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夢の図書館新館

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-- 2005年09月20日(火) --

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『アンデルセン 夢をさがしあてた詩人』

ゴッデンが書いたアンデルセン(1805-1875)の伝記。

母国イギリスと、育てられたインドとの狭間で大人になった作家、ゴッデン。 母国デンマークを愛しながら、貧しい境遇と戦った作家、アンデルセン。 ゴッデンは、アンデルセンの没後に生まれているが、 「みにくいあひるの子」として生きた作家の不滅性を、 児童書の作家としての視線にとどまらず、幼いころの物語を紡いでくれた 心の友として、また、時には母のまなざしで、 「実践的」とでも言うべき想像力を駆使して描いている。

落ち着いて読みたかったので、昨年からずっと積んであったのを、必要にかられて 手に取り、一気に読み終えた。 途中、この本は人手に渡ることはないだろうからと、 ページのはしを折っていたら、折りすぎて意味がなくなってしまった。

半島と島々からなるデンマークには、首都コペンハーゲンのあるシェラン島と、 アンデルセンの生まれたオーデンセのあるフューン島という、大きな二つの島がある。 貧しい靴職人だった父が死に、愛情を注いでくれた母が再婚したあと、 アンデルセンは14歳で、わずかばかりの貯金を持って家を出る。 まるで昔ばなしの、運だめしのように。

「コペンハーゲンに行って何をするの」と母は、困りぬいて尋ねました。
「有名になりたいの」と、彼はいつもの答えをしました。
「でも、どうやって有名になるの?どうやって」と、母は尋ねました。
 ハンス・クリスチャンは、有名になる方法を知っていました。
「はじめはとても苦しい目にあうの、苦しい目にね。でもそのうち、 必ず有名な人になれるんだ。」(引用)

まだほんの少年だった彼がどんな苦労をして、彼の光にふれ、 手をさしのべてくれた人々のおかげで階段を登っていったのか。 頭のおかしい祖父を持ったこと、貧しすぎる生活、父の死と母のアルコール中毒、 それなのに幼い日から決して消えなかった、未来への情熱と確信。 いつも自分が他の人と違うことを自覚していたアンデルセンの感情が、どんな風に揺れ動いたのか。誤解されやすい天才の成長する姿と、誤解した周囲の人々の内面に至るまで。 ほとんど無知に近かった私にも、ゴッデンはしみいるように語ってくれた。

そしてそこには、デンマークという王国ならではの恩恵も あったのだった。力を認められた芸術家に、国から年金が支給されるのだ。 彼が各地を旅行できたのも、国からのギフトのおかげだったし、そう計らってくれた周囲のおかげだった。

アンデルセンの研究書や伝記は多く、自伝も書かれている。 それらの中には、生涯独身で、愛に報いられることのなかった人の、「ふれられたくない部分」にまで、土足で踏み込んだものもある。

ゴッデンはそれをしなかった。そんな必要などなかったからだ。 彼女が教えてくれたのは、客観的に見ても、愛情をもって見ても、ごく妥当でありながら、 新鮮で美しい時間の記憶だった。「結婚するのが当たり前で、しないのは異常」としか考えられない「良き家庭人」には、アンデルセンのように真摯な生涯をまっとうした作家を邪推してほしくない。

→その2へつづく (マーズ)


『アンデルセン 夢をさがしあてた詩人』著:ルーマ・ゴッデン / 訳:山崎時彦・中川照栄 / 偕成社1980

2002年09月20日(金) 『子どもと本の世界に生きて』
2001年09月20日(木) 『魔女ジェニファとわたし』
2000年09月20日(水) 『「我輩は猫である」殺人事件』

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