2010年07月24日(土)  初めての受賞脚本『昭和七十三年七月三日』執筆メモ

新聞の整理をしていたら、フランスで40万部売れたという『シンプルに生きる―変哲のないものに喜びをみつけ、味わう』という本の広告に「シンプル主義37カ条」なるものが挙げられていた。「洗面所に香水サンプルのコレクションを置かない」など、どのオキテにも自分がことごとく反していることを痛感させられる。なかでも、

場所を移動しただけで「片付けた」と思わない。

というオキテには、ううむ、まさにわたしの問題点を言い当てていると唸った。

引越なんかしてるヒマないんだから、意味のない不動産サイトめぐりをするよりも、引っ越せる時期が来たときに備えて余計なものを片付けよう。そう思い立って不用品整理に手をつけたものの、「あら、こんな懐かしいものが」と思い出にふけり、「これはとっとかなきゃ」となるの繰り返しで、モノは地層の底から表層に、あるいは引き出しの中から外に、あるいは床から箱の中に移動はするけれど、減っていない。

部屋のあちこちからオリエンテーリングの札のごとくメモが発掘される。バインダー式手帳の中身がばらばらに散らばったもの。日付が入っているページはいつのものだかわかるけれど、無印良品の無地のページのものも多数ある。コピーライター時代のコピー案やネーミング案を書きつけたもの。カンヌ行きの航空券の値段を比較したもの(KLM、大韓航空、ルフトハンザと比べて、エールフランスのパリ経由14万円で決着)。企画の断片のようなものもあるけれど、紙に走り書きしたままではまた散り散りになりそうだし、今見ると、当時の発明は「すでに誰かやっちゃってる」だったり「わたしがプロデューサーでもボツ」というレベルだったり。たとえば、

面識のない働き盛りの男三人がそれぞれの家で同時に発作を起こす。彼らに共通していたのは、発作時に同じテレビの天気予報を見ていたということ。

という話は鈴木光司の『リング』の冒頭に似ている。既視感のあるアイデアでは突破できないので、その先の展開やキャラクターをどれだけ膨らませられるかが鍵なのだけど、メモには三人の男についての簡単なコメントが数行記されているだけ。でも、将来化ける匂いはなきにしもあらずなので、打ち込んでから移動ではなく片付けようと思う。

以下、メモを転載。

K銀行支店長 9時のニュースを一人で見たがる
異常に気づいて妻がかけ寄ると首に手を当て苦しむ。その狂態よりも夫の一言が妻を深く傷つけたことで妻の顔が曇っているのに刑事は気づかなかった。

H電機新製品企画室長 書斎で一人で見ていた
奇声のようなものが聞こえ、呼ばれたと思った娘が入ると床に転がってうめいていた。TVの画面では明日の天気をやっていたと賢そうな娘が言った。

J建設部長 家族で見ていたが何度も「子どもは寝なさい」と言い落ち着かず
ニュースの途中で突然発作をおこす。クラスにてんかんの子がいて似てると無邪気に子どもが言うのを母親がたしなめる


このメモの最後に「市役所への申請 本人確認しない」とあるのは、同じアイデアの延長線上なのか別の話なのかわからない。とっちらかっているわたしの部屋と同じく、一枚のメモに覚え書きとコピー案と企画の思いつきが同居していたりする。

もともとは複数枚にわたっていたと思われる『昭和七十三年七月三日』の脚本執筆メモも、最初の一枚だけ見つかった。月刊シナリオを見よう見まねで脚本を書き、コンクールに応募するようになって二本目、函館山ロープウェイ映画祭シナリオコンクールで準グランプリを射止めた作品。プロットやハコ書きが何であるか、そういうものがあることすら知らなかった時代で、思いつきが思いついた順につらつらと書かれている。脚本にする段階で落としたアイデアもあるけれど、最初に湧いて出たものに自分の書きたいものや自分らしさがいちばん出ると今も思う。

家の事情で引き裂かれた初恋の男女が30年後に会うという設定は物語を思いついたときから揺るがず、二人が約束した再会の日がタイトルになった。

函館 大正湯 男にとっても久しぶり 函館を歩くと彼女を思い出す 30年後に会う約束←大正湯へ向かう道で回想 手に手紙 フラッシュバック

大阪からツアーで来た女 団体行動になじめず 地図を見て「あった」 遠くから見て「いた」
女は別人と主張 男はそれでも信じられない 別人ということにして

中華会館の中庭に屋根 新しい建物 大正湯のあたりは変わっていない もしやなくなっているのでは ほっとする男

女は風呂屋に入っていく

名刺を渡す男 「小さいけれど事務所やっているんだ、建築の」

「ちょうどよかった、案内してくれません?」
快活で歯に衣きせないさっぱりした性格は昔のまま。

ツアーなので7時の夕食までには戻らないと。その前にロープウェイで山に登って夜景を見よう。おりたところでイヤリングをプレゼント。「男の人に贈りものされるの、何年ぶりやろ」


