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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2000年11月30日(木) --

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『裏庭』

それぞれに与えられた名前は とても大事なもので、 ひとが自分をどう呼ぶか、 それは私たちが思っている以上に 『裏庭』の世界では特別なことだった。

ほんとうの名前。 わたしはいつも自分の名前に違和感を 感じながら生きてきた。 ずいぶん大人になってから、ネットのおかげで 自分で自分に第二の名を与え、 むしろ現実の世界で使われる面倒な名前よりも 自分らしさを短くあらわした(つもりの) ハンドルネームのほうが、 なじみになっていたりする。 声を出してハンドルで呼ばれることは現実には まずないのだが、この名前が思った以上に 自分の何かを表しているのだなぁと つくづく思うのである。 そして、第二の名前の影響か、他者に与えられた名も 今また、胸のなかで存在を主張しはじめている。

裏庭は大きな作品だ。 生まれながらに独特の空気をはっきりと持つ作品。 少女照美が「裏庭」という異世界へ冒険の旅に出る。 その世界や照美とつながった人々の 内側の世界もまた変わってゆく。 宇宙のなりたちまでがそこに息づき、 救われるのを待っている…

大人の心でこれを読むならば、 照美の経験する冒険や苦しみから 学ばねばならないことがある。 あえて、それは読む者の義務だと言おう。 身近な人間どうしにとって なによりも必要なことは、 わかりやすくあたたかいシグナルのやりとりなのだと。 それさえあれば、大人も子どもも生きてゆけるのだ。 そういうことがとても苦手な人にとっても、 このシグナルは魅力的なものだから。

裏庭の世界は浄化を通して教えてくれる。 どんなかたちにしろ、名前(いのち)あるものは シグナルを出すことでしか おたがいにわかりあえないのだという シンプルなことを。(マーズ)


『裏庭』 著者:梨木香歩 / 出版社:理論社

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