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2015年07月27日(月)
フジその他

・今年はホワイト当たりが多かったなー。年によってはホワイト全く観ないときもあるのだが
・帰宅後いろいろ見てまわってみたら「グリーンの音量あがった?」って言ってるひと結構いるなあ。エリア入るなり音でかっ! と感じたのはあながち気のせいではなかったか。それでいて音がいいってのがすごいよね
・WILKO JOHNSON(おかえり!)、OWL CITY、ASH、GALACTIC featuring MACY GRAY 、Räfvenを逃したのは痛恨でございます…ハピマンもなー。ASHとブンブン丸被りなのは悲しかったわ。あとは体力の問題だが、宿が越後湯沢だとシャトルバスの最終便とか帰ってからのあれこれとか、限界があるねん……

・ボランティアが減ったらしく、スタッフも例年より少数。しかしそのひとたちらがいい仕事してました。土曜日のシャトルバス待ちの列を「少しでも日陰にいられる時間を長く」と工夫してくれつつ、自分は炎天下にいっぱなしで水撒いてくれたり
・そうそうシャトルバス、今年から往路のみ有料になりましてん。まあこれは別にいいかな。スタッフさんたちにいい形で還元されるといいな
・そんなこんなで? 入場時の荷物検査やエリア間リストバンドチェックもなし。土曜日はやっぱりひと多かったんだけど、特にトラブルは目にしませんでしたよ
・しかしひとつ、グリーン〜OASISの誘導はいた方がいい! ヘッドライナー終了後の混雑がすごくて、流されてしまって全然見当違いのとこに出たよ……あれはちょっと危ないな
・OASISへの橋が一本なくなったのが痛いなー。豪雨で岸が削られて以前の橋はもう架けられないとかで…なんとか改善出来ないものか。それこそ崖から転落するひととか出そう

・今年もいろいろ楽しい客を見られた。デビルマンとか。全身塗ってたので雨降らなくてよかったね…って、このひとと言いねずみと言い、宿で準備してくるのかな、それともキャンプのひとでテントで仕込んでくるのかしら
・そうそうオレンジ跡地、フットサル場もあったわ(笑)

・Tシャツは、土曜:FFですしと(?)アラジョことAlain Johannes、土曜日:また出てね祈願でmouse on the keys、日曜(帰宅):DE DE MOUSEでございました

・ワールドレストランのパエリヤ、朝霧食堂のシチュー丼は恒例。朝霧食堂コーヒーもドリップで淹れてて旨かった。もちぶたそんなに並ばず買えた。ルヴァンのチーズはリピート必至。新規ではFOHにあった油揚げ焼きアボカドチーズのせ、OASISの海老油そばもおいしかった〜
・そうそうオレンジ跡地にベン&ジェリーがあったの!『ザ・タウン』を観て以来すっかりお気に入り、ぎゃーっとすっとんで行きました

・OASISのおにぎりと豚汁、クロワッサンソフトの店がなくなっていた…おにぎりは拘りなのかおにぎり要員(マスター?)がひとりで大変そうだったもんなあ。でもおいしかったのに〜毎回楽しみにしてたのに〜
・あと場外のナポリタンが気になったが(うまかったという書き込みを結構見た)、ここでごはん食べることってほぼないんだよね…場外だけに
・象印のお茶サービスは常駐になったのかな? しかし今年は水筒を忘れたのであった



2015年07月26日(日)
『FUJI ROCK FESTIVAL '15』2日目

土曜のとこにFFのこと書いちゃったので1日日付がずれてます。

天気がよくなり暑くなり、そしてシャトルバスが長蛇の列。あ〜例年って感じになった…すっかり出遅れ。

■上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト(GREEN STAGE)
グリーン入る寸前に「ありがとうー!」と終わった(泣)。

■KEMURI(WHITE STAGE)
通りすがりにちょっと観たくらいでしたがすごい盛り上がり、しばし足を止めて観入る。レピッシュからの流れで初期はよく聴いたけど、ホーンめちゃ巧くなってないですか。フミオくんはいつもいい顔してる。そしてホワイトやっぱ音がいい!

■ハンバート ハンバート(FIELD OF HEAVEN)
お昼なぞ食べつつのんびりと。「ミサワ〜ホ〜ム〜♪」が生で聴けた! 美しいハーモニー! 三回も「ミサワ〜ホ〜ム〜♪」と繰り返してくれた! おしゃべりもほんわりゆる〜く、楽しいひととき。なごんだ。

■twenty one pilots(WHITE STAGE)
こーれーはーすごかった! 今回のめっけもん。話題になっていることは知っていたが、やはり百聞は一見に如かずだなと実感した。ピアノヴォーカルとドラムのデュオ、単音連打でグイグイアゲる。若いスパークスみたいだな、これは惹かれる……と思いきや、いきなり「No Woman No Cry」をぶっこんできてレゲエのリズムにガラリと変える。バックグラウンドが見えないと言うか、若さ故の貪欲な雑食か? これは面白い!
ジェイミー・カラムしかり矢野顕子しかり、フェスにグランドピアノ持ち込んでくる連中にハズれないなー。しかもそのピアノによじのぼってジャンプ連発。楽器と演奏の様相にギャップがあるところもいい。そしてこの画像にも片鱗が見えますが、結構仕込みしてきてんですよこのひとら。曲ごとにマスク被ったりクラウドの上にフロアタム持ち込んで叩いたり。ふたりともグッドルッキング、仕草もいちいちサマになる。ドラムの子の紅を差したアイメイクもかわいい。
終始踊って唄って走りまわっていたヴォーカルの子がステージ袖に走って行ったかと思うと、日本語出来るらしいスタッフに何か言っている。そして「合図を出したら肩車(実際はもっと直接的な…後ろのひとを担いで肩に乗せちゃって! みたいなニュアンスだった)しちゃって!」と通訳させる。この流れでそんなこと言われたらそりゃ元気なひとらはやっちゃうよね〜肩車するなって決まりないしさ〜(笑)と言う訳でエラいことになっていたようです。ここらへんトイレに並び乍ら(…)観てて、丁度ここで順番が来ちゃったんだよ…ハイライトを見逃したようで無念であった。
ヴォーカルくんはずっとハイテンションで、しまいにはステージを走り出て機材車の上によじ登り観客を眺めてドヤ顔。そりゃこんだけ満杯の客が盛り上がれば得意満面にもなろうよ。曲終了後いそいそハシゴを降りていく様子に爆笑。
帰宅後慌ててプロフィールを調べる。コロンバスの子たちであった。あ〜これは今後チェックする!

■星野源(GREEN STAGE)
このときは結構過ごしやすい曇りになっていて、とても気持ちよく聴けました。「青空が見える!」と星野くん。ステージから見える森の向こうは晴れていたようです。
SAKEROCKではROOKIE A GO-GOからのスタート、ソロは苗場食堂からでした。10年以上お世話になってる。遂にグリーンステージです! と感慨深げ。その間にいろいろありましたしね。元気でまたここに来れて本当によかった。名残惜しくも30分程で移動。

■岡村靖幸(RED MARQUEE)
入場時は椅子だらけで、後ろは空き気味だったんです。ところが終わってみれば歩けども歩けどもひとだらけで外に出られないってくらい満杯! 盛り上がりとしては2007年のOCS一昨年のHURTSくらいの凄まじさでした。
うっかり中途半端な前に行ってしまったことを後悔した…始まった途端に押され流され、視界が殆どなくなってしまったヨー。レッドはステージ低いし、グリーンのように傾斜もないから見晴らしが悪いのだ。岡村ちゃんの姿が見えたのは全部で2〜3分か…しかしあの場にいられたって幸福感はかなりのもの。最初っから最後迄フルでシンガロング、曲間も「待ってたよ!」「岡村ちゃん!」「靖幸ーーー!!!」とずーーーーーっと声が飛んでる。待望、本当に待望だったんだな。このひともいろいろありましたからね…私も観たのはいつ以来だろう、十年は経ってるよなー。十数年の間に岡村ちゃんの気持ちをを代弁する影の声を担当するスタッフさんと言う方が出来たんですね。ファンには周知のようで歓迎されてました。確かにこれはいい(笑)。
それにしても声もダンスのキレも(ちょっとだけ見えた)変わらないな…いやむしろ若返っているのではないか。ヘルシーになったのはいいことです! 今年五十歳なんだよね、すごいな…とここでふと思い出す。岡村ちゃんと吉川先生と尾崎豊は歳も一緒でデビューも近かったのでよく一緒に遊んだって話がこの世代として刷り込みであるんですが……てことは吉川先生も五十か! 前日観たアスリートのような姿を思い出してヒェーッとなる。そして尾崎は生きてたらどんなだったかな、とちょっとせつなくなった。
といろんなことが頭を巡り…巡ってる割にはずっと唄い(この歌詞が染み付いてるってとこも若いときに聴いた刷り込み効果だな)、笑ったり泣いたり忙しかった。「だいすき」で大団円、感極まって崩折れるお兄さんや嬌声をあげるお姉さん。終わったあとの高揚感は、夜通し遊んでクラブを出るときのような寂しさも。
いやー次はグリーンでお願いしますよマジで。
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セットリスト
01. 岡村とTシャツとワイシャツ(新時代思想)
02. どぉなっちゃってんだよ
03. カルアミルク
04. 愛はおしゃれじゃない
05. ビバナミダ
06. アチチチ
07. Vegetable
08. 聖書
09. いじわる
10. あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう
11. だいすき
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■deadmau5(GREEN STAGE)
半ば呆然としたままグリーンへ。『グロースターの仕たて屋』とか好きなので(ねずみがこまごまがんばる話に弱い)デッドマウスが懸命に働いているのを見て涙ぐんだ。堅実さを感じたなー。硬派でもある、格好いい! かなりバキバキなんだがミニマルぽさもあった。終わったあと近くにいた男性ふたりが「ストイックだったな」「『がんばる!』って感じだったな、ヘンに力んで盛り上げようとしてなくて俺は好き」と言ってて、無言で頷いたわー。フェスには地味だったと言うひともいるかもしれないが私は好きだったぞ。
最後は被りものをとって卓にそっと起きました。ねずみがジョエルに戻った!「さよならの向こう側」を唄い終え白いマイクを置く山口百恵のよう!(わかる世代が限られるたとえ)あ、あいらしい……。
そうそう、何がすごかったって、このねずみ頭手づくりして被ってたひと(こんな感じ。私が観たのとは別のねずみだが…別がいたってことは、複数いたってことよね……)がいたことよな…しかもすごくよく出来てる。雨降らなくてよかったね。

■MUSE(GREEN STAGE)
数曲聴いた。音、太っ!

