無責任賛歌
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2004年08月30日(月) |
『華氏911』の真価 |
台風16号が九州を縦断。今年はやたら台風が来るけど、今のところ福岡は水害には合っていない。風は吹いてるが雨量はそれほどでもないからだろう。 外はもうビュンビュン風が吹いているのだけれど、今日は仕事を休んで(出張扱いなのでサボリではないぞ)定期検診の予約を病院に入れていたので、出かけないわけにはいかない。場所は川端町なのだけれど、直通のバスはないので、比恵までしげに車で送ってもらう。 地下鉄に乗って、中洲川端で降りて外に出た途端、突風に吹き飛ばされそうになった。道を歩く人もマバラだが、差している傘の柄が折れてしまっている人もいる。こりゃ、傘なんか差せやしない、と、病院まで思いきって走る。雨は小振りとは言え、100メートルほどは走ったので、結構濡れた。しかもスリッパで出て来たので、病院に辿りついた時には鼻緒のあたりが緩くなってしまっていた。帰りはちょっと走れそうにもない。 病院のドアを開けてみて、一瞬、キョトンとした。広い待合に、客の姿は誰も見えない。考えてみたらこの台風だからそれも当然なのだけれど、「待合はいつも患者でいっぱい」というイメージが刷り込まれていたので、急に異次元に放りこまれたような錯覚を覚えたのだ。 茶髪の看護師さん(いいのか?)に案内されて検査服に着替え、尿検査だの採血だのレントゲンだの心電図だの胃透視だの、あちこち引っ張りまわされるが、いつもだとこれだけの検査を受ければ、順番待ちで軽く2、3時間はかかるものが、客がいないからスムーズに進むこと。わずか1時間で終わってしまった。問診の結果は「またちょっと糖が出てますね」。やっぱり運動量が減っているのがよくなかったのである。いや、食事の量も増えてきてるし、だんだん気持ちが緩んで来ているのだな。ちょっと黄色信号である。 検査を終えて、外に出ようとすると、暴風はいよいよ激しくなっていて、今度は帰るに帰れないのである。しげに連絡を入れて、車で迎えに来てもらうが、これに時間がかかって、結局、昼になってしまった。 そのあと、眼科に回るが、ここも客は少ない。けれどこちらは結構待たされた。今のところ異状はないとのことだが、次回は造影の検査もしてみようとのこと。実際、右眼と左眼とで視力に差が出てきているし、目の前がぼやっと薄白くかすんでいるので、悪化してないはずはないのである。
帰宅してひと寝入りしたあと、夜、キャナルシティに『華氏911』を見に行く。 カンヌ映画祭のパルム・ドール受賞で、それなりに期待はしていたのだけれど、内容は単純極まりなくて、「ぶっしゅだいとうりょうはせきゆがほしいのでせんそうをはじめました。けれどたくさんのひとがしんだのでよくないとおもいます」で終わりだった。 いやホント、それ以上の内容が何もないのよ。それがかえって驚きだったね。マイケル・ムーアに期待したのが間違いだ、と言われるかもしれないが、もうちょっとは「深み」があるかと思っていたのだよ。政治的プロパガンダ映画だって批判もあるけど、そうだとしてもこの映画、ちょっと方法が幼稚すぎないか。これ見て初めて「ブッシュってそんな卑劣なヤツだったのか!」って憤ったヤツがいたとしたら、それこそ911以降、世界の何を見てきたのかってことになると思うけど。 だいたい石油が云々なんてこたあよ、今更マイケル・ムーアに言われんでもみんなハナから気づいとることだなんって。それ知っててもブッシュに反対できねえから我々は腹立ててるわけで、ブッシュを本気で糾弾するつもりなら、その罪を告発するだけじゃ不充分だろうが。「ではどういう道を取ればよかったのか」まで示さなけりゃ、意味がないぞ。ブッシュは確かにバカかもしれないが、それを貶すしか能のないムーアも、バカ以下のバカってことにしかならないよ。ゴダールが「この映画はブッシュを利するだけだ」ってムーアを非難してた意見が一番当たってたんじゃないかな。 つまりこの映画は、イラク戦争が、はっきりブッシュとアメリカと、アメリカに協力を示した国に石油を落としてくれたってことを証明しているわけで、これ、ウラ読みすれば「ブッシュの業績を称えた応援映画」として見ることも可能なのである。そこんとこにムーアは気づいてたのだろうか? どっちにしろ、単調で退屈で、浅薄な情に訴えてる部分も鬱陶しくて、タランティーノが言うように、「映画として面白い」ってことは全然感じられなかった。なんだか『イノセンス』や『誰も知らない』がこれに負けたかと思うと、「映画のレベルが全然違うだろう!」と叫びたくもなるのである。
映画を見終わったあと、「なんでこんなのがパルム・ドール取るかなあ」とタメイキをついたら、しげが「タランティーノってバカ映画が好きだから選んだんじゃないの?」のと言ったので、ああ、そうか、私ゃまだこの映画を「マジメに」見てたのだなあと気づいた。 だいたい日本人はみんな一人の例外もなくアメリカさんに協力することで得ている石油の恩恵を受けて、「イラク人が何人死のうとアメリカ人の貧民が何人死のうが構わない」という生活を営んでいるのだ。本気で「反戦」を訴えるのなら、「石油および石油製品を一切使わない」生活をしてからでないと、何も言えないのではないか。当然、私にもブッシュを非難する資格はないのである(キライって思うくらいは許してほしいが)。 それはもちろん、アメリカで飢えもせずに「数々の石油製品に囲まれて」暮らしているムーア監督自身にも言えることなんで、なるほど、確かにこれは「バカが作った映画」には違いない。トンデモ映画として見た場合、『アルマゲドン』や『アンブレイカブル』もはだしで逃げ出すほどの大傑作だろう。もしかして、タランティーノはブッシュにではなくムーアに大笑いしながらこの映画を見たのか? 我々も、ムーアが「ブッシュのこんなとこが悪」と示すたびに大笑いすればいいのかもしれない。となると、小泉さんも見て笑えばよかったのにって気がしてくる。 でも、やっぱり上映時間が長いのは勘弁してもらいたいね。政治に関心ない人には特に「はあ、そうですか。でもできればこういう話は15分くらいで短くまとめてほしいですね」で終わる映画である。コンテンツにもっと詳しく感想を書くかどうか、悩むところだ。 ムーア監督は、ニューヨークで29日に行われた50万人規模(主催者発表)の「反ブッシュ」デモにも参加したとか。もしブッシュが来る大統領選挙で再選を果たせなかったとしても、この程度のプロパガンダ映画に乗せられて反戦を訴える国なら、またぞろ宣伝のうまい大統領の手によって、コロッと戦争しかける国に変わってしまうだろう。全く、バカには勝てんよなあ。
2003年08月30日(土) ネットではみんな「役者」だ/DVD『恋人よ帰れ!わが胸に』/映画『ゲロッパ!』 2001年08月30日(木) 性教育マンガ(* ̄∇ ̄*)/『フリクリ』2巻(GAINAX・ウエダハジメ)ほか 2000年08月30日(水) ○○につける薬がほしい……/映画『蝶々失踪事件』ほか
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藤原敬之(ふじわら・けいし)
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