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風太
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2003年08月28日(木)
「パパは奪還屋G」(パパは銀次)

前略 蛮ちゃん

オレは今、とっても困っています。
本当に困り果てています。
明日から、どうしたらいいんでしょう。
途方に暮れるっていうのは、きっとこういうことを言うんですね?

奪還屋のお仕事は、まあオレ1人で当分どうにかするとして。
あ、でもてんとう虫くん、オレじゃ動かせない。
うーん。
ってことは、徒歩とか電車とかでどうにかなりそうなお仕事を、ヘブンさんに頼まなきゃ。

・・・・・・けど。
ヘブンさん、また笑うだろうし。
そしたら、ますますへそ曲げちゃうだろうし。
第一、オレのいない間、目の前のこのカレはどうしたらいいんだろう。
ここに1人で置いてくってわけにもいかないし。

波児さんに、とりあえず即入居可のアパートを探してもらって紹介してもらって、オレたちはばたばたとここに引っ越してきました。
といっても。持ち物なんて何にもないから。
これからどうにかしなくちゃ。
なぜか、昔ながらの卓袱台が1つだけは部屋に備え付けで置かれてたんだけど。
それとお布団は、波児さんに何とか手配してもらえて二ながれ。
まあね、なんのかんの言いつつよく考えたら、どさくさに紛れてアコガレだった家持ちになれたわけだから、これも怪我の功名っていうのかもしれない。

ともかく。6畳二間(風呂なし)の2階建てのアパートは、それでもなかなか日当たりだけはいいのです。
2階の角部屋、物干しは南向き。
窓際で体育坐りしているオレの背から、夕日が射し込んできます。
・・・なんか哀愁だなあ。

いや、そんなことに浸っている場合では。

問題は、目の前で、ぷかーと煙草吸ってるカレなのです。
卓袱台に片肘ついて、胡座かいて、煙草ふかしてるカレ。
どう見ても、8さいくらいです。
あ、半ズボン履いてるの初めて見るなあ。
グラサンは相変わらず。
煙草は、やっぱりマルボロですか?
それでも態度の悪さを差し引いたら、顔立ちとかも結構綺麗だし髪なんかさらさらで、これでちょこんと正座でもしててくれたら、いいとこのお坊っちゃんに見えなくもないです。
まあ、見えなくもないけど、見えてもどうしようもないけどね?

うわ!
こっち見た!

睨まないでよー。

おそるおそる、ずっと気になったことだけ言ってみることにしました。
「・・ねえ、あのー。煙草は身体によくないよー。まだ子供なんだし・・・ おわあ!!」
言うが早いか、灰皿が飛んできました!
危ないでしょうに!
思わず、ぱしっと受け取ると、面白くねえ!といった顔でケッとか言われてしまいました。
うー。

オレはね、子供って苦手じゃない方です。
むしろ、大好き。
わりとすぐにトモダチになれちゃう方で、かーなり小さい子でも扱いが上手だとよく誉められます。
だけどねー。
こうもねー。
世をひねたような子だとねー。
どうしていいか、困っちゃうのです。
とりつくシマもないし、第一、ずっとだんまりなんだもん。
仲良くなりようがないのです。

はああ、困った・・・。

蛮ちゃん、どうしたらいいですか?
ねー。
どうしましょう。オレ。

「蛮ちゃん」
声に出して呼ぶなり、なんだ!というようにギロッと睨み付けられちゃった。
呼ぶのも駄目なの?
でもさ、ずっと黙ってるのも変だし・・。
オレも、困っちゃうよー。

