互いが、 眼前に無き時でも。
自身に刻まれた記憶を、 幾度と無く、 呼び覚ましては。
恰も眼前に在るかの様に、 互いの姿を、 想い描くのだけれど。
もしかしたら。
飽く迄。
夢現の虚像で、 少し現実離れして居る姿の方が、 良いのかも知れない。
想いが、 傍に在り過ぎると。
具体化した虚像が。
余計に、 苦しさや哀しさを、 誘発して終う。
「夢とうつつの境目のような所やひとが。」 「たくさん出てくるの。」 「小坊主と逢う時も。」 「時々夢かうつつか分からなくなる時がある。」
俺を虚に置く事で。
坂の街の人は、 一つ、 壁を創って居るのだろうか。
姉の乳を吸う弟の姿。
其の姿を視て、 唇を欲した同級生。
俺を、 何れに投影したのか、 判らないけれど。
---------- Books 川上 弘美 「ニシノユキヒコの恋と冒険」 新潮文庫
---------- References Aug.06 2007, 「詮無い事でしょうか」
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