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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年09月28日(金) --

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『グリーン・ノウの川』

グリーン・ノウのシリーズ三作目。 今回はちょっと感じがちがっている。 主人公だったトービー少年が出てこないのは ちょっとさびしい。 オールドノウ夫人も遠くへ旅に出て留守、 かわりにこの屋敷を夫人から短期間借りたのが 巨人族の研究家、モード・ビギン博士。 3人の子どもたち(博士のではない)が、 グリーン・ノウの館を網の目のようにとりまく川の水路を たどって経験する、奇想天外な夏の冒険物語。

主人公はモード・ビギン博士の姪の娘、11歳のアイダ。 そして、博士の厚意で施設から寄こされた中国人の孤児ピンと、 ロシア系の少年、オスカー・スタニスラウスキー。 女の子1人と男の子2人の子どもたちは、すっかり意気投合し、 夏休みの日々を、ひたすら川遊びして過ごす。 博士も同居人のミス・シビラ・バンもいそがしくて、 子どもたちにかまっている時間はないのを幸いに。

これまでの作品では、館を通じて時間を超えた過去と現在の 子どもたちが出会ったのだが、 今回は、夢のなかでしか起こりえないような ファンタジックな存在との出会いが 次々と起こる趣向。

イギリス全土にはりめぐらされた水路は、 高低差を調整するゲートもあって、 ハウスボートでゆったりと旅をすることができる。 グリーン・ノウにあるのも、そんな川。

グリーン・ノウをとりまく川の不思議な世界に登場するのは? 表紙のイラストにもなっている「世捨て人」、 心やさしい巨人族や、空想上の動物たち。 魔法をかける、かやねずみの巣。 夏のあいだずっと、3人の、お国柄もゆたかな子どもたちは 胸おどる冒険にあけくれる。 それは、早朝であったり、夜の川辺であったり。 大人になってしまった心には、 どうしてもとどかない「無限」がそこにはある。

夏休みには必ず終わりがくるけれど、 子どもたちは一生、夏休みの思い出をかかえていられる。 そういう夏休みは、大人への階段を登りつつある この子たちにとっても、 二度とないのかもしれないのだ。

さいごに、とてもうれしかった場面。 飲み物をいっそうおいしく感じるために 目を閉じて味わっていたアイダの姿。 子どもの感覚にとても近いこの遊びは、 しようと思えばいつでもできる。 すぐにでもすることができるかどうか?

ものわかりがいいように見えて、本質が見えない 大人になりかけたときには、とくに有効かもしれない。(マーズ)


『グリーン・ノウの川 グリーン・ノウ物語3』 著者:L・M・ボストン / 訳:亀井俊介 / 出版社:評論社

2000年09月28日(木) 『ハサミ男』 &『弁護側の証人』

お天気猫や

-- 2001年09月27日(木) --

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『ぬいぐるみの小さな小さなわんこたち・まめぐるみ』

"ぬいぐるみの小さな小さなわんこたち"と書いてあるけど、 これほんとうに、こんなにちっちゃいの? えーっ、かわいすぎる。 こーんなカワイイ子たちを、どうして置いて帰れましょう。 くっ、見つけたからには、買いますとも。

書店で魔法をかけられ、手放せなくなる人は多いだろう。 あまりにもキュートでイノセントな、スプーンに乗った犬の表情。 表紙はボストン・テリアのボブ。 両側に寄った目が上目づかいにこちらを見ている。 しかも、この本のすごいところは、 全部の子が常軌を逸するほどかわいい。 手抜きがない。 ひとりも欠けずに、名前つき。 うしろすがたもしっぽも耳も、 すべてが信じられないかわいさ。 犬ロリコンになった気分だ。

原寸の型紙もちゃんとついている。 それでも仕上がりサイズがはっきりつかめないくらい この子たちは小さい、それなのにすごい。

ただ、私はたぶん、写真集として楽しむ。 彼ら「まめわんこ」たちのうれしそうな顔と姿をながめていると、 かなり本格的に、ほっとできるから。 ああ、手にのせてみたい(いっそ作るか?)。

9月に出たばかりの本で、新刊をめったに読まない 私にはめずらしい出会いだった。 著者はどんな人なんだろうと思って、ネットで探したら、 なんと、この本が初めての出版らしい! 完成度に再び感動が波立つ。

予想どおり、まめわんこだけでなく、まめにゃんこもいた(感涙)

(タガが外れたマーズ)


『ぬいぐるみの小さな小さなわんこたち・まめぐるみ』 著者:早野千重 / 出版社:文化出版局

2000年09月27日(水) 『私のスタイルを探して』

お天気猫や

-- 2001年09月26日(水) --

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『星の海のミッキー』

☆猫は困りもの ― 猫好きに捧げる書。

とかく世の猫というものは、 飼い主をこの上もなく幸せな気分にしてくれる代わりに、 自由気ままに、振る舞うことで、
どこにいるんだろう?
どうしたんだろう?
大丈夫だろうか?
と、身の置き場もないほどに不安な気持ちにもさせくれる。

それが宇宙船の中やら、 宇宙空間で起きたとしたら?

