワー・フェスティバル』

お天気猫や

-- 2001年11月21日(水) --

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『図説 ニューヨーク都市物語』 / 『イスラームの日常世界』

☆TV画面の向こうを思う。

メディアは選択的に事実の"一部"を伝える。

メディアの選択は、 それぞれのメディアの依って立つ所によって 大きく異なってくる。 「アル・ジェジーラ」(アラブ首長国連邦の衛星テレビ局)と アメリカのCNNの報道では、 同じアフガニスタン状勢を報道しても、 どちらを見たかで、 見た者の心に残っている事柄は違っているだろう。 そして、"私自身の目"で 事実を見ることは不可能であり、 また、私の事実と信じることが、 他の人と一致するとは限らない。 いつも思う。 "事実"というものはどこにあるのだろう? それは難しい問題であり、哲学的でもある。

私はアメリカに行ったことがない。 TV画面や映画のスクリーンの向こう側のアメリカしか知らない。 世界貿易センター (WTC) がテロで失われた時 −数え切れないかけがえのない命とともに− 今まで行ったこともなく、 行きたいと思ったこともなかったのに、 そこにあるべき"シンボル"が破壊され、 消え去った途端、深い喪失感を感じた。

テロにおそわれた当事国の国民でないから、 テロへの怒りよりも、 奪われた命、失われたシンボルへの喪失感、 無常感が強かったのかもしれない。 あれほどの揺らぎないものが一瞬のうちに、 破壊されていく。 地球よりも重いとたとえられる命が、 その重みを全く省みられない。 そんなことは、信じられなかった。

やがて、喪失感は、 センチメンタルな思いをともなうようになった。 テロ以前のNYを知りたいと、 そう思うようになった。 NYの−かつての移民たち−の歴史、 いかに、NYという街がつくられていったのか、 そこに住んでいる人々のエネルギーの源、 そういうことを知りたいと思った。

・『図説 ニューヨーク都市物語』  
生き生きとしたニューヨークのエネルギーが伝わってくる
・『週刊地球旅行( 眠らない大都会ニュ−ヨ−ク ) NO.7』  
ニューヨークの観光名所のハイライト
・『ニューヨーク「恋する21世紀」ブック 望遠郷(12)』  
ガイドブックというより、  むしろ、ニューヨークの詳細なミニ百科事典
・『リサ ニューヨークへ行く』   
小犬のリサはNYのおじさんのところに  ひとりで遊びに来ています。  わくわく心躍るNYでのリサの冒険。  心がほんわかする絵本

ニューヨークは、 それぞれの人生を生きる人々の エネルギーの集う場であり、 決して、テロの対象たるアメリカの象徴としての、 "ターゲット"ではない。

けれど。 それは、アフガニスタンに住む人々にとっても同じことだ。 アフガニスタンの都市は、 決して、空爆の標的としての"点"ではなく、 やはり、人々が住まい、人生を全うしていく場だ。 結果的には、タリバンから解放されたカブールには 歌声や笑いが甦り、自由の風が吹き始めているのだが。 そこにも当然、"選択的"に、 私たちには伝えられていない タリバン後の、苦しみもあるはずだ。 この時期、イスラムの解説本が、 書店にあふれているだろう。 政治的にイスラムを読み解く本も多いが、

・『イスラームの日常世界』

は、平易でとても読みやすく、 イスラム世界に生きる人々の、 普段着の顔をのぞくことができる。 そこに生きる人のエネルギーが伝わってくる。 今、イスラムは断食月、ラマダンに入っている。 ラマダンの意味、重要さも理解できるし、 文化の違いは、やはり、興味深い。 この地球には、日本人だけが住んでいるのでもないし、 アメリカ人だけが住んでいるのでもない。 文化の違い、価値観・世界観、主義・主張、体制の違い。 乗り越えることが難しい相違点は たくさんあるだろうが、 どれほどの大義があろうとも、 暴力を振りかざすところには、 すでに正義はないと思う。

TVの向こうに爆弾の閃光が見える。 TVの向こうにかつてのWTCのツインタワーが見える。 まるで、映画のように、WTCが破壊されていく。 そして、まるでTVゲームのように、 街が爆撃される。