■栗コーダー&ビューティフルハミングバード(苗場食堂)
ビューティフルハミングバードの小池光子さんがグリーンMUSEの轟音に合わせて踊ったり「負けないぞっ」と言ったり、和んだ。まあ場所柄仕方ないので、ここは毒付くより笑いに持ってく方が楽しめますな。関島さんもお元気そうで何より。

てな感じでのんびり終了〜。おつかれさまでした!



2015年07月25日(土)
『FUJI ROCK FESTIVAL '15』1日目 その2

いよいよヘッドライナー、FOO FIGHTERS! 単独は初来日から欠かさず行っていたけど、フェスで観るのは確か第一回のフジ以来です…シェー! 当時のライヴ映像見付けたんでおいとく。ようこんなとこにいたなあ自分(流石に怖くて前方には行かなかったよ)。


・Foo Fighters - Everlong|Fuji Rock Festival 1997

備忘録として書いておく。スウェーデンでのライヴ中、デイヴがステージから転落し右脚を脱臼+骨折する事故が起こったのが6月12日。YouTubeで「Dave Grohl Breaks Leg」とか「Dave broken leg」とかのワードで検索するとそのときの様子がザクザク出てきます…う〜んモバイル時代。その後グラストンベリーフェスと欧州ツアーのキャンセルが発表されました。そうそう、グラスト代役のフローレンス・ザ・マシーンへFFが送ったメッセージと、それを受けたフローレンスのこれにはシビれたなー。キャンセルについて、デイヴは声明文を出しました。

・operation | message from Dave | FOO FIGHTERS
・全文訳|中村明美の「ニューヨーク通信」RO69

フジは一ヶ月半後だしなんとかなるかな…でも無理はしないでほしい……と心配な日々が過ぎました。七月に入りツアーは『Break A Leg Tour』と題され再開、デイヴは特製椅子で登場との報が伝わって来たときにはもう腹がよじれましたよね…転んでもただでは起きない面目躍如です。イメージとしてはこの椅子、これだよね……。

そうすると今度は「これ日本に持ってきてくれんのかな、極東ツアーなんて遠いし簡易セットとかにされちゃったりしてなー」なんて卑屈になってくる。三年前のうやむやキャンセルの件も思い出されてな……。しかしデイヴはそんなちっちゃい人間ではなかった、kaollyさんも言ってたけど上司にしたいナンバー1ミュージシャン。阿羅漢だわーッ益荒男だわーッ!!!

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■FOO FIGHTERS(GREEN STAGE)

グリーンへ着くと巨大なバックドロップでステージが覆われている。幕の形状からしてあの椅子があると判る。中央には花道、あれ可動式だったんかい! デイヴの体調は、どんなセットで来るのかと言う不安もあれど、あの椅子が観られる〜てのが楽しみでニヤニヤしてしまいますよ…やがてギターのノイズが起こり、デイヴのスクリームが聴こえてきた。どよめきが地響きのように起こる、ひとの圧がぐっと上がる。ぎゃー、来てる、ホントに来てるよ、七年振りだよ。そして聴こえてきたのは「Everlong」のリフ。大歓声とともに幕が上がる。

そーなのよ、幕。落ちるんじゃなくて文字通り上がったのよ。考えてみれば落としたら後片付けが大変だもんね……それにしてもこのバックドロップが舞い上がる瞬間の光景、忘れられない。しかもなんて言うか、普通に考えるような上がり方じゃなかったんだよね…私の文章力では説明出来ないので、ここぞとばかりにじゃんじゃん動画を張ってみよ〜。ああ何度観ても涙ぐむ。


・Fuji Rock Festival 2015@Foo fighters Everlong
私がいた位置といちばん近い。と言うか自分の声が入っているような気がする(笑)「待ってたよ〜」って言ったひと近くにいたしなあ


・Foo Fighters - Everlong (Live at Fuji Rock Festival Japan 24 July 2015)
これはもうちょっと前から


・Foo Fighters Everlong @ Fuji Rock Festival 2015
遠いけど安定してる


・Foo Fighters - Everlong FUJIROCK2015
これは近い! が、手ブレが酷い。が、終盤花道に出てくる様子がよく見える。ロボっぽい(笑)

デイヴがホントにここにいるってことに笑い、あの椅子の本物が見られたってことに笑い、そこにデイヴが座ってる図がおかしくて笑い。そしてモニターにテイラーが大映しになった瞬間また笑う。法被を! 着ている! しかもその法被、「ソニーは、ハイレゾ」とか書いてある。そんでめっちゃ扇風機で風送ってるから(暑さ対策のためドラマーに扇風機を当てるのはよくあることだが)髪がぶわー〜と四方八方に舞っている(参照画像)…なんだこれ……私は今何を見ているんだ。カオスもいいとこです。あ〜FFにテイラーがいてくれてホントによかった〜と思える一瞬でしたわ。

「Monkey Wrench」「Learn to Fly」とたたみかけられ阿鼻叫喚。てかその脚で「Learn to Fly」を唄うか! ドラマティック過ぎるだろう!! 笑ったり泣いたり忙しいわ!!! この辺りでようやっと全体を把握、メンバー5人にサポート(key)のラミ・ジャフィを加えた6人編成ですね。椅子が可動式なのは花道へ進んで盛り上げるって演出もあるけど、演奏のタイミングを合わせるためクリスへ近付くことにも役立っているようでした。しかしこのロボ感…帰宅後twitter見てたら「タイムショックを彷彿とさせる」と書いてるひとが結構いて笑った笑った。

「信じられるか? 七年振りだーーー!!!」デイヴが叫び、唄い、そして喋る。そらもうよく喋る。いつものことだが、意識的にゆっくりわかりやすく喋ってくれてると思う。ひととのコミュニケーションをとてもだいじにしてる、その分ひとに、その何倍も自分に厳しいのだと思う。この日も客を甘やかさない(笑)アゲっぷりが素晴らしい、「FUJI!」「Are You Ready?」と叫び乍ら腕を伸ばす。デイヴ先生こんだけがんばってはるんだからわたしらが盛り上げな! と言う気になります、やっぱ理想の上司…「The Pretender」(スクリーンにあのMVも流れてもー格好いいのなんの)では「I Wanna Dance!」と立ち上がってしまう。「クララが立ったーーー!!!」ばりに盛り上がる観客、もうホント笑ったり泣いたり忙しい。

そして骨折、手術、椅子が作られる迄の弾き語り漫談が始まります。いやマジで漫談の趣よ…こんな感じで映像解説付き。落ちた瞬間の映像とか三回もリピートすんの。その直後に心配そうなネイトの表情を映すんだけど、この流れなので「何やってんだアイツ」と思ってるように見えるって言う……これちゃんと構成練ってるな〜、もう尊敬する。レントゲン写真や手術後鼻に酸素チューブが入った状態でニッコリ笑うデイヴの写真には流石に胸を衝かれる思いでしたが、直後「入院中玉座のアイディアを思いついて描いたんだ〜」と言うラフスケッチが映し出され爆笑。これ、これがよくこうなったな……! と言うくらいの絵でしたよ。照明スタッフさんとここに照明付けられる? とか相談し乍ら仕上げていったそうです。デイヴが感謝を述べる。ツアーをキャンセルしたくなかった、続けられるのはクルーのおかげ。そしてそのクルーへのラヴソング、と「Big Me」。バックステージで仕事をしているスタッフたちがスクリーンに映し出される。

クリス、パットと三人で演奏したアコースティックの「My Hero」は美しかった。シンガロングになっているけど静寂を感じる涼やかさ。続いて「Times Like These」の前に「フジは世界一静かなフェスだよね」だって(苦笑)。でもなんて言うのかなあ、そこを「日本人は静かでつまんね」ってんじゃなくて「騒ぐばかりじゃなくてちゃんと演奏を聴いてくれる」と言うふうに捉えてくれているようで嬉しい。「日本でしか出来ないことをやるぜ、ちいさーな声で唄うよ、合唱は禁止! クリスのギターも最小限の音量でね」。合唱になったら「静かにー!」と怒られた(笑)。くすくす笑い乍ら聴き入る。デイヴのスウィート、メロウな側面が感じられる二曲だった。ちょうポジティヴで、逆境を笑いに転じようとする。それでも迷う、悩む、揺れる。楽曲としてぽろりと零れるその思い、その正直さに感銘を受ける。

骨折直後ライヴを続行すると決めたとき、「怯んでいたのは(応急処置をしたヨハンではなく)自分だったのかも知れない」と、声明文に書いたデイヴ。彼がひたすらスクリームするのは、自分を奮い立たせるためなのかも知れない。でも、その姿にこちらも勇気付けられるのだ。そんな彼こそがマイ・ヒーローだと思うひとは多い。

再びアッパーセット、ギブスでフィードバックノイズを出したり椅子の上で暴れたり。本当は走りたいんだろうなあ、もどかしいんだろうなあと思いつつ、その姿すらも晒してエンタメにするデイヴには頭が下がる。観ているときはこちらもひたすら楽しんでいたが、本当にすごいことだと言う実感が日に日に強くなる。ここ迄やる? ここ迄やるのだ。バンドは二十周年だ。このメンバーに固まる迄紆余曲折あった。そもそもバンドが誕生した状況も特殊だった。ネイトとクリスは縁の下の力持ち、パットはバンドの守り神で、そしてデイヴと一緒にはっちゃけられるテイラー。この五人のFOO FIGHTERSだから、ここ迄やれるのだ。胸がいっぱいになる。ジャフィにも感謝。

