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2026年06月10日(水)
『SIRĀT シラート』

『SIRĀT シラート』@新宿ピカデリー シアター2

しょ、諸行無常…レイバーのノマドランド……終映後の静まり返り具合といったら 『SIRĀT シラート』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) 0:36 · Jun 11, 2026

といいつつ『ノマドランド』観ていないんですがね……。かくも人生は困難で、死はいつでも隣にある。

身の程を知っているのでクラブには行くが野外レイヴには行かない。その思いがより強固になりました。思えばガチのクラバーだった友人の何人かが、レイヴを通過して40代を過ぎてから山登りに精を出すようになっている。やはり戻るのは自然なのか。今作はそういった自然や宇宙や神といった領域に迄行く“しかなかった”、そして現実に舞い戻る“しかなかった”登場人物たちの道行を描くロードムービーだ。具体的な移動と、魂というと大仰かもしれないが、心の内を巡る移動。

とはいえ、まずその自然ってのが砂漠。緑ない。木々と水辺と、鳥や虫と戯れて、とかそんな余興ない。オアシスは少しあったけど、そこも憩いの場というより、生きるための必需品である水を得るための最低限の場所だ。あるのは砂、風、強い日差し、そして音楽。究極のレイヴだ。砂漠にどデカいスピーカーを設置するところから映画は始まる。やがて人々が集まり、爆音のエレクトロニックミュージックでひたすら踊る。その中を場違いな父子が歩いている。レイヴに出かけたまま帰らない娘を探しているという。

モロッコ版『デソレーション・センター』といえばわかりやすいだろうか。しかし今作のそれはオーガナイザーもいるんだかいないんだかわからない究極のDIY。サウンドシステム持っててレイヴをやりたい人が集まればそこがもう会場なのだ。軍から出て行けと追い出され、移動してはまたスピーカーを設置する繰り返し。ゲリラ的に開催されるので、公共交通機関で来られる筈もない。オフロードトレーラー必須。

軍が彼らを追い出すのは何故か。最初は核実験に使う場所とかなのかなと思っていたら、実際はより具体的な殺戮をするためのものがそこにはある。いや、殺戮よりもいやらしい、醜悪なものかもしれない。軍事作戦という言葉も聞き飽きた、要は戦争のために砂漠は使われる。ここはノーマンズランドなのだ。モロッコ南部の現実が見え隠れする。以下ネタバレあります。

タイトルの「シラート」とは、天国と地獄の境目にある刃先のような細い道のこと。コーランに記されている。人生はそんな刃先の上を歩くこと。今作は、それを地雷原を歩くことで視覚化する。こんなわかりやすい喩えがあるか。基本的に登場人物は皆いいやつ。幾人かは手首から先がなかったり、膝から下がなかったりする。徴兵を逃れたという歌を唄う。家族と離れ離れになったことをポツリと漏らす。この地域に住んでいる人々の姿だ。オリベル・ラシェ監督自身もレイヴァーだそうで、父子以外のメインキャストはレイヴ会場でスカウトしたとのこと。子どもと犬はどこ迄もかわいらしく、どこ迄も弱い存在。大人たちはその弱い存在を守りきることが出来ないし、自身の命の限界をも目の当たりにする。

彼らが最後に乗り込む列車には、人種、年齢、性別がバラバラの、さまざまなひとが乗り合わせている。列車の行き先はわからない。ただ知らない人々が共に目指す場所ということだけはわかる。それは現実か理想か。地獄か、あるいは天国か。どのみち死は避けられない。

地雷原が、というのは物語の終盤も終盤で、基本は父子とレイヴァーたちの交流が描かれる静かな映画。限られた備品を分け合い、自炊をし、犬と戯れ音楽を愉しむ。しかし命は次々と失われる。砂漠は過酷だなあ。それに比べれば日本は楽なものだ、と思うも、日本は日本で地震に火山に水害にと、それはそれで大変だ。せめてもの救いは日本でまだ戦争が起きていないこと。まだ、だが。だからこそ、この国が平和で安全でいられるか外交が問われ、政治が問われる。今の日本の政権にその能力があるとは到底思えない。とひたすら気が沈む。

それにしても。スタスタと地雷原を歩く父親のシーンで流れるぽよぽよした電子音……笑うところなの? マジで宇宙とか神とか出てきちゃう? と思ってしまった。そうはならない。そこがいい。ただただ現実だけを見せる。二度は出来ない演出ではないかと思う。音楽の力って大きい。

ちなみに犬は昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドッグ賞を受賞している。二匹いたけどどっもすごくかわいくて、どっちもとても賢い。地雷原を歩くシーンで、抱っこした犬を怖がらせないためにずっとぽんぽんしてたお兄さんいいヤツ。だってさあ人間は自分でどうにかするしかないけど犬はさ…連れてこられちゃったんだしさ……。守らなあかんやろ。地雷原越えたときはもう人間そっちのけで犬は? 犬はどうなった!? と目で探したよ! いてよかった! でも最後の最後、列車では見つけられなかった! 一緒に乗ってることを祈る!

部屋でひとりで、ではなく、映画館で見知らぬ人々と一緒に観た、という体験がとてもだいじな作品に思えた。レイヴには参加出来ないけれど、映画館はそれを疑似体験させてくれる。使い古された言葉だけど、私たちは宇宙船地球号に乗っているのだ。

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・余談。帰りのエスカレーターで「黙ってチャンガ喰わせんなよ…」といってたひとがいてそこ!? となるなど。レイヴァーのモラル(笑)…いやでもあれは彼らも良かれと思ってだな……。安易にガンジャとかいわないところ、歌舞伎町が目と鼻の先という場所柄なんだろうかと感心もした。単館ではなくシネコンで、しかも2番目に大きいスクリーンが(初週末はスクリーン1だったとか)ほぼ満席という状況にも驚かされた。皆何を期待して来たんだ(おまえもな)

・帰宅したら謎の湿疹が顔に出来ていた。デトックスか

・【単独インタビュー】『シラート』オリベル・ラシェ監督が描く、“死ぬ前に死ぬ”変容の旅┃Fan's Voice
私は、いわゆるクラブカルチャーよりも、この「レイヴカルチャー」や「フリーパーティー」のほうが断然好きです。
やっぱね……。それはともかく、作品背景をとてもわかりやすく聞き出せているよいインタヴュー

「私たちを揺さぶることは、“人生”なりの気遣いなんです」映画『シラート』のオリベル・ラシェにインタビュー┃GINZA
この映画は辛く過酷ですが、でもある意味、それが人生のあり方なんです。
『アンデスの聖餐』のもとにもなったチリの墜落事故(ウルグアイ空軍機571便遭難事故)から弓道、俳句迄。読み応えのあるインタヴュー