切り取られていく、"日常"の一部分を パズルのようにつなげていきながら、 少しでも全体を理解しようと、 TVの前で、頭を悩まし、 本を開いては、 やはり、選択された"事実"の一部分を 自分自身も、取捨選択しながら、 自分の信じる"事実"を探している。(シィアル)


・『図説 ニューヨーク都市物語』著者:賀川洋 / 出版社:河出書房新社
・『週刊地球旅行( 眠らない大都会ニュ−ヨ−ク ) NO.7』 出版社:講談社
・『ニューヨーク「恋する21世紀」ブック 望遠郷(12)』編集:ガリマール社 / 出版社:同朋舎出版
・『リサ ニューヨークへ行く』 著者:アン・グッドマン / 絵:ゲオルグ・ハレンスレーベン / 出版社:ブロンズ新社
・『イスラームの日常世界』 著者:片倉ともこ / 出版社:岩波新書

2000年11月21日(火) 『十月のカーニヴァル』

お天気猫や

-- 2001年11月20日(火) --

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『なぞのうさぎバニキュラ』

タイトルだけで興奮してしまうお話。 なんてかわいらしくも怖いうさぎ。 でも、バニキュラと名付けられたモンロー家の新入りうさぎは、 実は主人公ではなくって、犬のハロルドと猫のチェスターが 本当の主人公。

家族はパパとママと2人の子ども? 話ができて、字が読めるペットたち!? 特に、ずるい猫! このパターンには最近遭遇している。

そうだ、映画『キャッツ・アンド・ドッグス』(笑)! 後半寝てしまって最後の勝敗があやふやになってしまったが、 あれは犬と猫が主導権を握るために争う話だった。 バニキュラは、あの映画に何かの種を与えた作品なのかもしれない。 まあ、それはさておき。

ペットたちも、いろいろ大変なのだなぁ。 平和な顔して寝ている姿は、ただうらやましいけれど。 ある日、新入りがやってくるという状況は、 どこの家でも起こりうることだ。 それに、人間には賢いことを隠していないといけないし。 おなかは空くし、いい子にしてないとおしおきはあるし。 (老犬ハロルドはチョコ系のお菓子が大好きらしいが、 犬には毒なので、読んで与える子どもがいたらちょっと不安)

さて、バニキュラである。 昼間は寝てばかりいる弱々しいうさぎは、 いったい何者なのか? バニキュラという以上は、血を吸ううさぎかなと思うが、 真相は読んでのお楽しみ。 バニキュラという不思議なうさぎが 明日あなたの家にもやってきたら? (マーズ)


『なぞのうさぎバニキュラ』 著者:デボラ&ジェイムズ・ハウ / 訳:久慈美貴 / 出版社:ベネッセ

2000年11月20日(月) ☆ 訂正記事

お天気猫や

-- 2001年11月19日(月) --

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☆新聞の訂正記事 その(2)

一年ほど前から、新聞の訂正記事を 集めていて、まとまった量になってきた。

地方新聞だけの訂正記事なので、 全国紙と比べて これが多いのか少ないのかわからないけれど、 平均して月に4-5本ほどが掲載されている。

一番多い誤りは、数字。 特にケタが多くなると間違う率も高くなる。

読んでいて面白いのは、漢字の誤り。 単純な変換ミスらしいものや、 著名人の名前まちがいまで種々雑多である。 よくよく見ないと正誤がわからないような 訂正もあるので、良心的というべきだろうか。 もっとも、見出しなどで大きく出ている文字が まちがっていても、訂正が出ないこともある。

なかには政治が絡む深刻な間違いもあるし、 記事を読んだ人の印象を大きく左右できるミスもある。 まさに、蒐集を始めるきっかけの訂正記事がそうだった。

あらためて、こういう蒐集は、コレクションする側も 決して気持のよいことではないが、 もう少し続けようと思っている。(マーズ)

