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2011年03月09日(水) |
【書評】人生案内「もつれた心ほぐします」(野村総一郎) |
◆読売新聞(YOMIURI ONLINE)「人生案内」(心身)の回答を本にしたものです。
ネットが普及しても、やはり紙の新聞の方が便利な点はありますが、
紙だけの時代は、色々な新聞を読み比べるということは、余程、時間が有る人か、
情報収集を専門に行っている人以外にはなかったと思います。
ネットでは、紙面の全てが掲載されているわけではないけれど、紙のみの時代では知らなかった
自分が購読している以外の新聞の記事や「特集」や「コーナー」を知ることができます。
私は「紙の読売新聞」を購読したことがなかったので、ネットで始めて存在を知りましたが、
読売新聞のウェブサイト、YOMIURI ONLINEの「人生案内」、
特に私が、遷延性うつ病患者なので「心身」をよく読みます。
書こうかどうしようか迷いましたが、私個人が特定されるわけではないので
書いてしまいますが、この「心身」ジャンルの回答者の1人、
精神科医の野村総一郎先生は、私の主治医なのです。
「人生案内」「心身」の回答者は8人で、順不同ですが、交替で回答しています。
他の回答者には申し訳ないのですが、私が読む限り、野村先生の回答はとりわけ素晴らしい。
多分、新聞の担当者か、本の編集者(読売新聞の出版社ではない)の誰かもそう思ったのでしょう。
一冊の本にまとめられました。
人生案内もつれた心ほぐしますです。
◆「親身になる」とはこういうことなのか、と思うのです。
著者・野村先生は、精神科医であり、特に日本有数のうつ病の権威ですが、
この本に於ける、先生の回答は、「権威」とか「偉ぶった」姿勢とは完全に対極的です。
この本を読むと、人の悩みは実に多岐に亘っていること。悩みの無い人などきっといないであろうことを痛感します。
相談の内容は、「憎い母から離れられない」、「育児疲れから夫に辛く当たってしまう自分」という深刻なものから、
「宿痾(しゅくあ)『指揮マネ病』(?)を何とかしたい」など相談者自身、
実はユーモアで相談している場合まで非常に広範に及びます。
これほど「楽しい悩み」は、ひじょうに例外的なのですが「宿痾、『指揮マネ病』」は余りにも面白く、
本になる以前から私はパソコンに保存していたので、お読み頂きましょう。
◆【相談】「指揮マネ病」階下から注意(2007.06.12)
60歳代男性。少年時代からの癖が、ただいまピンチになり困り果てています。
若いころに指揮者小沢征爾さんのライブを見て、躍動感あふれる姿が脳裏に焼き付きました。
以来数十年、音楽を耳にすると、条件反射的に体を揺すりくねらせ、タクトを振るまねごとをします。
恥ずかしいので人前ではしませんが、一人暮らしのアパートの部屋にいるとパフォーマンスに陶酔している自分がいます。
音量には気をつけ、跳んだりはねたりはしないので、世間様には迷惑をかけていないと思い込んでいました。
先日、階下の新住人が来て「天井がきしみ電灯がゆれる。何をしている」とすごまれました。
とにかく謝り、事なきを得ましたが、落ち込んでいます。
そういえば、階下は人の入れ替わりが多いようです。
今は我慢していますが、ラジオから音楽が流れると体がむずむずしてきます。
私の“宿痾(しゅくあ)(持病)”である「指揮マネ病」とどう向き合えばいいのでしょうか。
◆【回答】
うむ。「宿痾指揮マネ病」ですか。
失礼な言い方になるかもしれませんが、これは珍しい悩みですね。
確かに現在困っておられる点についてはよく理解できましたが、音楽の楽しみ方にこんな方法があったのか!
そのユニークさに思わずうなりました。確かにこれは陶酔感を得るための最高の手段でしょう。
以上のように感じましたから、あなたのこの楽しみ方はやめるべきではない、というのが、私の基本的考えです。
それでどうするか? 思いつき程度のアイデアかもしれませんが、
1階に引っ越せば問題がなくなるんじゃないかと思いました。
特に階下は、あなたのせいかどうかは別にして、よく引っ越されるとのこと。
それなら今の人が引っ越したあとに入るとか。
もう一つの方法。小沢征爾をイメージするから、喧騒(けんそう)が生まれるんだとしたら、
もっと静かな指揮者、たとえばカール・ベームとか(ほとんど動きませんよね)……
そういうイメージで陶酔に浸ることってできませんか?
