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2017年04月16日(日)
『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』

蜷川幸雄一周忌追悼公演 さいたまゴールド・シアター×さいたまネクスト・シアター『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

もうすぐ一年なんだなあ。しかしこの作品、かつて蜷川さんの演出で観たどの上演よりも気づきが多いものになった。初めて合点がいったところもあり、初めてストーリーを理解したような気にすらなった。これを皮肉と思うことも出来るが(蜷川さんが存命中に気づけなかった自分に対して)、船長を失ったクルーが、既に新たな航海に出発し、新しい大陸を次々と発見しているようにすら感じた。

まず思ったのは、アドリブが増えたような気がしたこと。それだけ演者たちが台詞を自分のものにしているということでもあるが、滑舌があまりよくない某役者さんに「わからん!」「ちゃんと喋れ!」というヤジがとぶとぶ、ウケるウケる。婆たち容赦ない(笑)。その婆たちが裁判所を占拠するくだりも、あまりにも自然で狐につままれた気分。生活者が公共の施設に入り込む、ということがあたりまえのように受け入れられたのだ。たとえば図書館に一日中いるひとや、病院の待合室で世間話をしているひとたちとかわらないように見える。作者である清水邦夫はここ迄見越して書いていたのだろうか……とすら思う。

一月に観たときには自力で立つこともままならないように見えた重本さんが、裁判長の座にしっかりとした足取りで歩いていく。ソプラノの声は、凛と響きわたる。大ホールでこの作品が上演されたことは初めてだと思うが、劇場のサイズに合った演技だ。鈴木裕美さんの言葉をかりれば「大きなリボン」がかかっている。力まず、構えず、しかし勘所には芯を通す。これが人生経験を積んだもののおおきさか、と思う。嘆く婆たち、成し得なかった革命、託せなかった未来。その無念が、願いが結実し、老人たちは若者の姿へと変態する。だがそれも一瞬、すぐに倒れていく。沈黙が訪れる。失ったものへの悔やみ、そして亡くしたものへの悼み。このシーンをこれほど切実に感じたことはこれ迄なかった。

席は最前列だった。何度観てもわからなかった、この入れ替わりのマジック。今度こそ見破ってやろうなんて思っていた。しかし、やっぱりわからなかった。もうわからなくていいと思った。老人たちはあのとき、確かに若者へと姿をかえたのだ。それ以上何を詮索すればいいのだろう? 出演者たちがカーテンコールに応える。老人と若者が手を繋ぎ、深く礼をする。ふりかえる。いつの間にか、蜷川さんの遺影がステージにあらわれていた。笑顔で拍手をおくるひと、涙を流すひと。重本さんは上演中の姿が嘘のように、若者に身体を支えられて立っている。ひとまわりちいさくなったように見えた。ゆっくりと帰っていく。拍手はつづき、全員が舞台袖に入りきらないうちに再びの登場となるのはこの集団の恒例になっている。笑いがおこるのもいつものこと。こんなに未来が感じられる舞台を、ゴールドの公演で観られたことがうれしい。岩松了による新作の公演も決まっている。楽しみにしている。

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・ネクストの次回作も待っている。今回の配役表で今のメンバーがわかる。退団されたひとも少なからずいる。退団者のこれからも観ていきたい