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風太
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2003年06月27日(金)
「パパは奪還屋2」


ええっと。
オレは、今蛮ちゃんと一緒に『きりゅうど』の谷・・・えーっと名前なんだったかな。
忘れちゃったけど。
とにかく谷にいます。
ここには虫さんがいっぱいいて、時々人間みたいな虫さんもいるので、ちょっと虫取りアミではとれそうにありません。
蛮ちゃんに、どうしよう?と聞いたら、あんなの標本にしても不気味だからほっとけ。と言いました。
ほんとだ。
第一、そんなおっきな標本、オレつくれません。



そうこうしているうちに、オレたちはヘブンさんや赤屍さんたちと合流したんだけど、セミのおじさんに、なんと赤屍さんが切られてしまいました!
ど、どうしよう・・・!
蛮ちゃんは、なんでだか「へー」と感心してました。
「そういうこともあんだなぁ・・」
って、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないよ、赤屍さんが!
しかもオレたち、敵にぐるっと周りを囲まれて大ピンチなのです!
そしてさらには、オレ、まだ小さいままなんです。
戻れてないの!
だからね、まだずっと蛮ちゃんに抱っこされたままなんです。
降りると、危ねえ!って叱られちゃうから。


――そんな時。


「十兵衛、俊樹! 来てくれたのか・・!」
「もちろんだ、花月」
颯爽と現れた元『風雅』の二人に、カヅッちゃんも思わず笑顔なのです。
オレも嬉しい!
あっと言う間に、敵の虫さんたちを蹴散らしちゃった。
すごいのです!
「すごぉい、カッコよかったよー! 十兵衛も雨流も!」
でも、せっかくほめてあげたのに、二人とも、特に雨流はけげんそうなのです。
「花月、あれは・・・? 美堂が抱いてるあの小僧は何だ?」
「失礼だよ、俊樹。銀次さんに向かって!」
「あ・・・あれが雷帝・・?」
だから、もう雷帝じゃないってバ。
オレは、ゲットバッカーズの天野銀次だよ。
いい加減おぼえてよ、雨流。
それにしても、『神の記述』で前にたたかった時はそんなに思わなかったけど、十兵衛とのコンビは息もぴったりで、なんかたくさん強くなってる気がします。
あ、そうか。
わかった! きっと、アレのせいだ。
アレの。
「でも、雨流って強くなったよね!」
「いや・・ 雷帝、オレは」
だから雷帝じゃないよって。
「やっぱり、無敵の蛮ちゃんにちゅーvしてもらって血をもらったせいかなあ」
「う・・っ!」
「よかったねーv」
「・・・そ、それを言うな・・・雷帝・・」
「はい? だって、よかったでしょ。蛮ちゃんのちゅー」
あれ? どうして真っ青になるの?
オレ、ずっと雨流はいいなあって思ってたのに。
みんなの前で、蛮ちゃんにちゅーvしてもらえて。
・・・・あ、なんか暗くなっちゃいました。
どーん・・・って。
どうして?
そういえば、昔っから暗かったってカヅッちゃんが・・。
蛮ちゃんも、なんか頭抱えてますけど?
「銀次、やめろ・・。思い出すじゃねーか」
「美堂、貴様・・・・。思い出したら殺す・・!」
「コッチだって、思い出したくもねー暗い過去だっつーの!」
「なんで? ちゅーしたのが暗い過去なの?」
「なんでって。ヤローとちゅーして嬉しいかよ?」
「ち、ち、ちゅーって言うな!!」
「俊樹、真っ赤だよ・・」
「相変わらず、古風な男だ」
「筧! 貴様に言われたくはない!」
「まあまあ、二人とも」
十兵衛と雨流の間で、カヅッちゃんがたしなめてます。
オレは、そんなことより、蛮ちゃんの言ったことが気になるんだけど。

