無責任賛歌
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2005年08月14日(日) |
日田屋形船と鵜飼い見物/『仮面ライダー響鬼』二十七之巻 「伝える絆」 |
今日は西鉄旅行のバスハイクで、親子三人、大分日田温泉への一日旅行。
朝になって、ふと、自宅のクーラーを消し忘れてるんじゃないかということに気が付いた。 しげに、「クーラー、消してないかな?」と聞いたら、軽く「かもね」と答えた。 かもね、じゃねーだろ、と慌てて飛び起きる。 うちのクーラーも、かなりガタが来ていて、すぐに埃が詰まって水が逆流してしまう。先日は水浸しになったキーボードがイカレてしまって、買い直さなきゃならない事態になってしまったのだ。もしかしたら、もうクーラーの真下は水浸しになってるかも、と不安になって、自宅にとって返す。 部屋に入ってみると、クーラーも電気もテレビも全部点けっぱなしである。後から出たのはしげだったので、全部しげの消し忘れなのだが、しげは「どんなに慌てて出たかが分かるね」と言ってノンシャランとしている。私が同じ失敗をすればジト目で睨めつけるくせに、他人に厳しく自分に優しいジャイアン気質は、しげのホネの髄にまで染み付いているのである。
朝食を三人でまた「ジョイフル」で取る。 日曜、朝の恒例、『仮面ライダー響鬼』を居間で見るが、父はさすがにこれには付き合わない。別の部屋で朝のニュース番組を一人で見ていたが、同居することになればこういうちょっとしたことですれ違いが生まれてしまうことだろう。年を取れば取るほど、頑固さだけは弥増していくだろうに、我慢できるのかなあ。
『響鬼』は二十七之巻 「伝える絆」。 前回より新登場の努(渋谷謙人)が、「親の反対で鬼になることをあきらめた」元鬼候補であったことが判明。名字はなんて言うんだろうか、ツトム君。ツクモとかツジサワとかツワブキとかかなとか、どうも本筋以外のことを気にしてしまうのはもうかなり病膏肓である。今のところ全話録画してるんだが、特典映像次第で改めてDVDを買うべきかどうか思案中だ。 「鬼にならなくても明日夢は弟子」。このヒビキの台詞は効いたなあ。申し訳ない、私はまだまだ『響鬼』を甘く見ていた。全体的にトボケてるし、ベタなギャグも多いし、面白いけれど逆に言えば「軽くてお気楽」なお話で、石森章太郎のマンガが本質的に持っている暗さ、そういうものとはもう決別した『仮面ライダー』をスタッフは作るつもりなんだろうと勝手に思っていたのだが、違った。 ストーリーは遅々として進まないが(笑)、それはじっくりと「受け継がれる魂」を描こうとする物語だったからなのだね。『五重塔』だよ、職人映画だよ、これ。そういうのを深刻に説教臭く語らせるんじゃなくて、何気ない会話の中で、さらりと言わせるところが上手いわ。 ラストの花火のシーンもいいねえ。お子さんと一緒に見ているお父さんお母さんは、お子さんから「『たまや』って何?」と聞かれたら、ちゃんと答えてあげよう(笑)。でも、勢治郎が2週連続で出演してないのがちょっと気にかかるな。下條さん、夏休み? あと、先週から始まった劇場版の予告パロディ編が本編以上に(と言っちゃ悪いけど)面白い。ザンキは映画では「トウキ」って役で登場するのだね。それをアスムが「ザンキさんでしょザンキさんでしょ」と突っ込むので、ザンキがついボケてしまう。あの渋くて渋くて渋いザンキにボケキャラを演じさせるってんだから、これはもう大笑い。完全にスタッフのアイデア勝ちだね。アスム君が全然イヤミじゃないのもいいんだよなあ。 それから、これはお知らせですが、8月24日(水)の『愛のエプロン』に細川茂樹さんが出演するそうです。さすがのヒビキもインリンの超激マズ腐れ料理に果たして耐えられるかどうかミモノなので、ファンはぜひとも見ましょうね(後からこの日記読む人には意味のない告知でした)。
