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夢の図書館新館

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-- 2005年09月30日(金) --

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『アンデルセン 夢をさがしあてた詩人』その2

いつかついに「夢をさがしあてる」ことを、 アンデルセン自身、疑うことはなかった。そして本書を読む私たちにも、 その熱はゴッデンのペンを通して、脈々と伝わってくるのだ。

彼は、いつまでも子どもでした。 子どもというものは、人間性をもたない”物”、つまり、 おもちゃや、棒切れや石ころ、手すりの握り、足台、 キャベツなどに人間性を見いだすという、神様に似た力をもっています。 (引用)

そしておそらく、『人形の家』を書いたゴッデンもそうだったし、 この私ですらも、周囲のものを擬人化するという癖から 死ぬまで抜けられはしないだろう。 というより、そうでない人がいることが不思議なのだから。

本書には、アンデルセンが4歳の少女にあてた手紙も収録されている。 手紙の最後には、

きっと、スズメよりさきに、このてがみがつくでしょう。 いなかにすんで、およいで、いろんなものたべて、 そして、あなたをあいするひとから、 てがみをもらうのは、たのしいことです。 (引用)

と、結んでいる。
その子は、彼の手紙を一生大切にして手放さなかったという。

アンデルセンが、数日間の恋の記念に、愛する人に摘んだ花束も、 いまだに残されている。 そこには、生まれながらに「センス」を持っていた人の 名残が、確かにいまでも感じられるのだ。 もらった人が、ずっと自分のそばにとどめておきたいと思う何かが、 彼の残した童話にあったのと似通ったエッセンスが、 アンデルセンが子どもたちに作って上げた切り絵にも、 スクラップブックにも、手紙にも、花束にも、宿っているのだ。

ゴッデンは、あの錫の兵隊を、アンデルセンの象徴と見る。

『しっかり者の錫の兵隊』には、彼の魂といってよいものが こめられています。(中略)この一本足の錫の兵隊を、最後に、真っ赤に燃える ハート形の錫に変えていったものは、実にこの気丈さであり、分裂し複雑な アンデルセンを、まともな一人の詩人に変えつつあったのは、実にこの堅忍不抜の 精神だったのでした。(引用)

この伝記を読んだ今では、『ヒナギク』の物語を、 アンデルセン自身の体験に照らして読んでしまう。 むなしく棄てられたヒナギクが、報われない想いの象徴であったろうことを。

生前から著名人だったアンデルセン自身が、自分のライフワークであり、 後世に残るものとして「童話」を位置づけるようになったのは、 むしろ晩年の頃だったという。 最初は俳優になりたくて、家を出た。 脚本も書いたし、詩人や作家としても世に出た。

しかし、C・S・ルイスやトールキンがそうであるように、 本当にすぐれた児童書を書いてしまったら、 どんな驚嘆すべき著作よりも、作家の意に反してでも、それらは残ってしまう。

私たちは最初等しく子どもであって、その子どもが私たちより先に 死ぬことはないからで、たとえその期間が長かろうと短かろうと、 いやむしろ短ければ短いほどに、 子ども心をつかまえる物語の力は、生涯消えることはないのだから。 (マーズ)


『アンデルセン 夢をさがしあてた詩人』著:ルーマ・ゴッデン / 訳:山崎時彦・中川照栄 / 偕成社1980

2004年09月30日(木) 『とぶ船』
2003年09月30日(火) 『死霊の王』2
2002年09月30日(月) 『トランスパーソナル心理学』
2000年09月30日(土) 『ラング世界童話全集』

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