2012年01月31日(火)  りんごで始まりアップルパイで実る恋(中学生のドラマ脚本会議その2)

母校・堺市立三原台中学校での「中学生のドラマ脚本会議」授業2日目。前日の大人組(1/30の日記)は先生方中心だったので活発な意見が出たけれど、中学生はどうなのか。

発想は大人より面白いものを持っているだろうけれど、それを口にするハードルが高そう。なので、先生方のアドバイスを受けて「近くの人と自由に相談していいよ」形式を取り、一人ずつ当てるのではなく、自発的に出た声を拾いに行くことにした。

9時45分から2限目の授業。生徒を教室に入れ、席に着かせるまでに5分近くかかる。残る45分でどこまで行けるか。「今井雅子さん?」と親しげに話しかけてきてくれた女の子たちは1組の子だった。

昨日入る予定だったNHKの取材は、授業に合わせて今日にずれた。テレビカメラを向けられて、教室は、ちょっとそわそわ。

地元紙「泉北コミュニティ」とPTA新聞の取材、他に見学の先生方が数名。

昨日と同じく、Oヘンリーの「Witches' Loaves」を千葉茂樹さんが翻訳した「魔女のパン」を原作に、脚本開発会議。



あらすじをおさらいすると。
パン屋のマーサは独身の四十女。2千ドルの預金と自分の店を持っている。
恋人はいないが、気になる客がいる。同い年ぐらいの紳士だ。
しかし、彼が決まって買っていくのは、マーサの自慢の焼きたてパンではなく、古くなって半額になったパンである。
彼の指先に絵の具がついているのに気づいたマーサは、彼が売れない絵描きで、貧乏だから、古いパンしか買えないのだと思う。
そのことを確かめるために、マーサが店に絵を飾ってみると、彼は絵をほめた上で「遠近法がなっていない」と指摘した。
彼は才能があるが芽が出ていないのだとマーサは思い、そんな彼を支えたい気持ちを募らせ、胸をときめかせる。
ある日、彼が店に来たとき、外で消防車のサイレンが鳴った。彼が外へ様子を見に行ったすきに、マーサは彼が買い求める古パンの間にバターを塗る。
絵描きのプライドを傷つけずに栄養のついたものを食べさせたいという想いからだった。
マーサの小さな親切に気づいた彼の反応が楽しみだった。
だが、マーサの夢想は、店に怒鳴り込んで来た彼の声で破られる。
一緒に来た彼の友人によると、彼は絵描きではなく、建築家の卵だった。
コンペに提出する設計図の下絵を消すために古パンを使っていたのだが、いよいよ完成というときに、バターのせいで台無しになってしまった。
マーサの短い恋は、終わった。

このお話、「恋をする」「盛り上がる」「行動を起こす」「ふられる」とキレイに起承転結の展開になっていて、要は「ヒロインが恋をしてからふられるまでのお話」と前置きした上で、キャラクター決めに取りかかった。

「ミス・マーサ40歳の恋愛ドラマ、見たい? 親しみやすく、大阪の女の人にしよか? 年も自由に決めていいよ」と問いかけると「20歳!」「25歳!」「30歳!」と声が上がった。

「20歳がいい人、拍手」
「25歳がいい人、拍手」
「30歳がいい人、拍手」

拍手採決方式、眠気覚ましにも有効。意外なことに「30歳」になった。


名前は「川村マサヨ」と「土橋マサキ」に。土橋は「38歳」。20代男女に設定した大人組よりもオトナな設定。

では早速、マサヨの恋バナを作っていこう。まずは、

恋をする

「原作では、気になる客がいるとこから始まってるけど、出会いの場面作ってみよか? どこに恋したんやろ?」と振ると、「店の前にむっちゃ長い坂があって、そこを果物が転がっていったのを拾ってあげた」と映像が目に浮かぶ具体的なアイデア。

「もうちょっと親切にしてみよか?」と誘導して、「紙袋からこぼれたりんごを拾ってあげて、ついでに紙袋も持ってあげる」と優しさ倍増。

土橋さんてステキ、とキュンとなったマサヨ。出会っていきなり「親切にしてもらったお礼に自慢のパンをサービス」というアイデアが出る。りんごでつなげて「アップルパイ」をプレゼントすることに。