2000年11月19日(日) 『万国お菓子物語』

お天気猫や

-- 2001年11月16日(金) --

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『ベクター』

手紙を開封した男は肺炭疽で死亡した。 細粒に粉砕した芽胞に粉末を混ぜて飛散性を高めた 生物兵器としての炭疽菌が、アメリカへの復讐の牙となる。

知っています。 そんな事はとうに去年の夏に知っていた。 アメリカ国内の白人至上主義団体に資金提供を受け、 旧ソ連の細菌工場の元作業員が自宅の地下室で 一人もくもくと兵器となる炭疽菌を作っている。 最初『ベクター』というタイトルを見て 病原菌細胞にベクター(運び屋)を入れて 遺伝子を組み換えて治療不可の菌を 作る話かと思って買ったのですが、 この小説の「ベクター(媒介)」はアメリカ内部に 生物テロを巻き起こそうとする男でした。

数多くの医学サスペンスで人気のロビン・クックの作品は、 医学知識に基づいた事件の迫力は他の追随を許しませんが、 エンターテインメントに仕立てるための ハリウッド映画的アクションがどうもいつも 余分だなあ、と感じていました。 本作でも優秀な監察医が自転車カーチェイスを繰り広げたり、 容疑者を探し当てて踏み込んだりするのですが、 実際には彼の骨折りで事態の進行を止める事は出来ません。

地に足がついていてごく内輪で準備できるが故に 失敗の可能性の少ない大規模テロの企みは ヒ−ロ−一人の活躍のリアリティを否定してしまう 地道な説得力があります。 出版されたばかりの『ベクター』を読んだ2000年の夏、 「これなら私でもできる」と思いました。 芽胞粒子を砕く装置はないけれど、培養だけならば容易に。 マニュアルを書いておいてくれればそれこそ誰にだって。 多分何万人もの人間が同じ様に思ったのです。

ラストシーン、とりあえず危機を脱したニューヨークで 主人公が言います。 「いまごろ、マンハッタンの南地区のあたりで パニック状態になっていることを思うとぞっとする」

なったんですよ。そっちは炭疽菌ではなかったけれど。 国内に満ちる国家に対する不満も、 悪意を実現するための手段の数々も、 以前から様々なメディアで警告が与えられていながら、 世界一の国家は結局これ程無防備なものだったのか。 (ナルシア)


『ベクター』 著者:ロビン・クック / 訳:林 克己 / 出版社:ハヤカワ文庫2000

2000年11月16日(木) 『夢のかたち』その2

お天気猫や

-- 2001年11月15日(木) --

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『パリジャンのレシピ』

パリジャンの知り合いはいますか?
― いません。
パリジャンが何を食べているか、知りたい?
― ちょっと知りたい。

そんな思いで手に取る料理本。 といっても、私はネット書店の書評を読んで買った。 だから、開いてみるまで、このレシピブックが ちょっと変わっていることを知らなかった。 ページはすべてモノクロ。 イメージ写真やちょっとしたイラストはあるけど、 料理写真は載っていない。

読む本なのだ。 別に、料理しなくたっていい。 私向きだ。

載っているレシピは176。 パリの大衆食堂(ビストロ)というのが、行ったことない私には なじみなくて、「これは、いかにもパリらしい味」 というツボもわからないけれど。 わかったつもりになる本とでも言おうか。 料理がわかる人にとっては実用的だし、 パリが大好きという人なら、 「この店、知ってる!」と喜ぶだろう。

レシピの提供者は、圧倒的にシェフが多くて、 でもなかには神父さんもいたりする。 前書きによると、著者(編者)の結婚式を 執り行った神父さんらしい。 その神父さん提供の、 「うさぎのマスタードソース」は、 "やせすぎでない肉づきのいいうさぎを用意する" という書き出しで始まる。

そうか、やせすぎはダメか。 フランスなのであった。 「牛の横隔膜のソテー、エシャロット風味」 動物系は字で読むとなかなかハードだが、 日本人も抵抗なく食べられるものが主流なので、 誤解なきよう。 (マーズ)

※横隔膜、今は普通にハラミと呼ばれていますね。(2005追補)


『パリジャンのレシピ』 著者:アレクサンドル・カマス / 監修・訳:上野万梨子 / 出版社:文化出版局

2000年11月15日(水) 『夢のかたち』

お天気猫や

-- 2001年11月14日(水) --

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『最新ニュースが一気にわかる本』

☆世界はめまぐるしく変化している。

著者の池上彰氏は、『週刊子どもニュース』の キャスター(お父さん役)で、 巷にあまたある、社会や世の中の動き・ニュースなどの 解説本の中でも、この本は特にわかりやすい、 テレビ番組さながらの親切なニュースの解説本である。