「ねえ、やなこと?」
「あん?」
「やなことなの、蛮ちゃんにとっては。オトコとちゅーって」
「気持ちよくはねえだろ?」
さらっと返事をかえされて、ちょっとオレ、しょぼーんなのです。
「じゃあ・・。じゃあ、オレといつもしてたのは? アレも気持ち悪かったの??」
「・・・・・・え」
「蛮ちゃん、そんな風に思ってたんだ・・・」
「ち、ちげーよ! テメエとすんのはそうじゃなくて」
「そうじゃなくて、何? 嫌々だったの、ねえ?」
「嫌々なわきゃねーだろが!」
「だったら、なぁに? でも本当は、気持ち悪いなーって思ってたりした?」
「だから、そーじゃなくてよ! テメエとすんのは、ちゃんと気持ちイイっての!!」



しーん・・・。



「・・・・いつも、ね。ほう、そうですか、いつもねえ・・・! いつもアナタは、こんないたいけな子供の銀次さんにそんな真似を・・!」
「え?え? ち、ちょっと待て、糸巻き! いたいけなって、たまたま今こんなガキになってるだけで、いつもはしっかり18のカラダで・・」
「なお悪い!!」

え? 悪くないよ、カヅッちゃん。
蛮ちゃん、気持ちよかったってv
よかったあ、蛮ちゃんもそう思っててくれてv
オレも、蛮ちゃんとちゅーするの大好きなんだもん。
ちゅっ・・vってだけしてくれんのも、ぶちゅううっvってしてくれんのも大好きなのです。
ところで、あれ?
カヅッちゃん、なんであんなに怒ってるの?
あ、紘出さないで! 
抱っこされてるオレまで、ぐるぐる巻きにされちゃったらどーすんの!

「・・・・・ま、銀次さんの手前・・。仕方なく堪えますが」
よかった、ほっ。
「つーか、糸巻き。なんでテメーがここにいるよ? 卑弥呼、助けに行ったんじゃねーのかよ?」
「卑弥呼さんなら、鏡クンが1人で助けたいそうですから。僕は、とにかく銀次さんが心配で心配で」
「あーそうかよ」
「ありがとー、カヅッちゃあんv」
「いえいえ、それより美堂くんも合流したんならちょっとは手助けしたらどうです? ぼーっと見てないで」
「オレは、銀次守るのに忙しーんだよ」
蛮ちゃんは、なんだか大いばりです。

あ、そういえば、オレまたなんか大事なこと忘れているような・・。

「ああ、そういえば!!!」
「あ゙あ゙? んだよ。 あ、こら勝手に降りんな!」
「あかばねさあああん!!!」
なんだかんだですっかり忘れてましたけど、あかばねさんが大変なのでした!!
オレ、蛮ちゃんの腕から降りて、思わず駆け寄って。
あかばねさん、あかばねさん。
どうしてこんなことに・・!

そしたら、ヘブンさんがかなしそうにいいました。
「銀ちゃん、ジャッカルが・・」
「あかばねさあん!」
「かなりざっくりやられましたからね、背中から。小さくなった銀次さんについ、”愛らしい・・”とか見とれてて隙だらけでしたから」
「・・赤屍まで、ショタかよ」
「ショタですね」
「ショタとは何だ。花月」
「十兵衛・・」
赤屍さんにしがみつくオレの後ろで、なんだかわかんないお話が始まってしまいました。
いくつまでショタの範囲って。何のこと、ソレ?
もお、みんなハクジョーなんだから、もう! 
オレは、あかばねさんが心配なのに。
「ねえ、ヘブンさん。あかばねさん、大丈夫だよね!?」
「銀ちゃん・・。それが、もう息してなくて。脈ももう・・・」
「そ、それって・・・」
うそ・・・。
まさ、か、そんなことないよ・・ね?
あかばねさんが死んじゃうなんて。
そんなこと、あるわけないよね・・?
「あかばねさん! あかばねさああん! 返事してよ、ねえ!」
「銀ちゃん・・」
「死んじゃいやだああ!! ねえ・・・っ! 熊さんのお肉、おいしかったよおお! あかばねさんが死んじゃったら、またオレに誰がお肉食べさせてくれんの〜!!!」

