無責任賛歌
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2003年09月17日(水) |
そう言や久しぶりのカラオケだったな/『雑多なアルファベット』(エドワード・ゴーリー) |
昨日はテレビニュースをリアルタイムで見ていた、例の爆発事故、昨日に続いて詳細がニュースで流れる。 犯人は軽急便の委託業者の別府昇容疑者(52)。 容疑者が、刃物・洋弓銃を手にして、名古屋市東区のビル4階の運送会社事務所に押し入ったのは、昨日の午前10時すぎ。台車の上にポリタンク2個を乗せて、うち1個をけり倒して、床一面にガソリンを撒いて、「7、8、9月分の給料25万円をすぐ払え」と要求、支店長を含む8人を人質に立てこもった。 県警は捜査員をドア越しに配置し、犯人の説得を試みた。しかし犯人は7人を解放後、ガソリンに火をつけた。捜査員が突入しようとした瞬間、爆発が起きた。 犯人及び最後の人質だった支店長、そして捜査員の一人の計3人が死亡。近くにいた24人が重軽傷を負った。
ガソリンを撒いただけで爆発なんて起こるんかいな、と化学的知識の全くない私はぼんやりテレビを見ていたのだが、気化したガソリンが密閉された空間に充満していたところに一気に火がつき、唯一開いていた小さな窓目掛けて吹き出したものだという。へぇ。 犯人は自殺を試みたのではないかということだが、そんな爆発の知識があったとも思いにくい。金が目的だったのだから、火に紛れて逃げようとか、その程度のことしか考えてなかったんじゃなかろうか。 事件そのものについての感想は特になし。巻き添えくらった支店長さんとお巡りさんがホントにお気の毒ってことくらい。
突然しげが「カラオケに行く!」と言い出す。なんかストレスが溜まってたらしい。 「何のストレスが溜まってるんだよ」と聞いたら、眉間にシワ寄せて(もっともしげの眉間にはしょっちゅうシワが寄ってるのだが)「アンタ」と言われる。 「オレがオマエに何のストレス与えてんだよ。逆だろ」 「いんにゃ、アンタもオレに与えてるね」 「オレがオマエになんか与えてるとしても、オマエがオレに与えてるストレスのほうがずっと大きいね」 「五十歩百歩じゃん」 「五十歩百歩ならたいしたことないけど、千歩一歩なら大きな差だね」 「そうやってすぐ自分を美化するし」 「『美化』ってそういうときに使う言葉とちがうぞ!」 なんか思い出して書くだにコドモの会話である。これで40と30の夫婦だからなあ。
「シダックス」の会員券、私はどこかにやっちゃってるので、しげので入る。しげはバイト先の同僚の人たちとも時々出かけてるらしいので、あちこちのカラオケ券を持っているらしい。しょっちゅう「今度はどこそこのカラオケ屋に行こう」と誘われるのだが、そのたびごとに店の名前が違う。カラオケ屋荒らしでもやってるのかこいつは。 新番のアニソン・特ソン、いくつか歌えるのがあるかどうか探してみたが、番組自体は見ているのに、主題歌が思い出せないというものが多い。『ナージャ』はキィが合わないから仕方がないとしても(そもそも歌おうと考えること自体がなあ)『ガオレンジャー』も『555』も『ガッシュベル』も全然覚えてない。20代のころまでは、斜め見してたアニメだって2、3回聞くだけで殆ど覚えていたのに、40の坂を越えた時点でもうアウトなんである。 しげは外人にでもなりたいのか洋モノばかりを歌う。私もむりやりデュエットで『The Phantom of the Opera』を歌わされるが、舞台で一回、カラオケで一回しか聞いてない歌を何で歌えるものか。それでもしげの方は音程を外しつつもなんとか歌っている。「よく知ってんな、こんな曲」と聞いたら、しげ、「オレも一回しか聞いたことないよ」と言う(舞台は私しか見に行ってないのだ)。オモテに出たがらないクセにこういう隠れたところではやたらチャレンジャーなのだな。 日頃は歌いつけてない歌を歌おうとアニソンを探しているうちに、いくつかの事実を発見。耳には馴染んでてもちろんソラで歌えるのだけれども、私は『オタスケマン』の歌を一度も歌ったことがなかった。なんかこういうのほかにもある気がするなあ。