池上氏のこの本や『大争点』を読みながら、 これで私もやっと、世間のあれこれが、 少しはわかってきたかと思ったのもつかの間、 世は無常で、 日々激しく動き続け、新たな問題、 世界を根底から揺り動かす大事件が発生し、 次々と、疑問・疑念がわいてくる。

世の中の動きを平易に語るというのは難しい。 そもそも、この世はこの上もなく複雑により合わされた世界であり、 その複雑さゆえに、さらに複雑にねじれた数多くの事件が発生する。 複雑な問題を解きほぐし、世界を理解するために、 ものごとの本質をシンプルに語るのも困難だ。 ことの本質に迫るために、 事象を取り巻く複雑な仕組みを軽量化していく中で、 するりと、ことの本質は滑り落ちていくのだから。

池上氏の本は、私たちの世界を、 あるいは身の回りの出来事を理解していくための、 入門書だといえる。 ものごとのアウトライン、おおまかなしくみを知るには、 ちょうどよい。 深い考察は専門家に任せておけばいいし、 あるいは時間のあるときにゆっくりと、 それぞれの問題についての専門書を開けばいいのだ。

平易であるがゆえに、アプローチが浅かったり、 簡潔に語るがゆえに、複雑な本質がぶれることあるが、 世界を見つめ、世の中の変化に注意を払うきっかけになる。

日々の新聞やニュースを見ていれば、 十分事足りると思うが、 忙しい人や、ニュースなどを見ていて気になるテーマや疑問があれば すぐ手にとってページをめくってほしい。

世の中に危険なことは多いが、 世の中の動きを知らないこと、 知らないことからくる誤解や偏見ほど危険なこともないと思う。

それぞれの本に取り上げられている項目のいくつか。
[最新ニュースが一気にわかる本]
コンピューター・ウィルス / 遺伝子組み換え / 不良債権 / IT革命 / 原発臨界事故 / 旧ユーゴ問題 / 中東問題 / 米大統領選挙 / BSデジタル放送 / ヒトゲノム ...
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(シィアル)


『最新ニュースが一気にわかる本』『ニュースの大争点』著者:池上彰 / 出版社:講談社

2000年11月14日(火) 『魔女の1ダース』

お天気猫や

-- 2001年11月13日(火) --

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『イギリスのかわいいアンティークと雑貨たち』

☆雑貨が大好きなら、ぜひ。

― 姉妹編の 『フランスのかわいいアンティークと雑貨たち』 も、もちろん、必見 ―

高価な雑貨カタログ、そんな感じです。(1冊1800円) でも、 雑貨が好きな人、 ロンドンやパリのマーケットが好きな人、 アンティークが好きな人、 旅先の小さなスーヴェニールとの出会いが大好きな人。 ぱらぱらとめくっているだけで嬉しくて、 少々高くても、きっと手元に置いておきたくなります。

食器やアクセサリー、 ぬいぐるみやチェアー、 お人形やらレースやら、 大きいもの、小さいもの、 新しいもの、古いもの。 斬新なものに、オーソドックスなもの。

どのページをめくっても、 最近、消費欲が萎えていたはずの、 私の「欲しい!」を刺激します。 そして、私もつい、 本で紹介されている雑貨にも負けない、 ロンドンの思い出たる小物を あちこちから引き出してきて、 つい、ロンドン旅行の思い出にひたってしまいます。

ロンドンのコベント・ガーデンや グリニッチのマーケットには、 まさに、あらゆるものが混沌と集まり、 あらゆるものが雑然とばらまかれていました。 中でも、アンティークの店で見つけた 30年くらい前の張り子(パステルのフラワープリント)の 眠り猫や、キャンドルでできた眠り猫は 感動もので、私の大切な宝物です。

ビーズのお店では、 クラシックな色調のビーズを見つくろったり、 おしゃれなキッチン雑貨を 何でもない街角のコンビニで見つけたり、 郵便局の小包用の箱にさえ、 洒落たものを感じて、大喜びをしました。 そんなロンドンの日常は、 駆け足の旅人には、どこもかしこもが素敵に見えます。

