2010年05月31日(月) |
委員長のゆううつ。その2−5 |
神様には三人の娘さんがいて、その娘さんにはさらに三人の天使ってボディーガードさんがいて。一対の娘さんと天使がこの世に存在する三つの惑星(ほし)を守ってるらしい。 あたしが『住んでいる』世界は地球で、あたしが『今いる』世界は霧海(ムカイ)って霧ばっかの世界。そこの娘さんがリズさんっていう女の子でなんとあたしの叔母さんらしい。この時点ですでに怪しすぎるんだけど。 「うさんくさいと言いたいところだけど、ぼくの場合、本物を見ちゃってるから」 そう言って肩をすくめる先輩。 「先輩は、どうしてここの世界にいるんですか?」 世界って単語に違和感がなくなってきたことを実感しつつ、先輩に問いかける。 「ケガしたところを助けてもらった、かな」 腕をめくって見せる。腕にはこの前と同様、白い布が巻かれていた。 「ポカやっちゃって身動きがとれなかったんだ。そこを通りがかった女神様御一行が助けてくれたってわけ」 女神様はリズさん達をさす。そういえば娘さんがリズさんなら天使さんは誰なんだろう。 ケガはどこでしたんですか、とは聞けなかった。体中から拒絶の意志がみてとれたから。だから、別の問いかけをする。 「もう動けるんですか」 返事の代わりに先輩は布をはずしてみせる。布の、包帯をはずした後には傷跡の残った白い腕。 「ぼくは義理堅い人間なんだ。恩を仇で返すわけにはいかないから」 微笑んだ様は周りの景色によく映えていて。
過去日記
2007年05月31日(木) サイト工事しました 2006年05月31日(水) 温泉です 2005年05月31日(火) 霊はどっちが多いのか 2004年05月31日(月) 飲み会
あたしは委員長。 小学校から中学、果てには高校までなってしまったとう筋金入りの委員長だ。 かといって、生徒会役員やましてや会長ほど忙しくはないしどちらかというと一般生徒より。しがない中間管理職ってところ。 でも任されたからにはやるしかない。先生に呼び出されては雑用を手伝い、行事があればみんなを一つにまとめていく。 転校生がきたら嫌な顔ひとつせず――というわけにはいかないけど、それなりに学校を案内してあげ、必要に応じては相談事にものる。 そう。あたしは委員長。何があっても動じることはない。たぶん。 たとえ相手が異世界からの住人であったとしても。
「あなたは誰? 転入生ですか?」 「うん、そう。ぼくって転入生なの」 「先輩でも転入生には代わりないですもんね。特別サービスで案内してあげます」
思い起こさなくても、あれが全ての元凶だったのだ。
「せん……ぱい?」 「うん、そう。ぼくって先輩なの。ここではね」
迷い込んだのは、わけのわからない場所。
「なんてことしてくれちゃったんですか、アンタは――!!」 「ひっどいなあ。先輩はもっと敬ってくれなきゃ」
あたりは真っ白。 霧。 霧。 霧だらけ。本当になんにも見えない。
「君もあの子にやられちゃったんだ」 「なんであなたは落ち着いてられるんですか!」
委員長はどんな時もしっかりしてなきゃいけない。
「僕も、詳しいことはわからないんです」 「じゃああなたも……?」 「あ。それは違います。あしからず」
たとえ、目の前にいるのが明らかに違うだろ! って突っ込みをいれたくなるような人達だったとしても。
「返せー! あたしを元の世界にかえせーー!!」 「どこかで聞いたなあ。その反応」
あたしは委員長。 だから、どんなことがあっても負けない。
たぶん。
「地球でもよく言うらしいよ? 『人間あきらめが肝心』って」
ごめんなさい。あたし、早くもくじけそうです。
「セイル」 「は?」 「ぼくの名前。いつまでたっても『先輩』はないでしょ。委員長」 「あたしだって、いつまでたっても『委員長』はおかしいです」
委員長のゆううつ(仮)。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とっさに思い浮かんだネタ。 実際に書くのか、また本当に書けるのかは不明。
……その前に色々すすめていかないとなあ(遠い目)。
過去日記
2004年05月30日(日) これから
2010年05月29日(土) |
委員長のゆううつ。その2−4 |
「ぼくの話はいいから。詩帆ちゃんのお母さんってどんな人?」 話題をあたしのことにもどされて。 「普通の親――とは言い切れませんね。女手ひとつであたしを育ててくれましたから」 脳裏に浮かぶ母親を想像してみる。エプロン姿で朝早くからパンを作って働いて。人手が足りないからってバイト感覚で時々仕事を手伝って。そういえばお小遣い前借りって形で携帯電話買ったんだった。きっともどったらただ働きだな。どれくらい手伝えばいいのかなぁ。 「恋愛結婚だったらうまくいったんでしょうけど。あたしができちゃったことを報告する前に逃げられちゃったみたいです」 昨日聞いたばかりの事実を伝えると、先輩はふむふむとうなずく。 「お母さんに言われたことは二つ。電話はちゃんと入れることと、父親に会ったらお母さんとあたし自身の分、ぶんなぐってくること」 続けて言うと、今度は腹を抱えて笑いだした。 「なかなかすごいお母さんだね」 「否定はしませんけど」 「だから君みたいな娘さんが生まれたわけだ」 「そこは否定させてください」 普通でないことは認めるけど。あたしまで同類に見られたらたまったもんじゃない。それに、先輩だって普通とは思えない。皮肉屋だし変な異世界でも平然としてるし。 「先輩はあの話、どこまで信用してるんですか」 ものはついでと思い切って切り出してみた。 「あの話って?」 「神様の娘さんって話です」
過去日記
2005年05月29日(日) 「弟子の受難。その1」UP 2004年05月29日(土) はやいもので
2010年05月28日(金) |
委員長のゆううつ。その2−3 |
