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2017年05月17日(水)
『トンネル 闇に鎖された男』

『トンネル 闇に鎖された男』@シネマート新宿 スクリーン1

2016年、キム・ソンフン監督作品。原題『터널(トンネル)』、英題『The Tunnel』。

全方位に目配りを利かせた秀逸な脚本、その展開は常に予想の斜め上をいく。予期せぬ出来事に直面した登場人物たちの「選択」が、観る側にぐいぐいと迫ってくる。「あなたならどうする?」と。国をとりまく問題はシンプルだが、そうなる迄の経緯は複雑だ。不運にも巻き込まれた市民を社会はどう守るのか、あるいはうちすてるのか。しかしこの作品は常にユーモアを忘れない。脚本も手掛けたキム・ソンフン監督のタフなしたたかさに感服。以下ネタバレあります。

トンネルが崩落し、ひとりの男が閉じ込められる。車内にあるのはバッテリー残量78%のスマートフォン、ペットボトル入りの水、そして娘への誕生日ケーキ。ここで観る側が思うのは、スマホで外と連絡をとり乍ら水とケーキでなんとか命を繋ぐのだな、どのくらいもつかな。ということ。ところがことはそう簡単に運ばず、水もケーキも想定外の出来事からはやくなくなり、救助活動も「そんな馬鹿な」といった展開で遅れに遅れる。

しかし「そんな馬鹿な」展開は、ちっともありえないことではない。社会に生きるひとびとのちょっとした怠慢により生じること、この瑣末の積み重ねに登場人物たちは翻弄され続ける。そもそも手元にあるペットボトルは、主人公がトンネルに入る前に立ち寄ったガソリンスタンドでおまけに渡されたものだが、これは耳の遠い年配の従業員が作業に手間どったことのお詫びとしてプレゼントされたようなものだ。ここで時間をくわなければ主人公は崩落前にトンネルを抜けたことが出来たかもしれない。しかしこうなった今、この水をもらったおかげで助かっている。ケーキはとあることでなくなるが、その原因となったとある出演者(?)は、長期間閉じ込められている主人公のよき友となる。

そこからどうする? トンネルの内と外、あらゆる局面で登場人物たちは選択を迫られる。主人公と救援隊長のやりとり、救援部隊とマスコミの鍔迫り合い、どうなっても他人事な政府。皮肉のたっぷり効いたこれらの描写に苦笑していると、「65%(63か、68だったかも。どちらにしろ絶妙な数字だと思う)」で切っ先を喉元に向けられる。「あなたならどうする?」。常に自問し乍ら127分を過ごす。パンフレットでも言及されていたが、遭難から救助迄を描いたものであれば90分ですむのだが、今作は120分以上の上演時間を必要とするものになっている。いーやー面白かったなあ!

主人公を演じたハ・ジョンウ、流石。『テロ, ライブ』を思い出させるひとり芝居で映画をひっぱる。このホンの大きな要素であるユーモアを体現する。彼の演技が「遭難者」という代名詞ではくくれない、「イ・ジョンス」というひとりの人物に血を通わせる。彼と電話でやりとりを続ける救援隊長も、オ・ダルスが演じたことで人間味が増す。工事再開の決定を、混乱の極みで夫に伝えるペ・ドゥナも見事でした。あのラジオのシーンには引き込まれた。そして想定外の出演者。なんだおまえ…おまえみたいなやつが出てくるってしらなかったよ! すっかり虜になりました。本編では描かれないけれど、娘は誕生日にあるものを希望していた。それはいずれ叶うかも、と思わせられました。

音響もよかったというか…閉じ込められてからいろんな方向から聴こえるパラパラ…とかミシッ、とか、映画だってわかってるのにヒヤヒヤした。

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・輝国山人の韓国映画 トンネル
パンフレットに載っていない配役やクレジット、有難い!