「Best Of You」は大合唱になった。ああ、もう終わってしまう。でも無理はさせられない。ホントにホントに待っていた。来てくれて有難う、FFを、デイヴを好きでよかった。

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セットリスト
01. Everlong
02. Monkey Wrench
03. Learn to Fly
04. Something From Nothing
05. The Pretender
06. Big Me
07. Congregation
08. Walk
09. Band Introduction(I’m the One – Van Halen cover 〜 Another One Bites the Dust – Queen cover 〜 School’s Out – Alice Cooper cover)
10. Cold Day in the Sun
11. My Hero(Acoustic)
12. Times Like These(Acoustic)
13. Under Pressure(Queen & David Bowie cover)
14. All My Life
15. Outside
16. Breakout
17. Best Of You
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サイトによって「『Walk』『These Days』『This Is a Call』はセットリストにはあったが時間の都合で演奏しなかった」とありますが「Walk」はやりました。あと「School's Out(Alice Cooper cover)」もやったよー(メンバー紹介のときだったとのこと。もう記憶が曖昧……)
20150805追記:Qetic掲載のセットリストをもとに追加修正しました(でもQeticさん「Best Of You」が抜けてるで……)
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その他。

・1997年のフジ話もしてた。雨男返上かな? よいコンディションで観られてホントよかったなー
・吸う呑むパットいつもの笑顔。デイヴに「パット時差ボケなんだよなー、パット起きろー! ステージで寝てんじゃねえ!」とツッコまれる
・「Breakout」でMWAMのおおかみさん(ジャンケンジョニー)が出てきて盛り上げる。ふいうちだったんで驚いた

・日曜日のヘッドライナー、ノエル・ギャラガーに「『Hi』ってデイヴが言ってたって伝えといて」だって。その後「Dave says Hi」と復唱させる(笑)。それを聞いたらしいノエル、ちゃんと自分のステージで「デイヴってやつが『Hi』って言ってたって? で、デイヴ・グロールって誰? 日本人?」と言ったそう。誰もグロール言うてないのに(笑)ノエル兄さん期待を裏切らない
・その後のノエルのコメント
「なんで骨折してるのにツアー続けてるんだ? ばかじゃねえの?」「カミさんはなんて言ってるんだ?」「安静にしててほしいよ、休めよ」ノエルいいやつ……

・フー・ファイターズのTシャツが当たるtwitterキャンペーンがスタート! | Sony Music
骨折Tシャツが当たるらしいです(笑)会場では即完だったそうで、自分は帰宅後通販で買いました(こっちな。レントゲンのは着るには…どうも……)。会場で買えたら日本と韓国の日付入りだったんだけどねー
・…って、今(7/31)ショップ見たらレントゲンTシャツ入荷待ちになってる。売れてるのね(笑)

・【ライブレポート】フー・ファイターズ@フジロック2015、2時間にも及ぶ大熱演 | Foo Fighters | BARKS音楽ニュース
・FOO FIGHTERS(1)|FUJIROCK EXPRESS '15
・FOO FIGHTERS(2)|FUJIROCK EXPRESS '15
具体的なことはこっちを読むとよいですよー。
expのフォトレポートすごくよいな! (2)の二枚目、件のバックドロップが舞い上がった瞬間なんてすごく綺麗。iPadの待受画面にしてしまった

・フーファイ、骨折デイブは椅子で熱唱 フジロック開幕:朝日新聞デジタル
朝日の記事に載った記念〜

(20150807追記)
・Ross Halfin - July 2015
ロックフォトグラファー、ロス・ハルフィンの写真日記。越後湯沢駅にいるデイヴとかレア〜(笑)
・FOO FIGHTERS @ FUJI ROCK FESTIVAL '15 PHOTO REPORT | A-FILES -alternative street culture web magazine-
これまたいい写真満載。どっから撮っても絵になるなあ、このオープニング!
・FUJI ROCK 2015 DAY 1 | NUMAG
これもよい〜


・Foo Fighters at Fuji Rock Festival '15
音のみですがフルレングスあったぜー。やー今回は久々にブート探そうと思っていたよ



2015年07月24日(金)
『FUJI ROCK FESTIVAL '15』1日目 その1

二年振り、今年は金土参加。いやーこんなに快適だったの初めてですわ、特に金曜日。天気は終日曇り、雨もちょっとだけでそれも合羽着ないで済む程度、そして何よりこれ、涼しい! 夏を憎む程暑いの苦手な人間にはひっじょーに喜ばしい。あまりにも快適だったのであまりにものんびりした。なんか延々食べてた気がする…暑くないからよく動くし、お腹も空くんですよね。例年は暑過ぎてアイスよりもかき氷に行ってしまうんだけど、今年はアイスクリームも食べられた。

恒例高崎観音を横目に越後湯沢到着、シャトルバスにもすんなり乗れました。

■ROUTE 17 Rock'n'Roll ORCHESTRA(GREEN STAGE)
終盤だったけど間に合った、池畑潤二とその仲間たちの苗場限定バンド。ゲストが泉谷しげる、仲井戸“CHABO”麗市、吉川晃司、トータス松本と言う……いーやー吉川晃司先生を苗場で観られましたよ。お、お素敵…なんでも「BE MY BABY」唄ったそうで、それに間に合わなかったのは無念でございます。キヨシローリスペクトの「サマータイムブルース」を唄う吉川先生、トータス、泉谷と言う貴重なものを観られた。腕立て伏せ合戦をする泉谷と吉川先生と言う貴重なものも観られた。ルースターズな面々は承知していたが、タブゾンビや丈青もいたのねー。そしてクリス・ペプラーがステージ上にずっといたのでなんでだ? と思っていたらMC担当だったようです。あんなハイテンションなペプラーさん初めて見た。
そうそうヤマジ観られて嬉しかったわ! スーツだったわ! 最後皆でおじぎするときコーラスのお姉さんと手を繋いでる様子がかわいかったわ!

快適なので飲み喰いしつつうろうろうろうろする。最奥に着きましたー。今年はオレンジコートがなくて寂しい。年によってはオレンジとFOHに入り浸りとかあったもんなあ。跡地? にはオレンジの奥にあったSTONED CIRCLEやCafé de Parisがずれてきてたかな。ボウリング場とか出来てて、ここにいつくひとたち用のレジャーが増えてた(笑)。

■BIG WILLIE'S BURLESQUE 'WILLIE GOES REGGAE'(Café de Paris)
ラテン de バーレスク。佳境でストリップダンサーらしきお姉さんが出てきて盛り上がっていたがすごいひとでテントの奥が見えません。野太い歓声があがっております。脱いでくとこはちらちら見えたがブラとったか迄は見えませんでした。続いてポールダンスショウが始まりテントに殺到するひとが増える(笑)。

うろうろうろうろしつつOASIS迄降り、携帯充電コーナーに。携帯不携帯の私は日陰休憩です。するとtwitterをチェックしたポンチさんが「今からブンブンがInter FMに出るって!」と言う。えっInter FMのブースどこ?! と飛び出たら隣であった(笑)かなり近くで観覧出来ました。それにしても、いつものことだがメンバーの受け応えがあまりにもあんまりである。「フジには9回出てるそうですね!」と問われても「さっき川島くんとも数えたんだけど〜、どっちも数が合わなかったんですよね〜〜」とか「今日は何観ます?」「これから出番だから観られないし〜〜」とか、ヒドい(笑)DJの方から「このMC殺し!」と言われていました……最終的には川島「僕はカンジくんと奥田民生さんを観ます」、中野「じゃあ僕はフーファイを観ます」yoko「じゃあ私は中野さんとフーファイを観ます」とのこと。「じゃあ」かよ…かなり近くでユルいトークを聴けてラッキーでした。

再びうろうろ、さてブンブンです。

■BOOM BOOM SATELLITES(WHITE STAGE)
新譜からの曲を中心に歌をしっかり聴かせる序盤、おおうこれはフェス仕様では新展開。夕暮れ迫るホワイトに川島さんの声が綺麗に伸びていきます。とても気持ちよい。それにしても低音が!!! エグい!!! えげつない程にエグい!!!!! 服から肌からビリッビリです。見事なのは、そんだけエグい爆音なのに音が割れず、パート毎の音がしっかり聴こえたところ。そして耳が痛くならない。最近あんまり爆音だと耳が痛くなったり耳鳴りが治らなくなったりするので、低音バリバリになったときあーどうしよ耳栓しよっかなー(持ってきてた)と思ったんですが、結局しなくて全然大丈夫だった。終わってからも問題なし。この辺り、ブンブンのライヴPAを長く手がけている佐々木さんの腕がかなり大きいように思います(参考:「ホワイトステージ、脅威の音像の謎に迫る!」〜サウンドエンジニア・佐々木幸生さん サウンドエフェクト・中村宗一郎さん | fujirockers.org)。そこからくる信頼感もあるのでしょう、川島さんも音圧に負けじと力んで唄ったりはしない。それでもしっかりと歌が届く。
そういえばこの日最初にグリーンの音聴いたときも「出音でけー!」と思ったし、この空間でしか聴けない音ってのはあるよなあと思った。フジの音は格別。中野くんはいつものことだがバックトラックの仕込みもかなり変えてきており、構成もかなり緻密。その繊細な音がまた爆音で聴けるっていう…ホント音いいな。
それにしても中野くん…フェスならではのいつものあれだが……「俺の、俺の、俺の、愛、う〜け〜と〜れ〜〜〜〜卍卍卍」なオラオラッぷりが素晴らしかったです。またカメラがいいアングルで撮ってくれてまして、あおりでドカーン! ズダーン! と段差を飛び降りる中野くんのショットがスクリーンに映し出されたときには思わず「おおうかっこいい!」と言いつつ大笑いした。ビョンビョン跳んでる中野くんのショットのあとにちょー真顔の川島さんを映したりと、笑いどころも沢山提供してくれたカメラさん有難う…おそろの衣装も素敵でしたよ、こういうのでハーフパンツってとこに味があった。
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セットリスト
01. A HUNDRED SUNS
02. ONLY BLOOD
03. MORNING AFTER
04. BLIND BIRD
05. EMBRACE
06. NINE
07. FOGBOUND
08. STAIN
09. STAY
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・BOOM BOOM SATELLITES | FUJIROCK EXPRESS
・BOOM BOOM SATELLITES@新潟県湯沢町苗場スキー場 | ROCKの総合情報サイトVif
詳しいレポートはこちらをどうぞ。写真もいいショット満載です。

