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☆かつて見たドラマは良くできていたのだと実感。
久々に高村薫を読んだ。
高村氏の本を読むたびに思うけれど、「男」は美醜を越えて、醜悪さすら美しく描かれているのに対し、『マークスの山』を読んだ時にも漠然と思ったが、「女」の描き方には何の思い入れもないように感じられる。しみじみ冷たい。
ストーリーの流れ上必要だから、必要最小限に存在しているような。そんな思いを、以前にドラマで『李歐』を見た時にも感じたし、やっと原作を読んでみても、あのときに感じた「咲子とはいったい何だったのか?」「咲子の人生は何なんだ?」という不安を帯びた懐疑は消えなかった。
自分自身の輪郭も定かでないような希薄な人生を送る吉田一彰。彼の前に鮮やかに現れた美貌の殺し屋・李歐。二人の間に芽ばえる非常に濃密な男同士の友情。しかし、互いに「友達だ」という言葉はあったが、二人の関係を友達とか友情とかでは括りがたい。きっと、友情ではないだろう。二人の結びつきは言葉に置き換えるのが難しい。お互いの魂が強く惹かれあい、長い年月をかけて、互いの約束を、夢を実現していく物語。そこに国際的なアンダーグラウンドの世界がハードに絡んでくる。
WOWOWで映像化されたドラマを見たのは随分前だったけれど、読んでいると意外に鮮明に情景が浮かんでくる。高村氏の映画やドラマはこれ以外にも見ているけれど、今までの印象では肩すかしだった。本を読んでから、映像を見たせいかもしれない。映像は文字の世界を越えることはできなかった。 今回は先に映像を見ていたせいか、うまく3時間くらいのドラマにまとめていたんだなあと、ドラマのできの良さに感心した。地味なキャストだったが、読みながらドラマのキャスティングには抵抗はなかった。
物語は「男のロマン」満載だった。拳銃の造形や一彰が子供の頃が心惹かれていた町工場の情景は事細かに描かれている。馴染みのない国際的な裏社会に生きる者の暗躍とか、非常に濃いハードボイルドなエンターティメントの小説。ドラマを見ていたこと、ドラマ自体の力もあって、さくさくと読み進み、確かにラストもハッピーエンドにまとめられていて、面白かった。
しかし。
私の中で引っかかるのは、李歐を、李歐との約束の成就を待つ一彰と結婚した咲子の人生。咲子という人間の存在意義。まるで、一彰と李歐との間に子を授けるためだけに存在したかのような彼女の人生。そんなことが何年か前にドラマを見終わってから、そして先日、本を読み終わって、ますますひっかかったりする。高村氏が書きたいのは「女」ではなくて、「男のロマン」とか「男の生きざま」だと、分かった上でもなおかつ。
それはそれとして。
私がしみじみとページを開く手を止めて、思いめぐらせたのは「下放」だった。『李歐』という物語の中で、ひっかかりどころ、つっこみどころとしては、全く的外れなことなんだけれど。(シィアル)
※次回へ続く
『李歐』 著:高村薫 / 講談社文庫 1999
2003年09月12日(金) 『ドリトル先生アフリカゆき』
2002年09月12日(木) 『西風のくれた鍵』
2001年09月12日(水) 『R.P.G』
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管理者:お天気猫や
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