「・・・・・肉ぐらい食わせてやれ。美堂」
「・・ウルセエ」

「あかばねさん、いつだって、すんごく強かったのに! こんなこと信じらんないようっ!」
「銀次」
赤屍さんに取りすがってるオレを見かねたのか、蛮ちゃんがそっと後ろから肩に手を置いてくれました。
その、おっきなあったかい手にさわられた途端。
涙がぼろぼろ溢れてきて。
「ぎーんじ」
蛮ちゃんの手がオレの黒い髪(小さくなった時のオレの髪はなぜか黒です)の毛を、くしゃくしゃとやさしく撫でてくれます。
横に一緒にしゃがみ込んでくれたので、思わず蛮ちゃんの胸に飛び込んで、ぎゅうと強くしがみつきました。
「蛮ちゃあああん・・・! うわああん」
わんわん泣いてると、よしよしってやさしく言って、蛮ちゃんもオレをぎゅっとしてくれます。
「ばんちゃあ・・・ん」
「でーじょうぶだよ、銀次。このバケモンは、んなことでくたばるようなタマじゃねえって」
「だって、だって・・・! もう心臓もとまってるって!」
「んならよ、その辺に穴掘って埋めときゃ、また再生するかもな? なんせ得体の知れねぇ生命体だかんな、コレは」
「ひどいよぉ、蛮ちゃん」
「そうだ、美堂。いたいけな子供にそんなことを・・!」
「うっせー。ま、それにしても銀次。オメー、あんなに赤屍のこと怖がってやがったくせによー」
「そりゃあ、ちょっとというか、かなりコワかったけど・・。でも、オレのこと助けてくれたりしたこともあったし・・。きっとやさしいトコもあるんだよ・・。それに今は一緒にマドカちゃん奪還の仕事をする仲間だもん。仲間が傷ついて倒れたりしたら、悲しいのあたりまえでしょう・・?」
「銀次・・」
涙のたまる瞳で、蛮ちゃんの胸のとこから蛮ちゃんの顔を見上げると、やさしい目で見つめてくれます。
「いい子だな・・ オメーは・・」
「蛮ちゃん・・」
あったかい手で、オレの頬の涙を拭ってくれて、なぐさめるようにオデコにちゅvってしてくれました。
こんな時なのに、うれしい・・。エヘv
それから、もっかいぎゅっ!ってしてくれました。
蛮ちゃん、やさしい・・。
悲しいキモチが、ちょっとだけ和らぎます。

「とにかく、そんな簡単にくたばりゃしねーから安心しろ。な?」
「だって、蛮ちゃあん・・」
「ほら、もう泣くな」
「うん・・・」
蛮ちゃんは、オレの頭をまたくしゃっと撫でてからオレを降ろすと立ち上がって、靴の先でトン!と横たわっている赤屍さんの肩の辺りを蹴りました。
だめだよー、そんなことしちゃあ。
「オイこら、クソ屍! いい加減にしろっての! ウチの銀次を泣かすんじゃねえ! オラ、とっとと起きやがれ!!」
ちょっと乱暴ですが、蛮ちゃん。
オレも赤屍さんの胸にすがるようにして、同じように言います。
「ね、目開けてよ、赤屍さん! お願いだから! あかばねさあん・・・。あかば・・・・・!」



ぱちっ



「・・・・ふぇ・・・」





ほ、ほ、ほ、本当に目、開いた・・・・!!!!

こ、こ、こ、こわいよおおおおおお〜〜〜〜!!!