猫を飼っているものとしたら、 想像しただけでもぞっとする。 うちの可愛い○○に、何かあったらどうしよう。 それが、世の猫バカ、愛猫家というものである。

猫のSFというと、 誰もが思い浮かべるのが、『夏への扉』のピート! 私にとっても、ピートは最高の猫。 でも、今日からは、それにミッキーが加わる。

孤児だったバーバリの秘密は猫のミッキー。 ペット禁止の宇宙ステーションに 別れがたい猫のミッキーを密航させた。 新しい家族や宇宙ステーションを巻き込んでの、 宇宙的トラブルメーカー・ミッキーとバーバリの冒険。

「これぞ猫」という愛らしさ。 猫好きの人にはたまらない1冊。 SFというよりは、ジュヴナイルだが、 とても幸せな読後感が味わえる。 猫の愛らしさが120%詰まっているので、 猫の魅力の伝道の書といえるかもしれない。 それとも、 猫ってやっぱり困りもの。 そう、ため息をつかれるのかもしれない。 ミッキーの引き起こす数々のトラブルに。

「わかったわ」バーバリは安堵の笑い声をあげた。
「助けにいくわよ、ばか猫め」(P259より引用)

何度、そうつぶやいたことか。 あらゆるシチュエーションで。 それでも、世の半分の猫派の愚かな私たちは、 猫好きを止められないでいるのだ。(シィアル)


『星の海のミッキー』 著者:ヴォンダ・N・マッキンタイア / 出版社:ハヤカワ文庫(絶版)

2000年09月26日(火) 『柿の種』

お天気猫や

-- 2001年09月25日(火) --

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☆古本を買う

最近、ネット古書店に入り浸っている。 現物を手に取り、ページをめくる喜びはないが、 一方では、書名を頼りに、 書棚を行ったり来たりして探す煩わしさはなく、 検索エンジンで瞬きの合間に、 生き別れとなり、巡り会うことができなかった お目当ての本を探し出している。

需要と供給の関係で、価格は決定する。 自明の経済法則である。 それは、古書も同じで、 すでに品切れや絶版となり、 手に入れることが困難となった名作・人気作ほど、 高値となっている。

すべての本について調べたわけではないが、 8月頃からずっと、本探しを続けていた結果、 それなりに、標準価格帯とでもいうべき線が見えてきた。 古本の相場がわかってきたと、言っていいのかもしれない。 少なくとも個人的には、 この本が、○○○円なら、これは買ってもいいかなと。

最近、探しているのは、 ハヤカワ文庫や創元文庫のSFやFTである。 だいたい、800円から1000円くらいの価格帯なら、 決して安くはないが、高いともいえない。 500円前後なら、これは安いといえる。 ただ、探している本、 どうしても欲しい本、というのは、 価格と相談しながら決められるものでもないので、 少々高いと思っても、 見つかった時に、買わざるを得ない。

ハードカバーで、もともと1300円くらいの本を 3000円で買った。 品切れで手に入らないものだから、 しかも、探したところ、とりあえず、 3000円と3500円で売っているお店の2軒、2冊しかないのだから、 値段を云々しても、しょうがない。 それでも、もうちょっと安いところがないか、 ネット上で探してみた。 結果は徒労であった。

そうなんだよね。

ネットで本を買うメリットは、 労力を省けること。 街に出て、本を買うのは一日仕事。 駐車場代やらガソリン代やら、 結構、雑費がかかる。 そんなことを思うと、ネットで少々割高でも、 結果的には、さほど、高い訳じゃない。 (送料はかかるが) それなのに、何時間もネットを彷徨うなんて、 時間的にも、経済的にも、効率が悪い。 そこに思い至り、3000円で購入した。 届いた本は、10年以上の本なのに、 しおり(ひもの)も、最初挟まったページのままで、 新刊とも思える、美本だった。

ところで。 身近なところの高値の本というと、サンリオSF文庫があげられる。 もちろん、数十万円を超えるような希覯本(!)も見かけるが、 コレクターではないので、身の回りの本に限定して。 そのサンリオSF文庫。 当時はあまり気づかなかったが、 今、そのラインナップを振り返ると、 かなり粒ぞろいである。 マニアックなものから、佳品まで、 興味深い。 そのサンリオSF文庫は、私の調査結果では、 標準価格帯は1500円くらいから2500円くらいである。 なかには、スティールラットシリーズのように、 700円前後で売られているものもあったが、 それは、稀である。 高い本になると、3000円前後。 さらには、8000円前後の超高値をつけているものもあった。

我が家にも、そのサンリオSF文庫が数冊書棚にある。 だいたい1500円くらいでうられているものである。 その中に1冊だけ、3000円前後(お店によっては、8000円!)の 貴重な本が含まれていた。 本の価値は、読む人の個人的な思いで決まるのであって、 古書の市場価格で計るべきではないのだが、 それでも、ちょっと鼻が高くなるのはしょうがないだろう。

いずれにしても、 地元の古書店だけでは、見つけるのが難しかった本を ネット古書店のおかげで手に入れることが出来てうれしい。 その点では、とても感謝している。 時に、ようやく見つけて、 1000円近くかけて、ネットで買った本が、 近くの古本屋で50円で売られていても(涙)。 (シィアル)