「そんなにため息ばっかついてるとさぁ」 「幸せが逃げちゃうって言いたいんでしょ。知ってます」 先輩が言い終わる前に言い切って、さらにため息。 「今日まで多めに見といてください」 そう言えば、後で電話しないといけないんだった。お母さん心配してるだろうし。どうして霧海(ムカイ)で電話が使えるのかは疑問だけど、使えるうちはしっかり使っておこう。 「先輩のご両親は心配してないんですか?」 ふと不思議に思い、先輩に投げかける。だって先輩は先輩で留学生で。あたしと同様、先輩は異世界にいる。しかも、今までの様子だとあたしがここにくるずっと前から、先輩はここを知っている。保護者はあたしの地元にいるみたいだけど、先輩はここ(霧海)にいるし。ご両親は心配してるんじゃないか。 でも先輩からの返事はなかった。 「先輩?」 「そんなの、ぼくのほうが知りたいよ」 ぶっきらぼうと言うよりも吐き捨てるように、小声でつぶやく。もしかしなくても、触れてはいけないところに触れてしまったんだろうか。 「父親も母親も物心ついた頃からいなかったよ。さみしいとは思わなかった。親代わりの人がずっとそばにいてくれたからね」 そう言って無邪気に笑う。その笑顔にちょっとだけ救われて。あたしも思わず笑みを浮かべてしまった。 だから、その後に続く言葉をあたしはみごとに聞き逃してしまった。
過去日記
2008年05月28日(水) HNバトンです 2007年05月28日(月) 「EVER GREEN」11−14UP 2006年05月28日(日) いい台詞と恥ずかしい台詞って紙一重だよね 2004年05月28日(金) 「EVER GREEN」6−1UP
2010年05月27日(木) |
委員長のゆううつ。その2−2 |
違和感がないのには理由がある。まずは髪。銀色のそれは月明かりに映えてきれい。あたしの学校じゃ目立っていたけど。異世界となると話は別で。 別といえば、リズさんの髪は藍色でカリンくんは黒髪。あたしは黒髪だけど、 同じ色でも漆黒と墨色じゃわけが違う。髪の色だけでこれだけバリエーションがあるのも珍しい。 そういえば、ここに月ってあるのかしら。 「先輩。ここって月あるんですか?」 思ったことを口にすると、先輩はすぐ応えてくれた。 「冰(ヒョウ)だよ」 「ヒョウ?」 「ここから見えるでっかいあれが、氷の塊なんだってさ。 氷なんだから溶けて当然なんだけど。あまりにも大きいから半分しか溶けきれなくて、霧のまま地上に降りてくるわけ。ここ来たときって真っ白だったでしょ。それってこういうからくりだったわけ」 ちなみに霧が発生しているときに太陽が出ていると、氷の結晶が日光を散乱して輝いて見えるらしい。それで周りが光ってたわけか。納得した。 あと、もう一つの惑星の月は『昇華(ショウカ)』って言うらしい。そういえば、三つとも衛星の呼び名は違うのに太陽って言葉は共通なのね。なんか変なの。 「あたし、本当に別世界に来ちゃったんですね」 あらためて現実を突きつけられて。何度目ともつかないため息をついた。
過去日記
2006年05月27日(土) 「EVER GREEN」9−2UP 2005年05月27日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,57UP 2004年05月27日(木) SHFH12−2
2010年05月26日(水) |
委員長のゆううつ。その2−1 |
つい昨日まで学校に通っていたのに。今日は学校とは全然別の場所にいて。 一寸先は闇と言うか。それとも事実は小説より奇とも言うか。 「どうしたの。たそがれちゃって」 「たそがれたくもなります」 確か日暮れとか薄暗い夕方の時分のことを指すのよね。黄昏れ時とはよく言ったもんだ。 「先輩は元気でいいですね」 遠い目をしながら隣を見る。加えて悩みがなさそうでいいですねとも言ってやりたい。 「どんな時でも元気でいなきゃ。委員長なんでしょ」 「昨日で解任されました」 先輩の質問をばっさりきる。 クラス委員は文字通りそのクラスをまとめる人で。転校でもしない限りは一年間有効。逆を言えば一年たてば晴れて一般生徒に逆戻り。リーダーシップを取るのが好きというわけじゃないし、細々とした作業が好きってわけでもない。じゃあどうして委員長になったかというと。それこそ単純な理由だ。 「先輩はすっかりなじんでますね」 もっとも二年生になって指名や立候補したら別だけど。そんなことはおくびも出さず、あえて別の問いを投げかける。 「学校では目立ってたけど、ここじゃすっかり溶け込んでるみたい」
「ぼくももう少しあっちにいられたら、地球にもばっちりなじんでたんだろうけどね」 確かにそうかもしれないけど。
過去日記
2006年05月26日(金) 近況 2005年05月26日(木) 下書きその2 2004年05月26日(水) SHFH12−1
2010年05月25日(火) |
委員長のゆううつ。49 |
『それで、準備はできた?』 相変わらずの元気な声に返事をする。 「できたから、こうして電話してるんです」 「お母さん心配してなかった?」 「『娘をどうかよろしくお願いします』って」 苦笑混じりに言うとそうだよねという声が返ってきた。 「あのー」 「なーに?」 「なんで異世界と電話ができてるんでしょう」 「わたしの能力」 にべもなく言われる。こっちとしてはそうですかと返すしかない。しばらくして後で教えてあげると言われた。 『叔母さんと姪同士、仲良くやってこうね』 最後まで元気な声でしめくくられ、電話が切られる。そういえば、霧海(ムカイ)に携帯電話ってあるのかしら。そんな単純な疑問が浮かぶ。そのうち聞いてみよう。 携帯を折りたたんで鞄にしまう。半分流れに流されてしまったけれど。乗りかかった船にはしっかり乗らなきゃ。 「委員長だしね」 頼まれたからには引き受けないわけにはいかないでしょう。
空は青かった。
過去日記