「ひえええええ〜〜〜〜!!!! ばんちゃんばんちゃんばんちゃん!ばんちゃあぁぁ〜〜〜ん!!!」
思わず猛然とダッシュして、蛮ちゃんの胸にゴムまりみたいにぽーんとはねて飛び込みました!
だって、だって、本当にびっくりしたんだもん!!
お化け屋敷なの、ここは〜〜!?
わーん。心臓がばくばく言ってます!
あまりの怖さに涙がとまりませ〜〜〜ん!!
「・・・ガキになってもタレんのか。テメエは!」
いつのまにか、タレちゃったらしいです。
でも、だって!!
「あかばねさんが、目、ひらいたああぁ〜〜〜!!」
「・・クス」
「うわあぁぁあん! びっくりしたよおおおぁお〜!」
「やっぱ、生きてやがったか」
蛮ちゃんの声に、むくっと起き上がります。
うええ、背中の傷はどうなったのおお〜〜!?
「どうも私は自分が死ぬというイメージが持てなくてねえ・・。なかなか死ぬことができないのですが・・。それに、目を開いてほしいと、銀次クンのたっての願いでしたからねえ・・」
「うええぇぇえ〜〜ん」
「ジャッカル! ガキを怖がらせて面白がってんじゃねえ!」
「クス・・ 本当に、なんとも愛らしい・・」
「わあああんん」
「ったく。だからテメーは、勝手にオレの腕から降りんなってえの!」
「ひっく・・はぁい。びえええぇぇ・・・・・・ん!!」
「もう泣くなって!」
「だあってぇ〜、あまりの怖さに泣きやめないよおおぉお・・・・!」
「だ〜! もう、ウルセエ!! おい、サムライの兄ちゃん。なんかよ、ほら、いつもの笑えねえダジャレでいーからよ。なんとか言ってコイツ泣きやませろ!」
「・・・わ、笑えないとは、失敬な・・・!」
「ま、まあまあ十兵衛。ここは押さえて。僕からも頼むよ。君の修行の成果を、今こそみんなの前で見せてくれ」
「そ、そうか・・。わかった、花月。では行くぞ」



ごくっ。




「赤屍が旅に出たんだってねー? 

へー、どこに? 

ジャッカルなだけに・・・・

ジャ(ッ)カルタ―――!!!」








しーん・・・・・。







「びええええぇぇええ・・・・・・んん!」

「・・・・すまねえ、銀次。ヤツに頼んだオレが悪かった・・・」




「ふ・・・・不覚・・・!」








十兵衛のダジャレを聞いたら、なんだかよけいに悲しくなってきて。
さんざん泣いてから、やっとどうにか落ち着いたオレに、みんなほっとしたみたいでした。
ごめんね?

でもとにかく、赤屍さんが生き返ってよかったです。
怖かったけど。


「さー気を取り直して、今度は蝉でも採っか?」
「・・・・何しに来てるんですか本当に、キミは」
オレは、また再び蛮ちゃんに抱っこなのです。
やっぱり、こうしててもらうと安心する。
「あ、でもばんちゃん。セミはだめなのです!」
「あ? なんでだ?」
「だってセミさんは、ずうっと土の中にいて、やっと外に出てきたと思ったら、そんなに長くは生きられないんでしょう。 だから、短い命を喜んだり悲しがったりしてあんなにウルサク泣くんだって、前に蛮ちゃん、そう言ってたもん・・・ 採ったりしたら、かわいそうだよ・・?」
「銀次・・」
蛮ちゃんがオレの言葉にイイ子イイ子してくれようとしたその時、誰かがぶわっといきなりオレの後ろに現れました。
振り返ると。
「おわ!? さっきのセミさん!?」
「坊・・・。名は何というでやんすか?」
「まだいたのか! テメエ!」
「あまのぎんじ・・」
「いい名で、やんす・・・」
「はい?」
「こら、テメエ! 虫臭ぇ手で銀次にさわるな!」
「いい子でやんすね。これを坊にあげるでやんす」
「は?」
「では、さらばでやんす〜」
「・・・はい?」
なんだかよくわかんないけど、セミさんはそんな感じで、またとーとつにぶわっと姿を消してしまいました。

「何もらったんだ? 銀次」
「・・・・・セミの抜け殻・・」
これをどうしろと???
「知らねえセミから、物もらうんじゃねえ・・」
「はぁい・・?」



そんなこんなで。
オレたちのお仕事は、まだまだ続くのです。
ていうか、この谷は本当にこわいことばっかで、オレ、ちょっとオシッコもらしそうです。
蛮ちゃん、オレを守ってね?


