僕らの日常
 mirin



  オレンヂ@宇宙

気づいたら、目の前の世界は真っ白な光に包まれてた。

あの日、にいさん達を追いかけて出たベランダ
いつもなら、窓に僕より高い柵がかかって・・・
でも、その日は何もかかっていなくて
にいさんの背中目掛けて、思いきり飛び出していた。

遊んで欲しくて、ぎゅっ。って思いきし抱きついたら
驚いた顔で、2人の兄は僕を見てた。

「宇宙!」

え?何?どうしたの?そう思って、僕は上を見上げて
とても眩しいオレンヂ色の玉を見た、白い雲も青い空も
見た、筈だった。

「おにいちゃ・・・」『あれ、なぁに』

声にする前に体全体が熱くなって、世界が真っ白になった。

起きたら、身体中がヒリヒリしてすごく痛かった。
どうしてかな?って上手く動かない首を一生懸命動かし
周囲を見たら、カーテンで光が遮断された部屋に居た。

「宇宙・・・」

横から、おかあさんに涙でいっぱいにした顔でぎゅっ。と
抱きつかれて、僕はちょっと痛かったけど、でもすごく
悪いことをしたような気分になって、おかあさんにずっと
『ゴメンナサイ』と何度も謝っていた。

あのオレンヂ色の玉はなぁに?とはとてもじゃないけど
聞けなかった、僕はあれが錯覚じゃない本物の太陽だって
いつまでも信じてるつもりだけどね。

こんなこと言ったら、おかあさんはまた泣いちゃうのかも
しれないけど、いつかもう1度あの太陽を見上げたい。

今度は・・・ちゃんと全部感じ取れるように・・・


2002年05月06日(月)



  オレンヂ@晴臣

「だからね、僕は本当はオレンヂが嫌いなんだ。」

ここは太陽の間、キミはオレンヂにキスしながら
笑いながらそう言う、この言葉に何と不釣合いな
綺麗な笑みなんだろう。

「味はスキなんだけどサ」

ポケットから取り出した果物ナイフで林檎の様に器用に
皮むきをはじめながら、クスクスと零れ出る声にボクは
目を細めて声を返した。

「宇宙?太陽はオレンジ色なんてしてないよ」

手を動かす事をやめず、チラリと目線だけボクに返す。

「太陽が唯一、赤くなるのは夕方だけだし」

・・・言わなきゃよかった。陽の光を浴びれない宇宙は
本当の太陽を何も知らないのに、こんなこと言ったら夢が
なくなっちゃうよね・・・

「んー。らしいね?でも、僕だけそう信じてればいいよ」

真顔でキミはそう言ってたかと思うと、フ、と目を閉じて
ボクの方に振りかえって軽く微笑んだ。

「晴臣、半分食べる?」

オレンヂの太陽は出てないけど、窓から見えるレモン色の
月は宇宙にとても優しくて、ボクに差し出してくれる
その手がとても嬉しく思えた。

「うん、食べる♪にしても、器用にむけたね?」


2002年05月07日(火)



  硝子の心@鳥羽

ここは、屋上にある空中庭園。

少年達は我先へと展望台へ繋がる階段を駆け上がってゆく
そんな群に混じれない、ぼくは、クラスメイトの暁生と
2人で庭園内のカフェでお茶していた。
ギャアギャアと騒ぎ立てる生徒達に目をやると、その間を
スルリと猫のように2人の少年が軽く交して走って上がる
のが見えた。

"・・・月みたいだ。"

突然そう呟いたら、隣に居た暁生が怪訝そうな顔でぼくを
見た、さらさらと伸ばされ横手に1つに束ねられた金色の
長い髪は一見すると、少女の様な印象を受けるのに近くで
見ると、なぜかそんな気は失せて少年的感覚が彼に付き
纏っている。

「あぁ...あいつ。宇宙じゃんか」
「ソ・・ラ・・・?」
「そ。珍しい名前だから覚えてたってのもあるけど
あいつって、朝学組の貴公子の貴重なお友達だからな」

朝学組の貴公子?・・・あぁ...終司のことか、彼の言動は
いつも周囲の生徒達の反感を買っている。何が問題か?
あの嫌味の含んだ言葉と棘のある毒舌な言い回しだろう。

「貴公子様と友達なんて、どうゆう神経してんだろうな?」

答えを求められ少し苦笑する、言葉を濁すので精一杯だ。

"ぼくに答えなんて求めないで"

何も返せないから、他人同士の比較対象の違いなんて
そんなの、わからないんだ。自分自身が誰かの間でその
比較に入っているかもしれない、このぼくの足を見て
誰かが…きっと、そんな風に考えているのかもしれない。

気持ちの上での裏切り、たぶん1番近くの暁生にさえ
それは何も変わらない。呆れる程、なんて心の寂しい
人間なんだと思った。

2002年05月08日(水)



  シイチャンと友達@キン

「キ〜ン〜?・・・キン・・・飯だぞ」

夕日が沈む時、それは我らの夕御飯の時間。この学園に
住みつく我らは彼の様な優しい人間にご馳走になる。
学食の残りか、弁当の残りなのか、ラップに包まれた
ソレを透明の容器に移し替えて、目の前に出して頂く…。

「ほら。今日は、いつもよりちっと豪勢な」

ご飯と鮭と、あと何かの野菜が入ったそれを我等が勢い良く
平らげていくのをキラキラした目で見詰める彼の様子は、
中々の見物であり、我はチラチラと彼の様子を伺っていた。
彼は、シイチャン・・・。この学校の朝学組の生徒さん
たしか、そう誰かに終司と呼ばれてたのを聞いた覚えがある。

