8/10から三日間は「昔話法廷」の放送。
その真ん中の8/11の夜9時から放送されるNHKのドキュメンタリードラマ、BS1スペシャル「武士の娘 鉞子とフローレンス」のドラマ部分の脚本を担当しています。
「戦前にアメリカでベストセラーになった杉本鉞子という武士の娘の自叙伝があるんですが、その本を一緒に書いたフローレンスという女性がいて、二人の友情に光を当てる番組です」といったことを最初に言われ、面白いなと直感で思ったのが、「著書にはフローレンスのクレジットがない」という事実でした。
おそらくフローレンスが鉞子一人が書いた本にするために気を配ったのでは、と推察されていますが、国境をこえた友情はどのように育まれたのか、興味を持ちました。
脚本作りは膨大な資料を読み込むところから始まりました。
まず英語で書かれた後に大岩美代によって日本語に訳された「武士の娘(A Daughter of the Samurai)」の言葉の美しさと品の良さに、日本語ほど美しい言語はない!と「愛国語者」を自認するわたしは惚れ惚れ。目で味わって良し、声に出してなお良し。こんなに流麗な日本語は、めったにお目にかかれません。
鉞子は長岡藩筆頭家老の娘。父が没落した後も武士の娘としての誇りある生き方を叩き込まれます。アメリカ在住の日本人男性に嫁ぐために渡米した後も、その心は揺らぐことなく、「武士の娘」のそこかしこに日本の美しい心が宿るのを見るにつけ、祖国日本に惚れ直しました。
わたしがアメリカの高校に留学した1986年にこの本を知っていたら、もっと魅力的に日本という国を紹介できたのではと悔やまれます。
鉞子はとても頭のいい人で、異なる文化の違いを認め、受け入れ、人として通い合う部分も見つけるということを実に楽しそうにやってのけています。
ネットでなんでも調べられる昨今は、カルチャーショックですら質問掲示板で相談できてしまいますが、鉞子が渡米した19世紀の終わりは、自分の目で見たこと感じたことを自分の価値観で判断するしかなかったことでしょう。幼い頃から教養を身につけ、四書にも親しんでいた鉞子には、物差しになる考えがしっかりできていたのだと思います。
「武士の娘」の理解を深めてくれたのが、番組に監修として関わられている内田義雄氏の書かれた
「鉞子(えつこ) 世界を魅了した「武士の娘」の生涯」でした。
鉞子と同郷の長岡出身で、「武士の娘」を「不朽の名作」と呼び、鉞子に惚れ抜いている内田氏がたどった鉞子とフローレンスの足跡が詳しくまとめられ、「武士の娘」に描かれている内容をより立体的にとらえることができました。
ドラマ脚本開発にあたって、内田氏からは貴重なご意見をいただきましたが、ご自身の鉞子像を大切にしながらもドラマチームの出すアイデアを面白がり、そこから想像を広げられる懐の深さと柔軟さに鉞子に通じるものを感じました。
テレビ番組放送を前に、手に取りやすい文庫版「武士の娘 日米の架け橋となった鉞子とフローレンス」が出ています。
番組の企画を長年温めて来られ、「語り」として参加されている星野知子さんも長岡のご出身。「世界の鉞子をもっと知って欲しい!」と熱く語り、脚本の初稿を読んで「鉞子が動き出した!」と喜んでくださいました。頭の回転が早く、思慮深く、打合せでの言葉のひとつひとつが優しくて知性にあふれていた星野さん。「武士の娘」からイメージした鉞子像と重なる方でした。
鉞子に魅せられた方々との温かいご縁に恵まれ、刺激的な打合せを重ねて作らせていただいた「武士の娘 鉞子とフローレンス」。ドラマ部分の演出は、「そこをなんとか」「そこをなんとか2」をご一緒した一色隆司さん。大学時代をアメリカで過ごされた一色さん、高校時代に一年間アメリカに留学したわたし、それぞれの体験も脚本に溶けているのではと思います。
二人三脚でベストセラー「武士の娘」を書き、何度も太平洋を共に横断し、今は青山墓地に並んで眠る鉞子とフローレンス。人情は国境をこえることを教えてくれる二人の友情の物語をドキュメンタリーとドラマでお届けします。ぜひ、見てみてください。
8/11(火)21:00〜22:50(途中ニュースを挟みます)
NHK BS1にて
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