2007年05月25日(金) 修理完了! 2005年05月25日(水) 衝動買いしてしまいました 2004年05月25日(火) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,11UP
2010年05月24日(月) |
委員長のゆううつ。48 |
季節は三月。終業式も終え、あとは帰路につくばかり。 ――と、いつもはそうだけど。今日だけはいつもとちょっと違う。 「あの。連絡があって来たんですけど」 「はい。高木様ですね」 お店の販売員が笑顔で対応してくれる。うなずくと笑顔のまま少しお待ち下さいとカウンターの奧に姿を消した。 書類はお母さんに書いてもらった。販売店で気に入ったものを見つけて。連絡して予約してもらって。 「これで間違いないですか」 差し出されたのは携帯電話。薄いピンク色でよく見ると花の模様が印刷されている。 「間違いないです」 「では袋に入れますのでお待ち下さい」 期日にして二週間。待ち遠しかった携帯電話がこの手に届いた。 あらかじめ聞いてあった番号を登録して、そのまま通話ボタンを押す。呼び出し音の後、 「もしもし」 『もしもし、しーちゃん?』 帰ってきたのは元気な声。 「あの。前から言ってるんですけど、その呼び方何とかしてもらえませんか」 『でもしーちゃんって呼び方、可愛くない? 叔母さんなんだしそれくらいいいでしょ』 これって姪と叔母の会話になるのかしら。想像してたものとは全然違うけど。
過去日記
2008年05月24日(土) ひさびさのレスです 2005年05月24日(火) 突発的ネタ? 2004年05月24日(月) 文章って
2010年05月23日(日) |
委員長のゆううつ。47 |
正直どう反応していいかわからない。三十半ばをすぎたオバサンの恋愛話を聞いても、しかもそれは自分の母親ならなおさらだ。 「お母さんは、あたしがいるってわかって、どう思った?」 「嬉しかったのと、とまどいと半々かな」 そう言って苦笑する。 「これで、あいつとの繋がりができたってね。あんたがいれば、帰ってきたときに思い出してくれるんじゃないかって。でも女手一つで育てるのはなかなか大変だったから。周りの人に頭下げて。死にものぐるいで働いた」 こっぴどくやられたものの里帰りと仲直りができたから、少しはよかったかもねと続けられ、ますますどう答えていいかわからない。あたしの人生がめずらしくないなら、お母さんの人生は滅多にない人生だ。 「お母さんは、あたしを生んでよかった?」 「当然でしょ。一人はさみしいからね。みんなと繋がっていられるのもあんたのおかげよ」 そう言ってもらってちょっとだけ嬉しくなった。 「だけど。あいつはまだ一人なのかもね」 横顔は乙女のままで。どちらかというと、いつもはがさつな部類に入るお母さん。でも最後の最後では人の良さが出てしまう。あたしはお母さんのこういうところは嫌いじゃない。 「あんたは全うにやってきてくれたからね。二週間だけ多めに見てあげるわよ。ただし、電話はちゃんと入れること。それと」 「それと?」 「お父さんに会ったら二発ぶんなぐってきなさい。お母さんのぶんと、あんた自身の分ね」 「わかった」 母親の依頼に思いっきりうなずいた。
過去日記
2005年05月23日(月) 微妙に日記も変更 2004年05月23日(日) 母上様パソコンを始める
2010年05月22日(土) |
委員長のゆううつ。46 |
「お父さんのこと、詳しく聞いたことなかったから」 これは本当のこと。物心ついた時からというよりも、父親の顔はまったくこれっぽっちも記憶になくて。あたしがお母さんのお腹の中にいる前に失踪したって聞いてる。これだけでも最低な男だし、いい印象はない。それでも若い頃の写真の一枚くらい会ってもよさそうだけど、それすらも見せてもらったことはない。 「そりゃそうよ。話してなかったから」 あっさりそう言われると、お母さんはあたしをじっと見つめる。つややかな黒髪に黒の瞳。あたしの髪も黒だけど、なぜか髪だけはきれいねって周りからよく言われてた。 「あんたがお腹の中にいる時に失踪したって、あれ嘘だから」 「聞いてないんですけど!?」 「言ってないもの」 爆弾発言をさらっとされると、お母さんはふうっと息をついた。 「ふらっと現れたのよね。あいつ」 お母さんの話によるとこうだ。仕事をしているときにばったり出くわしたらしい。電車に乗りたいけど小銭がなかったとかで、仕方なくお金を貸してあげたんだとか。その後律儀に返しに来てくれて。そこから逢瀬がはじまったとか。決して格好いいわけではなく、でも人を惹きつける魅力があったらしい。 「でも、やっぱりふらっといなくなっちゃったのよね」 本当に前ぶれもなく。別れの挨拶もないままふらっといなくなったらしい。口約束すらもろくにしてなかったから半分は仕方ないけれど。けれども半分はショックで。 「そんな時だったのよ。あんたがあたしの中にいるってわかったのは」
過去日記
2007年05月22日(火) 生存報告 2004年05月22日(土) 大沢昇祭
2010年05月21日(金) |
委員長のゆううつ。45 |
「あんた何問題起こしたの」 お母さんの柳眉が上がるのも仕方ない。お小遣いを前借りしたあげく、家出しますと言ってるようなもんだから。 「何も起こしてません」 「じゃあどうして」 お父さんを捜しに行ってきます。 正直に話したら許してくれる。とは思えない。 「友達のところに遊びに」 「二週間も入り浸りで?」 駄目だった。 「学校に呼び出されるような悪いことをした」 「わけはないです」 今度はあたしが母親の言葉を却下する。このまま押し問答をしていてもらちがあかない。 「お父さんの手がかりを知ってる人を見かけたの」 事実の一部を伏せて正直に話す。 「お父さんの妹さんと会う機会があったの」 異世界で。 「自分も兄を捜してるか一緒に着いてこないかって」 見た目はあたしとほとんど同じだけど。 「社会勉強がてら、旅してみたいと思って」 半強制的だけど。 沈黙することたっぷり五分。 「あんたにしては大胆なことするのね」 うん。自分でもそう思う。