「食ってろ。水汲んできてやるから」

シイチャンはいつも我らに優しい。人によっては、そっ気ない
でも、別にイジワルするわけじゃない。ただ、ちょっとたぶん
素直になれないだけなんだと思う。・・・たぶん

「ほら、詰らせるなよ」

夕飯を半分平らげた頃、シイチャンは小さなカップに水を
入れて戻ってきた。水を飲んでシイチャンの足に掏り寄ると
首辺りを撫でてくれる、我の喉は自然とゴロゴロ鳴っていた。

「柊。やっぱり、ここに居たね。予鈴鳴ったよ」

次の授業の教科書だろう、それを2人分程、持って
シイチャンと同じ制服を着た生徒が走ってくる。

「あぁ...今行く。じゃあな、キン」
「バイバイ、キンチャン」

いつも、シイチャンを迎えに来てくれる、彼には感謝している
これで、毎回の遅刻の数が嘘のように減っていったのだから
撫でることになれてないのか、我の頭をポンポンと撫でていく
手には、少し苦手意識があるけど、悪い奴じゃないと思うから
今度、彼の名前を猫仲間の誰かに聞いてみようかな。

だって、せっかくのシイチャンの友達だから・・・。

2002年05月09日(木)



  内密に...@晴臣

今日は昼から、委員長会議があって教師に呼び出された。
通常組の生徒でありながら、最近は夜学組の授業ばかり
顔を出してる現状。

理由は"楽しいこと"と"人"を両方見つけてしまったから

「おはよー!朝学組の貴公子が昼来るのって珍しいじゃん」
「お前こそ、同類だろうが」
「まあね、昼は宇宙も来ないし、つまらないんだけど。
仕方ないよ、今日委員長会議で呼び出しくらったんだから」
「そういえば、あいつ、どうして昼来ないんだ?」
「知らないの?」
「ああ...」

ふ〜ん。まだ、聞いてないんだ。真っ先に気になることなら
この貴公子様の性格上、人にすぐ問いただすと思ってたけど
結構、思慮深かったり?

「自分で聞けば?それとも、聞く勇気がないとか」
「悪かったな」

嘘・・・冗談のつもりだったんだけど、またマズったみたい。
いつだってそうだ、宇宙の時で懲りた筈なのになぁ。
あ〜あ...どうして、ボクってこういう性格なんだろう

『どうして昼来ないの?』
『何ソレ、突然』
『宇宙っていつも元気だし、体弱くないよね』
『ん。元気だけど』
『もしかして、吸血鬼だったりして?』
『・・・。たぶん、似たようなもんだよ。ソレ』

あの時の彼は今の終司と同じように少し困り顔で、でも目は
じっとボクを向いたまま答えてた。その後ボクはただ黙々と
言う筈だった『ただの冗談〜♪』を口内に閉じ込めていた。

「おい」
「え?な、何?!どうしたの!」
「それはこっちの台詞だろ。廊下の真ん中で棒立ちになんな」

どうやら、思考がトリップしていたらしく、目の前に居る
終司だけでなく、周りの生徒達が怪訝気にボクを見ている。

「あ、ごめん。・・・えっと、宇宙のこと」
「もういい。お前に聞いたのが間違いだった」

軽〜く、ご立腹マークを頭に浮かばせて、眉間にシワが入る
正面を見ると、視線がかち合って彼が口を開いた。

「自分で、聞くからいい!」

そう一言だけ残すと、そのままフイと顔を背けてスタスタと
廊下を歩く彼の後姿を見送りながら思う、朝学組の貴公子の
姿はなかったような気がする。
まるで、仲間はずれにされた子供のような哀愁があったから

・・・とは、口が裂けても、言えないけど・・・

2002年05月10日(金)



  対照的@鳥羽

太陽が空から居なくなる時間、彼は姿を見せる。
どうして夜しか来ないんだろう。思うことは多い
でも、理由の解明が難解そうなのであえて、
それは忘れようと思う。


<<廊下>>

足の遅い、ぼくは友人達から数歩遅れて後につく…
前から来る生徒達の騒がしさに目をやると、いつも
その中心で笑っている、彼に目を奪われてしまう。

視線はかちあうこともなく、そのまま過ぎ去るだけ
それでも…この一瞬が、すごく好きだ。そう思う。
日常の何気ない 1コマいつも楽しそうな彼がふいに
真面目になったのを見た事があるけど...

その表情がとても寂しそうだったから、やっぱり彼には
笑っていてほしいとか考えてしまう自分がいる。

でも、彼は・・・きっと、こんなぼくを知らない。


だけど、いつか声をかけてみようと思う。

「いい天気だよね?」 とでも...

2002年05月11日(土)



  対照的@宇宙

眩しい太陽が隙間ない空から、光を地上に降り注ぐ
そんな様子を数ミリ開いたような、カーテンから
覗いてみる、母さんが見たら卒倒しそうな光景だね。


<<屋上>>

夜学組・授業内容「天体観測」今夜はうってつけの
満月で、担当教師のやおちゃんは舞い上がってる。
これが昼間だったらいいのに、こんなこと思うのは
快晴満月な夜に失礼なんだけど思わずにいられない。


ふと、空から地上を見下ろすと下校途中の生徒の姿
悪ふざけしてる生徒達の横で控えめに笑ってる彼がいた

どうにも、おぼつかない足取りで足悪いのかな?って、
首を傾げてみる。考えてもわからない・・・
今度、晴臣に聞いてみようか?そう思って片付けた。
屋上の片隅で観測表片手にまた君に視線を投げてみる。

でも、彼は・・・たぶん、何も気づいてない。


だから、いつか声をかけてみようと思う。


「月見日和だね〜」 とでも...


2002年05月12日(日)
初日 最新 目次 MAIL


My追加