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英国ミステリ界の最も重厚なクリーム、とでも 呼びたいP・D・ジェイムズ。 アダム・ダルグリッシュ警視が解き明かす 看護婦養成所を舞台にした殺人事件の ストーリーよりも何よりも、 ジェイムズにしか描けない、 灰色の重くたれこめる空の下、愛憎なかばにして 生きる目的を失ったかのような 人々の群の心理描写。
個性というのは、やっかいなものだ。 やっかいでわがままで、自己主張する。 でなければ他と区別もできないだろうから。 他より抜きん出て目立つという意味では、 ジェイムズの築いた城は、地味でありながら、 扉を開けた者をいっこうに外に出してくれない砦である。 女王と紳士の英国はときに、こんなにも重い。
ああ、これで殺人さえ起こらなければ、 とジェイムズの世界に分け入るたびに 私はひとりごちる。
濃厚な虚構を味わいたいという日に、 日没を過ぎても読み終わらぬ頼もしい嵩がほしいときに。 そしてまたそういう日の後に来る長い夜に、 女王のミステリに酔ってみたいならば、 どうぞ。(M)
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管理者:お天気猫や
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