この2冊の本で紹介されている雑貨は、 ロンドンやパリでしか買えないものだけでなく、 日本(主に東京)でも、手に入るものもあります。

思い出にひたりつつも、 いつかまた、ロンドンに行きたいな、 今度こそ、パリにも足を伸ばしたい。 雑貨のカタログは、いつのまにか 旅のガイドブックの役目も果たしています。

目の保養。心のオアシス。 きっと。 いつか、買いに行くんだから。 よし、旅行資金のために頑張るぞ!と、 仕事の活力源にまでなってしまっていて、 私って、おめでたいなあ。(シィアル)


『イギリスのかわいいアンティークと雑貨たち』
『フランスのかわいいアンティークと雑貨たち』
文:武井教子 / 写真:佐藤康 / 出版社:同朋舎 & 角川書店

お天気猫や

-- 2001年11月12日(月) --

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『小さいとっておきの日曜日(2)』

あの、丹精込めたイラストブックのシリーズが 小さな(文庫としては普通サイズですが)文庫になりました。 その(2)である本書には、 「にょきにょきの喜び」と 「おいしいねの時間」、そしておまけが 収録されています。

以前からとてもおもしろいと思っていた「にょきにょき」は、 お部屋でもできる菜園がメインのテーマ。 野菜や果物なんかの種も、やりようによっては 立派な植物に育つのですね。 豆からジャックの木を育てるとか、 納豆を自家製で作るなんて、考えもしませんでした。

おや、この、納豆を入れてるダンボール箱は、 ロンドンの郵便局の小包用の箱ですね! 私の部屋にも、あります。 けっこう、中身よりも送料の方が高いよねとか 言いながら、行くたびに郵便局のお世話になるのでした。

そして、外国製の、袋入り花の種も紹介されています。 モネの庭やゴッホのヒマワリ、 赤毛のアンの庭の種も。 じつはアンの種が載っていると友人に教えてもらって、 これを見るために、改めて文庫を手にした次第なのです。 アンの庭シリーズで、切り花の種と、野の花の種。 津田さんは、この種を蒔いてみたそうで、 育ったのは少なかったけれど、 クローバーがちゃんと四つ葉になったのはアンらしいと 書いています。

カナダに限らず、外国に行ったら、何か種を手に入れてきたいです。 日本に持ち込めるものならば、ぜひ。 といっても、この本に触発されて、 案外、現地で食べた野菜やフルーツの種(食べ残しともいう)に なるのかもしれませんが。 (マーズ)


『小さいとっておきの日曜日(2)』 作・画:津田直美 / 出版社:中公文庫

2000年11月12日(日) 『ハンニバル』 (3)

お天気猫や

-- 2001年11月09日(金) --

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『神様』

「猫屋」に久しぶりに来ている。

はい、いらっしゃいませ。 ‥‥いや、うちじゃなくて川上さん (とは名乗っていないけれど語り手の「わたし」) が来ている「猫屋」は、おばあさんが 一人でやってる飲み屋さんです。 手作り梅漬けの梅と梅酢を入れた 焼酎のお湯割りを出してくれます。

『神様』は川上さんのいつもお馴染みのいかにも普通で とても自然な異界のものとの静かで素頓狂な交流記です。 ただこの短編集はシリーズで一つのテーマというか トーンが割合はっきりと現れていて、 話の順番もその度合いが増すように並んでいます。

(淋しい。)
(一緒にいたい。)

ところで、「淋しい」の反対って何だかわかりますか? 川上さんの場合「おいしい」みたいですよ。 だから外でくまと一緒にくまの心尽しのお弁当を食べたり 死んだ叔父さんと一緒に叔父さんの好物を食べたり 壷から出て来る娘とイタリア料理を食べたり ウテナさんも乱入して酒宴になったり いつまでも一緒にいたいな。 でもみんな自分とは違う存在だから

やがてはみんな遠くへ行ってしまう。

川上作品の場合一緒に居る相手は どんな奇天列なものだってアリなんですが、 この淡々としたせつなさの相手が たまたま人間で男だった場合は ラブ・ストーリーになります。 歳が30歳以上違ったって男は男、 だから川上さんの新作『センセイの鞄』は 第37回谷崎潤一郎賞を受賞しました。 (ナルシア)