躍動感のある指揮も良いですが、抑制の効いた内面的な指揮もマネるに足ると思うんですが。
これを読んだ直後の外来の日に先生に、「先日の『宿痾、指揮マネ病』は面白いですね」と
申しあげたら、先生は「『宿痾』っていうのがいいですよね」と笑っておられました。
これほど、愉快な「相談」は例外ですけれども、ドクターは精神科医に限らず、
クソ真面目ではダメで、これぐらいのユーモアがないといけないと思います。
ドクターまで眉間にしわを寄せていたら、患者が一層心配になってしまいます。
精神科であろうが、他の診療科であろうが、それは同様だと思います。
さて、この本に収録された「相談」の中にははっきりと精神医学的な相談もあり、
そのような場合は、先生は精神科医ですから、医学的なアドヴァイスをしますが、
読売新聞の「人生案内」は、原則として「メンタルヘルス相談」ではなく「人生相談」なので、
先生は必要な場合以外、精神医学的な要素を回答に含めません。
最も新しい「悩み」は他人の目からは、言っては悪いが、他愛もないものです。
好きな漫画キャラの死 悲しい
漫画やアニメ好きの中学3年女子。忘れられない漫画のキャラクターがいて、その死から立ち直れません。
忍者が題材の漫画「NARUTO―ナルト―」に出てくる、イタチという登場人物のことです。イタチは弟のサスケのため、自分を犠牲にして死んでいきました。イタチを知ってから1年以上たちますが、彼のことを思うと、いまだに涙が止まらず、翌日に目が腫れるくらい泣いてしまいます。
最近は、イタチのいないこの世の中を生きていくのがつらいと感じるようになりました。現実と漫画の世界が違うことはわかっていますが、彼のことを忘れるのは絶対に嫌です。
他の漫画キャラクターでも、その人物が死んだりするとへこんでしまいます。ニュースで殺人事件を見たときも、たまに泣くことがあります。色々と感情移入してしまう私はおかしいのでしょうか。助けてください。(埼玉・I子)
これに対する野村先生の回答。
このご相談を受けて、私も「NARUTO」を全巻読み通してみましたが、やはりかなりハマりましたね。私の年ですらそうですから、若い感性なら、抜け出せなくなっても不思議はない。まあ、目が腫れるくらい泣いても、「忘れるのは嫌」と言われているわけで、この涙は不愉快な感情の表れというより、感動の涙なのかもしれませんが、「生きていくのがつらい」となると、やはりアドバイスが必要かも。
ちょっと青臭いかもしれませんが、次のように考えてみては? イタチは自分の使命を果たし、弟への愛を貫いた。これは美しい自己犠牲の生き方である。いや、現実に自己を犠牲にする必要はない。若い時には「美しい生き方とは何か」をイメージできるだけで、素晴らしい体験だと思うのです。このイタチの思いをあなたの心の片隅に留(とど)めていくことができれば、イタチも本望でしょう(漫画の作者はもっと本望に違いありません)。それにイタチはストーリー上では死んでいても、ページをめくればいつでも会えるのです。
感受性の鋭いあなたです。漫画、小説、映画や、時には現実の出来事の中で、これからも大いに感情移入を続けて行ってほしいです。(野村 総一郎・精神科医)
今日は、たまたま私は通院日で野村先生との面談(精神科でも診察をしばしば「面談」といいます)の日だったので、
この件についてこの欄をプリントアウトして持って行き、
先生、本当にこのマンガを全巻お読みになったのですか?
と、伺ったら、先生は、
ええ。読みましたよ。全部で55巻ぐらいだったかな・・・・。
と、こともなげにおっしゃるので、一瞬絶句しました。
野村先生は、現在の大学病院の副院長でもあるので、非常に多忙な方です。
緊急会議の為、外来を30分ぐらい中断しなければならないことがあるほどの忙しさです。
国立大学病院の教授で副院長ですよ?
そういう方が、中学生の相談に答える為にマンガ55巻を読破(?)なさったというのです。
深刻な悩みは本にいくらでも載っていますので、ここでは敢えて載せませんが、
どんな悩み、回答者によっては冷たく相談者を突き放してしまうであろうような相談に対しても、
野村先生は、絶対に「冷たい」回答をしない。
「もつれた心ほぐします」や、今も進行中の「人生案内」「心身」における野村先生の回答を読むたびに、
人の悩みを「親身になって聞く」とは、正にこういうことなのだ、と頭が下がります。
読んでいると、こちらの心まで本当にほぐされます。
野村先生の真摯な姿勢は他の精神科のみならず、全てのドクター、医療従事者や、
「人生相談回答者」がお手本にするべきだと思います。
診察しない読者の心まで「治療し」てしまう。野村先生は超一流の「回答者」であり、「名医」です。
私はうつ病になって不幸だと思った時期がありましたが、そのおかげで野村先生に
診て頂いている、自分の幸運を、今は、かたじけなく思う次第です。
悩みがある方にも、無い方にもお薦めしたい本です。
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