■MÖTORHEAD(GREEN STAGE)
ブンブン終了後急いでグリーンへ。40周年おめでとうございますですよ極悪レミーですよ!!! またもや音が! デカい!!!!! そんで音がいい!!!!! なんか今年のフジは音の良さを実感することが多かったよ……。もうすごい轟音に音圧、これでトリオかよと腰が抜ける音の太さ。レミーはもうおじいちゃんだし、病気もしてるしよぼよぼでだいぶ痩せたし、声もちょっと弱ってるのね。なのにしっかり歌が届くの。音はちょーハードコアで、ドラムはメタルマナーでハイテクかつパワフル、歌はもはやブルーズ。そして重い。重いのにドラムがもたらない。ミッキーのドラムソロがも〜すんばらしかった。スティックも何十本(比喩ではなく)と飛ばしていた。
最後金髪の少年が出てきてメンバーにかわいがられていた。「レミーの子? 孫?」と周囲で話題になる(笑)確かにどっちもいけますな。実際にはミッキーの息子さんだったようで、言われてみれば似ていた。極悪な音とは裏腹に観客の愛をヒシヒシ感じる微笑ましいエンディング。
それにしてもなー、フーファイのデイヴ飛び入りしたかったろうなあ。流れとしても理想的だったじゃないの。怪我さえしてなければね……。
そういえばこの日いちばん見たバンドTシャツはモタへでしたよ。いっかついちょーバイカーな感じの全身スミ入れたような気合い入りまくりのマッチョからちょーかわいい女の子迄幅広い。私もライヴ後Tシャツほしくなった…ファッションからして生き様が滲み出るレミー、カリスマアイコン!

■MANNISH BOYS(RED MARQUEE)
ちょっとだけ観ました。斉藤さんも達也さんも楽しそう。完全デュオだと思っていたらサポートがいた、堀江さんだったらしいが見えなかった。
そう、レッドってステージ高くないしひとがいっぱい入ると見えなくなるんだよね…明日の岡村ちゃんが不安になる(そしてその予感は的中する)。
フーファイのため場を離れたとき、シナロケのカヴァー「You May Dream」が聴こえてきた。斉藤さんの声はエモーショナルだった。

さてトリのフーファイに関しては長くなるんでとりあえずここでいったんアップ。



2015年07月16日(木)
歌舞伎NEXT『阿弖流為』

歌舞伎NEXT『阿弖流為』@新橋演舞場

劇団☆新感線によるいのうえ歌舞伎・松竹MIX『アテルイ』を観たのは十三年前。上演されたのは911の翌年で、歴史劇を通じて現在を掴まえた印象を覚えた。同時にこの作品の普遍性は、どの時代に上演されても揺らぐことはないだろうと思えた。果たして染五郎丈の念願叶い、歌舞伎としての公演が決まる。そして今、この国は揺らいでいる。

なんでも当時『アテルイ』を観た猿之助(現猿翁)丈が「これはギャグを抜けばそのまま歌舞伎になる」と言ったそうだが、このカンパニーはそこから一歩踏み込んだ。「歌舞伎NEXT」と銘打ち、新感線の手法を大胆に持ち込んだ。とにかく展開が早い。ストーリー展開だけでなく殺陣も台詞も高速で、見得を切る場面も拍手や大向こうを放つ間を与えないのだ。隣席にいた年配の方は休憩時間「早いわ…もう疲れちゃって…」とぐったりしていた(苦笑)。平日昼間の公演、団体客が多かったと言うこともあり、一幕目は正直客席側に戸惑いが観られたように思う。中日を過ぎたところで演者にも疲労が蓄積しているのだろう、声がかすれ気味だったりして若干心配にもなった。

しかしここでも先人の言葉、勘三郎丈の「歌舞伎俳優がやれば全て歌舞伎になる」。演じることが日常で、休演日なしの公演を日々打っている俳優たちは、非日常の日常を観客にどう見せるかを知っている。徐々に観客は引き付けられ、大詰での緊張感は静けさと、反応のよさとなり現れた。舞台上では水を得た魚のように俳優たちが躍動している。

宣美の衣裳は北村道子(!)だったが、その宣美と実際に舞台で採用されたヴィジュアルの印象に殆ど差がないことにまず驚く。舞踊、殺陣と動きへの制限を廃す必要があるところ、重厚さもしかと表現された衣裳。堂本教子の手腕に唸る。これを着ても動ける、そう見せることが出来る、と言う演者との信頼関係もあるのだと思う。前の席だったため阿弖流為の瞳にカラーコンタクトが入っているのもしっかり見えた。その美しさに息を呑む。照明(原田保)はまさに新感線カラー、そこに立つ歌舞伎俳優の映えること。黒御簾にはドラムも入り、附け打ちと丁々発止を繰り広げる。

脚本は改定。初演にはなかった藤原稀継の登場は、坂上田村麻呂に集団からの孤立を感じさせるための効果となる。立烏帽子と鈴鹿をひとりが演じることにより変化した、田村麻呂と鈴鹿の交流も素敵なエピソードになった。先述の「ギャグを抜けば」は、印象としてはそう変わらず。しかしそこはNEXT歌舞伎、そして何より、歌舞伎俳優と言うものはそういうことも呑み込んで自分のものにしてしまう。すっかりしっかり笑わせて頂きました。

で、で、で! その歌舞伎俳優たち。なにせ、なにせ、なにせの(©菊地成孔)市川染五郎!!! 中村勘九郎!!! 中村七之助!!! ここで私が何を言っても既にご贔屓筋の方々に言い尽くされていると思いますが、も〜〜〜〜〜素晴らしい以外に何を言えと言う。染五郎丈と勘九郎丈の蕨手刀と直刀による殺陣の迫力も素晴らしかったが、七之助丈の殺陣な! 『天日坊』のときにも思ったが、その速さ、流線型の美しさ、まるでツバメのよう。個人的にいちばんヤラれたのは田村麻呂像で、台詞の端々に「ああそうだ、初演は堤真一だった。当て書きもあったのだろうなあ」と思わせられる箇所があるにも関わらず、その声色、その表情は「勘九郎の坂上田村麻呂」だった。この土地、この所属に生まれた運命を受け入れ、新しい道を探る。自分ひとりでは成し得ない大仕事を次の世代へと繋げる。当代中村勘九郎の姿を重ね合わせて観る。

市村萬次郎による御霊御前、坂東彌十郎による藤原稀継の懐の深さ、片岡亀蔵の蛮甲(髪型を見てBUCK-TICK…と思ってしまうのは観てる側の世代のせいです。素敵……)、坂東新悟の阿毛斗も好感。てか阿毛斗むっちゃよかったわ…男性性も女性性も持ち合わせる巫女。母にも娘にも姐御にも見える。すらりとした立ち姿が美しい。細かいところだとあの声で「ごはんだよ」とか言われたらもう骨抜きにされます。あと弓矢を携えた場面があってな! その姿がめっちゃ格好よくってな! 弓使う場面なかったけどな! 殺陣も見事でした。

阿弖流為と田村麻呂。お互いの所属を呪うか祝うか、そしてそれを受け入れるか。共生の道はあるか。所有を拡げていくことは、所属を独占市場にしていくことでもある。阿弖流為の死が祭りへと化身していく幕切れはとても美しいもので、その由来の恐ろしさともに人間の考え出す鎮魂について思いを馳せる。時間は怨恨を浄化し、死者への悼みと贖罪の祈りとなるのだろう。皆さん怪我なく無事に千秋楽を迎えられますように。

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その他。

・食堂の御案内 | 新橋演舞場
1Fの折詰弁当発売所では登場人物にちなんだおべんとうが売られておりましたよ! ボリュームがすごくてがんばって食べないと休憩時間内に食べ終われないとの情報を得ており、意気込んで坂上田村麻呂弁当を買いましたよ! とても〜おいしかった〜。
ちなみに食堂の方では阿弖流為御膳や染〜めん五郎なるものもあったらしい



2015年07月15日(水)
dCprG goes on LEVEL XXX『Franz Kafka's South Amerika』tour

dCprG goes on LEVEL XXX『Franz Kafka's South Amerika』tour@Shinjuku BLAZE

『Franz Kafka's South Amerika』リリースツアー初日。このバンドのライヴにうってつけの日になった。7月7日に菊地雅章、8日に相倉久人が亡くなり、いつもそうと言えばそうだが、それにしても重なり過ぎだろうと思っていたところ、当日にこれだ。追悼と有事、全部のせか! みたいな有様。

今夜は特別だった。追悼文の名手と言われるけどやっぱり演奏にいちばん出る。喪失に執着するな、と言う言葉を思い出す。

千住宗臣と田中教順のポジションが入れ替わっていたのは2010年の野音以来か。このときは千住くんが他のライヴに出ていて途中から参加、と言う事情があったためだったと思うが、今回は何か理由があったのかな。昨年秋のリキッドを観られていない(ジェイミー・カラムと被った。そしてそのジェイミーのステージにサポートで駒野逸美が出ていて驚いた)のだが、このときはどうだったんだろう。そして菊地成孔はスーツを着ていた。礼服…喪服だろうな、と思う。新譜からの曲を中心に、3時間弱ガッツリ。

