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■ 空に見惚れる
「うわぁっ!!」
夕焼け空を見たとたん、私は歓声をあげた。
さみしげな蒼色の空、奥の夕焼けに照らされた白い雲に、まるであざやかな血のような赤い影。赤色とオレンジと、ひかりとひかりと。
あまりに綺麗で、思わずデジカメをひっつかんで外に飛び出していた。
昔、そう幼稚園くらいの頃読んだ絵本に、白い子ヤギが好き勝手に外に飛び出していって、黒い狼に食べられてしまうという話があった。 白い子ヤギは狼とそれでも果敢に闘って、最後には喉元をガブリと銜えられて、絶命する。 子供むけの絵本にしては、内容がなんだかほの暗い。
その汚れのかけらも知らない真っ白な喉元が黒い狼に咬みつかれて、綺麗な赤が散りばめられている様は、壮絶な色気を発していて、子供心ながらにゾクゾクしたものだ。あのシーンだけが忘れられない。どうしてこのヤギさんは気持ちよさそうなんだろう?ちょっとうらやましいなとか、思っていた。 白子ヤギのアヘ顔うっとりしたようにさえ見える顔とか、かなしいシーンの筈なのに、それよりもきれいだなぁと思っていて、大きくなってからもあのエロシーンはお気に入りである。
そのヤギの、綿のような白さに滲んだ赤に、そっくりな雲だったのだ。
それを撮りたくて寮の外まで飛び出した。まだだ。まだ空が建物に邪魔されて見えない。
走った。空が見えるところまで走った。
けれど、夕陽は一瞬の間にほとんど落ちてしまっていて、あざやかな赤も白い雲も、しずかな橙と蒼色に隠されてしまっていた。
ああ。
こんなことなら、あの最高の瞬間を極限まで眼に焼き付けておくんだった。
そうだ。最高の瞬間なんて、いくつも瞬きしないうちに、終わってしまっている。 今これが最高の瞬間なんだ、って、気づいて心に留めるように、精一杯楽しむように自覚していたって、過ぎ去るし、過ぎたあとは名残惜しい。
たぶん私は今、かなり楽しい。 何ヶ月か前には焦がれてやまなかった生活を、送っているのだ。だって、空のひとつひとつの表情を追える心の余裕がある。 でも、こんなのはきっといつまでも続かない。
どんな空だった、とかいうのは、最悪忘れてもいい。
空が綺麗だと思えた自分を、忘れたくない。
2011年07月09日(土)
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