無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2003年08月30日(土) ネットではみんな「役者」だ/DVD『恋人よ帰れ!わが胸に』/映画『ゲロッパ!』

 気がついたらヒグラシが鳴いているのである。つい一週間ほど前に夏が始まったって感じなのにもう残暑か。この分だと秋がなくていきなり冬になっちゃわないかな。あるいは暖冬か。年に一回くらいは雪を見たいと思うんだけれど。


 ビリー・ワイルダーボックスから、DVD『恋人よ帰れ!わが胸に』。
 ワイルダーも昔から全作見てやろうと思いながら、未見だったものの一つ。
 ワイルダー作品の中では比較的評価が低いが、それはまあ、ワイルダーにしては、と思って見るからであって、単独で見たらそう悪い出来ではない。なんと言っても、ワイルダーの晩年の作品の中ではほぼ唯一と言ってよいオリジナル脚本(I.A.L.ダイアモンド共同脚本)作品なのである。よかれあしかれシニカルな「ワイルダーらしさ」の横溢した佳作であることは間違いない。
 『七年目の浮気』で起用する予定だったウォルター・マッソー(まだ新人だったマッソーをMGMが嫌った)がようやく出演、ここに初めてジャック・レモンとの名コンビが誕生する。このマッソーのアカデミー助演男優賞演技を見るだけでも充分楽しめる。
 こういう有名な作品の筋を紹介するのは気が引けるのだが、まあ私にとっては初見だからってことでご容赦。

 フットボールの試合中、事故で黒人選手のジャクソン(ロン・リッチ)にタックルされて脳震盪を起こしたテレビカメラマンのハリー(レモン)。義兄で悪徳弁護士のウィリー(マッソー)は、ハリーの脊椎が子供のころ屋根から落ちたのがもとで損傷していることを利用して、チームから莫大な損害賠償を騙し取ろうと目論む。根が善人なハリーはいったんは断るが、別れた女房サンディー(ジュディ・ウェスト)が心配して飛んで来ると知って、ついウィリーの計画に乗ってしまう。ところが罪の意識に苛まれて献身的に看病に日参するジャクソンの姿を見て、ハリーは自分のほうが罪悪感に悩まされる羽目に……。

 タイトルの「恋人よ帰れ〜」は一応レモンの気持ちを表現したものだろうけれども、本編のイメージには合わない。だいたい別れた女房を「恋人」とは呼ばんだろう。原題は“The Fortune Cookie”。お御籤入りの中華せんべいのことである。入院中のレモンのところに運ばれた中華ランチの中に、フォーチュンクッキーならぬ医者の眼を誤魔化すためのクスリの注射器が入っているというシーンがある。運命はどう転がるか、といった暗喩だろう。
 全体が16章の構成になっていて、各章の初めにいちいちタイトルが出るのだが、これがなかなか人を食っていて面白いものが多い。

 1.The Accident(不慮の事故)
 2.The Brother-in-law(義理の兄)
 3.The Caper(悪だくみ)
 4.The Legal Eagles(すご腕弁護士)
 5.The Chinese Lunch(中華ランチ)
 6.The Snake Pit(蛇の穴)
 7.The Gemini Plan(ジェミニ計画)
 8.The Torch(愛の聖火)
 9.The Goldfish Bowl(注目の的)
 10.The Return of Tinker Bell(ティンカー・ベルのご帰還)
 11.The Longest Night(一番長い夜)
 12.The Other Blonde(もう一人の金髪)
 13.The Indian Giver(分け前に群がる人々)
 14.The Taste of Money(金の味)
 15.The Better Mousetrap(巧妙なネズミ取り)
 16.The Final Score(最終結果)

 最初はごく普通に見えるけど、5章なんかいきなり「中華ランチ」である。いや、そりゃ確かに中華ランチは出てくるけれども。
 7章の「ジェミニ計画」って何を大層なタイトル、と思ったら、レモンを監視する探偵が“二人”体制を取るってだけのことだった。
 9章の“The Goldfish Bowl”はもちろん「金魚ばち」のことで、探偵に監視されてるレモンの自宅マンションの部屋のこと。まあ確かに金魚ばちはいつまで見ててても飽きない。たいした変化はないのにね。
 12章の「もう一人の金髪」、なんか謎の女の登場かと思ったら、ただのチョイ役で話の本筋とは何の関係もない。こういうタイトルのつけ方するあたりが人を食ってるというのである。
 13章の“Indian giver”、最近の英語事情には(もちろん昔のにも)詳しくないけど、この「インディアンの贈り主」、差別語には引っかかってないのかな。アメリカの俗語で「贈った物をあとで取返す人」「返礼を期待して贈り物をする人」という意味があるそうである。なんか聞いたことあるなあと思ったらアレだ、かんべむさしの『ポトラッチ戦史』。
 ※「ポトラッチ」(potlatch)〔チヌーク語で「贈与」の意〕北太平洋沿岸の北米インディアンにみられる贈答の儀式。地位や財力を誇示するために、ある者が気前のよさを最大限に発揮して高価な贈り物をすると、贈られた者はさらにそれを上回る贈り物で返礼し互いに応酬を繰り返す。(大辞林第二版)
 劇中では、ジュディ・ウェストがいけしゃあしゃあとレモンに近づくのを皮肉ってますね。