過去日記
2005年05月21日(土) 歳を感じてしまう時 2004年05月21日(金) 「EVER GREEN」6−0UP
2010年05月20日(木) |
委員長のゆううつ。44 |
「ただいま」 玄関を開けるとお母さんが出迎えてくれた。 「お帰りなさい。遅かったのね」 「ごめんなさい。色々あって」 この日常会話のなんと懐かしいものか。期日的にはそんなにたってないはずなのに。実質一週間分くらい費やした気がする。 「色々?」 「色々」 質問に同じ答えで返す。本当に色々あった。気がついたら霧だらけのへんなところにいて。ここに戻ってくる条件でもどされて。あれってどこからどうみても立派な脅迫だ。 「お母さん。携帯電話買ってもいい?」 「お金は?」 無言で封筒を差し出す。中に入っているのは家の手伝いとバイトでためたしめて金額五万円なり。 「これだけあれば足りるよね」 「受信料はどうするの」 「出世払いで」 ぱん、と両手を合わせて。ついでに頭も深々とさげる。 「それともう一つ」 「今度は何?」 きっとあきれ顔の母親に告げる。 「春休みの間、家を留守にします」
過去日記
2005年05月20日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,56UP 2004年05月20日(木) 不思議の海のナディア
2010年05月19日(水) |
委員長のゆううつ。43 |
「わたし一人でできないこともないんだけど、もしかしたら間違って別の場所に飛ばしちゃうかも」 あたし達の話が聞こえていたのか、リズさんがにっこり小首をかしげる。 「そういうの、脅迫って言いませんか」 「わたしの世界にはそんな言葉はなかったなあ」 やっぱりにっこり微笑み続けるリズさん。周囲を見るとだんだんあの人に似てきましたねってささやき声がした。絶対わかってて言ってる。コノヤロウ。 「でもね。あなたにとってもチャンスだと思うの」 「チャンス……?」 「お父さんに会ったことないんでしょ? だったら会ってお話してみたいって思わない?」 「思わない」 即答だった。大体、会ったことのない父親と会って何を話せばいいの。 「あたしとお母さんがどれだけ苦労したかなんて、あの人は全っ然わかってない!」 不覚にも声を荒げてしまった。 「ごめんなさい。大声出して」 自分でも意外だった。いつもは感情は抑えてる方なのに。しばらくすると、リズさんがあたしの肩に手を置く。 「特別サービスしたげる。だけど、気が向いたら連絡してね」 この時のリズさんは、今まで見てきた中で一番優しい顔をしていた。
過去日記
2004年05月19日(水) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,10UP
2010年05月18日(火) |
委員長のゆううつ。42 |
「その代わりお願いがあるんだけど」 「なんですか」 もはや気力体力もつき人としての接し方さえおざなりになってきたあたしにリズさんは満面の笑顔で言った。 「わたしと一緒に、おにいちゃんを探してほしいの」 笑顔で。でも紫の瞳は真剣そのもので。 「あの」 「なーに?」 「リズさんのおにいちゃんはあたしの父親なんですよね」 「うん」 何かが色々間違ってる気がするけど考え得るそれらを全て黙殺し、言葉を続ける。 「あたしの父親、失踪中なんですけど」 物心ついたころからあたしはお母さんと二人でやってきたんだ。顔も覚えてないのにどうやって捜せと。 そう考えていると、横から服の袖を引っ張られた。 「詩帆ちゃん詩帆ちゃん。ここは言うこと聞いといたほうがいい」 ふりむくと青の瞳があたしを見ている。何事かと思って見つめかえすと、先輩は真面目な顔でこう言った。 「じゃないと、地球にかえれなくなるかもよ?」 ああ。一体どこで。なんでこんなことに。
過去日記
2006年05月18日(木) 五月十八日 2005年05月18日(水) 「EVER GREEN」7−7UP。 2004年05月18日(火) とある姉弟の会話・その3
2010年05月17日(月) |
委員長のゆううつ。41 |
「神様がお兄ちゃんなのになんで娘さんなんですか」 「わたしはちょっと特殊だから」 「説明になってないっつーの!」 「あ。やっぱりそっちが地だった」 「先輩は本気で黙ってて!」 「こっちにも素が出てきたみたいですね」 全員が思い思いのことを口にする。あまりにもあまりのことだから口調云々はこの際気にしない。というよりも無視。 「『神の娘』っていうのは簡単に言えば役職名。わたしも他の『神の娘』も血のつながりはないの。そういう意味では、本当の神の娘はあなたなのかもね」 こんなところにも役職名なんて言葉あるんだ。妙なところで感心してしまった。 「……じゃあ、百歩譲ってあたしの父親が神様だったとします。それで、あたしはどうやったら元の世界に帰れるんですか」 こっちが本題だったということに気づくまで、ものすごい遠回りをしてしまった。 「簡単。わたしが力を使えばいいの」 あれだけ娘さんだの神様だのスケールの大きな話をしておきながら、そんなことでいいのか。 「じゃあ、とっととちゃっちゃと使っちゃってください」 「うん。いいよ」 なんだか力がどっと抜けた。
過去日記
2006年05月17日(水) 自分らしく? 2004年05月17日(月) あと少し。
2010年05月16日(日) |
委員長のゆううつ。40 |