結成当初から傭兵部隊を名乗り、歴代メンバーも腕利き揃い。菊地さん曰く「ポリリズムのリテラシーはバラバラ」でもソロイストはインプロで対応出来てしまう、と言うのが前作が出る迄。その後リテラシーを共通認識させたと言う2013年11月のリキッドで現在のバンドの方向性が決まったと感じた。その編成で初めてレコーディングしたのが今作。フュージョンリバイバルの風を吹き込み、リズムはより鉄壁、高見一樹による楽曲はサルサマナーで、菊地さん、大儀見元、小田朋美によるコロも聴ける。そしてシェイクスピアのテキストはいくらでも深読みが出来る。アンコール前のMCで菊地さんが「ポリティックではなくミスティックなこと」と言っていたことに通じる。

「これ、(エディットなしで)実際に演奏出来るんだ……」と言うアホな感想が第一印象。リハ一回でこれか! もともとの馬力がある演奏家ばかりだからと言うこともあるが、目の前でやられると顎が落ちる。自分の音がモニター出来なかったら、キュー出しをちょっとでも見逃したらあっと言う間に崩壊するであろうと言う緊張感も半端ない。実際危なかったところが数箇所あり、菊地さんだけでなく坪口昌恭が小田さんにキュー出しする場面もあった。菊地さんがカウベルやクラベスを使うところも多く、ソロもあった(他の音が全部消えたときフロア湧いたねー)。最初はこうしてカウントとらないと演奏が出来ないくらい難しいのか? と思ったが(そういう側面もあったかも知れないが)考えてみればこれもサルサの手法だ。こんなハードコアなサルサ聴いたことないべ……呪術か。

そして小田さんの加入、これはホントデカい。最後のピース入った! と言う感じ。坪口さんとのコンビネーションも素晴らしい(と言うかふたりがガチッと合わなければ「JUNTA」「IMMIGRANT'S ANIMATION」辺りはかなり厳しい)、これもサルサで言うモントゥーノにあたるのだろう。千住くんと田中ちゃんもそうだが、同じパートを担当する彼らのやりとりは、プレイヤーにしか感じえない悦楽をシェアしてもらえるようで、観聴きするのは至福でもある。それはdCprGのメンバー全員のことでもあるが。

「Circle/Line」が始まったとき、うっすら予感はあった。願望でもある。恐らく最後に聴いたのはハラカミくんが亡くなった直後のライヴだ。それ以来やっていないと記憶している。同じ年の三月、『I love Poo』で菊地さんは「『Circle/Line』の後に、僭越乍ら私の曲『Hard Core Peace』が続きます」と言った。「安寧なピース等ありません、ピースはハードコアなものです」。大儀見さんと藤井信雄によるパーカッションのブリッジから続く「Hard Core Peace」は、その後大儀見さんと田中ちゃん、千住くんとのブリッジを経てCDJからフェイドアウトする構成になり、やがてフロアから消えていった。今回はどうするのだろう? CDJで繋ぐか、それとも……いや、やるとは限らない。でも、今日やらなくていつやる? 大儀見さんのソロは、果たしてあのエレピのリフに繋がった。「Hard Core Peace」に入った。

この前後のフロアは異様だった。「やるのか? やらないのか?」と言う空気で充満していた。ことが起こったとき、歓声よりもどよめきが大きかったように感じた。この二曲が繋がっていたときは、「待ってました」と言わんばかりにフロアが爆発したものだが、今回はそれこそカオスな状態だった。それも一瞬、すぐにダンスが始まる。笑い過ぎて脇腹がつった(笑)。そしてちょっと泣いた。ここで本編終わりかな、と思ったところに「構造1」が投下。先生脚がガクガクです。高揚しているのはフロアだけではなくステージ上もそうだった。演奏が終わったとき、菊地さんはメンバーに握手を求めていた。CDJからはハッピーな曲が流れている。

アンコール前のMCはいつにも増してテンパっていた。ちょっとやばいなと思うくらいだった。終演後に会ったサさんも「脳梗塞とか起こさないよね心配だよ」なんて言ってた。ホントにね…そういう自分も「躁期きた?」と思ってしまったよ……まあハイにもなるよなあれはな。聴いてる方ですらこうだもの、いわんや演奏する側をや。人間ドックの結果は良好だったそうなんで頼むよ元気でいてくれよ。書いてもよさげで(個人判断)印象に残った言葉をいくつか。

・プーさん(菊地雅章)のこととDCPRG結成の経緯:最初は吉祥寺のスターパインズカフェとかでやってたんだよ! 誰も踊らないの(爆笑)
・今日のジャケットは肩のところがしょっぱい、汗ではなくて清め塩。相倉久人の葬儀に着ていったのをそのまま着て来た

・大儀見と坪口がいないと俺は何も出来ない、音楽が出来ないどころか朝起きて何をしていいかもわからない、歯も磨けない
・大儀見が休んでたとき、俺はお腹から求肥が溶け出した鮎の和菓子みたいになってた(爆笑:好物だってブロマガに書いてた直後だからその引き出しだね!)
・俺自身は何の変哲もない人間だけど仲間に恵まれてる、メンバーに恵まれてる、たいしたコックじゃないけど高級食材がバンバン入ってくる、そうするとスゴイ料理がバンバン出来る。なにせ、なにせ、なにせ、千住宗臣!(その後「なにせなにせの」と続けて次々とメンバー紹介)
・アリガスが老けた、パッと見わかんないけど俺はここから定点観測してるからわかる
・(物販Tシャツに着替えて出てきた大村孝佳に)大村くんがこんなことしてくれるなんて!

・SNSに不満をぶちまけるとそれでもう溜飲を下げちゃって実際に行動しなくなるって話
・だからSNSはやるなって話
・二丁目のともだちに「アタシたちはHIP-HOP大キライだけどあんたは続けなさい」って励まされた話
・北乃きいと田中ちゃんと俺の体脂肪率はシンクロしてるって話
・アミリ・バラカに「マイルスみたいだねー」って言われた話

この辺りはもう爆笑に次ぐ爆笑で例年のピットインかってくらい口が滑りまくってましたね……。同じトーンでシリアスな話もあり。やっぱり思い出話も出て、久々にP-VINEの天才マタバくんの名前を出たのが嬉しかった(笑)。そうそう、「21世紀の戦争は20世紀とは違う。ストリップみたいだ。脱ぎそうで脱がない。見せそうで見せない。しそうでしない。そして俺はストリップは大好きだ」とも言っていた。これって今日の「Hard Core Peace」がそうだったね。それでは戦争もいつかは起こるのか。さてそのとき、どうしていようか。その前に、どうしようか。有事は日常だ。

その他。

・音源聴いたときもえっと思ったけど、大儀見さんの声ってこんな甘いん? て言う……小田さんとのユニゾンがとても気持ちよい
・アリガスが老けたのは演奏がたいへんだからではないですかね……やたいぼねー

・千住くんと類家心平の髪型、なんかさっぱりして板前みたいになってた
・足元見えなかったんだけど千住くんツーバスだった?
・田中ちゃんのルックスがなんか『天皇の料理番』で徳蔵をめっちゃいじめた荒木(THE SHAMPOO HATの黒田大輔ですよ! いい仕事した!)みたいになってた
・そうは言っても田中ちゃん、「構造1」すごかったね…いや全曲ね……腰抜けるわ……
・ソロイストたちもキレッキレ。津上健太と高井汐人の鍔迫り合い! 類家くんもバリバリ
・と言えば終演後「Tpがいいですねえ」とニコニコ話し合ってる年配の方がいた。あの歳でスタンディングで三時間近くのライヴはきつかろう…と思ったが結構ケロっとしてらした。サさん曰く「戦時とか戦後生まれは体力あるんだよ〜」。そうね…見習いたい……(ほうほうのてい)

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セットリスト(こちらのツイートを参照させて頂きました。有難うございます)

01. RONALD REAGAN -ロナルド・レーガン
02. fkA(Franz Kafka's Amerika)-フランツ・カフカのアメリカ
03. VERSE 2 -韻文2
04. PLAYMATE AT HANOI
05. JUNTA -軍事政権
06. GONDWANA EXPRESS -ゴンドワナ急行
07. IMMIGRANT'S ANIMATION -移民アニメ
08. CATCH 22
09. CIRCLE/LINE〜HARD CORE PEACE(最後の平和を我等に)
10. 構造1(現代呪術の構造)
encore
11. DURAN feat. DOPE(78)by AMIRI BARAKA

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・インタビュー:菊地成孔『DCPRGからdCprGへ、混沌から構築へ。好機を捉えた新作を語る』- Time Out Tokyo
ライヴ後改めて読むと膝を打ちまくる、成程『構造と力2』計画ね……新譜以外の面でもとてもいいインタヴューです



2015年07月11日(土)
NEWシネマ歌舞伎『三人吉三』

NEWシネマ歌舞伎『三人吉三』@新宿ピカデリー シアター7

串田さんが「記録映画ではなく記憶映画」と言い切るだけあってイメージ過多な編集、舞台を観られなかった者としてはメラメラするところもありましたが〜クローズアップで観られて鳥肌の表情の数々、そして闇!

