会社時代の同期の結婚パーティに出ようと、玄関でブーツを履いていると、奥の部屋で遊んでいた娘のたまが、飛び出して来て、抱きつき、泣きつき、出られなくなってしまった。仕事だとわかっているときは、泣いても無駄だとわかって引き下がるのだけど、2歳児の察しの良さで「今日は泣けばなんとかなる」と思ったらしく、しつこく泣きすがる。「この状態で置いて行かれては困る」という子守役のダンナの視線も感じ、連れて行くことにした。
子連れで大丈夫だろうか、でも行けば何とかなるか、と向かった先は広尾のWALNUTというお店。入口を入ると、元同僚が次々と現れ、年賀状で顔を見ているたまのことも歓迎してくれた。奥へ進むと同期集団が立ち飲みしているコーナーがあり、壁際のチェストの上にたまを座らせた。パンやサラダやパスタなど、たまはせっせと食べ、お店のトイレでもしっかり用を足し、いろんな人にかわるがわるだっこされ、ずいぶんくつろいでいた。
新郎ナカジ君は、同じく同期のシモゾノ君とともに、わたしの結婚パーティの司会を務めてくれた。シモゾノ君の発案で、秋田の保存協会から借り受けたナマハゲ姿というインパクトのある司会だった。わたしの本『ブレーン・ストーミング・ティーン』の広報部長を自認して、知り合った女の子たちに本を渡して広めてくれた。合コンの名手で、あまりに回数を重ねたために、ついに以前合コンで会った女の子と別な合コンで再会し、「東京は一巡した」と思ったという。そのせいかどうか大阪支社に転勤し、そのまま会社をやめて、大阪の企業に転職した。
そんなナカジ君と新婦のなれそめが合コンだったのか聞きそびれてしまったけれど、元レースクイーンという彼女は心身ともに健康そうなハツラツとした美人さん。新婦をキャンペーンガールに仕立てたビールのポスターを同期のアートディレクターのトオヤマ君とヒダイ君が作り、壁に張り巡らせていたのけれど、あまりの自然さに「え、これ、お店のポスターじゃないの?」という反応が見られた。
去年の秋に初めて披露宴に出て以来、たまは「およめさん」に興味津々で、お店に向かう前から「およめさんどこ?」。新婦のドレスに目が釘づけになり、新郎新婦のなれそめとバリ島での結婚式の模様を納めたビデオを食い入るように見つめ、とくに結婚式での誓いのキスに、まばたきもしないで見入っていた。
最近ダンナのチュー攻撃が激しくなり、たまはこのしつこいキス魔をパパとは別な「チュウマン」というキャラクターとして位置づけ、「チュウマンこないで」と拒絶したり、機嫌がいいときは「チュウマンとあそぶ」と歩み寄りを見せたりしている。そんなたまにとっては、「ここにもチュウマンがいる!」という驚きの瞬間だったのかもしれない。結婚パーティにつきもの(?)の「だっこチュー」コールを浴びての新郎新婦のキスにも身を乗り出していた。
よっぽど印象に残ったのか,家に帰ってからも、「およめさん、チュウしてたね。いっぱいチュウしてたね」とたま。おみやげのハートの缶入りチョコレートをうっとりと眺めながら、「またけっこんしきいこうね。およめさんみようね。ハートもらおうね」。ハートのおすそわけ、たくさんごちそうさま。ナカジ君、お幸せに。
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