なのに、次にお店に来たときに買い求めるのは、古パン。「わたしのアップルパイ、口に合わなかったのかしら」とマサヨはますます彼が気になる。

おお、序盤からドラマティックな展開。続いて、

盛り上がる

「恋するマサヨのファッション、ビフォーアフターでどう変わった?」と聞いてみる。髪型は? メイクは? 着るものは? 登場人物の見た目は、いろんなことを語ってくれる。その人の性格や気持ちだけでなく、季節も語る。ハイビスカスのワンピースだと季節は夏。あるいは、春にハイビスカスを着る「ずれた女」という描き方も。

「春で、さくらのワンピース」に落ち着いて、いよいよ、

行動を起こす

「消防車を見に行くのがいいと思う?」と代案を求める。土橋に惚れ直すか、土橋の貧乏を思い知るか、マサヨが行動を起こすきっかけになる場面にできないか。

この質問はちょっと難しかったようで、しばし、考え込まれてしまった。

ここで、「土橋が絵に見入る」という案が出て、ちょっと驚いた。気になる客が本当に絵描きがどうかを確かめるためにマーサが店に絵を飾る場面は原作に出てくるけど、位置的にはずっと前。原作にある要素の前後を入れ替えるのは、脚本の構成ではよくやる手で、ドラマ「ビターシュガー」でも二冊ある原作のエピソードの順序を動かしている。

その手を中学生が無意識のうちに使ったことに、びっくりした。

土橋が絵に見入ることで、隙が作れる。その後ろ姿を見て、服が汚れていたりほつれていたりしたら、マサヨは土橋が「売れない絵描き」であることを確信し、親切にしたい気持ちが募る。

なるほど自然。

と、ここで、後ろのほうから「ハンバーグ」という声が上がった。古パンにこっそりはさむのが、バターではなくハンバーグではいけないのか?と。「ハンバーグやったら、すぐにばれるやん」と別な生徒からツッコミが入る。「それやったらハチミツは?」

大人組では「ハムとチーズ」をはさむ案も出たが、生徒組も「古パンにはバター」の代案が出たのが面白い。

設計図の下書きを消す前に気づく可能性はあるけれど、バターではなくデミグラスソースで設計図が台無しになるという線も、なくはないか。でも、無理はあるか。

というわけで、原作通りバターで行くことに。このお節介のせいで、ラストは

ふられる

「土橋が結婚していて、妻が一緒に乗り込んできたら、ますます痛い」「結婚じゃなくて婚約にしたら?」という意見も。

「ふられるで終わっていい? ハッピーエンドでなくていい?」と投げかけると、教室の空気はハッピーエンドを支持。

「この人は建築家ですって言いに来る友だちとくっつくのは?」というアイデアが出るが、そうなると土橋がヒロインの相手役っぽくなくなるという反対意見が出る。たしかに捨て駒的ではある。

「じゃあ二人目の男ともダメになってしまう」という代案が出て、「りんご食べられへんのにアップルパイ食べさせるとか」。ちょっとひねって「アーモンドアレルギーなのに、アーモンドが入っていることに気づかず、アップルパイを食べてしまい、破局」という案をわたしが出し、「で、どうやって土橋とくっつくの?」

「バターのことを謝りに行く」
「でも、行くの遅すぎへん?」
「それやったら、すぐに謝りに行ってたけど、会ってもらえんかった」

と意見交換があって、「謝りに行くときはアップルパイを持って行く」というアイデアも出た。他にも意見が出るうちに、

「マサヨはアップルパイを持って土橋に謝りに行くが、土橋は意地になって会おうとしない。でも、マサヨが置いて行ったアップルパイがむっちゃおいしくて、友だちに買いに行ってもらう。マサヨは毎日アップルパイを買いに来る土橋の友だちが自分のことを好きなんやと思う。でも、実はアップルパイを好きなのは土橋だとわかって、ついに土橋と両想いになる」

というハッピーエンドが生まれた。りんごで始まりアップルパイで実る恋! この流れなら、「りんごで作ったデミグラスソース」で設計図を台無しにして、りんごで貫くのもありかもしれない。

「これにタイトルつけるとしたら?」と聞くと、
「マサヨのアップルパイ」

お見事。


脚本会議の模様はお昼と夕方のNHKニュース(関西ローカル)で放送。NHKオンライン 大阪放送局にて動画を見られます。1/31(火)の4番目。次週分に差し変わる前に間に合えば、ぜひ生徒たちの生き生きした表情を見てください。

午後からの国語科の加藤先生による一年三組の授業では、さらに常識を打ち砕かれる展開が誕生。長くなるので、続きはまた明日。

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