『響鬼』を見終わって、いざ出かけようとしたら、父は自分の部屋で居眠りしていた。私たちがうっかり寝過ごさないようにと、前日から泊めていたくせに、自分が寝過ごしてちゃ世話はない。疲れてる上に酒が効いていたのかもしれないが、放置はできないので無理やり揺り起こす。 「石原慎太郎がテレビに出とったけん、見ようとしたら、寝てしもうた」 「で、石原慎太郎は何喋りよったん?」 「寝とったけん分からん」 即寝かい。「いつでもどこでも三秒で眠れる」のは我が家の血筋のようだ。
バスを乗り継いで、天神の日銀前に9時半に到着。 参加者は総勢29名とか。殆どが爺ちゃん婆ちゃんであるが、親子連れも何組か。中年の女性同士もいるが、若い男女のカップルというのは見当たらない。 安い旅行をするにはバスハイクは結構穴だと思うんだけれど、やっぱりジジババ向きってイメージが邪魔してるのかもね。 帰省ラッシュで、時間通りに到着できないかも、という添乗員さんのアナウンスであったが、途中の高速道路は案外スムーズに行けた。 むしろ、最初の訪問地である「龍門の滝」に着いてからの方が、観光客が大挙して押し寄せていてバスを停める場所が全くなく、立ち往生してしまった。 仕方なく運転手さんが橋の真ん中でバスをいったん停めて、乗客を降ろし始めたのだが、後ろに付いていた車がこれに腹を立てた。「ワレ、何しとんじゃ! ちゃんと誘導せんかい!」とサングラスをかけたあんちゃんが車を降りてきて、運転手さんに向かって怒鳴ってきた。 私たちは、バスから降りてきてちょうどその場面に出くわしたのだが、父がいきなり「ちゃんと誘導しよるよ!」と口を差し挟んだので、一瞬、血の気が引いた。火に油を注ぐつもりかこのオヤジ、と思ったら、そう言い放った途端、そそくさとその場を離れてあっちに行ってしまったのである。って、おい。 後に残されたバスの運転手さんとサングラスのあんちゃんは、顔と顔を五センチくらい近づけて睨みあっている。乱暴でも働くようなら止めなきゃと、私も含めて何人か乗客が様子を見ていたので、ややあってあんちゃんは舌打ちして自分の車に戻って行ったが、全く冷や汗がドッと流れたことであった。 なんつーかね、オヤジもね、ボケかけてるとは言ってもね、こーゆートラブルの種撒いて自分ひとりだけとっとと逃げるようなマネはね、さすがにやめてほしいんだけどね。マンガだよこれじゃ。
昼食は「龍門茶家」といういかにも鄙びたよろずや風の店の座敷で、鮎の煮付けに名物だという鴨そば。「鴨」と言いながら入っている肉はあまり鴨っぽくなく鰯っぽかったが、汁は肉の味がしたからやっぱり鴨だったのかも。ニンジンが程よく柔らかく味が滲みていて美味い。こういう田舎そばはも一つ、こんにゃくが入っていたら極上なんだが、そこが物足りなかった。 「龍門の滝」は、日田から耶馬渓に至るまでの間に無数にある滝の一つで、ただ眺めるだけではなく、流れ落ちる途中が緩やかな棚になっていて、ウォータースライダーのように上から滑り降りることができるのが特徴である。言ってみるともう、ざっと見ても二、三百人くらいの観光客、キャンプを張った連中が滝の周囲に群がっていて、人を掻き分けていかないと川にも近づけないくらいの混雑ぶりだった。何とか水辺まで近づいて見たが、滝の近くの川の水は、普段は恐らく底まで透き通っているのだろうが、今はもう泳いでいる人たちのせいで泥まみれになっている。それでも子供たちはみんな気にせずに上からボードに乗って滑り降りてくるのだから、たとえ狭苦しくても楽しいことは楽しいのだろう。 この近辺は、こないだ『妖怪大戦争』にも登場した「川姫」の伝説が残っているあたりのはずなのだが、これでは獲物にも事欠かないが、引きずり込む場所もありはしないという感じである。 