こんなに好きでもいいですか? すみれ 【MAIL】【HOME
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2002年09月22日(日) 通り過ぎて行った男

今日は遅い朝だった、早朝に目覚めてからずっと一人で起きていたが、
子供も同居人も起きて来たのは午前10時をとっくに回っていた。
家族でブランチを食べる。
子供も同居人が居ると嬉しそう・・・。
部屋の中を片付けるのに二人で公園に行って来てと言うと、
快く引き受けてくれる。
公園まで送る道すがら、
どうしても昨日、友人の所で聞いた曲が聞きたくて、
思い切ってレンタルCD屋へ向ってしまった。
これで聞きたかったCDが廃盤にでもなっていたら、
頭の中を駆け巡る、このフレーズは何時消えてくれるのだろう・・・
そう心配していたが、
聞きたかった、ほとんどの楽曲が揃っていたので胸を撫で下ろした。


不意に同居人の携帯が鳴り出して、
同居人は同僚の家へ遊びに行く事に予定変更。
「子供はどうするの?」と聞くと嬉しそうな顔で、勿論連れて行くと言う。
最近は言葉数も増え、愛想笑いまで出来るようになった我が子を自慢したくて、
仕方ないようだ。
友人に会う時も、今日の様に同僚宅へ行く時も、公休日に出掛ける時は、
必ずと言って良いほど子供を連れて歩くようになった。
一年前までは考えられない事だったのに・・・。




静かな午後、彼からのメール。

「今、眼鏡屋さんに親父を送って兄貴と交代したよ」

彼が家に居ない今日は、朝から何件かメールを交わした。

「今日は同居人が家に居るから電話は出来ないけれど、
それでも、貴方の事想っているね・・・。」

直ぐにメールは返って来たけれど、これについての返答が無くて、
少し寂しく感じてしまった。
私がコメントを求めると・・・。
「すみれの事は何時も何時も想っているよ」
メールを見て直ぐに元気になる、単純な私・・・・。
でも、本当は何も言わなくても、こういう言葉を投げ掛けて欲しいのに、
最近、彼は余りこういう言葉を使わない・・・・。
色々な事に慎重に感じている時期なのかもしれない・・・。


家に誰も居ない事を言い訳に、彼へ電話・・・。
今日は何をしていたのか、何のCDを借りて来たのか、そう聞かれて、
素直に答えると彼は少し不機嫌なってしまった・・・。

「昨日、友達の所でビデオを見て・・・・。
どうしても聞きたくって・・・・。」

私がそう言うと「またかぁ〜」
とは口に出さなかった物の・・・そんな雰囲気だった・・・。


昨日、友人に見せてもらった懐かしいビデオ・・・。
その画面中には過去に付き合いのあった或男性が映っていた。
私が19歳の頃出逢った、その人は・・・・。
少なからず私の人生に大きな影響を与えた人だった・・・。
あの頃の私は、怖い物も怯える物も何も無かった。
好奇心旺盛で色々な事に自分から足を突っ込んでいた・・・。
その人とは、あるイベントで知り合ってから付き合いが始まった。

『一目惚れって・・・あるんやな〜』

6歳年上なのに、こんな事を言う・・・そんな子供の様な人だった・・・・。
住んでいる所が離れている事もあって、遠距離恋愛だったが休暇があると、
よく何日も家に遊びに来てくれた。
その人が遊びに来ると、私達は夜な夜な遊びに出掛けたものだった・・・。
アングラ的なクラブで夜通し強い酒を煽って踊り続けて・・・・・・、
楽しくて楽しくて仕方なかった。
朝になって二人で家に戻っても、早朝から、その人のお気に入りの
チープ・トリックや
ラモーンズやポーグスを爆音で聴き続けた。
私はまだ学生で、将来自分がどんな大人になるのか全然、解らなかったし、
知らなくても良い事だと思っていた・・・・。

何度目に遊びに来た時だっただろう・・・。
その人と何時もの様にクラブで遊んでいると、私は久しぶりに酔っ払って、
気持ち悪くなってしまった。
そんな私を見て、その人は・・・・。

「疲れているみたいやから、コレを飲むと良いんよ」

そう言って、私に白い薬を一錠くれた。
風邪をひいていた事もあって、私は「ありがとう」と言って薬を飲んだ。
暫くすると極度の眠気が襲って来て、私はその店のソファーで横になった。
その人は・・・