2000年09月25日(月) 『小さな生活』

お天気猫や

-- 2001年09月24日(月) --

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『ハロウィーンの魔法』

ハロウィーンの夜は、不思議の夜。

スコットランドのミヌーク村で暮らす 少女セリーナの一家と、村のがんこ者、マックじいさんの物語。 人間にはきらわれ者のマックじいさんだが、 レディという村いちばんの犬を飼っている。

お姉さんのマフェットと主人公のセリーナは、 おこづかいやアルバイトをしたお金で、 それぞれのポニーを買った。

セリーナの選んだポニーは、黒いハギス。 さめたようなハギス(スコットランドの伝統料理)色をしている。 この、ハズレじゃない?と姉に言われるポニーと いっしょに、セリーナはマックじいさんのドラムララ農場へ 入り込んでしまい、じいさんと「言い合う」仲になってゆく。 どうも、マックじいさんは動物とだけはうまく話ができるようだ。 セリーナの数少ないともだち、やせっぽちのティム少年も やがてドラムララ農場の常連になる。 ここに通うのはセリーナの秘密だった。

そうするうちに、さまざまな事件が起こり、 ついには村じゅうを巻き込んで、村八分の対立すら起こる。 そして、ハロウィーンの夜、クライマックスが。

セリーナは、赤いコートに大好きなローズピンクの とんがり帽子をかぶり、姉にからかわれつつも、 よい魔女の扮装をした。 マフェットは黒装束のコウモリに変身。

セリーナは近所の家をたずねて、果物やお菓子、ナッツをたくさんもらう。 そのあとで、なんと、生まれてからハロウィーンのお祭りを したことがないというマックじいさんにあげるお手製の タフィーアップルまでバスケットにつめて、 ハギスと一緒にでかけてゆくのだった。

この村でのハロウィーンは、アメリカでおなじみのとは 少しちがう。なんといっても、カボチャでなくカブを ランタンに使っている。きっと恐いランタンができるだろう。 魔女や魔法使いに会えるという古い歌も残っている。

小さな村を舞台に、セリーヌやマックじいさんにとっては 生活を揺るがすような出来事が続くのだけど、 淡々とした描写はここちよく、秋の空気に満ちている。 その、ハロウィーンの期待に満ちた秋の空気を毎年吸って、 子どもたちは大人になってゆくのだ。

物語の始まりは、ハロウィーン。 そして終わりも、ハロウィーン。(マーズ)


『ハロウィーンの魔法』 著者:ルーマ・ゴッデン / 訳:渡辺南都子 / 絵:堀川理万子 / 出版社:偕成社

2000年09月24日(日) 『公主帰還』

お天気猫や

-- 2001年09月21日(金) --

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『ライトニング』

☆守護者はタイムトラベラー?

私には「タイム・スリップ(orトリップ)・ロマンス」という 得意なジャンルがある。(略して「TSR」) そういうジャンルがほんとうにあるのかどうかは わからないが、着実にこのジャンルの読書量も増え、 最近では、「いっぱし」の気分である。

クーンツの『ライトニング』に触れる前に、 この「TSR」に属する本にはなにがあるのか。 簡単に挙げておきたい。 (→詳しくは、こちら。

ザ・マミー』 (アン・ライス) 『時のかなたの恋人』(ジュード・デヴロー) 『夢の中の騎士』(リンダ・ハワード) 『二千回目のプロポーズ』(ダーリーン・スカレーラ) 『満月』(原田康子) 他に 『たんぽぽ娘』(ロバート・F・ヤング) 『時をかける少女(特に映画)』(筒井康隆)は、 このカテゴリーに入れてもいいのではないだろうか。

クーンツの『ライトニング』は、何度も手に取り、 あらすじまで確認しておきながら、 「TSR」ものだとは、気がつかなかった。 表紙の絵がなんだか今ひとつで 読む気が起こらなかったのもあるし、 今や、私にとって、クーンツと言えば、 迷うことなく、 それは『ウオッチャーズ』である。 後にも先にも、私にとっては、 これ以上の傑作は、クーンツ作品では出会えない。 そう、クーンツの評価は確定している。 あまりにもその思いが強かったので、 他のクーンツ作品を読む気はどうしても起こらなかった。

ある時、知人から、 「ロマンティックなサスペンスが好きなら、 『ライトニング』は?」と奨められた。 面白かったというので、 書店で本を手に取り、ページをめくる。 その瞬間。 「ああ!」 何という不覚。 これは、「TSR」ではないか! そして、今現在、私の集めている 「TSR」コレクションの一部となっている。

美貌のベストセラー作家、ローラには、 子供の頃から守護者がついている。 守護者の正体が誰なのか、 一体どこからやってくるのか、 守護者については何一つわからない。 父を失い、孤児となってからも、 守護者はローラを助けてくれる。

ローラが知るよしもないが、 守護者は、時の彼方の、 ナチスドイツが支配する時代から やってきているのだった。

守護者の秘密。 ナチスドイツの野望とは? そして、ローラと守護者の未来は?