編集がどうにも厳しい。動画と静止画(明緒によるスチール写真)の塩梅がどうにも微妙なのですね。芝居の流れがズタズタになっている。演者の呼吸に添っていないとも言える。黒子にカメラマンを紛れ込ませる等、観客席からでは絶対に目に出来ない角度からのショットは興味深いが、それを使い過ぎの感もある。音の編集も「あっここ切ったな」と言うのが丸わかり(音響がいいので尚更)で、それが短いシーンのなかで何度もある。こんなことなら映像編集後、台詞だけアフレコにしてもよかったのではないだろうか……とさえ思ったが、そうなると実際に観客を入れての上演にカメラを入れた意味がなくなってしまう。難しいところです。大詰めの長い無音場面も、場面を活かすと言うより「これやってみたかったんだ」的な無邪気さを感じた。ちなみにお昼をまたいでの上映時間だったので、この場面はあちこちから静寂を切り裂くお腹の音が響き渡っておりました(…)。

しかし動画のショットはどれも素晴らしかった。光と影、ここぞと言うときの演者の表情を捉えるカメラはそれはもう臨場感溢れるもの。伝吉の独白を聴いてしまったときや十三郎とおとせの訴えを聴いているときの和尚吉三の表情、お坊吉三とお嬢吉三が交わす一瞬の視線等、これらのクローズアップを目に焼き付けられたことは至福だった。命のやりとりをするときの彼らの顔、忘れられない。話には聞いていたが撮影のひとりが山本英夫。そして前述の闇、これはホントにすごかった。どんなに目をこらしても闇の奥が見えない、そこから見え隠れする伝吉の腕、脚、部分だけぬらりと這い出してくるような身体。江戸の暗さ、裏街道に生きてきた人物の暗さ、殺人の予感を感じさせるに充分。

あと木ノ下歌舞伎を観ていたおかげでバッサリ切られたところを脳内保管出来ましたわ……まあ各場を抜粋して上演するのは歌舞伎の常ですし、庚申丸と百両がどう巡るか、どこに落ち着くかは上演形態によって脚色があるものですが、ストーリーの骨子を了解出来ていたのは助かった。有難う木ノ下歌舞伎〜! 今回の座組と演出は、江戸弁がとても心地よかった。百両=しゃくりょう、拾う=しろうってね。

そして新悟くんの立役ようやっと観られた…嬉しい……。やーキリッとした誠実な十三郎役、何も知らないまま死んでいくのがもーせつない! と言えば件の「十三郎とおとせの訴えを聴いているときの和尚吉三」、演じた勘九郎さんの表情はホント素晴らしかったんですが、十三郎がずーーーーーっと話しているのにずーーーーーっと勘九郎さんのアップだったので、ちょ、ちょっとだけでもいいから新悟くんも映して…と思いました……。

そうそう、ヨタロウさんの声込みのエンドテーマをあの音響で聴けたのがかなりおいしいかった。あれ聴くためだけにメトロファンは行ってもいいかもよと思いましたよ!



2015年07月08日(水)
『海街diary』

『海街diary』@新宿ピカデリー シアター9

鎌倉は好きな街で、少なくとも年に一度は出掛けるのが恒例。湘南新宿ラインが繋がってからは回数が増えた。盆地育ち故、海辺の近くに住むことに憧れがあるのかも知れない。そんな憧れの街の四季折々の風景、そこに棲むひとびとの営み。深く優しく沁み入る、大きな時間の話。メインロケ地は極楽寺駅周辺。

父も母も新しいつれあいを得て出ていった。古い家屋には三人の姉妹が残された。ある日父の訃報が入り、姉妹は葬儀に参列するため父の最期の地となった山形に足を運ぶ。そこには腹違いの妹(四女)がいる。妹の母は既に亡くなり、父のそのまた新しいつれあいは葬儀で泣き続ける。喪主の挨拶を、血の繋がらない娘(まだ中学生の彼女に!)に任せようとすらする。この場面には手が冷たくなった。怒りにも悲しみにも喩えようがない複雑な感情が沸く。割って入った長女が「私が代わりに。これは大人の仕事です」と言い、我に返った母が毅然とも誇示ともとれる表情で「いえ、やっぱり私がやります、妻ですから」と言い返す。

この場面を観た時点で、もうこの映画のことを好きになってしまった。親に捨てられたこども、大人になることを急がされたこども。それを守ろうとする、かつてこどもでいることを許されなかった大人。彼女たちが、長い人生のなかでしばらく時間をともにする、いつかはなくなるコミュニティの話だ。

四女とともに暮らす日々のなかで、三姉妹は少し変わる。長女はひとつの関係を終わらせ、次女はつまらないと思っていた仕事の大切さに気付く。三女は姉としての自分を発見する。「神さまが考えてくれないならこっちで考えるしかない」と言う次女の上司の言葉が思い出される。天の存在はときにいたずらのような運命を投げつける。それに抗うため、あるいは身を任せられるようにするために、姉妹は日々を過ごす。やがてそれらは父と母への許しとなり、別れとなる。

死の影が濃い。姉妹は三回喪服を着る(四女は制服)。長女は病院で日々臨終に接し、次女は遺産を巡る仕事と真摯に向き合う。三女は足の指を六本失い乍らもエベレストから帰還した店主に「また山に登りたい?」と訊く。四女は自分の存在を肯定出来ない。姉妹が暮らす家の梅の木は年々実りが細り、家屋は少しずつ傷んでいく。不在のひとびとの身体は確かにここにはないが、記憶として残る。記憶は、生活を通し共有され繋がっていく。長女が母に渡す梅酒、三女が四女と食べるちくわカレー。四女は知らない祖母の記憶を、三女は知らない父の記憶をシェアしあう。父と四女が食べたシラストーストも、いずれ三姉妹と共有することが出来るだろう。四人で作ったシーフードカレーのように。

そして次女が好きな海猫食堂のアジフライは、山猫亭の主人がレシピを受け継いでくれる。そう、コミュニティは家族のうちに留まらない。不在のひとびとの記憶は街へと出て行くのだ。誰もが持っている自分しか持ち得ない記憶を、他人が持っていない記憶と繋げる。記憶とともに登場人物は自分たちの居場所を見付ける。今はここにいていいのだ。そしていつここを出て行っても、いつ帰ってきてもいいのだ。

海猫食堂と山猫亭の主人たちと、四女と男ともだち。世代の違うふたつの愛の形を観られたこともよかった。恋愛と言ってもいい、でもやっぱりちょっと違う。彼らが同じ時間を過ごせたことを嬉しく思う。ひとにはいつか必ず別れのときがくる。最期のときが判っていても綺麗なものを綺麗だと思える。自分が死ぬときに思い出せること、この映画にはそれがつまっている。男ともだちの自転車の後ろに乗り、桜のトンネルを走り抜ける四女の額を彩ったひとひらの桜。それは居場所を見付けた彼女への祝福に思えた。

それにしても是枝裕和監督は女性を美しく撮る(撮影を手掛けた瀧本幹也の貢献も大きい)。「肢体の美しさが次女役に最適」と監督が評した長澤まさみに対するカメラは格別。生命力としての女性の身体。伊藤佐智子による三姉妹の衣装もディテールが素晴らしかった。普段着も浴衣も素敵だったがいちばん印象に残ったのはやはり喪服。三姉妹それぞれが「ああ、彼女ならこういう喪服を選ぶだろうな」と思えるものだった。フードスタイリストは飯島奈美、納得のテイスト。ストリングスを前面に出した菅野よう子の音楽を聴くのは初めてだったが、彼女と知らなくても印象に残るものだった(実際エンドロールで知った)。

原作は読んでいなかったが、これを機に読んでみようと思う。

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その他。

・どこ迄がアドリブか偶然か判らない、映画の奇跡のような瞬間があったなあ。前述の前髪に載った桜の花びらとか、サッカーのコーチが足ぶつけたところとか、それに対する周りの反応とか
・と言えばこれの鈴木亮平は極端に太っても痩せてもいなくてちょっとホッとしましたよね…身体には気を付けてね……

・それにしても豪華キャスト。そして皆、短い出演時間にも関わらずいい仕事をしてる。大竹しのぶをたしなめられるのは樹木希林くらいであろう(笑)そして風吹ジュン! もう大好き!
・堤真一、加瀬亮、リリー・フランキー、レキシこと池田貴史もいい味出してた
・リリーさん、丁度一週間前に『野火』を観たばっかりだったのでいろいろと…いいひとと巡り会えてよかったねとか思った……(混線)

・すずのともだち風太の面差しが香川選手に似ていて、まぁよく似た子を見付けてきたねえと思ってたら、まえだまえだの弟くん(前田旺志郎)だった。おおきくなって……!(近所のおばちゃんの心境)



2015年07月03日(金)
『ふたたび SWING ME AGAIN』

『ふたたび SWING ME AGAIN』(DVD)

うわーこれはとてもいい映画だった、観られてよかった。鈴木亮平出演映画三本目、この映画に遭わせてくれて有難うお兄やん! 監督は鈴木さんの師匠である塩屋俊、原作・脚本は矢城潤一。

死んだと言われていた祖父は香川のハンセン病療養所にいた。50年振りに神戸に戻った彼は、かつてのバンド仲間と恋人を訪ねようとする。巻き込まれた形で孫息子が運転手となり、ふたりのロードムービーが始まる。途中療養所の看護師も加わり、三人は失われた時間を追いかける。

全体の成り立ちは多少歪ではある。出来過ぎの展開とも言える。孫息子の恋人とのいざこざとその落ち着きどころ、金に困っていた家に大金が転がり込む展開など。これらはだいじな要素でもあって、それ迄ノホホンと育った孫が初めて直面する差別であり、ハンセン病患者が失った膨大な時間と人権は賠償金と言う形にしかならないと言う絶望感だ。しかし差別は理解と言う形を経て減らしていくことが出来るし、金には誠意を込めることが出来る。この辺りはもう少し丁寧に扱ってほしかった。docomo提携なんだなあとすぐ解る携帯の扱い方や、看護師の出自が後付けだと感じられてしまうところもひっかかる。

しかし、目を奪われ心に深く刻まれるシーンの数々は前述の不満を凌駕する。自分のバンドのレコードを孫が聴きファンになっていたことを知ったときの祖父の表情、恋人がハンセン病だったが故にその後の人生を閉ざされた女性が、それでも自分の父を生んだことを知ったときの孫の表情。当時の写真を見せられて、混濁した記憶がみるみる鮮明になっていくバンド仲間の表情、続く固いハグ。祖父に初めて「抱かせてくれ」と言われた途端、抑えてきた感情を爆発させる父、それを目にして嗚咽を漏らす母。演者の力とそれに対する演出、ロケーションのよさ、それらを丁寧に押さえるカメラが素晴らしい。体格がまるで違う祖父と孫が、長く続く道路をふたり並んで歩く姿を捉えた引きのショットは今でも心に残っている。お揃いのサングラスを掛ける祖父と孫、海辺でトランペットを吹く祖父と言う場面もとても印象的。