 このペテンが最後にどうなるかってオチが今一つスッキリしないところがドラマとしては恨みはあるんだけれども、必ずしもハッピーエンドにしないところがワイルダーらしいと言えば言えるのかな。


 夕方、しげとよしひと嬢と博多駅で待ち合わせる。先週は前売券をウチに置き忘れてしまったが、今日はちゃんと持ってきていた。よしひと嬢の分はポイントカードが溜まっていたのでタダ。
 開演時間まで時間があるので、オムライスの専門店で食事しながら駄弁り。

 いよいよ公演が近づいているのだが、練習の方、なんだか煮詰まっているようで、よしひと嬢が愚痴ること(^_^;)。
 芝居作ってるときに、段取り通りに行くってことはまずない。たいてい何かのアクシデントが起きる。いや、不慮の事態ならばともかくも、誰か一人でも「やる気あんのかテメエ」といった態度を取るヤツがいると、空気が殺伐としちゃうんである。誰とは言わんが穂稀嬢のことな(^o^)。
 話によれば、演技がうまくいかないと、すぐに「そんなのできませーん」とか駄々をコネちゃうらしい。……わしゃそんなに演技し難いようなムズカシイ脚本書いたっけ。(^・^;) ?
 穂稀嬢がもともと不器用で無知でワガママのはわかってんだから、それを前提にして使うってのも演出の一つなんだがなあ。「そんなことないよできるよ!」って類のハゲマシは、「今はできてない」って責めることになっちゃうから禁句。下手でも「いいねえ、今の。もう一回やってみようか?」と聞いてやらせてみる。するとまず十中八九前の演技と違ってくる。どう違ったかそこで自覚させると伸びる。そういう手もあるのだ。
 でも本番になると役者ってものは意外に何とかなるものである。それに台本渡した以上は、作者ってのはもうそれをどう弄くられようが文句を言っちゃなんないものだ。
 仮に穂稀嬢の演技が眼も当てられないものだったとしても、演出次第ではそれが芝居として成立してしまうのが舞台の不思議なのである。

 よしひと嬢の言動については、日記でも結構突っ込んだところまで書いてるので、気にしちゃいないか、もしかしてかなり立腹されたりしてはいないかと思っていたのだが、「何でも書いていいですよ」とありがたい言葉を頂いてホッとする。
 実のところ、ネットにおいてその人のことを誉めたか貶したかってのは、受け手はあまり忖度する材料にはしていないものだ。感想も批評もそれは書き手の勝手であって、受け手が見ているのはあくまで紹介したその人のナマの思想なのである(そのことに気づいていない受け手も多いみたいだけれど)。その点で言えば、よしひと嬢の思想・信条については、かなりヤバいところまで私は紹介してしまっている。それを知ってなお「いくらでも」と仰る彼女の度胸には、素直に感嘆しているのだ。
 もちろん、彼女のキモが座っているのは、もともと「役者」だからなんであって、普通の人にそれを要求することは、本来酷なことである。私も誰彼ナシに人のコトを突っ込んで書いているいるわけではない。
 でも、ネットってのがこれだけ開かれていれば、参加者は勢い自分もまた大舞台に立たされていることをホントは自覚してないとマズいのではないか。自分の言動がどんな批判をどこから受けるかも覚悟しなくちゃならない。簡単に怒っちゃう人ってのは、そもそもネットに向いちゃいないよなあ、と思うんだが、そういう人々をも広く包含して、ネットは日々ぐちゃぐちゃのどろどろのへねもねのブラウン運動を見せ続けている。
 「要するにネットに参加してるってだけで、バカなんだよ」
 職業上、ネットが必要な人が多数いることも承知の上で、あえてそんな言葉を口にしたが、実際にそう思わないではいられない。例えば、学校や病院など、各種施設のホームページだが、堂々と掲示板を載っけてるところが多い。アレ、荒らされる覚悟でやってんのかな、と思う。どこぞの学校で事件が起こったときに、非難の書きこみが殺到して閉鎖になった、なんて話をよく聞くが、自校の宣伝のためにホームページ立ち上げたんなら、そこでそういうみっともない対応をしたらますます評判が落ちるだろう。最初から掲示板なんか用意しないか、メールフォーム作るだけにしときゃよいのだ。
 この「バカ」ってのには当然、私自身も含まれてるので(と何度もハッキリ書いてるのに、それを読めねえバカが多いんだ)、全く何でこんな芸のないホームページを作ってんだと思っちゃいるんだが、成り行きというものはどうにもこうにも仕方ないと言うか、まあそういうものなんである。
 ウチもささやかな掲示板を設置しとりますが、荒らしさんにも誠実な対応をさせていただいとります。宣伝以外は問答無用で削除したりはしませんので、まあ文句も悪口もご遠慮なくどうぞ。
 

