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■ 彼のキャンパス2@卓
『きみ、止まって』
冷たい風の吹く街の中
バイクを飛ばして、ふと立ち寄った公園のミラーハウスの前 すぐ後ろから俺を呼んだ相手と鏡越しに目が合った。 一瞬、振り向いて誰に言ってるんだと問おうとしたところで
「動かないでくれ」
そう制止の声がかかって、俺は思わず動きを止めた。
とりあえず、俺に言っていることなのだとはわかった。 ただ、初対面だ。鏡越しに相手の顔を見てみても 記憶の中の人物達とは全く一致しない。
相手の男は絵を描いている。 俺は根っからの体育会系だ。 こういう絵とか、文化系の知人に思い当たる節はない。 ひとつ思い当たるとすれば、兄の明くらいのものだろう。
それにしても、長い。 男が待てとか動くなと言った辺りから 軽く10分は経っている。
凍死するかな、俺…
「……」
鏡越しに再度、男の方へと視線を流せば キャンパスと俺を見比べながら黙々と筆を躍らせている。
軽くため息を吐き、デカい図体の割に寒がりな身を 幾分か縮こまらせた頃
「どうかした?」
そう、不思議を含ませた声が聞こえた。
「いや、もう何言いたいかっていうと寒いんスけど」
どうして、俺がここで止まらなくてはいけないのか 俺を描いているのか、もうそんなことはどうでもよかった。
とりあえず、そこは寒かった。
2005年10月29日(土)
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