「この世界の娘さんは 「その言い方もあんまりなんじゃない?」 久々に口を挟んだ先輩は黙殺。やっぱりぼくの扱いひどいよね、と聞こえたつぶやきも当然無視。 「リズさんはちょっと特別なんです」 「『お兄ちゃんの妹』ってはじめ言ってたよね」 「先輩は黙っててください」 娘さんに兄や弟がいてもおかしくない。もしかしたらおじいちゃんやおばあちゃんだっているかもしれないし。 「そのお兄ちゃんが大物なの」 「大物ってとんでもない有名人だとか?」 あてずっぽうで言ったのに、他の三人はうんうんとうなずく。 「もしかして神様だとか」 これまた当てずっぽうだったのに。 「うん。シホさん筋がいい」 首肯したのは他ならぬリズさんだった。 神様ってひとには三人の娘さんがいて。 リズさんのお兄ちゃんってひとの役職は神様で。あたしはその神様ってひとの娘さんらしい。 それらを要約すると。 「リズさんはあたしの叔母さん!?」 「そういうこと」
過去日記
2006年05月16日(火) 分析結果 その2 2005年05月16日(月) 生ける屍のようだ
2010年05月15日(土) |
委員長のゆううつ。39 |
あたしは片親、お母さんと親一人子一人の二人暮らし。そのことを全くこれっぽっちも悔やんだことなんかない。 と言ったら嘘になるけど。それでも二人でやってきた。だって覚えてないものはしかたないし。親を覚えていない娘は薄情かもしれないけど、父親だってあたしに会いに来たこともないんだからお互い様だ。それに悲しいかな、シングルマザーは今時珍しい話でもなく。『あのヤロー、とっとと帰ってこい!』とか言ってる母親を目にすると、お母さんが怖くて逃げ出したんじゃとも思いたくなる。 「覚えてないからって、だからってあたしがその変なものだって決めつけないで」 「『神の娘』です」 横からカリンくんの横やり、もとい補足説明。 「それに、万が一そんな人があたしの父親だったらその人はとんでもない大馬鹿やろーです」 「リズさん。なんだか勘違いしてませんか?」 「何を?」 問いかけるとカリンくんは咳払いをひとつして説明してくれた。三つの世界があるということはさっき聞いたとして。その世界には、一人の娘さんと一人? の天使が存在する。言い換えれば、一つの世界に娘さんと天使がいさえすれば、他の存在はお払い箱ってわけ。 そんな中でも。 「うん。やっぱり『神の娘』だ」 リズさんだけは確信を持ってうなずいていた。
過去日記
2006年05月15日(月) 「EVER GREEN」9−1UP 2005年05月15日(日) 休日のしごと
2010年05月14日(金) |
委員長のゆううつ。38 |
話のスケールが大きすぎてついていけない。神様ってなんだ。ここはいつからキリスト教になったんだ。 「ライフォード教ですよ。もう一つの世界ではそう呼ばれてるらしいです」 横からカリンくんがフォロー。うん。この展開にももう慣れてきた。 話を要約すれば、『世界』と呼ばれるものが三つあって、神様がそれを自分の娘達に託したってことよね。それで、娘さん達は自分だけじゃ力不足だったから『天使』というものと一緒に世界を守って。寿命がきたから天使と一緒にどこかへ消えちゃった、と。 「そこでなんであたしの名前が出てくるんですか」 しごく全うな意見を口にすると、紫色の瞳が応えた。 「だってあなたが神様の娘だから」 「あたし、ここに来たの初めてなんです」 「うん。そうみたい。前に来てたらわたしが何か感じるもの」 神秘的な力か何かなんだろうか。あたしには全然わかんない。 「まってください。リズさん」 うん。待ってた。助け船のカリンくん。 「それが本当なら、どうして彼女は何も知らないんですか」 そうそう。 「どう見てもシホさんは僕よりもずっと年下です。ぼくやリズさん、マリーナさんのように数百歳というわけには見えませんが」 そうそう。 なんかとんでもないことをさらっと言われたような気もするけど。 「……確かに、あたしは片親で父親の顔は覚えてませんけど」 もれるような声に、リズさんはやっぱりという顔で。男性二人はぎょっとした顔をしていた。
過去日記
2006年05月14日(日) 母の日 2004年05月14日(金) 「EVER GREEN」5−15UP
2010年05月13日(木) |
委員長のゆううつ。37 |
「あの。神の娘って」 本当に今日のあたしは質問だらけだ。 「言い伝えがあるんです」 そう言って、カリンくんは口を開く。
むかしむかし。『神』と呼ばれる存在がありました。 神には三人の娘がいました。 一人は開花を。 一人は喜びを。 一人は輝きを。 神は娘達をとても大切にしていました。娘達も神を愛していました。 月日は流れ、神は眠りにつくことになりました。彼も万能ではなかったのです。 ですから、神は娘達に自分の世界を託しました。 一人は空を。 一人は海を。 一人は大地を。 神は言いました。 『あなた達は私がうみだした存在。命を大切にしなさい。そうすれば、私はいつもあなた達と共にあることができる』 神は深い深い眠りにつき、娘は嘆き悲しみました。 ですが、いつまでも悲しむわけにはいきません。 娘は『天使』と呼ばれるものをつくりました。娘と天使は長い年月をかけ、それぞれの世界を、人間を守り慈しみました。 ですが、そんな緩やかな時間も終わりをつげます。神同様、彼女達も万能ではなかったのです。 娘は天使に言いました。 『私の時間も終わりをつげます。これからはあなたがこの世界を守ってください』 天使は言いました。 『一人は辛すぎます。どうか最期まであなたを守らせてください』 『ならば、二人で世界を見守っていきましょう。空と、海と、大地を』 こうして娘達は、天使達は人々の前から姿を消しました。
彼らはこの世界のどこかにいると言われています。彼女達は、彼らは、今でもずっと私達のことを見守っているのです
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「一体、なんのおとぎ話?」
過去日記