ところで、どの本に限らず、 タイムトリップの理屈は難しい。
「タイムパラドックス」
タイムトリップが引き起こす、さまざまな矛盾。 この本でのクーンツのタイムトリップの理論は、 タイムパラドックスを防ぐために、 かなり明快である。 明快であるが、当然、いくつかは矛盾が、 いや、(個人的な)混乱が残る。 とにかく、難しい。。。

この小説は、(残念だが)もちろん、 ロマンス小説ではない。 ナチスドイツの野望に巻き込まれたローラたちの逃亡劇に はらはらドキドキしながら、手に汗をにぎる小説である。 それが、この小説の醍醐味だ。 個人的な嗜好にすぎないからしょうがないけれど、 もっと、ロマンスがないと、「TSR」としては物足りない。 そこら辺が私の不満である。(苦笑)

クーンツの他の小説のように、 (月並みな言い方をするが) ジェットコースターに乗っているように、 スリルとサスペンス満点の小説であることは間違いないが。(シィアル)


『ライトニング』 著者:ディーン・クーンツ / 出版社:文春文庫1989

2000年09月21日(木) 『クリスマスに少女は還る』

お天気猫や

-- 2001年09月20日(木) --

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『魔女ジェニファとわたし』

「あたしはね、ただ先生にまほうをかけて、 先生をまどわすために学校にいってるの。」 (引用)

舞台はニューヨーク近郊の田舎町。 転校してきたばかりで友達のいない「わたし」が、 ハロウィーンの日に裏道で出会った不思議な少女は、 木の上に腰掛け、魔女だと名乗った。 それが、ジェニファとの付き合いのはじまり。

ハロウィーンの日には、学校で仮装コンテストがある。 ジェニファも「わたし」も、偶然「巡礼」だったのだが、 「巡礼」というのが仮装になるとは知らなかった。 しかも、けっこう多いらしい。日本でいえばお遍路さん? お化けやガイコツや魔女やコウモリにはない怖さを感じる。

仮装コンテストのあと、ジェニファと一緒に回った ハロウィーンの「おふせまわり」では、 巡礼衣装で病気のふりをしたジェニファがご近所の同情を引いて、 かつてない量のお菓子を手に入れるというエピソードもある。

ジェニファは笑わない。 毎週土曜に「わたし」と図書館で会うときはいつも やたらたくさんの本を借りる。 決まった場所に「わたし」宛ての秘密の手紙を置く。 かと思えば、やたら古い仮装の巡礼衣装や魔女の鍋をもっている。 どうやら誰も友達はいないみたいなのに、 平気な顔で学校にいるジェニファ。

それにひきかえ、「わたし」ことエリザベスは 自信がなくて、はじめのうちはジェニファに盲従する。 博識で風変わりなジェニファとの わくわくする秘密がいっぱいの付き合いに、 どんどん夢中になっていく。 魔女の見習いにもしてもらえて、「わたし」は大喜び。

一見かけはなれていながらどこか似ている 二人は、一緒にいることで知らず知らずお互いを変えてゆく。 孤独で、いたずらが好きで、浅はかさを嫌うところ。 食べものの好みに偏りがあるところ。 だれかと、うわべだけでなく本音でつきあいたいと 願っているところ。 外見はちがっても、ジェニファと「わたし」は 磁石のように強く惹かれあっている。

女の子にとって、友達ってなんだろう。 ドラマや映画や小説のなかに、女の子はたくさん出てくるけど、 男の子の場合とちがって、 女の子どうしの友情をテーマに描いたものは、 探してみると意外に少ない。 単に孤独な似たものどうしが出会って仲良くなりました、 では話として成り立たないし、他の人間関係と同じく、 作者が準体験をしていないと、リアルには描けない。

じつは有名な『クローディアの秘密』の作者が 男性か女性か、私は知らなかった。 でも、これを読んではっきり女性だとわかった。 女性でなければ書けない物語だということが。

カニグズバーグは1930年、ニューヨークに生まれ、 ペンシルバニアの田舎町で、そう、「わたし」たちの 住んでいるような町で大きくなったそうだ。 ジェニファは作者カニグズバーグの幼い日々の 空想の友達だったのだろうか。

もともと化学専攻だった彼女は、結婚してから1967年に相次いで 本作と『クローディアの秘密』を発表した。 その2作が、その年のアメリカの児童文学賞、世界で最初にできた 児童文学賞でもあるニューベリー賞を争って破れたというのだから、 当時の話題のほどがうかがえる。 クローディアのように街を舞台にした冒険ものとくらべれば、 確かに地味な作品なので結果は納得ゆくのだが、 思わずにやっとしてつぶやいてしまう。

「ジェニファ、やるじゃない」(マーズ)


『魔女ジェニファとわたし』 著者:E・L・カニグズバーグ 訳:松永ふみ子 / 出版社:岩波少年文庫

2000年09月20日(水) 『「我輩は猫である」殺人事件』

お天気猫や

-- 2001年09月19日(水) --

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『散りしかたみに』

『本朝廿四孝』四段目切りの十種香の場、 謙信の娘八重垣姫と勝頼出合いの場面。 その時──舞台にひとひら、花が散る。

歌舞伎座で起こる不可解な謎を解くため、 大部屋女形小菊と友人の探偵今泉文吾、 助手の山本少年の探偵トリオが乗り出します。 華やかな歌舞伎の表舞台とストーリー、 同時進行の舞台裏、天井の仕掛け、奈落、楽屋、 普段見られない歌舞伎座のあちこちにもぐりこめ、 顔を切られて以来役に凄みを帯びた若手立役と 徒な着こなしの魔性の女の、光の当らぬ情念の物語、 歌舞伎という特殊な「世界」における掟、 いっぱい見せて貰えてサービス満点、 しかもどんでん返し付き、舞台好きは是非ごらんあれ。

