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2025年01月11日(土)
『終点 まさゆめ』

『終点 まさゆめ』@彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

『終点 まさゆめ』心のふるさとさい芸、今年も宜しくお願いします。新年1本目に松井周×菅原直樹のタッグというゴリゴリの噛み応え。コロナ禍で中止になってしまった『聖地』のリメイクがこうなるとは! ゴールドシアターのメンバーとも再会出来てうれしかった

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jan 11, 2025 at 18:56

さい芸の小ホールは、青山円形劇場が使えない(なくなったとはいわない。ずっと劇場はあの地に「在る」のだ)今、いちばん好きな劇場空間。

『聖地』から約15年。2021年に上演予定だった『聖地2030』はコロナ禍により中止となり、その年の年末にゴールドシアターは解散。『水の駅』が最終公演となった。

・【公演中止】さいたまゴールド・シアター第 8 回公演 『聖地2030』┃彩の国さいたま芸術劇場

蜷川幸雄の死後も、さい芸は高齢者による舞台づくりを継続している。2018年に開催された『世界ゴールド祭2018』で、岡山を拠点とするOiBokkeShiがさいたま初登場。『よみちにひはくれない』浦和バージョンが上演され、そのことが『聖地2030』の、そして今回のコラボレーションに繋がったと思われる。さい芸の渡辺弘氏の尽力も大きい。年明けからヘヴィーな観劇になりそうという不安と、いやいやこのふたりの作品なら単にしんどいだけで帰らせないだろうという期待を抱えて与野本町へ。結果、笑顔で劇場をあとにした。

ロビーには出演者の顔写真とプロフィールが展示されていた。「今日の『もと』を当てましょう! 応援したい出演者を選んでください。当選者には景品を差し上げます!」と書かれた箱には、出演者の顔写真カードが入ったネックストラップが積まれている。「『もと』ってなんだ???」と思いつつ、ひとりを選ぶ。ちょっと恥ずかしいので(笑)首から下げず手に持って入場。

スタッフワークも上質。ステージにはテーブルと椅子、天井にはミラーシート、フロア上手にはミラーボール。カワイイ宇宙と不気味な祝祭空間を同居させる。下手に設置されたデジタルサイネージには、出演者の全身像が順番に映し出され……んん? 人物が入れ替わる際混ざっている! あのーあれよ、マイケル・ジャクソンの「Black Or White」MVみたいなやつよ。モーフィングというのかな。男性が女性に、若者が老人に、小柄な人物が大きな身体に……開演迄の時間、見入ってしまう。舞台美術は森純平と志賀耕太とクレジットされていたが、映像もそうだったのだろうか。人間が混ざる。混ざったことで新しい人間が生まれる……とても印象的だった。衣裳は小松陽佳留。ハイバイ『おとこたち』で衝撃を受け、以降小物の見立てが素晴らしいな、誰だろうとクレジットを見るとこの方の仕事、ということがとても増えた。今回は黄色いスカーフひとつで未来のファッションを表現。かわいいし面白い、誰だろう? と当日パンフレットを確かめると小松さんだった。シルバーとイエローに明るい未来、舞台奥の暗闇は死の色濃い宇宙空間。怖いコントラスト。

さて、ピンコロ目指して幸せな老後を過ごせる惑星「まさゆめ」へと高齢者たちは宇宙船で旅立つ。リビングルームのようなスペースで、自己紹介をしつつ「まさゆめ」に着いたら何をしたいか語り合う。牡蠣養殖家、宮大工、音楽プロデューサー、看護師……自分の生業を「まさゆめ」でも活かしたいひと、働きづめだったから「まさゆめ」ではのんびり過ごしたいひとと、夢見る「老後のくらし」はさまざま。ひとりだけ明らかな若者がいることに違和感を残しつつ談笑していると、事故が起こる。燃料不足で、ひとりだけ船から降ろさないといけないとAIはいう。これから7分以内に、誰を降ろすか議論し決めてください。「役に立たない」ひとを選んでください。

「役に立たない」人間もAIが選べそうなもんだが、それを当事者(人間)同士の議論で選ばせるというところが残酷。AIの卑怯というか姑息というかおまっAIなのに責任逃れすんなよなどと思う。その後宇宙船は海賊に襲われたり感染症が蔓延したりするのだが、その都度「不要」な人間を選ぶための議論が行われる。

面白いのは、その「不要」な条件が状況によって変わることだ。宇宙船の運航のためには「役に立つひと」が必要。海賊は「仲間にふさわしい悪人」が必要。いかに社会に貢献したかをアピールしていた乗員たちが、海賊の仲間になるべく悪事を次々を暴露する。実は産地偽装してました、パワハラかなあ、若い女性を囲ってました……。その掌の返しっぷりに観客が湧く。産地偽装のワードが出たときなんて、ドッと笑いが起きた(笑・演じる石川さんの間が絶妙だった)。直後フォローの言葉にハッとする、「福島で、風況被害がすごくて」「仕方がなかったのよ」。