2007年05月13日(日) 遅くなってすみません 2005年05月13日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,55UP 2004年05月13日(木) 今日のIさん・その2
2010年05月12日(水) |
委員長のゆううつ。36 |
「あなたが今度の旅人さん?」 メガネごしの紫色の瞳がじっとあたしを見つめる。あんまり見られると心なしかどぎまぎしてしまう。もちろんそんな趣味はないけど。 「あのー、旅人って?」 今日は朝から質問続きだ。そんなことを考えながら目の前の女の子に問いかける。 「つなぐ、大げさに言えば人と人をつなぐってこと。旅人ってのは文字通り、いろんな場所を渡り歩く人だから」 要は迷い込んでしまった異世界人ってことかしら。よくわかんない。 「ちょっとしたお告げみたいなものです。占い程度に考えておけばいいですよ」 考え込んでいるとカリンくんが助け船をだしてくれた。占いねぇ。 「これから色々教えてくから。同じ『神の娘』どーし、一緒にがんばろうね」 紫色の瞳はくるくると元気よく動き、あたしによびかける。そうだ。協力してくれるみたいだし一緒にがんばろう。 って。 「はい?」 『神の娘!?』 わけがわからず異世界の言葉を反芻するあたしと。 男性陣二人の驚くような声が重なる。声色からして、なんだかとんでもないことみたいな。 あたし。いつの間にこんなことになっちゃってたんだろう。
過去日記
2004年05月12日(水) 近況報告
2010年05月11日(火) |
委員長のゆううつ。35 |
「リズさんって誰?」 昨日出会ったのは目の前のカリンくんと先輩の二人だけ。朝起きて部屋の周りも確かめたけど他には誰もいなかった。 「あなたの帰り道を教えてくれる人です」 帰り道。ということは、やっぱりここは地球じゃないんだ。わかってはいたけど。 「その人ってすごい人なんですか?」 単純な質問にカリンくんと先輩が顔を見合わせる。よくわからないけど。元の世界に帰るってことは、それなりにリスクがあるんじゃないのか。それができるって人は、偉そうな軍人さんとか、年をとったおばあちゃんとか。 「確かに変わった人ではあるかも」 先輩まで。うう。なんか緊張してきた。 緊張しているからといって立ち止まっているわけにもいかず。カリンくんの後を大人しくついて行く。しばらくすると大きな通りに出る。 「ここ?」 「はい。もうすぐ来てくれると思うんですが」 「カリンくーん」 女の子の声が聞こえる。しばらくしてやってきたのは。 「彼女がリズさん。通称『神の娘』です」 「うん。わたしがそんな人」 藍色の髪にメガネをかけたあたしと同じ年頃の女の子だった。
過去日記
2006年05月11日(木) 風日期中 2005年05月11日(水) 異世界召喚ものについて 2004年05月11日(火) 人気投票・中間報告その2
夏は暑い。 わかっちゃいるが、暑い。 一人暮らしの学生にクーラーなんてしゃれたものはなく。目の前にある扇風機の風を無造作に受けるしかなかった。 気温は三十二度。時刻は午前十時。 朝っぱらからこれじゃ昼には気温はもっと上昇するだろう。そう考えると、心なしか体感温度が三度ほど上がったような気がした。 「どうぞ」 差し出された麦茶をぐっと飲み干す。 冷たい液体が喉をすべるようにとおっていく。 空になったグラスを差し出すと、そいつはにこやかな笑みで受け取った。 「幽霊って三日でなれるもんなんだな」 相手の姿を見ながらしみじみ思う。 普通なら奇声をあげたり腰が抜けるかどうかして、その場から逃げ出すのが定石なんじゃないのだろうか。けれども実際目の当たりにしてみるとどうだ。 多少風変わりではあるものの、慣れてしまえばどうってことない。 「あの」 遠慮がちな声に我にかえる。振り返るとそいつはおずおずと口を開く。 「わたし、もしかして幽霊だと思われてます?」 これには驚いた。
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2005年05月10日(火) 伊達眼鏡について 2004年05月10日(月) 母について
きっとあれだ。疲れているんだ。 バイトを入れすぎたのが悪かったのか。そうだな。いくら金穴といっても体をこわしたらもともこもないだろう。 ここはあれだ。麦茶じゃなくてかき氷でも買ってくるべきだったか。 「お気に召しませんでした?」 いや。無いものねだりしても仕方ないんだ。美味しかったよ。ありがとう。 それにしても今日は暑いな。幻覚や蜃気楼まで見えるくらい暑いな。 「もしかして熱があるんじゃないんですか? お体お大事にして下さいね」 あんたもな。 「私ですか?」 足が見えなくなるくらい病弱じゃないか。 「わたしははじめからなのでいいんです」 「…………」 そろそろ、現実にもどるべきだろうか。 ちりん。 風鈴がゆれる。 風鈴の横にたたずむのは藍色の浴衣を着た女(足なし)。 金輪際、露店販売には手を出すまい。 生ぬるい風をうけながら、俺は一人夜空に誓った。
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2005年05月09日(月) 「佐藤さん家の日常」お題編01UP 2004年05月09日(日) 今日のIさん
2010年05月08日(土) |
委員長のゆううつ。34 |