近藤史恵さんの歌舞伎ミステリシリーズ、 主題は魅力的で話も面白いのですが、 デヴュー二作目『ねむりねずみ』では やっぱりまだまだ書き方が拙く、 トリックにもかなり無理がありました。 しかしそこは衆目を集めたかっての期待の新人、 めきめきと上手くなって今回ははるかに読みやすくなっています。 謎解きしかしない探偵ブンちゃんはやっぱりぱっとしませんが、 中年女形子菊と名女形の菊花師匠が登場キャラ中では群を抜いて 生き生きとしています。 若手スターの台頭で古典芸能の人気も復活して来ているし、 今後何十年もじっくり書き続けて貰いたい楽しみなシリーズです。(ナルシア)


『散りしかたみに』 著者:近藤史恵 / 出版社:角川文庫

2000年09月19日(火) 『薔薇のほお』

お天気猫や

-- 2001年09月18日(火) --

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『メイおばちゃんの庭』

原題は『MISSING MAY』。 ウェスト・ヴァージニアの田舎町を舞台に、 老夫婦に引き取られた女の子がつづる物語。

子どものいなかった老夫婦、メイおばちゃんとオブおじちゃんに 引き取られたサマーは、いらない子として生きてきた。 大人というのは、遠慮するだけの相手だった。 おんぼろトレーラーハウスで新しい家族と暮らすまでは。

それなのに、世界の中心だった メイおばちゃんが突然、逝ってしまった。 目に見えない「白い魂」に、なってしまった。 おじちゃんのつくる、芸術的な「風舞」みたいに。

おばちゃんの前では泣きたい人は泣き、 笑いたい人は笑うことができた。 おばちゃんは出会った人をみんな信じていて、 この信頼はうらぎられたことがなかった。 (引用)

神様がはやく戻っておいでと呼び寄せたかのように、 まえぶれもなく、おばちゃんは、この世界から消えた。 愛するメイおばちゃんが逝ってしまってから、 サマーとオブおじちゃんの生活は、 がっくりとトーンダウンする。 二人とも、食べることすらままならない。 あんなにすばらしく回っていた生活が、さびついてゆく。 主を失った庭も、台所も、日々、輝きを失う。

近所に住む、サマーいわく"ベタベタした髪"の 変わった少年・クリータスは、二人の家を足しげく訪れる。 サマーのことを物書きだと言い張り、 おじちゃんを会話に引き込むクリータス。 この物語のなかでは、何も書いていないサマーだが、 確かに、その観察力、感性は作家のものだ。 いつか本物の作家になる、その卵なのだ。

クリータスは、ついに、オブおじちゃんのために、 パトナム郡の霊媒・コウモリ巫女に会いにゆこうよと誘う。 そして、生きている3人の生活に、 待ちつづけた転機がおとずれる。

サマーやオブおじちゃんが、メイおばちゃんを失って とってもつらい状態のときにも、読者の私たちには、ちょっとだけ 安心できることがあった。 きっと、これを読んだ人はみなそうだと思う。

失うことのつらさをかみしめながら、出会えた歓びの大きさも いずれは戻ってくるはずだということ。 もうひとつ。 サマーは、メイおばちゃんというすばらしい母親をなくしたけれど、 こんなに若いのに、もう、クリータスという将来有望な ─つらいときに頼れるという意味でも有望な─ パートナーに出会っている。 それは、もしかすると、メイおばちゃんにだって お見通しだったのかもしれない。

だから、私たちは信じられる。 きっと、うまくいくっていうことを。 この信頼もまた、裏切られることはないだろう。(マーズ)


『メイおばちゃんの庭』 著者:シンシア・ライラント 訳:斎藤倫子 / 出版社:あかね書房

2000年09月18日(月) 『お風呂の愉しみ』

お天気猫や

-- 2001年09月17日(月) --

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『イラストレイテッド・ファンタジー・ブック・ガイド』

☆突然、SF&ファンタジーにはまる。

J・P・ホーガンの『星を継ぐもの』から始まる3連作 (『ガニメデ星のやさしい巨人』『巨人たちの星』) を読み終えてから、 突如、SF&ファンタジー・モードに突入した。

書棚を整理していると、 手頃なSF&ファンタジーの指南書が見つかった。 『イラストレイテッド・ファンタジー・ブック・ガイド』 10年以上も前のものなので、 この本自体がもう、手に入らないかもしれない。

しかし、10年前の本であっても、 そこで紹介されているどの本も、 色あせることが無く、今でも魅力的な本である。

学生の頃、書店で背表紙をずっと眺めていた。 毎日、毎日、書店に通い、本に親しんだ。 ハヤカワ文庫−SF・FTの本の数々。 おおよそ名作といわれた本は、 買うことはできなくても、 ほとんどの本の裏表紙を読み、 あらすじを確認したものだった。