でも蛮ちゃんの腕の中は、やっぱりとても強くてあったかくて。
安心なのです。
オレも、早く元に戻って、蛮ちゃんみたいに強くなれるように頑張るよ。


・・でも、なんか。
あまりにここが居心地がいいからね、もうちょっと小さいままでもいいかなぁなんて。
ちょっと思ったりしてみるのでした。エヘ・・v







END





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
パパは奪還屋2なのです。
マガジン28.29のネタバレが多く含まれていますが、なんだかこうやって書いてみると、どっからどこまでがネタバレなのか、自分でもよくわかんなくなっちゃった・・。
とにかく間違いないことは、銀ちゃんが小さくなってないことと(あたりまえ)蛮ちゃんが一緒にはいないってことなのですヨ・・。くすん。




2003年06月21日(土)
雨のち、ずっと晴れ

今日は久しぶりにお天気です。
梅雨にしては、めずらしい晴天です。
空は青くて、雲は白くて。
もうそろそろ夏かなあって、そんな感じもするくらい気温も高くなってきたけど。
頬にあたる風は、まださわやかで。
気持ちいい・・。

・・・・は、いいんだけどね。


ばーんちゃーん。
おなかすいたよー。
オレ、お腹すきました。
お昼だよ? もう。


「ねえ、蛮ちゃーん。お腹すいたー」
「うっせえ! もーちっと待て!」
「ね〜? あとどれくらいかかんの〜?」
「あ? そーだな。ま、一時間ぐれえか」
「え〜〜? いちじかん〜〜〜!」

そんなに待ってたら、お腹と背中がくっついちゃうよ。
やっとお金入ったのに、3日ぶりのまともなご飯が目の前なのに!

はー・・・。

深々とため息をついて、オレは花壇の植え込みのはじっこに腰掛けたまま、自分の膝の上に頬杖をついて蛮ちゃんを見つめます。
まだ、そんなにかかるなんて。
でももう、既にかれこれ、1時間以上やってない? 
ごしごしごしごしと。
てんとう虫くんは、すでに泡だらけです。
もういい加減、きれいになってると思うよ?
ねえ、蛮ちゃあん。


そうです、ただいま蛮ちゃんは、てんとう虫くんの洗車中なのです。

長ーいホースを買ってきて、公園の水道の蛇口につないで、ばしゃばしゃと泡を流しています。
とっても気持ちよさそう。
蛮ちゃんは、くわえ煙草をしつつ、なぁんか鼻歌が聞こえてきそうなくらいご機嫌です。
水が、てんとう虫くんのボディではじけて、光もきらきらしてて。
水がはじけたとこに、小さい虹も見えて。
てんとう虫くんも、なんだか気持ちよさげです。

オレはね、車洗ってる蛮ちゃんを、見てるの本当は好きなんだよ?
お腹減ってなかったら、いつまで見てても飽きないくらい。
なんかね、カッコいいっていうか。
いや、何やっててもオレさまはカッコいいんだよ!と本人は言うだろうけど、
まあ、それもちょっとは当たってなくもないけど。
でも、車洗ってる時の蛮ちゃんは、仕事の時とかと全然ちがってくつろいでて、顔もなんだかおだやかで楽しそうで。
額から落ちてくる汗を腕でぐいっと拭いながら、時々は自分の頭の上からも水かけて、ブルブルッと振ってみたり。
なぁんか男っぽいっていうかね。
蛮ちゃんの、そういうしぐさ、オレ大好きだから。
見てるだけで、楽しい。


でもねー。
そういう蛮ちゃんを見るのは好きなんだけど。
正直、ちょっと面白くない・・。
だって、なーんか蛮ちゃんとてんとう虫くんの世界ってカンジで、なんかさ、こう言ったら変だけど。
・・・らぶらぶなんですよ。
え? だから、蛮ちゃんとてんとう虫くんが、です。
いや、本当なんだったら。
蛮ちゃんも、そんな風には見えないのに、やたらとてんとう虫くんには過保護なんですよ。
”ちっ、悪ィ。またボディに傷ついちまったなァ・・”とか、”タイヤもそろそろ変えてやんねーとな”とか”すぐ満タンにして腹いっぱいにしてやっからな”とか、蛮ちゃんは、てんとう虫くんにはすごく甘いのです。
ケイタイだったら壊れたって修理にも出さずにほっぽっておくくせに、てんとう虫くんだと、すぐ修理に出してあげちゃうし、メンテにだってすごくお金かけちゃうし。
今だって、「オレも洗車手伝うよ」って言ってるのに、”テメエは邪魔”とか”洗い方がヘタな上、すぐ小せぇ傷つけんだろが! だからさわんな”って。

