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2021年01月24日(日)
『KCIA 南山の部長たち』

『KCIA 南山の部長たち』@シネマート新宿 シアター1


うう、よりにもよって顔部分がトリミングされて見えない。画像をクリックすると全画面が見られます。

朴槿恵のお父さん、といった方が今はわかりやすいかな。1979年に起こった朴正煕大統領暗殺事件を実行犯側から見る。原題は『남산의 부장들(南山の部長たち)』、英題は『The Man Standing Next』。2020年、ウ・ミンホ監督作品。

ツイートにある映画、書籍についてはこちら。
・『タクシー運転手 約束は海を越えて』(1980年、光州事件)
・『1987、ある闘いの真実』(1987年、朴鍾哲拷問致死事件〜6月民主抗争)
・ハン・ガン『少年が来る』

『少年が来る』は光州事件について書かれた小説ですが、注釈に「朴正煕と車智遏雰抔郤篠后砲隆愀検廖崙郢海市民からどれだけ恐れられていたか」の記載があり、軍事政権下当時の様子がわかります。警護室長を「こいつがあのカンボジア云々の……」と憎々しく見ていたら終盤正にその台詞が出たので、本国では誰でも知ってる的な発言なんだろうな。大統領暗殺後KCIAは改編されますが、南山の組織は80年代末迄機能し続ける。パンフレットによると、現在庁舎の旧本館はユースホステルになっているとのこと。それもすごいな……。以下ネタバレあります。

実在の人物からちょっと名前を変えてあるので、あれがあのひと、これがえーととか考えてるうちにどんどん駆け引きが進みアワアワする。とはいえ、独裁者の暴政をどうにか止めなければ、と側近が追い詰められていく過程が緻密かつ緊張感を維持し描かれ、ぼんやりしている暇はありません。そうそう、最後にイアーゴ(シェイクスピア『オセロー』のあのひと)と呼ばれていた人物の正体が判明するんだけど、これも名前が変えてあったんで劇場出てから「あ、あいつかー!!!」て気づいたよ。このひともう「名前をいってはいけないあのひと」みたいな扱いだよね……ちなみに2008年製作の『星から来た男』でもやはり名前は出されず、「ハゲ男」と呼ばれていた人物です。RGに是非モノマネしてほしい。なんか似てた。

過去の出来事として描くにはまだ生々しさがある、存命の関係者も少なくはない80年代の事件。作品化にはいろいろと制約があるのでしょうが、それでも自国の暗部をこうして公開し、観客からの支持が得られていることに感嘆する。「民主主義」の価値を肌で知り、それを再び奪われてはならないという考えが浸透しているのでしょう。

イ・ビョンホンが素晴らしい。端正な顔立ちが、数々の軋轢と忖度とストレスで段々ゴムの皮膚被ってるみたいに見えてくる。土砂降りのなか忍び込んだ接宴所で盗聴するシーン、頬を流れるその雫は雨なのか涙なのか……大統領を暗殺するしかない、という心境に至る迄の無表情(の使い分け)が見事。彼の演技を信頼してのことだと思いますが、その表情を捉える長回しが多用されている。またその画面が“持つ”んですよね。すごい役者さんだなあと改めて思いました。

そして大統領を演じたイ・ソンミン、かわいく見えちゃうのがやばい。ひとたらしだなー、これにあてられた部下も多いんだろうな思わせられちゃうのがもうやばい。マッサ(マッコリ+サイダー)の思い出話とか、ズルいよねえ。お前には私がついてる、お前の好きなように、やりたいことをやれみたいなことを誰にでもいって、結果起こったことを「やりすぎだ、後始末は自分で責任もってやれ」と切り捨てる。日本のどっかで聞いたような話ですね。しかもつい最近ね。手酌で酒を呑み、ひとりごとのように唄う。理解者を得られず、だからといって助言も受け入れられない。もう戻れないところ迄来てしまった独裁者の姿を寂しさとして見せる演技でした。

韓国では民主化後にも、李明博〜朴槿恵政権による文化人への圧力があった。2008〜2017年なんてつい、このあいだじゃないか。ちょっと気を抜くと、自由はあっという間に奪われる。『タクシー運転手』『1987』同様、今作に実際の映像(写真)や音声が使われていることは、民主化を自分たちの力で、大きな犠牲とともに掴みとった彼らが「記録を残す」ことに意義を見出しているのかもしれません。

「あの頃は良かった」という日本語を合言葉に革命を振り返ったり、情報の漏れた先が記事がサンデー毎日のものだったりと、「46才から上の人は日本語がしゃべれる」(1980年当時。YMO「Seoul Music」より)韓国と日本の関係についてもいろいろ考えさせられました。「統治」とは何に、誰によって成されるものなのか。逆に今の日本は当時の韓国みたいになってないか? とも。保守ってこんなもんだったっけ、と昭和時代を知っている世代は今の与党を見て思うのでした。つらしま。

金管の低音ロングトーンで不穏な空気を醸し出す映画音楽のことを、勝手にハンス・ジマーからのヨハン・ヨハンソンマナーと呼んでいる。今回のチョ・ヨンウクによるスコアは正にそれで、すごく合っていました。OSTも出ています。



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政治家になる、というか国を治めようとするからには、最初は志があったんだろうにね。虚しい

・KCIA 南山の部長たち┃輝国山人の韓国映画
詳細なクレジット。いつもお世話になっております!

・チョ・ヨンウクの映画作品┃MOVIE WALKER PRESS
あれもこれもそれもじゃないか。『新しき世界』もこのひとだったか! 本国では大御所映画音楽家なのかな?

・パリでの暗殺。実際はどうだったのかなーと探してみたら日本語Wikiにあった→(金炯旭)。これだと「山野に遺棄」ってことになってるけど、映画の描写はもっと…その……エグかったですね……。証拠を残さないようにってなるとあの方法のが確実だが。そして映画ではKCIAと警護室の取り合いになっていたが、上記Wikiでも言及されている通り警護室が手を下した説もあるようです。でも前者だろうなあ、わざわざフランスから韓国に連れ戻して、というのは現実性が低い

・金忠植『実録KCIA―「南山と呼ばれた男たち」』
日本でもベストセラーになったという原作。読んでみたいんだけど、1994年刊で現在では入手困難のようです。これを機に文庫化とかされないかな