『神様』 著者:川上弘美 / 出版社:中公文庫
『センセイの鞄』 著者:川上弘美 / 出版社:平凡社

お天気猫や

-- 2001年11月08日(木) --

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『レッド・ドラゴン』

英国小説『わが目の悪魔』(1976)の主人公を見ていて 連想するもう一人のサイコ・キラーは 史上最強の異常心理犯罪者の生みの親トマス・ハリスの 『レッド・ドラゴン』(1989)における「噛み突き魔」。 (いくら馴染みがない単語といってもこの訳はあんまり。 元の呼び名は『tooth fairy』、乳歯が抜けた時、 枕の下において寝るとコインととりかえてくれる妖精)

犯人のプロファイル:
幼い頃家庭の事情により実の親から引き離される。 親族の女性に引き取られ、厳格に育てられる。 平生は従順・温和で真面目な社会人であるが 定期的に暴力的な支配衝動に駆られ、 その度に無防備・無関係な女性を殺害する。 知性的であり、用心深く保身に長け 衝動をコントロールする事が出来るため、 殺害する女性との接点も最小限であり、 容易に捜査陣に手掛かりを残さない。

二人の殺人者はどちらも良く似た境遇で育ち、 高圧的で愛情の無い育ての親の影響力の元で 抑圧された小心な市民として成長します。 そしてその型にはまった人物像の背後には 他人の目には見えない黒々とした狂気が渦巻いている。 主人公達の頭上に聳え立つのは 死してなお後支配的な力を持つ育て親。

同じ様な境遇の同じような精神傾向を持つ少年二人は成長した後、 やがて対照的な環境の中で全く異なる人生の展開を迎えます。 彼が道を踏み外して自分の人生を台無しにしてしまわないように 今でも彼の鉤爪を押さえ付けている存在のおかげで ほとんど自らの衝動をコントロールするのに 成功しているかのように見えた 生真面目な英国小市民アーサーは、 その「守護天使」を失う事により 衆人監視の都会の中で破滅へと転落してゆきました。

一方、広い一軒家に住む寡黙な米国人で 全米を震撼させる悪鬼「噛み付き魔」は 卑小(と信じている)な自分が美しい娘に愛される事によって かって自分を押さえ付けていた強大な支配者を打ち負かし 一体化して、自らが力に満ちあふれたモンスター 「レッド・ドラゴン」に脱皮します。

対峙するFBI捜査官は残忍で華々しい悪のヒーローを阻止できるのか? 本作ではまだあまり洗練されていませんが、 次回作でブレイクするレクター博士、クロフォード捜査官も 脇役で登場しています。 (ナルシア)


『レッド・ドラゴン』 著者:トマス・ハリス / 出版社:ハヤカワ文庫

お天気猫や

-- 2001年11月07日(水) --

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『台所のマリアさま』

ゴッデンの珠玉作。 舞台はちょっと昔のロンドン! それだけでもわくわくする。 読み進むにつれて、主人公の少年と一緒に、 だれもが「創造」の火花と妙味を味わってゆくだろう。

グレゴリー少年は、妹と一緒に、ある決意をする。 お金では買えないものを、大事な人にあげるのだ。 戦争で故国を追われたウクライナ人のお手伝い、 'かけがえのない'マルタの安らぎのために。

グレゴリーは成績は良いのだが感受性が強すぎ、他人が苦手。 自分を持て余してすぐ内にひきこもってしまう。 そんな少年が、決意を実行に移すことで、 気付かぬうちに、外へと、その豊かさを輝かせる。 ほんのひとつの決心が、人を変えるのだ。

私は、子ども時代に、誰かのために自分の大事なものをあげたり、 引き換えにする決意をしたことがあっただろうか。 そういう必要がたまたまなかったのかもしれないが、 しかし、グレゴリーほど大きな犠牲を払った憶えはない。 それは残念なことである。

ものをつくりだす喜びは──そう、 そちらの方は多少なりとも経験していた。 絵を描く時も、お話を書く時も、音楽でもそれは同じだ。 そんな創造のパズルを、ゴッデンはみごとな モチーフに置き換えて読む者を引き込む。

大好きな人に、大好きと言えない。 欲しいものを、欲しいと言えない。 回りのことはよく見えるけれど、自分のことは あまりよく知らない。 やさしさが思いやりだと知っている。 妥協を知らず、勇気のある… 言い出したらテコでもきかない!