オレには、冷たいのです。
くすん・・。

んなわけで、オレはさっきから、とってもヒマです。
見てるだけだもん。
あーあ。
おなかすいたなぁ・・。

蛮ちゃんはね、特にそんなにクルマが好きってわけでもないみたいで、他のクルマにはあまり興味がないみたいです。
「あれ、ほら、あの車、カッコイイね!」とか言っても、ろくに見もしないで「そっかあ?」だし、レーシングカーとかに関しても知識だけはいっぱい持ってるけど、興味はというとあまりなさそうだし。
つまりは、車はてんとう虫くんだけなんですよ。
なんかそういうのって・・・。
ちょっと妬けるっていうか。
だって、すごいトクベツってことだもん。
そうそう、前にオレが「ワーゲン」っていう車をてんとう虫くんと間違えたら、「アレはてんとう虫じゃなくて、”カブトムシ”だろうが、ボケ!」ってゲンコされちゃいました。
似たようなもんじゃないかぁ・・。
そんな怒らなくても。
そうそう。それにね、蛮ちゃんは誰かにすぐ「ウチのてんとう虫が」っていうんですよ。
ウチのだよ。ウチの。
オレだって、そんなこと言われたことありません。
「ウチの銀次」なんて。
・・・あ。
なんかそれ、ちょっとイイかも。
恥ずかしいけど。
いいなあ、「ウチの銀次」だって。
言ってくれるワケないけど。
・・・いいなあ、なんか。
えへへv 照れちゃうなー。

「・・・? オイ! 何、ニヤついてんだ?」
「え゛!? べべべ別に!」
「あ? ま、オメーのこった。どーせ、昼メシ何食おうかとかって考えてたんだろー?」
「ち、ちがうよ! もぉ」

オレだって、食べ物以外のことだって考えるよ!失礼だなあ。
っていうか、お腹は本当に減ったけど・・。

「ねー、蛮ちゃあん」
「ああ、わーってるって! 水流して空拭きしたら、あとはワックスかけるだけだからよ」
「えええ?! まだワックスかけんのぉ?!」
「んだよ、文句あっか!? 梅雨に、んないい天気の日は滅多にねえんだからよ、ついでにやっとかねぇとな」
「どうせ、梅雨なんだから、すぐ雨降るのに・・」
「あ゛あ゛?!」
「・・・いえ、何でもないですケド」

そういえば、洗車すると雨が降るっていうジンクス持ってる人って多いらしいけど。
蛮ちゃんは、あんまりそういうことないです。
結構、降りそうな天気だなーって思ってても、2,3日はお天気もっちゃうのです。
逆ジンクス?
雨もこわくて降れないんだよ、きっと・・。
お天道様にも喧嘩売りそうだもん、蛮ちゃんだったら。

とはいえ。
マジで、お腹減った・・。
減りすぎて、お腹いたくなってきちゃった。
ああ、なんだか、ついでに眠たくもなってき・・・・。


バシャアッッ!!


「うわあ、何すんの蛮ちゃん――!!」

前からいきなりホースの水が!
オレの顔面に直撃です!
うわあ、びしょぬれだよ、どうしてくれんの―!!

「ボケっとしってからだ、バーカ!」
「ひどいよ、蛮ちゃん!」
「これで、ちったぁテメエもキレイになったろ? ついでだ、ついで」
「ついでって! もお、パンツまでびしょびしょだよ! ぶわぁああ、冷たあ! やめて、もぉ蛮ちゃん!」

ああ、オレは、ついでデスか!
どーせ、オレはてんとう虫くんの次ですよ!
蛮ちゃんは、オレよかてんとう虫くんのが優秀な相棒だと思ってるんだから!
・・って、それはさておき。
言ってる間も、蛮ちゃんの攻撃は続いてます。
マジで冷たいのです! もう!

「このおぉ!!」
「お?」

悔し紛れに勢いでダッシュして、呆然とする蛮ちゃんの手のホースを奪い取って、先を蛮ちゃんの方に向けちゃいました。
ホースの水が、今度は蛮ちゃん直撃です!