「ねー、おなかすかない?」
「・・・・・・・」
「ホンキートンクで何か食べさせてもらおっか」
「・・・・(ジロリ)」
「だめなの? なんで?」
「・・・・・・・・」
「波児さんが笑うから・・? のわああ!!」
卓袱台ごと飛んできました!
小さいけれど、すごい力です!
「危ないじゃないかあ!」
「・・・・・」
「ねえ、蛮ちゃん。だったらさ、笑わないようにオレからちゃんと頼むから。ご飯食べに行こうよ? ねえ?」
「・・・・・」
「この部屋借りるのと、てんとう虫くんの駐車場代にお金全部使っちゃったから、波児さんにツケでご飯食べさせてもらうしか、しょうがないでしょ」
「・・・・・」
「ねえ、蛮ちゃん」
「・・・・・!」
オレの諭すような呼びかけに、カレはプイっ!と向こうを向いてしまいました。
ふう・・・。

そうなんです。
今、オレの目の前にいる、このどう見ても8さいくらいのカレが、実はオレの蛮ちゃんなんです。
正真正銘。
だって、オレの目の前で、見る見る小さくなったんだもん!
この目でしっかと見ちゃったのです!

なんでこんなことになっちゃったのかは、未だにもう一つよくわかんないんだけど。
実は、蛮ちゃんの邪眼は、24時間以内は同じ人に使えないっていうのは前から知ってたケド。
それは、使えないんじゃなく、使ってはいけないという決めごとになっていたらしいのです。
蛮ちゃんは、もちろんそれを知っていたし、充分気をつけてもいたと思う。
でもね。
今回の奪還の仕事で相手に回っていた護り屋さんは、変装のプロってヤツで。
裏社会でお仕事をするその道のプロの人ですら、なかなかそれを暴くことが出来ないらしいのです。
だって最初会った時は、恰幅のいい中年男だったはずなのに、次会った時はすらりとした、どっから見てもきれいな女の人だったんだよ?
オレなんか、思わず見惚れちゃって。
そしたら、蛮ちゃんが、「んだよ、もう1人護り屋をやとってやがったのか!」っつって、あっという間に邪眼ー!って。
最初、中年の男の人だった時にかけてから、確か、まだ7時間くらいしか間があいていなかったはず。
そして、邪眼を発動させた瞬間、蛮ちゃんの身体がいきなりぴかーっと光に包まれて。
そして、呆然とする護り屋さんやオレの目の前で、蛮ちゃんは瞬く間に小さくなっちゃったのです。

たぶん、この事態に一番呆然としたのは蛮ちゃん本人だろうけど。
オレも、もう、完全に固まっちゃって。
それでも、はっ!と気がついた時には、小さい蛮ちゃんを小脇に抱えて猛然とダッシュしてました。
だって、依頼の品はすっかりゲットした後だったし、とにかくそうなりゃ逃げるしかないでしょう!
逃げ足だけは早いと定評のあるオレなので(失礼だなあ)、そのへんはまんまとうまく逃げおおせ、自分でもおっそろしい運転でてんとう虫くんを転がして、ともかくは奪還した品も無事ヘブンさんに届けられたワケ・・・なんだけど。

ヘブンさんがね、もう笑う笑う。
波児さんもね、笑う笑う。
しかも運悪く士度とかカヅッちゃんまでホンキートンクに居合わせて。
もう爆笑の渦になってしまったんだよねー。

オレは笑わなかったけど。もちろん!
だって、これからどうしようって。
そっちの方が不安だったから。

それで、カレはすっかりふてくされてしまったってワケなんだけど。
オレくらいにはしゃべってくれてもいいのに。
こんな風にずっとだんまりなんですよ。
てんとう虫も当分使えないからって駐車場預けて。
だって、寝泊まりだけで車動かせないんだったら不便で暑いだけだし。
いつ駐禁でもってかれるかわかったもんじゃないし。
ってことで、急遽、今回の仕事の報酬のその残りでこのアパートを借りたわけなのです。


以上、説明終わり。


でもさ、確かに見た目は8歳なんだけど、中身はどうなんだろう。
中身は18歳の蛮ちゃんのまんまなのかな?
どうもさっきからの態度を見てると、そうとしか思えないけど。
しゃべってくんないから、それもわからない。
まあ、しゃべってくんないワケは、それもわかってるからもう言わないけど。