そういう根っこを持っている人のために、 そういう人によって書かれた物語である。 (マーズ)


『台所のマリアさま』 著者:ルーマー・ゴッデン / 絵:C・バーカー / 訳:猪熊葉子 / 出版社:評論社

お天気猫や

-- 2001年11月06日(火) --

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『わが目の悪魔』

11月5日は「ガイ・フォークス・デイ」。 中学生の時にクリスティーのミステリの中で 初めてこの英国の子供のお祭りを知ったとき、 四百年前の実在の犯罪者の人形を作って燃やすなんて とんでもない風習があるもんだな、と驚いた覚えがあります。

アメリカのハロウィンほど、目にする機会の多くない ガイ・フォークス・デイの印象的な場面と言ったら 英国犯罪小説の女王、ルース・レンデルの初期作品 『わが目の悪魔』の焚き火パーティーでしょうか。 通勤人が家路につく冷え込む夕暮れ時、 ロンドンのごちゃごちゃした町中の空き地に群がる 子供達と地元の大人、テーブルと簡単なごちそう、 期待に満ちた人々が見守る中で燃え上がるガイ人形。

心の平安をもたらしてくれる「守護天使」の失われた夜。 小心で狡猾な「ケンボーンの絞殺魔」は 再び暗闇に生まれ出ます。 常時隣近所の視線に晒される狭苦しいロンドンのアパートで 神経を尖らせ息を顰めて暮らす犯罪者のサスペンスと破局。 逃れられぬ殺人の衝動より、正体が暴かれる恐怖より、 ガイ・フォークス・デイの炎が一番恐ろしかった物語。 (ナルシア)


『わが目の悪魔』 著者:ルース・レンデル / 出版社:角川文庫

お天気猫や

-- 2001年11月05日(月) --

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『夜の翼』

☆感傷に満ちた私たちの未来。

ヴォンダ・マッキンタイアの『夢の蛇』を読み、 それからしばらくして、 ロバート・シルヴァーバーグの『夜の翼』を読んだ。

どちらも、 文明が崩壊した後の、未来の地球が舞台だ。 自らの愚かさで、滅びた文明社会。 中世的な社会へと後退した、我らが未来。

SFというと、 今まで、どんな物語を読んできたのだろう? 私は長らく、SFが苦手で、 今も、好きだとは、言い切れない。

シビアでビターな読後感。 私が見る未来の物語に、いつも共通している。 私が、そういうチョイスをしているのだろうが、 いつもそうだ。 多分、そういう物語を拒みながらも、 一方では、惹かれ続けているのだろう。

この2冊を同時に語るのは、 乱暴だが、どちらも未来は過酷だが、 そのどちらにも、 ささやかに個人的であるかもしれないが、 救いのある物語であった。

『夜の翼』に描かれる未来は、 自ら無惨に崩壊させてしまった文明の残滓の中、 愚かなまでの残酷さが生み出した異形の生き物と、 管理されたギルドに生きる人間たちが、 さらなる人類の危機と対峙している。 過去の傲慢が招き寄せた宇宙からの侵略者の影。

『夜の翼』は、 確かに、感傷的で冷めた美しさを感じさせる。 感傷は多分、ゆるやかに滅びていく世界に対してであり、 物語の主人公である、老いた<監視者>の人生への感傷そのもの。

物語に救いがあるにもかかわらず、 読み終わったその夜、 近頃見なかったような悪夢を見た。 夢の内容はほとんど覚えていないのに、 恐怖や嫌悪感だけは奇妙に生々しい。 悪夢につきもののリアルさ。

なぜ、こんなにも読後感が悪かったのだろう。 読み終わった後。 悪夢を見た後。 他の本を読みながら。 『夜の翼』を振り返る。 世界の"乾き"が私の心をざらつかせたのかもしれない。(シィアル)


