2012年02月01日(水)  パン屋少女と画家の恋(中学生のドラマ脚本会議その3)

母校の堺市立三原台中学校での「中学生のドラマ脚本会議」。1/30の先生方中心の大人組(>>>1/30の日記)に続いて、1/31の2限目に一年五組の授業で第二弾をやった(>>>1/31の日記)。

同じ日の5限目に国語科の加藤先生が一年三組の授業で第三弾。わたしは教室の後ろで見学させてもらった。

Oヘンリーの原作「Witches' Loaves(魔女のパン)」のあらすじをおさらいすると。
パン屋のマーサは独身の四十女。2千ドルの預金と自分の店を持っている。
恋人はいないが、気になる客がいる。同い年ぐらいの紳士だ。
しかし、彼が決まって買っていくのは、マーサの自慢の焼きたてパンではなく、古くなって半額になったパンである。
彼の指先に絵の具がついているのに気づいたマーサは、彼が売れない絵描きで、貧乏だから、古いパンしか買えないのだと思う。
そのことを確かめるために、マーサが店に絵を飾ってみると、彼は絵をほめた上で「遠近法がなっていない」と指摘した。
彼は才能があるが芽が出ていないのだとマーサは思い、そんな彼を支えたい気持ちを募らせ、胸をときめかせる。
ある日、彼が店に来たとき、外で消防車のサイレンが鳴った。彼が外へ様子を見に行ったすきに、マーサは彼が買い求める古パンの間にバターを塗る。
絵描きのプライドを傷つけずに栄養のついたものを食べさせたいという想いからだった。
マーサの小さな親切に気づいた彼の反応が楽しみだった。
だが、マーサの夢想は、店に怒鳴り込んで来た彼の声で破られる。
一緒に来た彼の友人によると、彼は絵描きではなく、建築家の卵だった。
コンペに提出する設計図の下絵を消すために古パンを使っていたのだが、いよいよ完成というときに、バターのせいで台無しになってしまった。
マーサの短い恋は、終わった。

まずは、キャラクター決め。候補がいくつも出て、拍手採決をしても、なかなか決まらない。10分ほどかけて「赤川ヨシコ」というヒロインの名前が決まり、相手役の男は「青山ヨシカズ」となった。赤川と青山というベタな対比、ヨシコとヨシカズという昭和なネーミング、今どきの中学生は意外と古風なのか?

さて、年齢は?

「10代がいい!」という声が圧倒的。ヒロインは「17歳」に。10代で自分のパン屋を持つのは無理があるので、親の店を手伝っていることに。相手役は少し年上の「19歳」となった。

大人組は20代男女、一年五組は30代男女、一年三組は10代男女。会議の出席者が変わると、キャラクターも変わる。それにしても、同じ中学一年生で、かたや30代、かたや10代。ここまで違いが出るとは、面白い。

続いて、

恋をする

の出会いの場面を作ることに。

このクラスは恋バナが好きなようで、
「店の看板をつけようとしたら、ぐらっとなって助ける」
「ヤンキーにからまれたところを助ける」
といった少女漫画ヒーロー的出会い案が続けて出た。

「看板つけるのは工事の人がやるんとちゃう?」という意見が出たので、後ろから「看板だと大き過ぎるなら、電球替えるとか、時計の針合わせるというのもあるよ」と助け舟。

「小麦粉を買いに行ったときに、運ぶのを手伝ってくれる」というアイデアも出て、いちゃもんつける客が来たときに、ヨシカズが店に居合わせて、小麦粉をぶちまけていちゃもん客の目をそらし、ヨシコを自転車に乗せて逃げる、というロマンティックな出会いの場面が生まれたが、

「自転車あったら貧乏に見えへん」というツッコミが入り、手を引いて走って逃げることになった。

教室の窓際の席で、前後で相談している女の子に「出会いの場面考えてる?」とわたしが声をかけると、「こういうベタなんしか思いつかへん」という返事。「ベタすぎるときは、ちょっとずらしたらええねん。手広げた瞬間に服がビリッと破けるとか。そしたらビンボー感も出るし」とアドバイスすると「うわー、すごい」と感心されたので「まあ、プロやから」。

「その服をヨシコが持って帰って繕ったら、次に会う口実もできるで」と話していたのを、「加藤先生すみません」と割って入って提案。「手を引いて逃げたときにヨシカズが転んでケガをする」という他の生徒のアイデアとの合わせワザで、そのときに服が破れて繕うことにしてもええねと話す。

原作で重要な働きをする古パンはなかなか出て来ない。それどころか、原作ではマーサが一方的な片想いを募らせるのに、一年三組版では早々といい感じになってしまっている。

なんて自由なんだ〜!