「あれ?可笑しいな〜効かなかったのかな〜?」

と言って、後から別に2錠ほど薬を手渡してくれた。
30分位経った時、不思議な感覚に襲われた。
目の前がテレビ放送の最後に出て来る砂の嵐みたいな感じになり、
時間が経つにつれ突然、貧血が起こりそうな感じがした・・・。
自分が自分じゃない様な感覚・・・。
今にも吐きそうだった・・・・。
その人は私の家に来ると、何時も不思議な香のする煙草を吸っていた。
その香を嗅ぐと、何時もの私の世界から遠く掛け離れた
大人の世界に迷い込んだ気持ちになった・・・。
その人が「又遊びに来るね」と手を振り、飛行機で帰郷した後、
私はあの白い錠剤の事を調べてみた、
それは向精神剤と呼ばれる物でキチンと医師から処方される薬である事を知った。
でも、その人は一気に3錠も私に薬を飲ませた・・・。
その頃、よく一緒にクラブへ通っていた友人に話すと、





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その人は長い休暇が貰えると、絶対に私の住んでいる街まで来てくれた。
そして、その度に私の事を御構い無しに薬を飲ませた。
相変わらず私はバットトリップしか出来ずに居て、
その人は面白く無さそうな顔を何度もした。
私は、その人の事が好きだったから、その人から何でも吸収したいと思っていた。
その人も好きな本をプレゼントしてくれたり、
好きな映画を一緒に見に行ってくれたりしてくれた・・・・。
でも、相変わらずその人のポケットには薬が入っていた。
私がバットトリップしか出来ないと解ると、その人は私に言った・・・。

『オマエ・・・根が真面目過ぎて面白くない・・・・』

私は唖然としてしまった・・・。
真面目の何処がいけないんだろう・・・・・・。
そう思って、悩んでしまった。
そう言えば・・・その人は何時も何処かふざけている人だった。
「どうにかなるさ・・・」「明日は明日の風が吹く」
そんな言葉が似合う人だった・・。
そして、その頃から私はその人に執着しなくなった。
それでも、付き合いは続いていた・・・・。
遠距離恋愛だった事もあって、私は別に遊び友達みたいな男の子も居たし、
寂しくはなかった。
その人が私の所に遊びに来る時だけ、良い子の顔をして待っていた。
その人も・・そんな、私の事はきっと見抜いて居ただろう・・・・。
その人との付き合いで得た物は、素晴らしく広がる人脈だった。
時々、「寂しい・・・」と私が言うと、
友達がそっちに行くから打ち上げに遊びに行くと良い、
そう言って自分の友達を快く逢わせてくれていた。
何年か過ぎ、その後その人のバンドが解散する事になって、
何時の間にか私も彼も連絡を取らなり疎遠になってしまった。
少なからず残っているのは、あの時の人脈くらいだ・・・・。





「地方妻なんて、こんなものね・・・・」

彼にそう話した時・・・・・。

「駄目だよ?・・・もっと、自分を大切に出来る人と付き合わなきゃ・・・」

彼はそう言っていた・・・・。

「自分を大切に出来る人・・・・との付き合い?」

私は未だに、その意味がよく解からないで居る・・・。
兎に角、彼にこの話をしたり、その人の関係の話をすると、
不機嫌になってしまう・・・。
だから、何時も話は途中で終ってしまう・・・・。


最近、あの時の人脈の中に居た、ある人の曲が売れている・・・。
それを聞くと、懐かしさと複雑な想いで胸がいっぱいになる・・・。
「続けてて良かったね・・・」
そう言って肩を叩きたくなる・・・。


私と付き合っていたあの人は・・・。
この業界から足を洗って2児の愛娘と家族で暮しているんだと、
風の噂で聞いた・・・。
今年は久しぶりに数日間だけ、バンドが復活する・・・・。
あの人は、そのライブにも出ないらしい・・・・。
もう、業界の事も私の事もスッカリ忘れてしまったのだろうか・・・。
どちらにしても・・・。
一言も労りの言葉を貰った事など無かったし、
私はきっと愛されていなかったと思うけれど、
私はあの人から様々な事を教えてもらった気がする・・・・・。
とても、可笑しな人だった・・・・・・・。
あの人は今、幸せに暮しているのだろうか・・・。
懐かしさと初恋にも似た戸惑いの恋心・・・・・。
幸せだったら・・・・・それでいい・・・・・・・・・・・・・・。



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