祖父を演じるのは財津一郎。50年ぶりに再会するバンドメンバーは犬塚弘、佐川満男、藤村俊二。実際に担当楽器を演奏出来たのは犬塚さんだけだが(クレイジーキャッツのベーシスト。ネクタイをシャツにねじ込んでウッドベースを演奏する姿、むっちゃ格好よかった!!!)、彼らが揃いの衣裳で、実在する老舗ジャズクラブSONEのステージに立つ姿はもうそれだけで音楽が流れてきそう。顔と身体に刻まれた年輪がジャズとともにスウィングする、その説得力。父と母を演じた陣内孝則、古手川祐子も、困惑と受容の塩梅が絶妙だった。

ラストシーンは正直『フランダースの犬』を思い出してしまったのだが、映画のファンタジーとして受けとることが出来た。主人公が幸せな表情で目を閉じる他所で、願いが叶わず一生を終えたひとがどれだけいたか、差別され虐げられたひとたちがどれだけいたか。このラストシーンには、そんな彼らの想いも込められているように思えた。乗っていたジープが潰れ、乗り換えた車がオープンカーと言うところも非常に映画的で絵になっていた。

さて鈴木さん。わーこれ、こういう鈴木亮平が観たかった! 弱ってはいないが(笑)。感想を検索してみると「ウチの息子に似てる」「孫に似てる」と書いてる方が結構いる。映画の内容や出演者から、公開当時の観客の年齢層は高かったのかな。そんなひとたちから愛された役柄とも言える。家族が祖父をまるで腫れ物に触るかのように扱うなか、ひとりだけすいすいと懐に飛び込んでいく孫。その天真爛漫さに両親は随分助けられたのではないだろうか…と思わせられる存在感。当て書きもあったとのことで、もうドンピシャの役どころ。もうねわたくしもはや母だか祖母だかの目線で観てましたよね…彼女とヨリを戻すより看護師とくっついちまいなよと思いましたね……だってー看護師すごく素敵な人物だったんだものー。

脱いではいないが(てか脱がんでいい)洋服が似合う体型。シンプルなTシャル+シーンズ姿が映える。のびのび育った健やかな青年、と言うこの身体の説得力は、この物語に特別な効果をもたらしていると言っていい。素直な身体には素直な心が宿っており、差別や偏見もない。無知でもあると言えるが、そこに留まることはない。家族にふりかかった理不尽さに怒りを抱くが、それを恨みにはせず、理解への扉を開き続ける。とてもいい役だったなあ。

それにしてもファーストショットからあっこりゃマイルスだろってスタイルで吹く(映像観て研究したんだろうなあと思える)鈴木亮平とか部屋着がcookin'ジャケTシャツの鈴木亮平とか誰得…ワタシワタシって言う……眼福でございました、本当に有難うございました。

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・観たのは先月の27日、その日にシティボーイズも観る。もー格好いいおじいちゃんたちに惚れ惚れした週末であった

・エンドロールに「曽根桂子さんに捧ぐ」の文字。ちらりと出演もしていたSONEのオーナー、映画公開前に亡くなられたとのことです

・『ふたたび SWING ME AGAIN』オリジナルサウンドトラック
音楽は中村幸代、演奏は原朋直クインテット。メインテーマは人生のサウンドトラックにもなりそうな名曲。
看護師を演じたMINJIは歌手としても活動しており、魅力的なヴォーカルを聴かせてくれています

・監督 塩屋俊さんスペシャルインタビュー|salitoté
虐げられた人間の辛さ、苦しみをエンタテイメントとしての映画でどう描くか。ハンセン病患者とジャズ、神戸を結びつけたアイディアについて。そして出演者について

・「75歳でこんな“勝負球”の作品に出演できて夢みたいです」財津一郎インタビュー|eo映画
DVDの特典映像で、おじいちゃんたちが揃って「これが遺作になってもいいって気持ちでやってる」「最後になるかも知れない映画がこれでよかった」と言っていて嬉しいやらせつないやら。皆さんまだまだ元気でいてくださいよ……

・「等身大の役だけど、僕はこんなにイイ奴じゃない」 - ライブドアニュース
・鈴木亮平が将来やってみたい役は人気コミックのあの主人公! | MovieWalker
公開当時のインタヴュー

・イベントリポート|塩屋俊監督、鈴木亮平さん 2010年11月14日(日) 15:10の回上映後舞台挨拶|京都シネマ
公開当時、京都シネマでの舞台挨拶

・(一語一会)俳優・鈴木亮平さん 俳優で映画監督の塩屋俊さんからの言葉:朝日新聞デジタル
今年五月の記事。塩屋さんは2013年に亡くなった

・「ふたたび SWING ME AGAIN」コメント&予告

コメント動画内で紹介されているアナログレコードジャケット仕様のプレスシートは、鈴木さんの希望通り公開時パンフレットとして販売されたようです。入手出来た、格好いい! 内容も愛ある丁寧なつくりになっています



2015年07月02日(木)
『cocoon 憧れも、初戀も、爆撃も、死も。』

『cocoon 憧れも、初戀も、爆撃も、死も。』@東京芸術劇場 シアターイースト

原作は読んでいた。初演時、その熱のある評判は日々増えていった。当日券の列はどんどん長くなっていると言う情報も流れてきた。どうしても都合がつかず、観ることは叶わなかった。再演を待っていた。

キャストは初演から一部入れ替わり、新しく加わったひともいる。沖縄戦のひめゆり部隊がモチーフだが、演者のふるまいや言葉遣いは、今、ここ、と強く感じさせる。「未来は、いま」と言う台詞が重く重く響く。まるで遠足に出かけるように「お国のために♪」と唄い乍ら家を出た少女たちは、男性性に完膚無きまで踏みにじられる。ガマから出た彼女たちは海を目指して走る。ひとり、ひとり減っていく。

そうなのだ、「戦争」と言う大きな背景はあれど、この作品に強く感じたのは「破壊する男性性」だった。親も親戚も戦争に駆り出され、周囲に男性がいない。「おとこのひとになれていない」少女たちは傷病兵を看護する。兵士たちは「おかあさん、おかあさん」と苦しみ乍ら少女たちにすがりつき、死んでいく。並行して提示される場面、ひとりの男性が少女たちを見ている。オロナミンCを飲む、駅の向かいのホームにいる女学生たちを見ている。言葉の端に、女性への性的な興味を感じさせる現代の男性だ。沖縄戦時島にいた「わたしたちを守ってくれる」筈の、「何もしてくれなかった。(それどころか、)」に繋がる男性像。

男性キャストには大きく分けて4つの役割が与えられている。物理的に小道具を動かしたり、女性キャストたちを抱きあげ移動させる等の黒子、傷病兵、女性を凌辱する男性、現代の男性だ。これらは分担されているが、尾野島慎太朗だけは4つ全ての役割を担う。ここがひっかかった。「おかあさん」と女性にすがる傷病兵と、少女を強姦する男性を同じ人物が演じている。ベクトルが違うのではないだろうか……。しかし、「おとこのひとになれていない」少女たちからすれば「男の人はみんな白い影法師」なのだ、と思い至る。尾野島さんは終盤銃弾(砲弾)にも姿を変え、少女(少年)の命を一瞬にして奪い去る。このスピード、ヴィジュアルは強烈だった。衣装も何も変えていない、上下黒の姿が黒い影にも死神にも見えた。

白い影法師にしか映らない男性たちの末路に、飴屋法水の役割がある種の安堵を与えてくれた。彼は音響操作をし、朗読をし、死んでいった人物を白い布で覆って運んでいく。打ち捨てられた物体を人間=かつて生きていたものとして葬る作業を静かに繰り返す。死の向こうには何もなく、安らぎと言う概念もない。葬ると言う作業は遺された者のためのものであり、ある種の宗教性を帯びる。しかしその行為は、あく迄かつて生きていたものへの敬意として留められる。観客を惹きつけるが決して心酔はさせない。飴屋さんの出演が発表されたとき「出る、と言うよりいる、と言う感じなのかな」と思ったのだが、果たしてその存在は沖縄と言う土地、そして「今」であり「未来」の土地に棲むものだった。あれはひとなのか?「おーい、おーい、君は人間か?」。このツイートによると、朗読したのは宮沢賢治『生徒諸君に寄せる』とのこと。

場面場面で、主人公の名を呼ぶ男性の声がする。原作にある、のちに出会う男性だと解釈する。主人公は生き残る、そして生き続ける。復讐は生きること、忘れられなくても「どうでもいい、その後生き続けるには些細なことだった」と思えるようになることだ。そうして迄生きなくてはならないのか? 生まれたからには、生き残ったからには生きるのだ。

藤田貴大演出の特色である運動性とリフレイン。少女たちは砂が敷き詰められた舞台を走る。ひたすら走る。息があがる。肌に汗が光る。台詞が不明瞭になり、声が上ずっていく。女生徒たちの日常は繰り返されるが、全く同じ日と言うものは決してない。日々、いや一分一秒ごとに身体には時間が刻まれる。戻ることはできない。青柳いづみの肩の線、菊池明明の伸びやかな腕と脚、青葉市子の声。生徒たちが唄う声、コロスケの大人の声と身体。暗い照明のなか、彼女たちの身体が目の前を走り抜ける。いつかは朽ちる身体を、連続する時間を、ひたすら見る。揺れる声を、ひたすら聴く。そうならないため、そうさせないために何をすればいいか、ひたすら考える。