二人が待ち合わせた大正湯は、初恋時代の思い出のが場所。家が離れた二人にとって、お湯をもらいにいく行き帰りがデートの時間だった。たまたま直前に友人の結婚式で函館を訪ねた折りに見た大正湯の佇まいが気に入り、舞台に採用した。映像化されるときはもちろんあの可愛いピンクの洋館で、タイトルと同じ昭和七十三年(平成十年)に公開できたらという夢は叶わず、代わりに翌年の同じコンクール(映画祭の名は函館港イルミナシオン映画祭に)で受賞した『ぱこだて人』が映画『パコダテ人』に。主人公一家の家が大正湯になったのは、何かの縁。当初は薬局という設定だったのだけど、絵になるロケーションが見つからず、「大正湯っていうかわいい銭湯があるんやけど、お風呂屋さんでどうやろ?」と前田哲監督から電話があった。

『昭和七十三年七月三日』が『パコダテ人』につながり、そのデビュー作が今のわたしに続いている。その原点のメモ。

今日のtwitterより(下から上に時間が流れます)
>>>もっと読む


最近やりこめられっぱなし。逆立ちしてもママにはかなわず、「ママがいいの!」「ママにやってもらうの!」と娘にソデにされる父親の哀愁…。RT @p_mit @masakoimai パパさん、頑張れ!w
posted at 23:54:36

次回見てみよう。RT @takamotoko マンガ2冊とも持ってるのでドラマになると聞いておおっと思ったのですが、仲里衣沙のコスプレ写真がなぁ。RT @masakoimai ドラマ始まりましたね。勉強になりそうRT @tchisaka 日本人の知らない日本語2にも載っていました
posted at 23:53:06

わたしはwikiでガリガリ君を調べて楽曲があることを知ったばかり。RT @takanobu_koba 電気グルーブの「ガリガリ君」CD非売品もってます(自慢) @masakoima ガリガリ君は7/20までで前年同月比25%増。小学生の頃によく食べたガリガリ君(81年発売らしい)
posted at 23:46:08

カンヌ国際広告祭へ行ったとき「アドマン」とフランス人に話しかけられ「どうして広告関係者だとわかったんだろ」と不思議がっていたらà demain(また明日)でした。RT @murasaki_asano 外国語との他人のそら似、ありますねー。見つけると、楽しくなる。
posted at 23:44:20

アリエッティは大人に少女を味わわせる作品。今少女ど真ん中で現実と空想を自由に行き来する子どもには「人間世界と小人世界のギャップ」が新鮮に映らなかったのかも。RT @tchisaka @masakoimai 主人公と年齢が離れているからでしょうかね。
posted at 23:40:44

今日の朝日朝刊。猛暑でエアコンもアイスも売れに売れ、ガリガリ君は7/20までで前年同月比25%増。小学生の頃によく食べたガリガリ君(81年発売らしい)、超ロングセラー。この先も売れ続けそう。売れ行きで暑さを測るガリガリ指数が生まれてもおかしくない。
posted at 23:37:45

【たま語】3歳児ながら足をマッサージされるのが大好き。自分がされて嬉しいことは人にも、と思ったのか、パパと行ったデパートにて「うえからした〜したからうえ〜」とマネキンの足をすりすり。マネキンさんは一日中立ち仕事だからね。
posted at 23:10:55

エアワイフって言葉、実在するのですね。「空気読めない」と打ったら「空気嫁ない」と変換されたことが…。RT @Sakai_Sampo いい歳した中高年が、こんなに空気嫁、じゃない、エアワイフ、じゃない、脳内彼女の話で盛り上がって良いものか?(-_-;
posted at 13:08:14

2009年07月24日(金)  映画『引き出しの中のラブレター』とラヴレター募集
2008年07月24日(木)  潜在意識?『7月24日通りのクリスマス』
2007年07月24日(火)  マタニティオレンジ150 自分一人の体じゃない
2000年07月24日(月)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)

<<<前の日記  次の日記>>>