2011年03月28日(月)  違う国に来たようだった大阪と京都

地震から3度目の月曜日がめぐってきた。まだ2週間余りしか経っていないのに、ひと月以上分の出来事や感情を体験した気がする。

2月26日を最後に止まっている日記から1か月。なぜかパソコンから更新できなくなっている。携帯からは今日の分しか書き込めないので、取り急ぎ1か月分をすっ飛ばして日付に追いつくことにする。

3月の17日から一昨日の26日まで東京を離れていた。20日に京都で講演があり、23日に大阪で取材があり、26日に大阪城で開かれる「てっぱん」ファイナルに参加してから東京に戻る予定だった。京都へ行くついでに友人がお手伝いしているゲストハウス仁寿殿に泊まり、わたしとたまは去年のゴールデンウィークぶりに堺の実家に帰省する予定だった。ダンナの両親と妹も誘っての家族旅行のはずだったが、ダンナは仕事になり、わたしとたまは予定より2日早く大阪へ向かった。

保育園は計画停電エリアではなかったものの、その影響を受けて給食の材料や先生の登園が不安定になり、お弁当とお茶とおやつ持参、登園自粛が呼びかけられていた。東京にいても仕事が手につかないし、買い占めや不謹慎狩りの空気にも気疲れしていた。東京を離れるとき、逃げるような後ろめたさを感じたけれど、大阪に着いたら、拍子抜けするほど、何もかもが普通だった。スーパーの棚に水も牛乳もひしめきあっているのを見て、違う国に来たみたいに感じた。行き交う人の表情も屈託なく、明るかった。

地震以来、ぐずることがふえ、再び指吸いがひどくなったたまも、大阪に来て、落ち着きを取り戻したように見えた。けれど、夜になると「パパはどうしてこないの?」「いつとうきょうのおうちにもどるの?」と不安がった。大阪に行くことを楽しみにしていたにも関わらず、出発が早まったこととパパが来ないことに違和感を覚えてしまっていた。

子どもは大人のように状況を把握できていないから、ちょっとしたことが、不安の種になってしまう。被災地で避難所生活している子たちは、その何倍こころもとないことか。

26日のイベントは中止になり、「てっぱん」の最終週放送も一週後にずれたが、講演は予定通り行われ、わたしが大学の4年間を過ごした応援団の諸先輩や後輩、大学関係者の方々に聴いていただいた。「脚本家になるには」という題で、応援団で流した汗と涙がいかに今の仕事に役立っているかを紹介するつもりだったが、地震後の初講演ということで、内容は大きく変わった。

阪神大震災を体験していないわたしにとって、今回の地震は人生最大の揺れで、その後の原発の混乱もあいまって、これから自分がどう生きるべきか、脚本家として何ができるのか、問い続けていることを素直に話した。読売新聞のUSO放送に「足りないもの 伝力」という風刺投稿があり、その「伝力」という言葉にヒントをもらったと言ったとき、一斉にメモを取る手が動くのが壇上から見えた。

東京から来たダンナの両親と妹、大阪から来た父も快く同席させてもらえたのだが、地震以来いっそう甘えたになっていたたまは片時たりともわたしから離れようとせず、離れると泣き出すので、やむを得ず、わたしのそばに置くことになった。たまはワンピースの裾をつかんだり、裾の中に入ってかくれんぼしたり、わたしの靴を脱がせたり、タイムキーパーで壇上に置いた携帯をいじったりといたずらを繰り返していたけれど、参加者の皆さんからは台に隠れて、「一時間もいい子にしていた」と褒められ、「お母さんのしつけがいい」とわたしまで褒められた。

京都を後にしてからは、堺の実家で過ごした。仕事のない日はパソコンに向かわず、たまと遊んだ。実家の最寄り駅にある公園をたまはいたく気に入り、そこへ3回通った。今のわたしにできることは、まず、元気な母であることだった。

大阪の子どもたちは人なつこい。たまが遊具によじ登ってると「もうちょっとやで」と声をかけ、手を差し伸べる。たまを撮ろうとカメラを向けると、わーっと寄ってきてピースサインをする。そういえば、母が「優先座席に若い人が座っててもええねん。年寄りが乗って来たら、そこどいて、わしの席やて言うてどかすから」と言っていた。みんながみんなその調子ではないけれど、人との距離の詰め方は大阪のほうがウワテな気がする。東京の買い占めを見て、大阪のおばちゃんやったら「どんだけでかいプリン作りはるん?」と明るく突っ込んでくれそうだ。

地震の後、企画を二つ書いた。東京の生活に戻り、久しぶりに保育園にたまを預けた今日、一つめと二つめを磨き、三つめの企画を書こうとしている。大阪での取材で出会った人たちから、新しい作品を生み出す力をもらった。卵をあたため、殻を破れるところまで大きくするのはわたしの仕事。

脚本家に何ができるのか、立ち止まり、立ちすくんでいたのは、わたしだけではなかった。シナリオ作家協会の仲間と提案や情報を寄せあうなかで、作家の島田雅彦さんが立ち上げた「復興書店」のニュースを知る。著作にメッセージを入れたものを買ってもらい、その売り上げを復興支援に役立てる仕組み。脚本家もノベライズ本などで参加できる。本だけでなくDVDなどのソフトにも広げられるかもしれない。

まずは、いつもの毎日を元気に過ごすこと。笑顔の母でいること。脚本家らしく、書き続けること(たくさん書いて、しっかり納税すること!)。そして、自分にできる支援があれば、待ってましたと参加すること。

上を向いて歩こう!