「うわ! こら、やめろ銀次!」
「へへ、やめないよーだ!」
「こら、テメエ! こうしてやらぁ」
「うわあ、コッチ向けないで〜!」
「このお! オメーこそ、こっち向けるな! ああ、冷てえ!」
「オレだって、冷たいよお!」

言いながら、だんだんおかしくなってきて。
蛮ちゃんも、笑ってる。
へへ、冷たい。
ばしゃあ!と顔からかけられた後、そのホースをまた奪って、蛮ちゃんの顔めがけて。
それを手で遮りつつ、ばっ!と蛮ちゃんが、またオレの手からホースひったくって。

「おっしゃあ、ホース奪還!」
「あ、ズルイ!」

慌てて離れるオレを、ホースの先をすぼめて、びゅう!と水を飛ばしてTシャツ直撃です。
あああ、もうびちょびちょ。
ジャケットは一回濡れるとなかなか乾かないんだからと、慌てて脱ぎ捨て、花壇の上にほうり投げます。
お花さん、ごめん!
あとでお水あげるから、ちょっと重いけど許して。

「お、やるか!」
「本気でいっちゃうかんね!」
「望むところだ! 来い!」
「よーし!」

なんだか、もうコドモみたいです。
ホース奪い合いっこして、水かけあって。
水が飛び散るたびに、けらけら笑って。
そこいら中、べしゃべしゃ。
でもまあ、たまのいい天気だし、じっとしてられないバカが二人じゃれ合ってるなあってカンジで、公園にいる人たちも微笑ましげに見てくれてるみたいだし。
まあ、管理人さんとかにめっかったらヤバイけど。
噴水の鯉、蛮ちゃんが釣ってからすっかり目つけられてんだからね。


ああ、お昼になって、ますますきれいな青空だ。
ははは、もうお腹すいたと同時に、笑いすぎてお腹痛いです。

「わあ、もう本当にしつこい〜!」
「テメエこそ、しつけぇ!」
「いい加減やめてったら、もお」
「そっちこそ、降参しろっての!」
「だって、蛮ちゃんが〜」
「ムキになってんのは、オメーだろが!」
「そうじゃなくて蛮ちゃんが・・・! ぶあ!」

言いかけた途端、ホースの水が大きく開けたオレの口ん中に入ってきた。
・・ごくごく。
うわあ、飲んじゃったよ。
大丈夫かなあ。
―と、思ったと同時に、からっぽの胃がもう我慢できなくなったみたいで信号を送り、ぐ―ぅと一際大きな音をたてました。
ああ、やっぱ、もうだめ・・。
さすがに、お腹すいてもう限界・・。

「だめだぁ・・・。もうギブアップ・・」
「あん?」
「おなかすいたよぅ・・・」

情けなく言って、水溜まりになっていないところをよってへたり込むオレに、蛮ちゃんがそれを見下ろして腰に手を当てにやりとします。

「オレ様の勝ちだな?」
「うー」

鼻高々。
まったく、そんなことで勝ち誇るなんて。
幾つだよう。
大威張りな言い方に幾分ムッとするけれど、もはや空腹すぎて怒る元気もないや・・。
それをさも満足げに見下ろすと、蛮ちゃんが笑いながらホースをかたしにいきます。

まったく、すぐムキになるんだから。
なんか、オレ、本当にこの人と、命の取り合いしたのかなって急に思えて笑えてくる。
雷帝として、本気の美堂蛮と闘ったはずだけど、でもよく考えたら、あんなに生き死を賭けて闘わなくても、ホース一本でこんな風に決着がついたことなのかもしれないねー。
蛮ちゃんとだったら。

まあ、ちょっとそれじゃあ絵になんないけど。
無限城のみんなも呆れるだろうけど。
そんなのでもよかったのに。
楽しくて。


はー・・・。
お腹すいたー。


「おい、銀次。いつまでへたり込んでんだ? 飯、行くぞ!」
「え? ワックスは??」
「昼からにすっか、もう。すっかり腹減っちまった」
「だよねー。オレももうぺこぺこだよー。やっと蛮ちゃんがご飯食べに行く気になってくれてよかったぁ。もうオレ、お腹すきすぎて足に力が入らな・・・・! うわああ!」
「んだよ?」
「なななななんで抱っこするのおお!!」
「歩けねーんだろが」
「いえ、別にそうだとは!」
「じゃあ、下ろすからテメエで歩け」
「あ・・・いや、えっと・・・」
「あ?」
「じ・・・・じ、じゃあ、肩だけ貸して?」

中途半端な甘え方に、蛮ちゃんが低く笑いながらオレを降ろして、オレの腕を掴んで肩に回させ、腰を抱き寄せてくれます。
んあ? コッチの方がなんか密着度高そうな?