エドワード・ゴーリー(柴田元幸訳)『雑多なアルファベット“The Eclectic Abecedarium”』(河出書房新社・1050円)。 今回随分版型が小さいなあと思ったら、原書と同じ体裁にしたからだそうな。ほぼ文庫版サイズで、絵本のコーナーに置いていたら、他の書に混じって見つからない可能性が大。ご購入の際にはお気をつけを。 柴田氏の解説によれば、原タイトルの“The Eclectic Abecedarium”は「折衷的なアルファベット・ブック」という意味になるそうな。「エイビーシーデアリアム」とはラテン語起源の語で、あまり使われることのない物々しい響きのする言葉だとか。ムリヤリ日本語で雰囲気を出そうとしたら「寄せ集めのイロハ読本」てな感じになるのだろうか。日本でも種種雑多な「いろはがるた」があるから、あちらでのそういうお遊びものだと思って頂いて、基本認識は間違ってはいまい。もちろん作者が「あの」ゴーリーなだけに、一筋縄ではいかない。なんか意味ありげな、皮肉っぽいような短詩(?)もあるし、単にナンセンスなだけのもあって、種々雑多。でも残酷さはゴーリーにしては少ないので、これなら女の子や子供へのプレゼント用にいいかも。訳者の柴田氏はあとがきで「それでフラレても責任持ちません」と書いてるが(^o^)。
柴田氏の訳については、これまでの訳もぎこちなく感じられて不満足ではあったが、今回は文句を付けるのはやや憚られる。なんたって、こういう言葉遊びの本で、英語の韻を日本語に引き写すのはほぼ不可能に近いからである。かつて北原白秋は、『まざあ・ぐうす』で果敢にそれに挑戦して敗れ去った(「とっぴょくりんのとん吉」なんて訳されてもなあ)。和田誠氏が『オフオフマザーグース』で偉業と評していいほどの成功を収めたのは稀有の出来事なのである。 英語や中国語と違って、日本語は韻を踏むこと自体に難しいところがある。五味太郎の『さる・るるる』のように「る」だけを共通させるとか、その程度のことしかできないので、これは如何ともしがたい。 内容は短いので、以下にそれを示してみる。
Alms(施し)乞われた施し ためらうな。 Bird(鳥)歌は聞こえど 姿は見えず。 Clumbs(パン屑)親指で拾え パン屑。 Door(ドア)ドア閉めるなら うしろ見てから。 Eye(目)地に人あり 空に目あり。 Fan(扇)扇舞うには 元気が肝腎。 Glass(硝子)硝子の向こうで 過ぎ行く人生。 Hail(雹)雹取る秘訣 常備のバケツ。 Indian Ink(墨汁)赤子泣くとも 墨汁飲むな。 Jam(ジャム)無闇に食わすな 犬にジャム。 Kelp(昆布)昆布選るなら 寄りあって。 Library Paste(澱粉糊)嘗めたらあかん 澱粉糊。 Mouse(鼠)家あれば 鼠あり。 No(ノー)つれない一言 悲しみの元。 Oar(櫂)櫂を持たずに 岸去るな。 Pill(薬)病んだら早急 薬を請求。 Queue(行列)行列は 手仕事の機と心得よ。 Rope(縄)もつれた縄は うっちゃるな。 Sun(陽)一日が済み 陽を拝む。 Toad(蝦蟇)人も歩けば 蝦蟇に当たる。 Urn(甕)触らぬ甕に たたりなし。 Vine(蔓)絡まる蔓に 御用心。 Well(井戸)地獄の道も 井戸から。 X(X)Xの字は 苛つく字。 Yarn(欠伸)欠伸するたび 三文の損。 Zinc(亜鉛)台所流し 亜鉛製。