「驚かせてしまってすみません。怪我はありませんか」 カリンくんの声にこくこくとうなずく。対応に差がありすぎじゃない? と約一名非難の声があがるも再度無視。 「ここってどこなんですか?」 昨日もした質問をこれまた同じ人にぶつける。 「水の里です」 わかってたけど、今日も地球じゃなかった。水の里ですか。そうですか。ちなみにあたしの街にも同じ名前のところがありますよ。お土産屋さんだけれど。 「さっき水面に突き落とされて死のダイビングをしてました」 ぱんぱんと肩についたほこりをはらう。びしょぬれかと思いきや、撥水加工の制服はまったく濡れてない。髪はぼさぼさだったけど、ブラシを持ってきてなかったから手ぐしでなんとか整える。 「言ってなかったんですか?」 「十説明するより一遍ですんだほうが手っ取り早いでしょ」 カリンくんの非難めいたまなざしに肩をすくめる先輩。 「ここの成り立ちを一から話せって? 学者じゃないんだからぼくにはできないよ」 ここで二人の押し問答。だいたいあなたは、とかカリンくんが几帳面すぎるんだってとか聞こえる。なんとなくだけど、先輩のあの態度は日常的なものだってことがよくわかった。 「後でちょっとずつ話してくれればいいです」 嘆息して告げるとカリンさんは真面目な顔をした。 「行きましょう。リズさんが待っています」
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2006年05月08日(月) 今日も今日とて 2004年05月08日(土) 50の質問
2010年05月07日(金) |
委員長のゆううつ。33 |
あたし、高木詩帆はカナヅチではない。だけど、水深数メートルも息継ぎなしでいられるかとなれば話は別。 「…………っ!」 苦しい。息ができない。昨日は霧で今日は水!? 一体あたしが何をどうしたっていうの! 「詩帆、詩帆」 あたし、こんなところで死にたくない。しかも水死なんてもってのほかだ。顔だってふくれるって聞くし見た目だってぐろいって聞いた。 「詩帆ちゃん!」 「わーーーっ!」 先輩の声にあたしの拳が重なる。ぐーだったからバキっという音がした。 「いったいなぁ。君、ぼくになんか恨みある?」 「あたしのサンドイッチ食べた!」 ほおをさする先輩に目をつり上げる。そこまでむくれなくてもと続けて聞こえたけど無視することにする。 「シホさん、シホさん」 ためらいがちな声。何度もあやまられたって許してやるもんか。 「着きましたよ」 許さな……え? 「カリン……くん?」 「迎えに来ました」 翠玉の瞳が穏やかに微笑んでいる。ここまできて、ようやくあたしは息をしていることに気がついた。
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2007年05月07日(月) 「EVER GREEN」11−13UP 2004年05月07日(金) 「EVER GREEN」5−14UP
2010年05月06日(木) |
委員長のゆううつ。32 |
「水ですけど」 「うん、水」 正確には湖みたいだけど。 「じゃあ行こっか」 「行くって」 目の前には霧。下には湖しかない。先輩の指は下を指している。ということは 「まさか、この格好で水に入れってこと!?」 「ご名答」 あたしの声と先輩の声が重なる。 「先輩からどうぞ」 「ありがとう。でもぼくは紳士だから。レディーファーストさ」 どの口がそう言いますか。 「人のサンドイッチを横取りした人が何を言ってやがりますか」 「君って意外に乱暴な物言いするよね。はじめはもっとおしとやかな感じだった気がするけど。もしかしてこっちが地?」 その一言に。自分がかなり取り乱していたことに気がつく。 「人は、時には臨機応変に対処する必要があるんです」 言葉をにごして返すと先輩はうーんと腕組みをした。 「本当は手荒なことはしたくなかったけど」 「ちょ、先輩!?」 「臨機応変、臨機応変」 慌てるあたしをよそに先輩はあたしごと、どぷんと水に飛び込んだ。
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2006年05月06日(土) 分析結果 2005年05月06日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,54UP。 2004年05月06日(木) 仕事について。その2
2010年05月05日(水) |
委員長のゆううつ。31 |
今日も周りは真っ白だった。 霧。 霧。 霧だらけ。本当になんにも見えない。でも昨日と違うのは、隣に人がいること。 「よくここまで来れたよね。時間かかったでしょ」 「かかりました」 先輩の声に素直にうなずく。腕時計で時間を計ったら、気づいてから家に着くまで3時間かかった。視界が悪かったとはいえ、よくあそこまでたどり着けたもんだ。 「先輩はよく家にたどり着けましたね」 「これがあったから」 そう言って自分の耳を指さす。そこにあったのは水色のピアス。 「それをつけてると視界がよくなるとか?」 「うーん。おしい。60点」 残りの40点はなんなんだ。頭の中にたくさんの疑問符を浮かべながら霧の中を歩く。 歩いて、歩いて。 さらにたくさん歩いて。 「さ。着いた」 あたしと先輩が着いた場所。そこは水辺のほとりだった。
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2006年05月05日(金) 「EVER GREEN」9−0UP 2005年05月05日(木) 中間報告九回目 2004年05月05日(水) 仕事について
2010年05月04日(火) |
委員長のゆううつ。30 |
「ごちそうさまでした」 空になったお皿をテーブルにもどす。 「今日は何をするんですか」 「言ったでしょ。地球の帰り方を知ってる人を紹介するって」 確かに言ったような気がする。泣き疲れてふて寝して。その後に。 「元にもどれるまで、でしたよね」 「そうそう。ぼくは約束は守る人間だから」 それはありがたいことで。 「ん? 詩帆ちゃん顔赤くない?」 「気のせいです!」 はいはい。ちょっとでもどぎまぎしたあたしが馬鹿でした。 「それで。その人はどこにいるんですか」 部屋にはあたしと先輩の二人だけ。料理をしてくれたカリンくんは近くにいるだろうとして。他に手がかりを知っていそうな人っていたかしら。 もしかすると隣の部屋にいるとか。ドアを開けるけど、もぬけの空だった。 「もしかして、ここに来てるとか思ってない?」 「違うんですか?」 小首をかしげると先輩は部屋の外を指さす。部屋の外には昨日と同じ、真っ白な霧が広がっている。たぶん、紹介したい人はここの外にいるんだろう。 ということは、もしかしなくても。 「またあの霧の中を歩けってことですか!?」 「ご名答」 あたしの反応が面白かったんだろう。先輩はそう言って笑った。