父が突然、「ああ!」と叫んだので、何事かと思ったら、「ここ、前にバスハイクできたことある!」。以前、秋口にやはりこのバスハイクに申し込んで、一人で来ていたというのだ。 「あのときは紅葉の時期も過ぎとって、全然人がおらんかったとに、夏場はやっぱり人が来るとばいな」 と、感心しているのだが、一度来ているのならそう何度も繰り返し来ることはなかったのである。やはりボケが来ているのだが、まだ「一度来たことがある」のを思い出せただけまだマシと言うべきか。 しげは少し下流の、人がやや少ないところで靴下を脱いで水の中に入り、一人きゃあきゃあと楽しんでいる。犬を連れて川の中に入ってくる人もいて、かなり大きな犬だったのでしげは怖がって逃げた。すると今度はそっちにも犬連れの人がいて、しげはまた逃げる。周囲の人はしげの存在など気にも止めていないが、遠巻きに見ている私には犬に追われて右往左往している様子が可笑しくて、まあしげが楽しめたんだったら来てよかったかなと気を取り直す。 けど、やたらバーベキューの匂いは臭いわ、あちこちに無造作にゴミは捨てられてるわ、決して気分はよくなかった。バスハイクも少しは状況を考えてコースを決めてほしいものである。
次に回ったのはまた滝のあるところで「岳切(たっきり)渓谷」。 今度はバスも入り口の駐車場に停めることができたが、添乗員さんは「時間が50分しかありません。滝までは遠いので見に行っても途中で引き返してもらわなければならないと思います」と言う。だったらそんなところをコースに選ぶなよ(涙)。 ここも父は「前に来た。先に行っても滝しかなかぜ」と言うので、下流でまたしげがぱちゃぱちゃやって終わり。父は「あのときは紅葉の時期も過ぎとって(以下略)」。まあしげが楽しめたんなら(以下略)。私は蜘蛛の巣だらけのトイレでウ○コした。幸い腹の調子は戻っていて、下痢ではなかった。
続いて、サッポロビール工場を見学。 ガイドさんの案内で、ビールの製造過程を説明してもらうが、壁に描かれたイラストが明らかに浦沢直樹の模写だった。酵母の研究をしてる人がマスター・キートンなのである。どこかの業者に依頼して描かせたんだろうけれど、こういうのは問題にはならないのかね。 ビールの試飲の時間になって、休憩所で一息つき、ようやくここで気分が落ち着いた。時間までビールを何倍飲んでもいいということなので、父はテーブルとカウンターを何度も往復する。私もせっかくだからコップに半分ほど味見をしてみたが、やはり少しも美味くない。私の舌はビールには向いていないのである。あとはお茶とジュースで渇きを満たした。 土産コーナーで、しげにリボンシトロンのTシャツを買ってやる。恵比寿ビールのTシャツも売っていたが、これはしげの気に入らなかった。結局、今回の土産はこれだけである。
最終目的地の日田温泉に着いたのは五時半ごろ。滞在は入浴、夕食、鵜飼い見物を含めて約三時間。 三隈川(筑後川)沿いのホテルで、名前もそのまんま「みくまホテル」である。控え室は三階のホールで、そこで日程の説明を聞く。 夕食は屋形船の上で鵜飼いを見物しながらということだが、そのとき灯篭を流すこともできるので、希望者は先に申し出るようにとのこと。 父が「お母さんの分、流そうか」と言うので、「いいけど、二つ買うの?」と答えた。 「なんで二つも要るとや」 「……ばあちゃんは?」 「そうか、ばあちゃんもおったな」 そりゃいるがな。もう完全に祖母の存在が念頭になかったのである。実は昨日、迎え火をしたときも父は祖母のことを忘れていた。本当にどんどん危なっかしくなっているんだが大丈夫かなあ。大丈夫じゃないよなあ。 荷物をいったん一階のカウンターに預けて、十階の露天風呂へ向かうが、父は着替えも全部預けてしまったので、風呂から上がって「しもうたなあ、着替え持って来とっても何もならんが」とぼやくぼやく。もう私は慣れたよ。 総ひのきの露天風呂は六人入れば押し競饅頭になってしまうくらい狭かったが、十一階建てのホテルは周囲でも一番高く、南に耶馬渓を望む眺めはなかなかである。このくらい高いと、夏場でも風は涼しい。男湯はベランダだが、しげは一つ上の屋上でのんびり風呂に入っているはずで、もっと周囲が見渡せていることだろう。
