僕らの日常
 mirin



  奏者@鳥羽

昔から、声も音も耳に聞こえてくるものが好きだった。
ぼくは独りじゃないと、そう思える瞬間なんだ・・・

そして、今も シューベルト「アンプロンプチュ」

木漏れ日の下なんかで弾くのが1番あってるんだと思う。
それでも、聞かせたい人が密かに存在しているのだから
校舎のどこかで、同じ時を過ごす空間で音を届けたい。
例え、相手が何も知らなくて、ぼくだけの憧れでも・・・

「鳥羽・・・今日もう終わりなのか」
「リクエストあったら聞くよ、何がいい?」

授業を速目に切り上げたらしい、暁生が声をかけてくる。
少し不機嫌そうな表情をしていたから、気紛らわしに
何か弾こうか?と聞いたら、彼の眉間にシワが寄った。

「なぁ、俺そんな変な顔してるか」
「イライラしてたみたい。でも今は困ってるようだけど」
「…っくしょ!違うけど、全部あいつのせいにしてやる」
「あいつって、珍しいね。誰かとやりあったのか、誰?」
「・・・。鳥羽の全然知らない奴」

不思議そうに尋ねた、ぼくに少しの間を開いて返事をする彼
こんなに饒舌なのは珍しいのかもしれない。不思議と沢山の
言葉が浮かんできた。でも、これ以上の詮索は無用だな。

「何か夜らしいって曲」

ほら、話をそらされた。・・・夜らしい?ああリクエストか

...♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜...♪

ドビュッシー "月の光" 相変わらずベタな選曲の仕方だと
自分でも思う。でも、夜=闇より、夜=月の印象が強いから

「・・・。」

暁生はそれから暫く何も言わず、ピアノに軽く持たれかかり
ぼくに背を向けていた。そんな彼の背中を隣にして、ぼくは
今日も自分の為と聞いてくれる誰かの為にピアノを弾く・・・

2002年05月16日(木)
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