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■ 鳥かご@鳥羽
「また、そんな話?」 水滴の滴るガラスコップ。流れる雫を掬い取るように姉さんの指先はそれをなぞった。
「今月に入ってもう二度目ね」 前はそんなこと言わなかったのにと困った顔で笑うその声は、ぼくにはとても悲しそうに聞こえて、言葉を紡ぐ為に開いた 口に朝食のパンを放り込んだ。 「だいじょうぶよ。きっと、違うから、ね」
何が、違うんだろう。 何が、大丈夫なんだろう。
姉さんは、もっとぼくを責めてもいいのに 姉さんは、いつもそうだ ぼく達を置いていった母のことも... 怒らないで、ただ何もかも諦めたように笑うんだ
少し前に姉さんが婚約をした。 相手の男の人は、背が高くて、人柄の良い、明るくて優しい人だった。きっと、この人なら心配いらない 姉さんが選んだ人なんだ。これからを一緒に歩むために
”おめでとう”
素直に呟いた言葉
”ありがとう”
交わした他愛ない挨拶とお祝いの言葉。 にこやかに笑う男の人を見上げて、握手をした次の日
姉さんは、婚約を破棄された。
「やめた?どうして?また、ぼくのせい?」 半ば相手に掴みかかる様に問いかけた体は、簡単に宙を 放り出されて、ぼくは思わず小さく呻いた。 片足を投げ出し、座り込むぼくに彼はちらりと目を向ける。 慌てて汗を拭う手は、何故か赤くて、ぼくは首を傾げた。 「マジかよ」 聞こえるか、聞こえないかの小さな声でそれだけを呟くと 彼は、そのまま歩き去る。
『薬指は、紅差し指っていうのよ』 昔、母の好きだった紅の色、こんなときに思い出したのは 今日、夢に見た母の唇が奇妙に弧を描いたのは、
2012年01月18日(水)
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