さらに恋バナは続く。ヨシコが服を繕ったら、ヨシカズはどう出るか?「お礼をする」という意見が出て「何を贈る?」と加藤先生。「絵」という答え。「いつも絵を持ち歩いていて、それをあげる」「誰が描いた絵?」と先生。原作では男は絵描きではなく建築家となっているので、「ヨシカズじゃない人の絵」という答えに落ち着きかけるが、「別にヨシカズが描いてもええんちゃうん?」という意見が出た。

おお、出ました!

思わず、わたし、興奮。実は前日(1月30日)の夜に大人組の描く本会議に参加された何人かの先生方と教育委員会の方と会食した際に「考えてみたら、絵描きの設定でも行けますよね」という話になったのだった。設計図ではなく油絵の下絵を消すのに古パンを使っていてもいいのでは、と。ただ、その場合は絵の具を塗る前に下絵を消すので、台無し感は設計図よりは薄れるけれど。

でも、大人たちがそのことに気づいたのは、脚本会議が終わって何時間もしてから。会議中に「建築家ありき」の縛りを取っ払った中学生のほうが、頭が柔らかい。

でも、大人にも柔軟な発想をする人はいて、大人組脚本会議で「古パンにハムとチーズをはさんでは?」と絶妙な変化球を投げ込んだ教育委員会のS氏が、わたしの隣で授業を参観しながら「なるほど、油絵だったらバターと相性がいいですねえ」と唸った。「バターを塗ることで、絵に味が出て、かえっていい絵になって、入賞したりしたら、災い転じて、ですよねえ」

最後まで通すことよりも議論が盛り上がったところにじっくり時間をかけたいという加藤先生の方針で、一年三組の脚本会議は、二人の恋が盛り上がったところでチャイムが鳴った。



「片想いありき」の縛りも軽々と取っ払ってしまった一年三組。「両想いになってから、画家の卵の彼が買っていく古パンにバターを塗る」展開をわたしは思いつかなかった。序盤からいきなり恋を盛り上げてしまうところに10代の若さを感じた。

授業が終わると、生徒たちが口々に「続きどうなるんやろ?」「もっとやりたかった」などと話す光景が見られた。「普通はさっと切り替えるんですよ。こんな風に授業の余韻が残るってことは、それだけ面白かったってことです」と教育委員会のS氏。

廊下に出ると「せんせ、せんせ」と女の子たちが集まってきて「サインください」と紙とペンを差し出してきた(ちなみに一年五組の子たちは「アドレス教えて」だった)。授業中熱心に原作のプリントの隅に漫画を描いていた子がいたのだけど、その子が「これあげる」と持って来た。よく見ると、「ミス・マーサ 40歳」のキャラクター像。


うわー、中学生から見た40女って、こんなオバサンなのか!
これもひとつの原作の解釈。

そして、もうひとつの絵は、


女の子によると「赤川ヨシコが車にひかれそうになったのを青山ヨシカズが助けようとして、死んでしまうところ」だという。
「ええっ。相手が死んでまうん? そしたら古パンはどうなるん?」と聞くと、
「古パンで墓石みがくねん。でも、ある日、バターつけたパンでみがいて、お墓ダメにしてしまうねん」

うわーーーーーーーー。

脚本会議の冒頭でわたしは「原作を家とすると、脚本はそのリフォームの設計図。家を支える柱は取っ払えないけれど、間取りや内装は変えられる」と説明した。しかし、中学生の手にかかれば、床板までもべりべりとはがされ、元の家は跡形もないほど姿を変え、大黒柱一本だけが残される。

その大黒柱は「恋した男の古パンにバターを塗る」の一点なのだった。

1月31日午前の一年五組の脚本会議の模様を取り上げたNHKニュース(関西ローカル)は、

NHKオンライン 大阪放送局にて動画を見られます。1/31(火)の4番目。次週分に差し変わる前に間に合えば、ぜひ生徒たちの生き生きした表情を見てください。

堺市立三原台中学校のサイトの1月31日と2月1日にも写真と記事が出ています。

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