いったん三階の控え室に降りてしげと合流。 しげも「リボンちゃんのTシャツ、着替えにすればよかった。服が臭い臭い」と父と似たようなことを言う。 「からだは洗わなかったのかよ?」 「うん。浸かっただけ」 何のために温泉に来たんだか分かりゃしない。 父は控え室の窓からビデオカメラで三隈川の景色をずっと撮っていて、乗客みんなが出て行くのにも全く気が付かない。「そろそろ時間だよ」とせっついて、一階のロビーに集合する。 ホテルは直接、川岸に面しているので、屋形船には玄関からではなくてロビーの窓から降りて乗りこむ形。見ると、あっちのホテル、こっちのホテルにもずらりと屋形船が並んでいる。鵜飼い見物はこのあたり一帯のホテルが共同で企画しているもののようだ。 舟に乗りこんで初めて「鵜飼いの舟が来るのは八時前」と聞かされる。って、まだ六時半じゃないの。いくらなんでも待ちが長すぎるんじゃないのか。 けれどそれは杞憂であった。前に並べられた御膳の夕食が、ちょっと半端じゃないくらいに大量にあったのだ。食前酒に鮎の姿焼き、刺身にから揚げにステーキに煮付けに団子、海老に海老に海老に海老、鍋にまたしてもそば、グレープフルーツ、最初はやはり刺身のシャキシャキした食感に舌鼓を打っていたのだが、食っても食っても食いきれない。次第に食が進まなくなって、ちょうど食べ終わったころに周囲は真っ暗になり、鵜飼いの舟が次々とやってきた。 屋形船は、川の中ほどで合体して繋がって停まっている。そこへ、下流の方から先頭に篝火を炊いた舟が一艘、また一艘と、川面を滑るようにかなり速いスピードで近づいてくる。火は見えるが、鵜が乗っているかどうかは分からない。けれど、何週か屋形船の周囲を回った後で、一艘の舟がちょうど私としげが座っている場所の真後ろにぴったりと縁をくっつけてきた。 「があがあ」と声が聞こえる。ここまで間近なら、私にも篝火の下に群れをなして羽を広げている鵜たちの姿がよく見える。一羽一羽が意外に大きく、ちょっと羽ばたけばこちらにまで飛んで来そうだ。しげは怖がって背中を向けたままだが、それではかえって怖くなるばかりだろう、「前を向けよ」と向かせる。でも前を向いても怖がっている様子がありありだ。 鵜飼い舟は五分ほどで縁から離れて行った。鵜飼いの実演はなく、鵜を見せに回ってきただけのようだ。多少、看板に偽りありだが、季節の関係でいつもいつも鵜飼いを見せられるものではないらしい。まあ、鵜の実物は見られたので、一応満足ではある。
その後、母と祖母の灯篭を流す。 母の灯篭がしばらく流れずに屋形船にくっついていたのを、船頭さんが熊手で川の流れのあるところまで押しやった。 その様子をビデオカメラで撮りながら、父は「お母さん、なかなか帰らんなあ」と呟いた。 「これでお盆も終わりたい」と言うので、「明日はどうするの?」と聞いたら、「明日って何や?」とキョトンとした様子。 「灯篭流したら、明日はもう送り火はせんの?」 「あ! 送り火があったったい!」 もう何でもかんでも忘れるのである。そりゃ母も流れて行きにくかろう。
帰りのバスでは。父も私もぐっすり眠ってしまったが、しげは眠られなかったそうだ。さてまた何を興奮していたものか。
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