けれど、私自身の指向は、 翻訳ミステリに向いていて、 どちらかというと創元文庫の方に 親しみを覚えたものだった。

背表紙を眺めるだけ眺めてきた あの時の本の数々を、とても懐かしく、 ぜひ、今、開きたいと思うようになった。

それなのに。 歳月は無常である。 あの頃、手を伸ばせばすぐそこにあった本の多くが 今や、「品切れ」という状態である。 『イラストレイテッド・ファンタジー・ブック・ガイド』 この本の中に取り上げられた多くの本も、 またしかり。

だが、読めないとなると、 何とかして、どうしても読みたくなってしまう。 あの時、手に取り、何度か、買おうかどうしようか迷い、 迷ったあげく、棚に戻してしまった本。 その本の逆襲か、 今や、「希少価値」という付加価値をつけて、 私の前によみがえってきた。 とりあえず、まだ手に入るものから着実に読んでいこう。

世界は驚きに満ちている。 扉は魔法の国へと続き、 窓外はいたずらな妖精たちが集いはじめる。 善悪が混沌とした世界では ヒーローやヒロインの登場が待たれ、 宇宙の果てにまで、 人類は活躍の場を広げている。

私たちの手元にはいつも、 異世界への鍵たる本があるのだ。(シィアル)

→ この本で紹介しているファンタジーはこちら。


『イラストレイテッド・ファンタジー・ブック・ガイド』監修:長谷川並一 / 出版社:JICC出版局

2000年09月17日(日) 『警告』

お天気猫や

-- 2001年09月16日(日) --

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『イラストレイテッド・ファンタジー・ブック・ガイド』 (参考)

■イラストレイテッド・ファンタジー・ブック・ガイドで紹介されている本

 → 本文は月曜付

指輪物語(J・R・R・トールキン)
ゲド戦記(アーシュラ・K・ル=グゥイン)
ナルニア国ものがたり(C・S・ルイス)
コナン・シリーズ(R・E・ハワード)
ウロボロス(E・R・エディスン)
世界のかなたの森(ウイリアム・モリス)
リリス(ジョージ・マクドナルド)
アンバーの九王子(ロジャー・ゼラズニィ)
エルフランドの王女(ロード・ダンセイニ)
ゴーメンガースト(マーヴィン・ピーク)
魔法の王国売ります!(テリー・ブルックス)
ブラス城年代記(マイケル・ムアコック)
闇の公子(タニス・リー)
アルクトゥルスへの旅(デヴィッド・リンゼイ)
プリンセス・ブライド(ウィリアム・ゴールドマン)
ウイッチ・ワールド(アンドレ・ノートン)
カメレオンの呪文(ピアズ・アンソニイ)
最後のユニコーン(ピーター・S・ビーグル)
狂気の山脈にて(H・P・ラヴクラフト)
ファファード&グレイ・マウザー(フリッツ・ライバー)
アイルの書(ナンシー・スプリンガー)
洞窟の女王(H・R・ハガード)
魔女集会通り26番地(D・W・ジョーンズ)
ダーコーヴァ年代記(M・Z・ブラッドリー)
イルスの竪琴(P・A・マキリップ)
魔法つかいの船(ハネス・ボク)
ドラゴンランス戦記(M・ワイス&T・ヒックマン)
ベルガリアード物語(デヴィッド・エディングス)
パーンの竜騎士(アン・マキャフリィ)
ボアズ=ヤキンのライオン(ラッセル・ホーバン)
モモ(ミヒャエル・エンデ)
魔法の国が消えてゆく(ラリー・ニーヴン)
リフト・ウォー・サーガ(R・E・フィースト)
イシュタルの船(エイブラム・メリット)
黒竜とお茶を(R・A・マカヴォイ)
伝奇集(J・L・ボルヘス)
たんぽぽのお酒(レイ・ブラッドベリ)

お天気猫や

-- 2001年09月14日(金) --

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『迷亭論処』

学生時代の友達同士で居酒屋とか誰かの部屋に集まって わいわい飲みながら盛り上がる時の話題といったら? 人の噂話とか怖い話とか美味しい食べ物の話とか?

みんなでお酒を飲みながらパズルや推理クイズで 盛り上がるのも楽しいですよね。 今回のおつまみはタックシリーズお馴染みの面々が あちこちで聞き込んで来た変な事件の数々、 古典ミステリで言ったらハリイ・ケメルマンの 『9マイルは遠すぎる』タイプでしょうか。

女子校の答案用紙は何故盗まれ、翌日に戻された? 何故不幸の手紙に不幸のハガキが同封されたのか? 身の回りで起きたなんとなく腑に落ちない妙な出来事に、 なんとか筋道の通る解釈をつけようと ボンちゃんやウサコ達と一緒になって あーだこーだといろいろ思い付きを持ち出してきては 「うーん、違うよなあ」と考え直しては唸ります。 何通りも可能性がありそうに見えて 結局決め手はないんじゃないかと思われた出来事が 最終的に出された説を聞くと 「あ!それだ!きっとそうだよ、それしか有り得ない!」 と膝を打ってしまうのでありました。