例えば、“A”の原文は“Betray no qualms/When asked for Alms.”。 「施しを求められたら、心のまま迷わずに表せ」という意味だから、訳としては正しいのだけれど、“qualms(不安・良心の呵責)”と“Alms(施し物)”との韻を踏んだ調子はどうにも表せない。 「施し」あるいは「おめぐみ」という単語は見出し語だし、イラストにも描かれているから、外すわけにはいかない。更にABCに合わせようと思うなら、出だしは「あいうえお」の「あ」とか「いろは」の「い」で始めなきゃならない。で、どこかで必ず韻を踏まねばならないと来たもんだ(-_-;)。 そういう条件を考え合わせると、相当の意訳、超訳をせねばならない。 試みに私が捻り出したのは「愛のおめぐみ あなたの御心」ってやつだが、まあゴーリーの雰囲気はやっぱり消えている。付いてるイラストが、汚いホームレス(つか毛むくじゃらのバケモノにしか見えん)に仕方なく何かをあげてる人の絵だから、皮肉っぽさは出たかと思うが。 ついでだから「あいうえお」に合わせて全部以下のとおり訳してみた。言語と内容がかなり離れているものもあるが、ゴーリーの絵と合わせると何となく「そう見える」ようにしてみたつもりだが、もちろん柴田氏の訳よりこちらのほうがいいと言うつもりはない。ご覧の通り相当以上に苦しいものばかりだ(これだけで半日かけた)。アルファベットとあいうえおの数が合わないのがそもそも苦しいんだけど。
あ 愛のおめぐみ あなたの御心。 い いずこに鳥よ 今鳴いたかしら? う 失せ物パン屑 うろたえ探せ。 え えらい扉だ えいっと閉めろ。 お お目々があるから お空を見上げて。 か 勝手に踊れば 傾く扇子。 き きれいな硝子に 厳しい人生。 く 雲間に舞う雹 食えやしないね。 け ケチでも墨汁 決して呑むな。 こ 子犬にジャムは 困りもの。 さ 探しておくれよ 浚った昆布。 し 渋い味だよ 湿った糊は。 す 隅々探せば 住んでる鼠。 せ 責めるだけなら せつないばかり。 そ その櫂なくしちゃ そこから落ちる。 た 助かりたいから たくさん薬。 ち ちまちま並んで 小さな仕事。 つ 綱だか縄だか つまらぬ絡み。 て 諦観しみじみ 天を巡る陽。 と トノサマガエルは トンデモガエル。 な なぜ甕壊すか 中身も知らず。 に 逃げろや逃げろ 逃がすな蔓よ。 ぬ ぬばたま地獄へ 濡れ井戸続く。 ね 練り歩く×(バツ)を ねめつける。 の のんびり欠伸 呑気な人生。 は ハウスの台所流し 映えるは亜鉛。
原文も併記すりゃいいんだけど、もうそこまでは疲れちゃうんで本書にあたってみてください。「こんな風に訳したほうが面白いぞ」というご意見がありましたらどうぞご遠慮なく。 ついでだから、「いろは」でやりたい人はやってみてください。私ゃもう、とてもやれません(-_-;)。
2002年09月17日(火) 放生会の掘り出し物/『博多の心』(朝日新聞福岡総局)/『魁!! クロマティ高校』5巻(野中英次) 2001年09月17日(月) 祝日には旗を。私は出さんが/『クラダルマ』1・2巻(柴田昌弘)ほか 2000年09月17日(日) クウガと絶叫としゃぶしゃぶと/『少年探偵虹北恭助の冒険』(はやみねかおる)ほか
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藤原敬之(ふじわら・けいし)
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