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JIROの独断的日記
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2011年02月13日(日) 「孤高のメス」と「決断―生体肝移植の軌跡」と「洪庵のたいまつ」。

◆昨年6月公開の映画を今日初めてDVDで観ました。

これは、評判だったし、「脳死肝移植」がテーマな真面目な映画だし、

既にご覧になった方の評判も大変良いのですが、

「孤高のメス」という映画、見よう見ようと思いつつ、

昨日やっとDVDで見ました。

映画の内容の詳しいことは、まだご覧になっていない方もおられるでしょうから、

公式サイトへのリンクだけ貼っておきましょう。

これは、大元はマンガで、小説の原作が孤高のメス―外科医当麻鉄彦ですが、

小説のモデルになっているのは、私が毎年11月13日に取りあげる

日本初の生体部分肝移植を行った当時島根医大(現・島根大学医学部)第二外科・永末直文助教授(当時)

だそうです。


「孤高のメス」はフィクションであり、日本で初めて、

移植(映画では、「脳死肝移植」という設定になっていますが)、


現実世界では、日本で札幌の心臓移植問題以降、兎にも角にも「移植」と名のつく手術を初めて行ったのは、

永末先生なのですから、小説「孤高のメス」の著者、大鐘稔彦氏は、

当然、永末先生のことを調べた筈です。

ネタバレになるので、詳細は描きませんが、映画で堤真一が演ずる、

主人公の外科医・当麻鉄彦は、全く「私欲」がなく、目の前の患者を救うこと以外は

頭に無い、という「医師とはかくあるべし」の見本のような人物。


◆永末先生が本当にそういう方なのです。

永末先生はじめ、日本発の生体肝移植を実行した、

旧・島根医大のドクターたちが書いた「決断―生体肝移植の軌跡」という本があります。

Amazonでレビューを書いているは私ですが、そのレビューを転載します。

日本で最初に生体肝移植をしたのは島根医大だ, 2005/10/16

日本で最初の生体肝移植を行ったのは、他ならぬ島根医大だ。

昭和40年代、北海道の大学病院が心臓移植手術に失敗して、執刀医が殺人罪の容疑までかけられてから、30年以上も日本の医学界では「移植」はタブーだった。

本書は、題名「決断」の文字通り、永年の禁忌を打破して、移植手術を行う「決断」を下すまでの葛藤と、術後の合併症と医師団との壮絶な闘いの記録からなる。

いずれも、貴重な記録だが、特に、手術を決める、当時の永末助教授の覚悟が並大抵ではなかったことが良く分かる。

「我々は肝移植を標榜している。赤ん坊は死にかけている。家族は結果は問わないから、手術をしてくれと言う。これでこの手術を断るなら、明日から肝移植の研究など止めよう」と、病院スタッフに語りかける場面はご本人の控えめな文体からも、ものすごい迫力が伝わってくる。

永末医師は、この手術に失敗したら大学を追われることを覚悟して、その時には故郷の福岡で開業すればよいと思った、と本書では書いているが、NHKの「プロジェクトX」に出演したとき、本当は、「医師も辞めなければならないかも知れない、そのときは私は英語が得意だから、塾で英語の先生をすれば、食べられるだろうと思った」といった。ここまで立派な先生がいたのか、と感激する。

杉本裕也ちゃんは残念ながら無くなったが、ご両親はそれでも、永末医師らスタッフに感謝していたことからも、医師の誠意が良く分かる。

島根医大の様子を見てから、京都大学や信州大学が次々に生体肝移植を行い、成功した。京大が書いた岩波新書の「生体肝移植」の方が本書よりも有名になってしまった。

だが、「初めにやること」ほど大変なものはない。永末医師の「決断」がなければ、今でも日本では生体肝移植は行われていなかったかも知れない。

本書は医療を語る書物の金字塔と言っても過言ではない。(注:色太文字は引用者による)

映画の「孤高のメス」しか知らない人は、もしかすると、
あんな立派な、私心が全くない、自らの医師生命が絶たれるかも知れない手術を行う医者など、現実にいるわけがない。

と思うかも知れませんが、永末先生は本当にそういうドクターなのだ、

ということが、私のレビューから、お分かり頂けると思います。

それは、先日ご紹介した緒方洪庵の言葉そのものなのです。


◆「洪庵のたいまつにある、洪庵自らへの戒めの言葉。

1ヶ月ほど前に、司馬遼太郎氏が晩年、小学校5年生の為に書き下ろした

「洪庵のたいまつ」という文章をご紹介しました。

2011年01月16日(日)「世のために尽くした人の一生ほど、美しいものはない。」「洪庵のたいまつ」--美しい一生を描いた美しい文章。ココログ

その文章の終わり近くに次のような一節があります。
洪庵は、自分自身と弟子たちへのいましめとして、十二か条よりなる訓かいを書いた。

その第一条の意味は次のようで、まことにきびしい。
医者がこの世で生活しているのは、人のためであって自分のためではない。決して有名になろうと思うな。また利益を追おうとするな。ただただ自分をすてよ。そして人を救うことだけを考えよ。
私は、「孤高のメス」の当麻鉄彦は、

緒方洪庵の教えそのままに行動しているように見えました。

更に、驚くべきは、「孤高のメス」の当麻鉄彦は架空の人物ですが、

そのモデルとなった、永末先生は、実在の人物なのです。

永末先生は、失礼ながら、緒方洪庵の「訓戒」を御存知だったかどうか分かりません。

少なくとも「洪庵のたいまつ」は、生体肝移植の当時、読んでおられなかったでしょう。

にも関わらず、永末先生と、島根医大第二外科のスタッフの皆さんの決断と行為は、
「人を救うことだけを考えよ」

という、洪庵の教えそのものではありませんか。

この世知辛い世の中にも、今この瞬間にも、そのようなドクターがおられる。

その事実に私は一層感動します。

映画「孤高のメス」をご覧になっていない方は是非ご覧になることを、

そして、「決断―生体肝移植の軌跡」を読んでいない方は、是非お読みになることを

薦めます。人間の最も美しい「心」が描かれている、と思います。

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