今日のtwitterより(下から上に時間が流れます)
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@HidetoYagi OLFA展のすてきな案内ありがとう。btfのあのオフィスでやるのかしら。中島信也さんも参加?行けたら初日にうかがいます。そして広めます。地震以来、感動力も萎縮気味。切れ味鋭いアートに期待。
posted at 17:13:15

隅から隅までうなずいて読みました。QT @morimotochie 共感しました。具体的にイメージを。長生きしてぇな。。@ochimasato イマジン。 http://am6.jp/edJSat
posted at 14:58:19

新しい単位が次々と出てきて頭がこんがらがっていましたが、一目瞭然。見える形にしてくれた方に感謝。ただ、ほっとする地域と心配になる地域に分かれそうで…奮闘を続ける現場の方の努力が実り、雨が止んでいくことを祈ります。→関東各地の放射能値の可視化 http://t.co/Lt2vUNB
posted at 14:10:07

@h_ototake 連投のつぶやき、同感です。それぞれ苦渋の決断だと思いますが「自粛ではなく他粛」の空気に支配された結果の萎縮になっている傾向を感じます。このまま日本が縮こまってしまうのが心配です。
posted at 13:02:12

【たま語】大阪の公園でいとこと遊んだときのこと。ミミズを手づかみしてはしゃいだ後にランチ。「たまちゃん、のみものはおみずがいいな。ミミズはやだな」。オミズとミミズはよく似てる。わたしは東京に帰ってからのノミミズ(飲み水)を心配していた。
posted at 12:58:06

「支援には原発と反対の冷めない熱が必要」。脚本家・監督の井上春生 @hugmachinetokyo 氏が「表現を寄付」する任意団体を立ち上げました。 http://j.mp/g3B7dg 島田雅彦氏の「復興書店」告知を始め、表現を通して復興を支援します。 #ideaforlife
posted at 12:53:53

ニュースを見るよりこの日記を。QT @tamatama2 RT @masatofu 涙があふれでた RT @kentaf4 めっちゃ泣いた。「被災地へ医療スタッフとして行ってきました。 http://bit.ly/hZsv7F」
posted at 11:25:48

@okonomisakulove お好み焼きもお節介もたくさん焼いてください!QT @okonomisakulove @masakoimai 「てっぱん」もうすぐ終わりなんだと思うと、めちゃくちゃ淋しいです(つд`)。日本人は、お節介の素晴らしさを取り戻す時期のような気がします
posted at 11:03:45

@toshiyounggreen 同じく。でも、冠をかぶった虎に見えると娘が言ってくれたおかげで、楽しい気持ちになれました。QT @toshiyounggreen @masakoimai ?(゜_゜) 冠‥ 虎‥ ダメだ 心が汚れた大人には、どうやっても見えない‥
posted at 10:46:05

@okumachijunichi すごい、そう見えますか?たまは右が口だと言ってたので同じ見立てかも。QT @okumachijunichi @masakoimai 改めて見ると宮城県の湾が虎の口なんですね。房総半島が虎の足・・・なるほど!笹井さんには虎にみえるかもしれませんね
posted at 10:42:54

漫画家や画家が絵を、音楽家が演奏をエールやチャリティにするなか、脚本家は何ができるのか…同じことを考えていた仲間と提案や情報を寄せあっている。島田雅彦氏が立ち上げた「復興書店」も教えてもらう。脚本家が著作で支援参加できる画期的な仕組み。 http://j.mp/gnnnkU
posted at 10:17:12

@2010tiritote そうです。「ちりとてっぱん」という言葉が前からあったことにもびっくり。 QT @2010tiritote 3/26総合テレビ放送の「ちりとてっぱんダンサーズ」のことでしょうか?RT @masakoimai 「ちりとてっぱん」のてっぱんダンスに感激
posted at 09:55:04

「わたくし名物お節介焼き」は焼きつ焼かれつがいいですね。QT @guriyanworst @masakoimai 相手を思っての、 [お節介焼き]は焼いた人も、食べた人も幸せになれる。人には美味しいと思われる[お節介焼き]焼いてあげ、また、ご馳走になった時は感謝の気持ちで。
posted at 09:52:35

@horoyoka 番犬といえば伝さん。空き巣のときは目を光らせていましたが、普段は和を重んじる人。みんなが機嫌ようやってたら、ええがな。あの飄々とした精神と穏やかな笑顔を見習いたいです。
posted at 09:49:38

@Suikaline_R34 こちらこそ尾道の美しい風景と灯りをありがとうございます。隆円さん×『扉守』という発想はさすが地元の方ですね。てっぱん放送中の再訪は叶わなかったので、暖かくなった頃に家族と訪ねたいと思います。山と海の間の曲がりくねった路地が大好きです。
posted at 09:46:51

@ryokocchi925 「上を向いて歩こう」、奏でたり歌ったりするだけで、自分も、聴く人も元気になれそう。わたしは東京の空の下、娘と歌っています。
posted at 09:40:56

【たま語】「かんむりかぶったとら、ずっとてっぱんにでてたね」。画面右下に出ている津波注意報の東北地方の地図が冠をかぶったトラに見えるそう。力強いぞ。 #teppan
posted at 08:16:47

2010年03月28日(日)  会いたい人には迷わず連絡取るべし
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