『夜の翼』 著者:ロバート・シルヴァーバーグ / 訳:佐藤高子 / 出版社:ハヤカワ文庫

お天気猫や

-- 2001年11月02日(金) --

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☆映画館でみつけるペーパー。

映画館の販促用ペーパー類がおもしろい。 『コレリ大尉のマンドリン』でもらった フリーペーパーといい、 『ハリー・ポッターと賢者の石』の 映画版攻略ガイドといい。

こちらの攻略ガイドは、ロードショー公開前に別の映画を 観にいったときに、ロビーでもらってきたもの。 主な登場人物はもちろん、 ストーリーや見どころを紹介している。

A5サイズにたたまれた、両面カラー、18ページにもなる読み物。 これだけあると、情報量もハンパでない。 ハリポタを読んだ人にはイメージとのズレを埋め、 知らない人には興味を抱かせるにじゅうぶんな内容。 かつ、軽量コンパクトなので、 友達にも教えてあげやすい。 これを読んだら、皆を誘って、ハリーに会いに行こう!となる。

こういうSPツールの共通点は、 「手を抜かない」ことのようだ。 ここでこれだけやってしまうと、パンフレットは どうなるの?と思わせるくらい、ちゃんとしたつくり。 そういえば、『ショコラ』のは、明治製菓が協賛していて、 おいしいホットチョコレートの作り方なんかも載っていた。 とにかく、寒い心をあっためてくれそうな、 おいしい感じがにじみ出ていた。

ある意味、公式パンフレットよりも、 その映画の真髄を端的にとらえていることが、 こうした「客を呼ぶ」SPツールの成功のポイントだろう。

田舎なのであまり眼にふれないだけで、 ペーパー以外にもいろんな形態があるだろうし、 面白い協賛が入ったら、おまけだってつくだろう。

もちろん、おなじみA4サイズのチラシもロビーには置いてある。 いいものは持って帰るけれど、 あれはけっこうバッグからはみ出る。 折りたたむのはしのびなかったりする。 持って帰ってもらえる割合からいえば、 この『映画版攻略ガイド』には負けてしまいそうだ。

こういう遊びごころのあるツールは、 仲間を誘うにはもってこいだし、実際見ていると楽しい -つくっているほうも楽しんでいるように見える- ので、映画会社の説得に負けて、映画館に足を運ぶのである。 (マーズ)

お天気猫や

-- 2001年11月01日(木) --

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『淀川長治のシネマトーク』

☆秋の夜長、お家で映画を見よう。

映画はやっぱり映画館で見たいよね。 でも、そうは言っても、遅くまで仕事をして、 ボロボロに疲れた身体を引きずって 映画館まで行って、2時間じっと座っているのは かなりつらかったりする。

だからこそ、大急ぎで家に帰って、 雑事をモーレツに片づけて、 あったかい飲み物を片手に、 ゆったりと一息つきたい。 さあこれから、大好きな映画を見ようよ。

そう、これから、ビデオを見よう。 でも、ところで、いったい何を?

そんな時、傍らに『淀川長治のシネマトーク』があるとなかなか便利で、 心強かったりする。 故淀川氏がanan誌上に連載していた映画のコラムをまとめたものであるが、 あの語り口のままに195本の映画が紹介されている。 この本で取り上げられた映画は、 16章(16項目)に分類・整理されているので、 そのときの気分で、「この1本」を選ぶことができる。

パラパラと頁をめくりながら、 何か今の気分にあった映画がないかと、 時間の谷間を埋めていく。

必ずしも、私の嗜好と この本に取り上げられている映画の好みが一致するわけではないが、 映画の嗜好が違うからこそ、 普段なら絶対見ないような映画から、 思いも寄らない「当たり」の映画が見つかったりする。

だから、この本がおもしろいのだ。

ただ、残念なのは、 淀川氏が1998年11月11日にお亡くなりになっているので、 ここで取り上げられているのは、 それ以前の映画である。 次々と無数に生まれてくる映画の中で、 さて、何を見るべきか。 私は何を見たいのだろうと思っても、 情報が多すぎて、自分の好みも分からなくなる。

こんな時、淀川氏のアドバイスを聞くことができないのは、 とても残念で、ちょっと寂しくなってくる。 (シィアル)


『淀川長治のシネマトーク』 著者:淀川長治 / 出版社: マガジンハウス

2000年11月01日(水) ♪ Information ♪

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管理者:お天気猫や
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