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2007年05月04日(金) 裏EG その4 2006年05月04日(木) あなたの家族記念日はいつですか 2005年05月04日(水) 連休どうですか? 2004年05月04日(火) 衝動書き・2
2010年05月03日(月) |
委員長のゆううつ。29 |
目が覚めてあたりを見回す。そこは見慣れたベッドではなく。 クリーム色のベッドに白いテーブル。昨日はサンドイッチだったのに対して今日はコーンクリームスープ。隣には置き手紙がある。文字はわからないけど、昨日のこともあるしこれって食べていいってことよね。 口をつけると今度は甘い風味が広がる。昨日のことといい、カリンくんは料理上手だ。一方でもう一人はというと。 「おはよ。詩帆ちゃん」 あたしの目の前で海藻サラダを食べている。 「人の前で食べないでください」 「またお腹の音がなっちゃうから?」 「もうなりません」 なったら面白いのにと先輩はおかしそうに笑う。そう何度もならしてたまるもんか。 それにしても、サラダおいしそう。じっと見てると先輩は食べていた手を止めた。 「カリンくんが作ってくれた。サラダは新鮮なのが一番だよね」 やっぱり料理をしたのは黒髪の男の人らしい。色とりどりの海藻の上に細かく刻まれた卵がのっている。クリーム色の液体はマヨネーズとは少し違うみたい。 「食べないの?」 「食べます」 お皿を受け取ると口の中にほおばる。 「おいしい?」 「おいしいです」 異世界の二日目はそれなりに平和だった。
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2007年05月03日(木) 裏EG その3 2006年05月03日(水) ゴールデンウィーク 2004年05月03日(月) Iさん日記
2010年05月02日(日) |
委員長のゆううつ。28 |
彼は交換留学生だったんです。本当はもう少しいるはずだったんですが、身内に急用ができたとかで一足先に帰ってしまいました。 何故詳しいかですか? これでも教師のはしくれですし、同じ故郷の出身ですからね。こくらいは把握してないと。
「どうしたの。せっかくの文化祭なのに辛気くさい顔しちゃって」 顔を上げると売店のおねえさんがいた。 「中村さん」 「みのりさんって呼んでって言ったでしょ」 「それは先輩が」 言ったんです。そう言おうとして口をつぐむ。先輩はもういないんだった。派手なあの人のことだ。文化祭じゃ目立って仕方なかったんだろうな。 「彼がいなくてさみしい?」 「そんな間柄じゃないです」 「そのわりには顔がさみしそうだけど」 そうなんだろうか。まあ、まったくこれっぽっちも何とも思わないかと聞かれたら嘘になるけど。 「さすがみのりさん。年の功にはかてない――」 「何か言った?」 「さすがお姉様です」 慌てて訂正して、大きくのびをする。 「クレープ屋さんやってるから。あとで見に来て下さい」 それだけ言うと後半の仕事にもどった。
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2007年05月02日(水) 裏EG2 書きながら思ったこと 2004年05月02日(日) 衝動書き
2010年05月01日(土) |
委員長のゆううつ。27 |
教室はみんなに任せるとして。売店で飲み物でも買ってこよう。 階段を下りて廊下を渡って。途中で誰かにぶつかる。 「すみません」 鼻をおさえると目の前には金髪の男の人がいた。 「休憩ですか?」 ハザー先生だ。英語の水城先生が産休に入ったからその代わりだって聞いてる。 「そんなところです。よかったら先生も寄って下さい。おいしいですから」 「そうですね。生徒達のお祭りも面白そうですし。高木さんは確か6組でしたよね」 「はい。1年6組です」 「わかりました。是非寄らせてもらいましょう」 そう言ってさわやかに笑う。金髪碧眼にすらっとした長身の体格。日本語も流暢だしきっと周りにもてもてなんだろうな。 それじゃあと頭を下げて、ふと足を止める。 先生は英語教師で、外国人だ。なら、彼のことも知ってるかもしれない。 「先生は留学生のこと知ってますか?」 だめもとで問いかけると先生は訝しげな顔をした。 「留学生といっても、複数いますが」 確かに。あたしのクラスにだっているし――あ、そっちは帰国子女か。3組にも女の子がいるって聞いた。 「2年の外国人の男の子です。今日はきてないのかなって」 言い直すと、先生は笑顔のまま口を閉ざした。 「先生?」 爽やかな笑顔なんだけど。何かを考えあぐねているような。伝えるべきか伝えないべきかを考えあぐねているような。そんな表情で。 「気になるんですか?」 そう聞かれたのは三分くらいたってのことだった。 「少し」 一緒にパンを食べた仲だし。 またも考えるそぶりを見せた後。先生は苦笑して告げた。 「彼は祖国に帰ってしまいました」
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2007年05月01日(火) 裏EG その1 2006年05月01日(月) 中間報告十六回目 2005年05月01日(日) おかげさまで7万 2004年05月01日(土) EVER GREEN
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