たまに「あー、わかった!」という時も気持ち良いですが、 自分の思いつきが結構イイ線いっていると思ってたのに 結局タックの推理に負けちゃったりすると 「ええい、次はないのか次!今度こそわたしが解いちゃる」と 力を込めて新しい缶ビールをぷしゅっと ‥‥あ。なんか私いつのまにかタカチ入ってる?(ナルシア)


『迷亭論処』 著者:西澤保彦 / 出版社:祥伝社

お天気猫や

-- 2001年09月13日(木) --

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『地獄の家』

1970年、クリスマスまでの壮絶な一週間。

霊的現象の謎と死後の生存を解明するため、 死にかけた富豪の依頼が届く。 通称ヘル・ハウスに送り込まれた4人のパーティー。 彼らは超心理学者とその妻、 精神的霊媒、物理的霊媒という 「信じない者」と「信じる者」、 あるいは「感じない者」と「感じる者」だった。

そして。 彼らにとって、今回の訪問は、まさに誰にとっても 人生を賭けた戦いでもあった。 科学の威信と人生を賭けた戦いであり、 数十年前の負け越しのリベンジでもあり。

今は住む人もない悪夢の舞台は、 不気味に静まり返っている。 霧濃い谷間に建つ悪徳の館、ベラスコ邸。 かつてこの家の主人であった邪悪な巨人ベラスコが 本当に、死後数十年たった今でも さまざまな怪奇現象を引き起こしているのだろうか?

もちろん、彼らが乗り込むなり、 幽霊屋敷にお決まりの異変は始まる。 窓をつぶした大きな邸宅で、電源が原因不明のダウン。 沼の異臭と寒気は邸内にも漂いこみ…

ロウソクの灯りを頼りに恐慌をきたしながら 昼も夜もなく、ゴーストハウスをうろうろする …なんてちょっと耐えられないので、 私は──結末を先に読んでしまった。 そして、恐怖の正体を知ったうえで、 後半を安心して読んだのだった。

そんなやり方はフェアではないけれど、 プロットを楽しむには却って好都合かもしれない。 いわゆる探偵小説の犯人当てとはまた趣がちがうし、 怖いのはいやだけど読んでみたい、 という向きにはおすすめ。

姿の見えない、悪意だけが突出した敵、 顔のない敵よりも、 顔の見える敵のほうが、たとえどんなに強くても 数倍マシであるという事実をかみしめながら。 そこには必ず弱点があると、地獄の家は教えてくれる。(マーズ)


『地獄の家』 著者:リチャード・マシスン 訳:矢野徹 / 出版社:ハヤカワ文庫

お天気猫や

-- 2001年09月12日(水) --

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『R.P.G』

このごろゲームに浸りっきりのミヤベさん、 現在地方新聞でもゲームそのままの異世界に飛び込んだ少年が 冒険する剣と魔法のファンタジーを連載していますが、 今回の文庫書き下ろしもロールプレイングゲーム? と思ったら、こちらは私達にお馴染みのインターネットが題材でした。

同一犯人によると思われる連続刺殺事件の捜査の為に、 ホンボシを追う捜査陣とは別行動を取るチームに入った 武上刑事と石津刑事。 彼らイレギュラーズの面前で繰り広げられる ネット上で結ばれた仮の「家族」の心理劇。 ほとんどの場面は取調室を中心に進む一幕物です。

疑似家族と言えば思い出されるのが大作『理由』、 しかもネット上での絆テーマなんて下手に掘ると とんでもなく重く暗い超大作になってしまいそうですが、 普段ネットはやらないミヤベさんらしく、 ネット家族の扱いには割合深入せず、 客観的な読みやすい構成になっています。 初めの内感じた特別編成チームや人間関係に対する 違和感もひっくるめ、 劇の終わりはすとん、と上手く落とします。

さっと読めて捜査陣は感じが良くて展開が上手くて最後に驚きがあって、 しかも良識ある人から見た「我が身」の反省もちょっと出来る。 大作『模倣犯』は古本屋でもなかなか値が下がらなくて まだ手が出ていないのですが、 『R.P.G』は500円以下、なかなかお得な文庫です。(ナルシア)


『R.P.G』 著者:宮部みゆき / 出版社:集英社文庫

お天気猫や

-- 2001年09月11日(火) --

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『星虫』

☆中高生への、読書のすすめ。

新潮社のファンタジー大賞の最終選考に残った作品で、 10年ほど前に、新潮社からファンタジーノベルズとして 出版されていた本だという。 絶版後、長らく再版が待たれていたのだそうだ。 あまり、日本のファンタジーやSFは読まないので、 この『星虫』のことは知らなかった。

ネットでファンタジーか何かを検索していて、 偶然ひっかかった掲示板の書き込みで初めて知ったのだ。 知らなかったというと、 私は「2チャンネル」なるものを最近まで知らなかった。 知ったといっても、 「何だかとても大変な(掲示板がある)ところらしい。」 という漠とした理解しかできていない。 その「2チャンネル」の「癒し系のSFなどを紹介してほしい」 というテーマの書き込みが検索でHITしたのだった。