士度たちのからかいに、怒髪天をついた蛮ちゃんの声がね。
すっごーーい、ボーイソプラノだったから!
自分でも本気でぎょっとしたみたいで!
そんな声で、
「いい加減にしやがれ! テメーら!!」
なんてわめいたところで、なんの威嚇にもなんないし、それどころかもう、どっ!とお腹抱えて皆に笑われて。
ちょっと可哀想だったんですよ。
まあ、日頃も行いもあるからね、いた仕方ないって気もするんだけども。

まあ、そんなこんななわけであります。
で?
どうしよう。
マジに明日から。

いや・・!
そんな弱気になってる場合じゃない!
チビ蛮ちゃんにだって、ご飯食べさせてあげないといけないし、オレがここはしっかりしなくちゃ!
いつも蛮ちゃんに頼ってた分、こういう時ぐらいオレがしっかりしないと!

オレが・・・・しっかり・・・・!
ああ、でも。
なんか・・・・。
どっと疲れが・・・。
ずっと気が張ってたけど・・・。
なんか、もう限界・・。
ふああ・・・。
なぁんか、急に眠くなってき・・・・・・・。

体育坐りをしたまんま、こくんこくんと船を漕ぎ出すオレを見て、蛮ちゃんがそろっと立ち上がります。

え・・・?
どこ行くの・・?
すぐ暗くなっちゃうよー。
小さい子が、1人でうろうろなんかしてたら、危ないんだから。
ねえ、ったら・・。
待って、よー。

なんだか確かめるように半ズボンのポケットに両手を突っ込んで、それから玄関に向かっていく蛮ちゃんの、小さい背中がぼやけて見えます。
がちゃりと部屋のノブの回す音がするのだけれど、3日がかりの仕事だったため、疲労の極致にあったオレはもう動けず・・・。


蛮ちゃん。
どこ行くの?

いやだよ、おいてかないで・・。
小さい蛮ちゃんでも、オレにはやっぱり蛮ちゃんだもん。
オレ、笑ったりしなかったよ?
だから、怒んないでよ、ねえ・・・。

ねえ、いなくなったりしないで。
置いてかないで・・。


蛮・・・ちゃあん・・・・。



「置いてってなんかねーだろ、ばーか!」

えっ?

頭の上に、小さい手がのっかってます。

あれ?
オレ、寝てた?
蛮ちゃん。帰ってきてくれたの?
ああ、可愛い声。
でも、蛮ちゃんだー。

「なーに笑ってやがる」
「わ、笑ってないよ」
「嘘つくなっての」
「・・なーんか、小さくても蛮ちゃんは蛮ちゃんだなあって」
「小せえ小せえって、何度もうるせーよ!」
「だって」
「おら」
目の前に差し出されたコンビニのおにぎりに、オレが目を丸くしていると、小さい蛮ちゃんは大いばりで言いました。
「食え」
「え?だって」
「ズボンのポケットに小銭がはいってたからよ。・・・テメー疲れてんだろ? 食っとけ」
「蛮ちゃん・・」
へたりこんだまま目の前にいる蛮ちゃんを見上げると(オレが坐って蛮ちゃんが立ってると、見上げるにはちょうどいい高さです)、蛮ちゃんが照れくさそうに笑いました。

うわあ、可愛い!!
よくよく見れば、というか笑ってたりすると、小さい蛮ちゃんはかなりの美少年です!
しかも、可愛いんだよ!

