2012年05月02日(水) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・82 |
知らないって言っても、知り合ったのはひと月前のことだし。こんなに真剣な表情ができるんだって驚いてしまった。 思い起こせば、初めて出会った時も『ちがう』って言われて。そもそも何が違ったのかわからなかったんだけど。後で聞いてみよう。不真面目ということはないけど、いたって真剣にちがう方向に突き進んでいるというか。みもふたもなく言えば、始終ぼんやりしているというか。 「……ちゃんと仕事してるんだ」 ものすごく失礼な意見を口にしても、言われた相手は聞こえてないかのように──実際、作業に夢中で聞こえてないんだろう、真剣な表情で手元を動かすことだけに神経を注いでいる。 ぼんやりしていたとしても、彼が真剣に仕事をしているのは事実。わたしはまだ異国に来たばかりで、住むところだってようやく決まったばかり。好意に甘えてばかりの自分に、黙々と仕事をこなす同世代の男子。異国につけばどうにかなると思っていたわけじゃないけど、なんというか、現実を見せつけられたという感じ。はじめは大丈夫なのかなと心配したけれど、相手の心配ができるほどの場所にわたしは立つことすらできていない。 「カールさん? どうしたんですか──」 人の気配に気付いたのか、眼鏡をはめなおした彼は顔だけふりかえって。 そこでようやく。 「……イオリ?」 意識が仕事から、わたしの方に向けられた。
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