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その他。

『野火』の翌日に観たってこともよかった
・「ひよ」役の西原ひよさんって、あのひよちゃん? と驚いた
・ex.青山円形劇場のスタッフさんがロビーにいた。ああ、ここに来たんだと嬉しくなった。顔を憶えるくらいあの円形には通ったんだなーと改めて思ったりもした



2015年07月01日(水)
『野火』爆撃上映&轟音ライブイベント

『野火』爆撃上映&轟音ライブイベント@Shibuya WWW

『野火』が遂に完成、公開される。塚本晋也はほぼリアルタイムにスクリーンで全作品を観ている唯一の映画作家。新作が公開される度、その関連イヴェントで「これから何を撮りたいか」と問われ『野火』と言い続けていたことをファンは知っているし、ずっと資金が集まらないと言っていたことを知っている。だからこそ、完成したときは本当に嬉しかったと同時に、監督の執念にはただただ頭が下がった。そして、今公開されることにこそ意味があると思っている。信じて待っていてよかった、待った甲斐があった。

イヴェントの内容に関しては各ニュースサイトを。映画ナタリーのレポートはとても丁寧、シネマトゥデイは映画公開迄の連載記事(文末)もお勧めです。ここにはそれ以外で印象に残ったことと、映画についてのおぼえがきを。公開されたらまた観ますし、ずっと考えます。

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・塚本晋也が「夏が来るたびに上映される作品になれば」と語る「野火」上映&ライブ - 映画ナタリー

・リリー・フランキー、塚本晋也監督『野火』完成に「痛快」 大音量上映で観客を圧倒! - シネマトゥデイ
・塚本晋也『野火』が爆音上映!中村達也&石川忠のライブセッションも!フォトギャラリー - シネマトゥデイ

(20150708追加:速報ではなく詳報、細かいところも拾ってくれてます。有難い!)
・INTRO | 『野火』爆激上映&轟音ライブイベントPART1 トークショー(リリー・フランキー×塚本晋也監督)レポート

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トーク:塚本晋也×リリー・フランキー×森優作(進行)

当日いきなり司会進行をやれと言われた森くん、緊張もありガタガタです(笑)。実質話のハンドルを握ってたのはリリーさん。監督との出会いから森くん出演の経緯、撮影現場の様子等、話を振るのが上手い。観客が知りたいであろうことを的確に監督や森くんから聞き出し、スタッフがどういう貢献をしたかもさりげなく披露し、それに対しての感謝も忘れない。漢気があると言うか、ああ見えてやり手だわと感心した…是枝裕和監督や橋口亮輔監督の現場に呼ばれる理由を垣間見たような。リリーさんいなかったらどうなっていたか。以下記事になってなくて印象に残ったところ。記憶で起こしているのでそのままではありません。

リ:出会いは石井輝男監督の『盲獣vs一寸法師』。ここで塚本さんと接したことで映画の現場は楽しいと思えた、それが今に繋がってる
塚:僕もひとみしりなんで、控え室におはようございまーすってバーンと入ってくるひととかが苦手で…リリーさんはそういうとこなかったから
(その後石井監督の現場のフリーダムっぷりについて盛り上がる)

(20150704追記:どうでもいいこと話してたのを今頃思い出した。ジワジワ面白いので書いておく)
塚:ひとみしりの僕にリリーさんが話し掛けてきて、ふたりともうさぎを飼ってて「うさぎってティモテしません?」「(……!)ティモテ! しますします!」って盛り上がって仲良くなって……
リ:ティモテするよね〜
塚:ね〜。ティモテ〜(身振り)するんだよねうさぎ〜
森:ティモテって何ですか?(おいていかれる若者)
リ:今売ってないんだよね〜ティモテ〜
(場内大ウケだったが笑ってたのはまあ、そういう世代ですよ……)

(20150706追記:もうひとつ思い出した……)
塚:観たひとはだいたい二日間くらいぐったりして感想とか言わなくなっちゃう
リ:渡辺真起子さんが試写で観て、ぐったりして帰る途中にバナナを一房持って歩いてくる塚本さんに遭ってすっごい怖かったって言ってたよ
塚:あのときは疲れてて……
リ:疲れた顔で、バナナ一房ってのがすっごい怖かったって! なんでバナナ? なんで一房?
塚:僕朝ごはんバナナなんですよ。疲れてるときの栄養補給にもいいし……
リ:しかし一房……あーでも一本だけってあんまり売ってないか

塚:メイキングも撮ってるんだけど、食べてなくて疲れてて転がってる兵士を淡々と撮ってるだけだから何の盛り上がりもなくて…宣伝用に映像くださいって言われてチェックしたんだけど、使えないわ……ってとこばっかりで
森:撮影時は役柄もありすごく痩せてたけど、今は居酒屋でバイトしてて魚がおいしいまかないを毎日食べてるんで太っちゃって

リ:(森くんは)シンデレラボーイだよね、プーかと思ってたらヴェネチアのレッドカーペットって、親もビックリだよ。なのになりたいのは通訳なんだって…なんなんだよ
森:いや、映画、お芝居には関わっていたいと思ってるんですけど……
リ:どうしてオーディションに来たの?
森:ともだちから、LINEでこういうのがあるよって
リ:ゆとりだ、ゆとり。監督はどうして森くんを選んだの?
塚:(森くんを見て)こういうとこと、(作品中での様子)ああいうとこです。ギャップがすごいなって

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ライヴ:石川忠+中村達也

石川さんが鳴らすバックトラックに被せてインプロ。塚本映画のサウンドトラックからの引用も多く、「BULLET BALLET」の曲が聴けたのが嬉しかったなあ。ライヴで初めて聴いた。あのイントロでもうあがった。演奏するふたりをじっくり観たいんだが、ステージ後ろのスクリーンには塚本映画のリミクス映像が流れるもんだから困る(笑)。目が泳ぐわ。

それにしても、塚本さんの映画はすごく好きで全部観てるんだけど回数としてはそんなには観てない筈なんです。体力も気力も持ってかれるので日常的には観られないと言う意味で。なのに、あ、これ知らないって映像がなかった。かなりのカット数だったんだが…それだけワンカットワンカットの「画」圧がすごいんだなと。

金属音がすごいのは事前に分かっていたし最近ライヴ後の耳鳴りが増えてきたので耳栓用意してった。役に立った…耳栓いいですね、爆音の体感やヴォリュームは変わらず、キーンてとこだけカットしてくれる感じ。

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『野火』

トークもライヴも面白かったんだけどやはり映画が凄まじくて、終わったあと思い出せるのはしばらく映画のことばかりだった。皆観るといいと思う。私も公開されたらまた観ます。

開幕の頬を打たれる衝撃、それに続く病院と分隊の往復ループは少しユーモラスで、不条理劇に放り込まれた感が強い。しかしその不条理が現実のものでしかないと体感するのに、そう時間はかからない。のろのろと揉み合う傷病兵と医師の間に、何の予告もなく衝撃音が飛び込み、ひとがバタバタと倒れ、病院が爆破される。そこから主人公の地獄めぐりが始まる。否応なく戦場に放り込まれた人間の道行きだ。

原作のエピソードは残らずと言っていいくらい生かされており、構成を若干変えている(伍長と将校が被ったり、場所が移動していたり)。原作の、書き手の独白と言う面は抑えられており、主人公の考えていることは彼が時折ぼそりとつぶやくひとり言くらいにしか表れない。よって、辿り着いた教会で主人公が得たある種の啓示も、彼の内面に留まることになる。彼が食べることの執着を捨てていく過程、反して消し去ることが出来ない本能としての食欲は、ひたすら「状況」で伝えられる。するとどうなるか。

信仰、宗教観は自然に置き換えられる。ジャングルの濃密な緑、熱帯に咲く花の鮮烈な紅。自然の美しさは、人間がいることで地獄になる。人間は死ぬと物体になる。自然に還る。それらを滋養とする大地はますます生命にあふれ、空は、海はひたすら美しい。翻って、その物体を口にしようとする人間たちはひたすらみすぼらしくなっていく。その描写には容赦がないが、誇張にはならない。リリーさんがトークで「グロいって言われるけど判らない。あたりまえだよね」と言った意味が判る。生き物は死ねば腐る。死ななくても蛆が湧く。飢えれば共喰いもする。この状況を前にして、それでも理性を失わなかった、人間は素晴らしいなんてことをこの映画は一切主張しない。むしろ、それらが一切失われてしまうということをひたすら描く。失われたものは二度と戻らないと言うことを描く。美しいと思うのは自然の風景だけで、そこに人間の心が介入する余地などない。そのことが画面に焼き付いている。

以前twitterにこう書いたことを思い出した。そうだ、日本には塚本監督がいた。

塚本監督、終戦記念日とかに毎年上映されるようになればいいなと言ってた(それを「『ロッキー・ホラー・ショー』みたいに」と言っちゃう辺り、このひとらしいユーモアだ)。原作を中学生のとき以来再読するために買いなおしたら109刷だった。映画も同じように見続けられるといい。

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終映後に監督や出演者が出てきたときは「わー生きててよかった」なんて素で思いました。トークのときさんざんゆとりだなんだ言われてた森くんが、上映後の挨拶でいちばんしっかりしたいいこと言った。なんだかとても頼もしく見えた。心からの拍手を贈る。今作には参加していないようだが、フロアには川原伸一の姿も。資金がなくて気心知れたスタッフを呼ぶことが出来なかった、と監督が言っていたことを思い出す。配給も自分たちでやっていくとのこと。監督痩せたまんまだな、元々ボクサー体型だけど。身体には気を付けてください。映画を届けていくためにも。

去り際中村さんがひとこと「全部夢だよ、ゆーめ」。『BULLET BALLET』の台詞だ。シビれた。

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・連載『野火』への道〜塚本晋也の頭の中〜 - シネマトゥデイ
まだ続いてます。制作過程、バックステージを丁寧に追ってる

・INTRO | 中村達也(俳優・ドラマー)11000文字ロングインタビュー:映画『野火』について
このインタヴューとてもよかった