「蛮ちゃん! かわ・・・・! 痛ぁ!!」
「それ以上言いやがったら、ブッ殺す!」
「はーい・・」
小さくても、ゲンコは痛いのです。
でも蛮ちゃんは、ポケットにあった小銭でどうにか一個だけおにぎり買って(しかもオレの大好物で、蛮ちゃんの大嫌いなツナマヨおにぎり)きてくれたのです。
オレのために。
「いいから、食え」
「あ、でも蛮ちゃんは?」
「オレは、別にハラへってねーよ」
「でも・・! あ、だったら、半分こにしようよ? ねっ」
「オレぁ、ソレ嫌いなんだよ!」
「知ってるよ。でも食べないと! ねっ、蛮ちゃんだって、おなかすいてんでしょ? 小さい子がお腹へってるの我慢してると病気になっちゃう・・・・いたぁっ!」
「だから、小せぇつーなっての!!」
「はぁい・・」
殴られた頭をさすりつつ(でも手が小さいし、いつもみたく、そんなには痛くはないのですが)、それでもおにぎりをぱりぱりの海苔で包んで、ぱきっと音をたてて、それを半分にして手渡すと、意地っぱり坊やの蛮ちゃんも(この呼び方は、どうか蛮ちゃんには内緒にしておいてくださいね!)空腹には勝てないらしく、ぶつぶつ言いながらもそれを立ったままほおばります。
もぐもぐしてる、ほっぺがなんだかやわらかそう。
かわいいー。
ちっさくても、やっぱオレ、蛮ちゃん大好き!
「なーんだよ?」
「ううん」
「あんま、じろじろ見るんじゃねーよ」
「うん。あ、でもさ、いつまで小さいままなんだろうね?」
「さあな。禁を破っちまったんだ。そう簡単にゃ戻らねえかもしんねんなー」
「うん・・」
何でもないように言ってる横顔は、やっぱちょっと不安そうです。
顔立ちが幼い分、思ってることが表情に出やすいよね?
「大丈夫だよ、蛮ちゃん」
「あ?」
「オレがいっしょだもんv」
「へ?」
「オレが、きっと蛮ちゃんを元通りの蛮ちゃんにしてあげっから!」
「はあ?」
「だから、それまではさ! 親子みたいに二人で仲良く暮らしてこうよ! オレ、頑張って仕事して蛮ちゃんを育ててくから!」
「あ゛あ゛!?」
「オレ、どんなことがあっても蛮ちゃんから離れないから!」
「ちちちちょっと待て! こ、こらぁ! 抱きつくな! ってか、抱き上げんなああ!!! このガキー!」
「いだだだだ・・・・・!!! ああんもう! ガキは自分でしょうが!」
「んだとお! ナマイキ抜かすのは、この口か、このクチかぁ!?」
「うわあ、ごめんなさい! 蛮ちゃん、のあ〜〜〜っ!! 口がざげじゃい゛ま゛ず〜〜〜〜!!」


なーんて言っててもね。
どうも、やっぱボーイソプラノ蛮ちゃんに怒られても、迫力に欠けるんですけれども!(笑)


かくして、ちびっこ蛮ちゃんと、パパ銀次の親子奪還屋の生活が始まったのです。











『誰と、だ〜れ〜が親子だ〜〜〜〜〜っ!!!!』















つづく?かなあ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これってもしかして蛮銀的にオキテやぶり?なんでしょうか!?
「パパは奪還屋G」のGは銀次のイニシャルです。
ぐれーととかにあらず。
ぱぱ銀ちゃんと、チビ蛮ちゃんという一度書いてみたかったシチュエーションなんですが、なんか非難囂々かもしんない・・。
みなさんの反応を見つつ、また続きを書くかなーってことで、一応設定のみでお話にしてみました。
小さくても蛮ちゃんが大いばりで、やっぱり「蛮銀」なとこが書いててとても楽しかったです。
でもあんまり普通の時としゃべり方とか変えられないので、文だとわかりづらいかも・・。みなさんの想像力が頼りですので、どうぞ想像力をたくましくしてくださいませv ヨロシク(笑)
きっとこの後、態度の悪い子供な蛮ちゃんを見て、「教育が、しつけがなってない!」とか見知らぬおばさんとかに銀ちゃんが怒られたりして、しょげちゃって。
で、それを見てちび蛮が、「コイツは悪くねえだろうが!文句があんならオレに言え!」とか言っちゃうの。
くすくす。

エンさん、こういうの、どおどお?
お気に召してくださったら、親子蛮銀のお礼に捧げちゃいまーす。