 『GAMERS』を回って、新刊のコミックスを物色、そのあとシネリーブル博多駅にて、映画『ゲロッパ!』。
 「つまらない映画を撮ることが許されない男」というのがCS日本映画チャンネルでの井筒和幸監督のキャッチフレーズになってるが、実際に批判されながらもそれなりの佳作を作ってきてるんだから、立派なもんじゃないかね。
 だいたいこの映画、好みという点から言えば全然好みじゃないのである。
 主人公ヤクザだし、演じてるの西田敏行だし、話は親子の和解モノで「また『父帰る』かよ」だし、出て来るキャラみんなバカばっかだし、とりあえず歌うシーンがあるらしい、くらいしか興味を引くところがない。
 ところが見ている間これが全然飽きないのだね。

 収監を数日後に控えて、羽原組組長の羽原大介(西田敏行)は、25年前に生き別れになったままの娘、かおり(常盤貴子)に一目会おうと決心する。
 新幹線の中で、羽原と舎弟の金山正男(岸辺一徳。名前はもちろんあの方から取ってるんでしょうね)が、昔話にジェームズ・ブラウンのコンサートを思い出して、いきなり『イッツ・ア・マンズ・ワールド』を二人で踊り出すのがおかしい。しかもそこに雪崩れるように芸能人そっくりショーの役者さんたち、森進一やらマリリン・モンローやら双子の美空ひばり(^o^)なんかが押し寄せてくるのである。このへんなんかはマルクス兄弟的感覚ですな。
 で、そのプロダクションの社長やってるのが実は羽原の娘のかおりで、それと知らずに二人はすれ違っているのだ。このあたりの演出は『君の名は』なみの古い演出だが、物語のセオリーをキチッと抑えているということでもある。そのセオリーをこういう雑然とした状況で描いちゃうのが大阪人の感覚なんだねえ。「キレイなねーちゃんやなあ」と羽原が身もだえするのがコッテコテなんだけれど、ああ、これが伏線になってんだな、ということが見えるので、決して鼻につく感じにはならないのだ。
 羽原組も解散する、と思い出の金のJB像も金山に渡してしまう羽原。金山は何としても羽原に元気を取り戻してもらい組の解散を食い止めようと、子分の太郎(山本太郎)、晴彦(桐谷健太)、健二(吉田康平)たちにトンデモナイ計画を命令する。
 「おまえら今すぐ、ジェームス・ブラウン、攫いに行って来い!」
 JBが誰か分らない子分に、金山が『セックス・マシーン』を踊ってみせるのだが、さすがはサリー、実に腰が決まっているのである。もちろんそんなことしたってJBが何者か子分たちに分るはずもないのだが(^o^)。

 これからあとの展開はかなりネタバレに引っかかるので省略。
 一つ二つ、付け加えておくと、西田敏行が舞台で『セックスマシーン』を歌うことになるまでの展開が自然で「よく出来てるよなあ」と思わせる。
 ラサール石井扮する政務秘書官が暗躍する設定は、オチをつけるためには必要だったということはわかるのだが、やや不自然だった。でもこれとても、ムリヤリハッピーエンドにしたおかげで『父帰る』モノに特有の「お涙頂戴」の辛気臭さが消えて、バカバカしさの方が優先される結果になったのだから、必ずしも欠点とは言いがたいのである。やっぱ最後がキャスト全員登場のミュージカルで終わるってのがいいやな。
 長塚圭史、ウィリー・レイナー、塩見三省、根岸季衣、篠井英介、寺島しのぶ、小宮孝泰、徳井優、トータス松本、岡村隆史、益岡徹、藤山直美といった脇の役者も、みんないい味を出している。
 かおりの娘、歩(太田琴音)のこまっしゃくれたかわいらしさは近年の子役の中でも特筆すべき名演ではなかろうか。アンタ、初出演でこれだけ堂々と西田敏行と渡り合えるって、こりゃスゴイことですよ。
 パンフレットが懐かしのLP仕様なのもGOOD。

 外に出ると、雲間に稲光が走るのが見えた。よしひと嬢、「あんなはっきりした稲妻見たの久しぶり」と喜んでいる。実際、まさに龍が走ったように見えたのである。昔の人が龍神を雷から創造したのもムベなるかな。
 でも、いくら待っても音もせず、雨が降る気配がないのは、よほど遠方なのだったのだろう。


 帰宅して、よしひと嬢にDVD『パパ・センプリチータ』を見せるが、よほど疲れていたのか、途中で就寝。なんか毎回DVD見せてばかりだが、若い人が砂が水を吸うように面白いものを吸収していく様子を見るのは嬉しいものなんである。出来るだけ面白いと思ってもらえるものを選んでるつもりなので、多少は「ムリヤリ見せてる」感があったとしても、ご勘弁いただきたいのである。

2001年08月30日(木) 性教育マンガ(* ̄∇ ̄*)/『フリクリ』2巻(GAINAX・ウエダハジメ)ほか
2000年08月30日(水) ○○につける薬がほしい……/映画『蝶々失踪事件』ほか



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