初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2018年11月10日(土)
さいたまネクスト・シアター『第三世代』

世界最前線の演劇 2[ドイツ/イスラエル]さいたまネクスト・シアター 『第三世代』@彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO(大稽古場)

ネクストシアターの面々がぼちぼち揃ったよ〜。外部や関連公演で観ていたひとも、お久しぶりのひとも。劇団公演をホームで観られてうれしいことです。『ジハード』に続く、『世界最前線の演劇』シリーズ。『紛争地域から生まれた演劇』に連なるシリーズでもあります。

2009年、ベルリンで初演。WW2当事者の孫世代(第三世代)であるドイツ人、イスラエル人、パレスチナ人が本人の名で本人の背景を用いて劇作し、観客の多数がドイツ人という環境で上演された作品。ドイツ語、英語、アラビア語が飛び交い、ドイツ人はアラビア語が解らずイスラエル人はドイツ語が解らない。ドイツ人のなかには東ドイツ出身の者がおり、パレスチナ人はイスラエル在住であり、キリスト教信者のアラブ人もいる。作(構成)者は自身も第三世代である1976年生まれのヤエル・ロネン。イスラエルを代表する演出家で、シオニズムに否定的な人物。

社会的に意義あることだと集まった出演者たち。平行線の議論、一触即発の状況。そのうち一部の参加者にはギャラが発生していること、助成金を出したのはドイツで、イスラエル側は決して協力的ではなかったということが判明する。ワークショップを積み重ねている段階でこうしたことが露呈していったのだろう、最終的にはプロジェクト自体が破綻した状態になる。しかしロネンはそれをそのまま舞台に載せた。初演はある種ドキュメントの力を持った作品になったわけだ。

今回の上演は、それらのシーンが既に前提だ。初演のメンバーにとっては作品の本質から外れた部分である出来事を、今回はドラマとして芝居に内包しなければならない。この辺りをいかに見せていくか、という試行錯誤が窺えました。そのうえこれを日本で、日本人が、日本語のみで上演することの難しさ。演出を手掛けたTRASHMASTERSの中津留章仁は2012年のリーディングからこの作品に携わっており、日本の役者たちと創意工夫を重ねてきたようです。観乍ら考えていたことは、「これ、日本、韓国(北朝鮮)、アメリカで再構成出来るかなあ……」ということ。アフタートークでもちょっと話題になりましたが、日中韓に置き換えたらどうなるかなあという議題はあったようです。在日コリアンの存在は、イスラエルに住むパレスチナ人と通じるものがあるかも、とか。

遠くの国で起きていることを、想像力をフルに使い身近に感じようとする。そうすると、現在実際に戦闘が続いているガザ地区の住人に心を寄せるべきなのか? という自問が湧きました。しかし、告発者のパレスチナ人はガザ地区に住んでいない。イスラエル側がステレオタイプに描かれているのもいささか分が悪い。そしてふと思う、これらの問題ってアメリカの存在なしには語れないのではないだろうか? 日中韓の問題にしても同様だよな…結局割を食ってるのはその場で暮らしているひとたちになっちゃうんだよなあ……などと考えだしてしまいしょんぼりする。

とはいえ、笑えるシーンもあるのです。イスラエル人たちがホロコーストの知識を得た途端にフォークジャンボリーな歌を唄い出したり(またこれがペラペラな歌詞でニヤニヤした。ついでにいうと歌が調子っぱずれで……いかにもな下手さ加減で絶妙だった。ほめてる)、参加したいデモが多すぎてスケジュール調整に四苦八苦するドイツ人がいたり。ユーモアだいじ。だけどこれはシニカル。一歩間違うと地獄を見ますね。非常にフラジャイルな場面なので、日によってはウケないこともあるかも。客いじりもあり、この日話を振られたひとりは意見を語り、もうひとりは沈黙したままでした。どちらの反応でも滞りなく進行するのでご安心を。とはいえ、ここで芝居が中断する可能性だってある。そのとき演者はどうするかな、といった興味も湧きました。

ステージにあるのは演者が座る椅子だけ。一見ワークショップ(冒頭「この作品はワーク・イン・プログレスです」という台詞がある)だが、実際上演されているのはひとつの完成形。これを二時間見せきった演者は見事でした。進行係ともいえる自虐的なドイツ人を演じた盒怯儡、パレスチナ人の少年から老人迄演じ分けた阿部輝にはネクストの地力を見た。内田健司の引き出しの多さを観ることが出来たのもうれしかった、声を張る扇動者。周本絵梨香と井上夕貴のやりあい、佐藤蛍のサークルクラッシャーっぷり、観たかったやつ! 軽薄な手打隆盛、貴重! しろくまクヌートの名がぴったり(?!)、悠然と構える續⽊淳平! そしてヤーマン松田慎也が帰ってきたぜ〜! 客演は青年座から清瀬ひかり。ネクストのメンバーって老人の描写がめちゃめちゃ巧いんですが(ゴールドシアターのメンバーと長く時間を過ごしていること、実年齢とはかけ離れた人物を演じる機会も多いことが要因かと思われる)清瀬さんも老婆の声色が迫真で、ネクストのひとだったっけ? と思いそうになるなじみっぷりでした。それにしてもネクストのメンバーって皆美声よね、発声がよいということもある。安心して聴ける舞台の声。

「ホロコーストとナクバ(1948年パレスチナの大災禍)は違う、ゲットーとガザ、ヨルダン川西岸地区地区は違う、比べないで」という台詞。そう、比べてはいけない。イスラエル人の彼も、彼女も、幕開けで謝り続けたドイツ人の彼に「もう忘れろ」「忘れて」といったじゃないか。個人対個人の関係には対処出来る。憎しみが生まれるようなら離れればいいし、友好は育てていけばいい。しかし現在、それを許さない社会の風潮が強くなっている。「〇〇だから〇〇(個人名)は好きじゃない、つきあえない」ではなく「〇〇だから〇〇人はきらい、つきあえない」となってしまう仕組みを避けられなくなるときがきたとき、どうすればいいのだろう。その圧力に直面したとき、自分はどこ迄個人でいられるかな、と考え乍ら劇場を後にしました。今も考えている。

-----

・アフタートークのゲストは山本薫さん(アラブ文学・文化研究)。作品背景の解説や、シリアに留学していたときの話も。当時は和やかで楽しい時間を過ごせたけれど、今はとてもじゃないが出かけられない場所になってしまって……といっておられた。以前シリアに住んでいたヤマザキマリさんもそう書いてたなあと思い出す。中津留さんからはリーディング公演との演出の違いについてなど。例のフォークジャンボリーのシーンづくりの話がすごく面白かった……思い切りってだいじ(笑)

・さいたまネクスト・シアター×中津留章仁の「第三世代」開幕┃ステージナタリー
そうそう、国旗を模したTシャツの衣裳(紅林美帆)もよかったのよ〜ベタだけど普段でも着れそうなかわいさで。袖には「G3」のロゴも入ってました

『演劇評論家 扇田昭彦の仕事−舞台に寄り添う言葉−』┃早稲田大学演劇博物館
蜷川さんのメモリアルボックスのとなりにフライヤーが張ってあった。だよねだよね、蜷川さんご存命なら絶対観に行っただろうから、そりゃここに張るよねとほろり。近いうちに観に行かなければ