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2003年01月08日(水) 飛行船という名の揺り篭


約束を交わしてから1ヶ月も過ぎていない。
本当に突然決った事だけれど、今日は会社を早退して出掛ける。
友人と逢うのは久し振り・・・。
「秋以来だから変わったかな?」
と思いながらも仕度を急ぐ、

建物の中は外と違って熱気に溢れて、もう行列が長く尾をひいていた。
まるでエリア51に紛れ込んだように秘密を共有している人達・・・。
ここでは限られた人達が自給自足して居ても全然不思議ではない広さ。
通路を急ぎがちに歩く人の顔は誰しも緊張し興奮している様にも見える。
この建物が完成した時は異様な光景で、
初めて目にした時もその大きさに驚愕した物だけれど、
今は自分の家のベランダから彼の家の方角を眺める唯一の目印になっている。

この広さのせいで迷子になって友人とはナカナカ逢えないんじゃないかと
心配したものの、
同居人に無理を言って借りた携帯電話の御蔭でその心配もなく再会出来た。
人に習って一度建物を出てから私達も列に並ぶ。
日はもうとっくに落ちていたけれど、
今日は風が無いので体感温度もそれ程でもなかった。






わざわざU・S・Aから何億も掛けて運んだそのセットを目の当たりにして、
誰もが一斉に歓声を上げた。
ゆうに10メートル以上はありそうなパラボナアンテナが
3っつもステージ上に構えていて私は憧れ続けていた歌を耳にしながら、

「まるでロンドンでビックペンを見た時みたい・・・」

そんな事を思った・・・。
大きな物を見ていると自分がとてもチッポケな存在に感じてしまう、
でも、私の場合、それは自然の偉大さを感じている時よりも、
人工的で意図的に作られる物を目にした時の方が強く感じるみたいだ。
何ヶ月も何年も掛かって悩みながら作られた物・・・。
そんな大きな物に触れた時、感服して私の悩みなど
本当にチッポケな存在にしか過ぎないのだと思う。
そして、今日は・・・。
見上げてしまう高さの天井。
3万人以上の人の群れ。
宴も中盤に差し掛かると口では言えない一体感。
この大きな飛行船が左右にゆっくりと揺れ始めて
今にも天に昇って行きそうな感覚。
私もその中で頬を高潮させながら、揺れていた。



彼と連絡を取を取ったのは開演前、
時間が押してしまったから終るのも遅くなると伝えていた。

「いいよ。アイツは友達と地下鉄にでも乗って帰るだろうし
迎えに行くから終ったら電話を掛けて」

数日前に彼が約束してくれた。
彼の言葉は私を何よりも優遇してくれているようで・・・・。
そこはかとない優越感に浸って居た。
それが・・3度目のEncoreの合間を縫って電話してみると、まだ会社に居るとの事、
私はどうやって彼の待つ繁華街まで行こうか・・・そればかり心配していた。
友人は終演になると明日も仕事だからと夜行バスに乗ってあっと言う間に帰路に
着いてしまった。
私は人波に押されて地下鉄の入り口の方角へ歩き出した。
道すがら何度も振り返って、あの大きな建物を見てみると、
ヒンデンブルク号が形を変えて舞い降りたような・・・・。
やっぱり大きな銀色の飛行船の様に見えた。
きっと人工衛星から見たら、ちっぽけな建造物に過ぎないんだろうけれど、
私は目の前に聳え立つ、この銀色の飛行船の事を、
「仲間だと思ってUFOが降りたりしないだろうか・・・」
とそんな流暢な事を考えながら又歩き出した。



地下鉄の最終駅。ホームにはもう電車が大きな口を開けて私を待っていた。
横に並ぶ人達と同じ様に乗り込んだものの、
一番便利な公共の乗り物だからか思ったより混雑していて私は何時の間にか、
反対側の入り口まで押しやられてしまった。
何度も何度も降りようかと思ったが降りられなかった。
前に一度、過呼吸の発作と脳貧血の為、車内で倒れた時も、
声を掛けて助けてくれたのは人の良い中年のオバサンだけだった。
「もし今、発作が起きたら・・・・
この中で助けてくれるのは・・一体何人居るだろう?」

そんな事を考えると動悸が益々、酷くなる一方なので余計な事を考えるのを止めた。
二駅位まで来ると、動悸も何時の間にかやんで、
その後は彼に逢う事をだけを考えて何とか目的の駅に到着した。
「3番出口で待ってるから」
彼に言われた出口を通ると直ぐ横に車を停めて待っていてくれた。
ヒョッと車内を覗くと申訳無さそうな彼の顔。
「地下鉄・・・・大丈夫だった?」
乗り込むと直ぐにそう聞いてくれたので、
さっきまでの少し怒っていた私は何処かへ消えてしまった。


私達はこの前、冒険の様に探して入ったホテルに又行く事にした。
その部屋のベットで彼は今までに感じた会社の不満をずっと話していた。
家庭ではきっと会社に対しての不満なんて話せない状況なのだろう・・・。
私達の議論は何時間続いたのか解らない程、白熱した。
本当はささやかな時間・・・もっと違う事を語らいたかったけれど、
こんな風に彼のストレスの捌け口になれただけでも嬉しくてつい聞き入ってしまった。
そのうち疲れたのか私は腕枕をされながら彼の胸に寄り掛かり、
ゆらゆらと揺られながら眠りに落ちてしまった。
気が着くと何時の間にか時計は午前3時を過ぎようとしていた。
辺りはまだ真っ暗で眠気眼で彼の車に乗り込み、
そして何時もの様に手を振って別々の家に帰って行った。
睡魔に勝てず、そのままベットに潜り込んだ私は再び眠りに落ちる直前になって、
「今日は良い日だったけれど・・・」
そんな風に一日の事を考えた・・・・。
あの大きな建物の中で揺られて・・・・そして彼の腕の中でも揺られて・・・・。
まるで揺り篭に優しく揺られながら眠る子供のような・・・そんな気分だったけれど。
私は彼の腕の中で揺られながら沢山の時間を費やした人を知っている。
その人は今日・・・私と一緒にあの建物の中で不思議な時間を共有していた。
今頃、その人は彼と同じ屋根の下でグッスリと眠っている事だろう・・・。
羨ましいと思っても・・・仕方が無い事・・・。










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