なんでも議論のシーンには台本がないという。演者が実際に体験したことなのか、演者自身の創作なのか……そのことをニヤニヤ考え乍ら観ていると、虚を突かれるようにエモーショナルな瞬間が訪れる。

「もと」を当てましょう! と入場時に出演者の顔写真がプリントされたカードを自分で選ぶんだけど、当てたので景品もらえました😇議論によって「もと」が毎回変わります。各人のエピソードも台本にはないそうで、今日はシフォンケーキのとこで泣いちゃった。17cmの型っての

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jan 11, 2025 at 18:58


孫を名乗る女性と、宮大工の会話だ。「おじいちゃんのシフォンケーキ食べたいな」「ああ、あるよ。今日は17cmの型で作ったよ」「どうして17cmで作ったの?」「おまえが来ると思わなかったから、自分で食べる用にちいさいので作ったんだ」。ぽろっと涙が出た。これはなかなか創作では出てこない言葉ではないだろうか。ふとした言葉、ふとした仕草から、演者の日々の暮らしが浮かび上がる。虚実の境目が消え、心に刺さる台詞の数々。長い長い人生の旅をゆき、そこで得た体験の数々が舞台に出現する。

「不要」な他者を選ぼうとしていた人間たちは、最終的に生き残らせるためのひとりを選ぶ。そこではもはやAIが「不要」なものとなる。彼らは目まぐるしく変わる環境を前に、自分たちで決めたことだから恨みっこなしよといえる呑気さを持っている。「ワンチャン生き残れるかもしれないもの」。達観と諦めに、かわいらしさが滲む。「もと」は宇宙へと放たれる。それは未来に生きる人類の根源となるか。大きな絶望とほのかな希望を余韻をとし、登場人物たちとともに「もと」を見送る。

高齢者のキャストはオーディションで選ばれた。千鳥のノブみたいに喋るひとがいるな…かわいいな……と思っていた女性は岡山からの参加者だった。この公演は、菅原さんの拠点である岡山でも上演されている。さい芸と岡山芸術創造劇場のタッグ、これからも観られるとうれしいな。終演後に見かけた出演者に杖をついているひとがいた。舞台上ではあんなにキビキビ動いていたのに! カーテンコールでは「石川さん、応援に来たよ!」「有難う!」なんて客席と舞台のやりとりもあり、演劇が心身に与える効果について考えた一日だった。

そうそう、唐組の久保井研さんが出るってのが意外というか何の役すんの? と思ってたんだが海賊役だった。ピッタリ(笑)。ニヤニヤ笑って議論聞いてるとことかめちゃめちゃおかしかった。

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・渡辺弘/菅原直樹 高齢者演劇先進国のこれまでとこれから―地方都市から発信を続けるエキスパートたち┃PANJ
渡辺 “すごくローカルなことが世界とクロスする”のがいいですよね。
公共劇場だからこそ出来ること。これからの活動も楽しみにしています

・松井さんの脳内ミューズ(?)アイドルは今回も登場。『聖地』は一度しか観ていないのに劇中出てきたキノコちゃんの歌、今でも唄えます……超インパクトがあって、超キャッチーなメロディーだったもんでな

・ちなみに自分は宇宙空間での事故がいちばん怖いマンなので、ぜってー移住はしないな……着いたら農業をとか養殖をとかいってたけどマジで出来んのか? 騙されてないか? どっか違うとこ連れてかれんじゃねーか? と序盤から疑念でいっぱい。宇宙へ行くなんて『ハイ・ライフ』みたいな未来しか見えないよ〜!

・アフタートークも面白かった。この日の登壇者は渡辺さん、松井さん、竹居正武、石川佳代、荒木知佳。蜷川さんの思い出話も結構聞けてうれしかったなー。『PLAN 75』の話にですよねってなってるひと結構いたっぽい。『聖地』観てたらそう思うよな……。「まあでも、今の社会を生きていたら誰でも思いつくことなのかもしれませんね」と松井さん。ゴールドシアターに入団したときは若手だったという竹居さんは大病を経て再び舞台に立てた喜びと、岡山で稽古中に体調を崩したときのスタッフの対応に感動したことなどを話していた。ゴールドシアターの活動で培われたノウハウは、スタッフたちにも継承されている

・演劇は観るよりやる方が断然楽しいですよ! 皆もっと気軽に演劇しましょう! と松井さん。演劇が心身に与える効果ってやっぱりあるよねえ