そこにあげられたかなりの数のタイトルは、 懐かしくもあり、 また最近はSFを読んでいなかったので、 とても新鮮であった。 書店で手に入った本もあれば、 その掲示板で取り上げられた本の中には 絶版になったものも多く、 どうしても読みたくてネット古書店で探しだし、 購入したものもある。

書店で手に入ったもののひとつが『星虫』だった。 タイトルにも違和感があったし、 あまり日本産SFは読まないし、 表紙の女の子のイラストもちょっと気恥ずかしく、 しばらく迷ってしまった。

無数の光る物体が空から降ってきて、 世界の8割の人間の額に吸着した。 人間を宿主とする「星虫」と高校生・友美の7日間の物語である。 最初良好な関係であった「星虫」と人間の関係が 7日間の「星虫」の成長と共にどんどんと変化していく。 その地球規模の騒動の中で友美は地球や人類の過去や未来、 この「星虫」の意味について思い悩み、 そしてついに、理解したのであった。

とてもいい本だと思う。 多くの人がこの本について語るように、 さわやかな読後感の本でもある。 人類と地球の関係。 星虫と宿主人間との関係。 環境問題や自己犠牲の精神などが語られていく。

本には「旬」があると思う。 「旬」は、本にも読み手にも当てはまると思う。 この本に対する、私の方の「旬」が、過ぎてしまっていたのだ。 そう、この本が出たとき、10年前に読んでいたら、 ずいぶんと印象が変わっていただろう。 (そもそも私自身がこの本のターゲットではない。 むしろ、そう素直にいうべきなのだろうが。) 出会いのタイミング・時期の問題ともいえるだろう。

今、マーズは代表的な児童書、 児童書のベーシックを意識的に読み続けている。 大人になった今、大人の目で、 児童書の傑作にふれるということも大切だ。 しかし、その一方では、やはり、今感じている思い、 恩田陸の『六番目の小夜子』や『ネバーランド』等を 読んだときのように、どんなにいい本に出会っても、 もう、大人になりすぎたな、そういう思いもつきまとう。

いい本だと、理解できることと、 いい本に触れて、心から共感したり、 感動したりできることは、明らかに、違う。

若いときにしか味わうことのできない、 感動がある。 もちろん。 年を経て、大人になったからこそ得ることのできる、 そういう感動だってある。 いつだって、いくつになったって、 私たちの味わうことのできる感動は無限にある。

それでも、若さという特権は、 今を生きる若者だけのものだ。 だから、子供たち、若い人たちに、 たくさん本を読んでもらいたい。 無限の想像力の第一歩は、 やはり、一冊の本から始まると思うから。

私は『星虫』を読んで、そういうことを考えた。 本そのものに感激するよりも、 中高生がこの本を読むと、 いろいろなことについて考えることができるし、 だからこそ、爽快なラストに感動できるのだろうなと、 余分なことを考えてしまう分、 本に引き込まれることができないのである。

それでも、普段と系統の違うものを読んで、新鮮であった。

マーズのように。 私は私で、しばらく、SFやファンタジーのベーシックを 集中的に読んでみたいと、そんなことも考えている。 『星虫』は、そう思うきっかけにもなったのである。(シィアル)


『星虫』 著者:岩本隆雄 / 出版社:ソノラマ文庫

お天気猫や

-- 2001年09月10日(月) --

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『夜物語』

夜ごとに語られる、妖精の物語。

屋根裏で"ごく普通の"小人が暮らす人形の家に、 ある嵐の日、羽の破れた美しい妖精が迷い込み、 小人は夜ごと彼女の語る物語にすっかり こころを奪われてしまう。

ちょっとした火の番をしたり戸締まりを確かめたり、 その家を守るのが小人の仕事。 でも物を食べることすら小人は忘れて、 彼女への疑いを完全に消すこともできず、日々が過ぎる。 昼間は眠っていて透明になり、 夜になると姿が見える可憐な妖精をどうしても、 追い出すことができない。 家からも、こころからも。

もうちょっと、もうちょっとだけ、… 小人のこころにも、読んでいる人のこころにも 同じ願いがこだまする。 この妖精はどうなってしまうんだろう? 目の前にいる妖精は、どんな世界を旅してきたの?

だって、妖精が願っていたのは、 人間や動物たちのように、誰かと結婚して子供を産んで、 そして死んでみたいということだったから。

でもそれは、妖精にとって、不可能な夢だと 誰もが笑った。 ちょうど、人間のあなたが妖精になって、 ハチミツを食べながら不死の王国で 暮らしたいと願うのと同じように。

生まれついた世界をはずれるということは 妖精でなくても大変なこと。 けれど、一度生まれた夢は、簡単には消えなくて。 いつかその羽が、ぼろぼろになってしまっても だれかが、どこかで、あなたのお話を 聞いてくれるために待っているかもしれない。

今現在、羽を傷だらけにしながら 飛び続けているあなたに、 そして飛ぶことのできないあなたにも、 夜ごとの物語と、その後の物語を。(マーズ)


『夜物語』 著者:パウル・ビーヘル 訳:野坂悦子 / 絵:小笠原まき / 出版社:徳間書店

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