僕らの日常
 mirin



  目隠し鬼@真壁

めーかくし、おーにさーん

   てーのなーる、ほーうへ


今頃、随分と古めかしい遊びをやっているもんだな...と
ぼくはぼんやりと窓の外の光景を見下ろした。

目隠し鬼か。


" ねぇ、センセイ
    ウタは何も見てはいけないの? "

『誰がそんなことを言ったの』

"みんなよ。でも、ウタには言わないわ
    でも、皆言ってるの。知ってるのよ "


窓を開け放った瞬間、強く冷たい風が室内に散ったと同時に
酷く懐かしい少女の声が頭を掠めた気がした。

*

「陽の光の下を歩けないのは不便じゃないの。
ウタはただ、青い空の下を歩けないの不満なだけ
ずるいって思うけど、皆になりたいのとは違うよ。
ウタはウタ。そこはそれがいい、そうやって生まれたもの」

*

初めて少女に会った時、その病室には少女ただ1人で
子供の割に随分大人びて、ぼくは滑稽に思ったものだ。
その時のぼくはまだ一介の研修医で、窓の外を走る
無邪気な子供達を見て、子供は少しくらいバカの方がいい
そう思っていた。

夜。詰め所近くの公衆電話に少女が1人佇んでいる。
どこかへと電話をかけるのか硬貨を持ったまま
受話器を掴んでいる。
しかし、そんな少女の眼差しは詰め所に向けられていて

『可哀想ね、あの子。外の話をどれだけ聞いても
自分で何処に行けないなんて、これなら、いっそまだ
何も知らないほうがいいんじゃないかしら』

詰め所にいたナース達に悪気はないのだろう。
少女の存在に気づかぬまま"不憫"ねと繰り返す声を聞いて
ぼくは慌てて、気にするなと声をかける。

しかし、少女は、ぼくの存在など居ないもののように
退屈そうに小さく欠伸をして去っていった。


何も知らない方がいい
何も見えない方がいい


幼い頃、床に就いて目を閉じるのが怖かったのを思い出す
ずっと、太陽が出ているのを願っていたのを思い出す。

2005年12月27日(火)
初日 最新 目次 MAIL


My追加