「えへ、なんか蛮ちゃんの身体、ひやっとしてていい気持ち」
「テメエも同じだろ。あ、そっか。どうせなら飯の前に」
「・・・・え?」

め、飯の、前って・・?

「ひやっとして気持ちイイ身体のまま、ついでに中まで気持ちよくなっちまうか?」

そ、それって、もしかして・・・。

「で、でも蛮ちゃん、あの。オレ、今マジで腹へってて・・・」
「オメー、さっきからずっと、オレとてんとう虫を恨めしげに見てたよなあ?」

あ・・・。
バレてましたか・・?
あ、でも、それはね。

「安心しろ。テメーの身体も隅々まで、オレがしっかり洗ってやっから!」
「え゛・・・!? あ、あの! ちょちょちょちょっと、ちょっと、蛮ちゃん?! そ、それってもしかして、今・・・・から?」
「おうよ、ちょっと汗かいたしシャワーも浴びてえしな。ついでにオメーもキレイにしてやるって」
「えええ?! いや、今でなくても、っていうか、オレ、自分で自分の身体ぐらい洗えるし、と言いますか、あの、とりあえずオレはお腹が減って・・・」
「遠慮すんなって!」
「えええ、遠慮してないです! 遠慮してんじゃないんです〜〜〜!!」

てんとう虫くんのワックスはどうすんの〜〜〜〜!!!


「アホ! ワックスよりセックスのが大事だろうが!」
「いーえ、蛮ちゃん! 晴天の今が大事なのです! セックスは夜でも出来ますが、ワックスは今しか!」
「ワックスはまた明日でも出来んだろが!」
「セックスも明日でも出来ます〜!」
「テメエは、そんなにワックスが好きか?」
「いーえ! オレはセックスのが好き・・・ ええええ!?」
「だろ? んじゃ、行くぜぇラブホ!」
「わああああん! 蛮ちゃん、ズルイよお!」

だいたいにして、男同士でくっついて歩きながら、大声でする会話じゃないよ、コレ!!
わーん。

てんとう虫くんにまでヤキモチやいたりした、バチがあたったのかなあ・・。
ごめんね、てんとう虫くん。










結局。

オレがやっとありついたのは。
お昼ご飯じゃなくて、晩ご飯でした・・・。
ひんやりとした身体で抱き合うのはね、そりゃーキモチよかったけど。
洗ってもらうのは・・・。
もう、金輪際ごめんなのです。うう。


結論。

てんとう虫くんに、もうヤキモチなんてやきません。
「あの丸っちいケツが、なかなかそそられんだよなぁ」(←てんとう虫くんの後ろ姿)
なんて、蛮ちゃんの挑発にももうのりません。


そいでもって。

蛮ちゃんは、どうやら「自分のモノ」と思うものには、並大抵じゃない愛着を抱くみたいです。
車とかライターとか、タバコとかコーヒーカップとかアクセとか。
だから、てんとう虫くんも然り。
モノだけじゃなくて、人もだって。

「そこにオレも入ってるの?」と聞いてみたらば、あっさりと、「テメエは別格」と返されました。
そうか、そうなんだ・・・。
なんか。
すごく、嬉しい・・。

お腹はもう本当にからっぽで、最中もくぅくぅ言ってたけど。
その言葉だけで、なんか気持ちイッパイになっちゃった。
ゲンキンなのです、オレ。えへへ。


「んなにオレを気持ちよく出来んのは、テメエだけだもんな・・」


・・エ? ソレダケですか!
ひどいなぁ。

でも、蛮ちゃん照れ屋さんなの、知ってるもん。オレ。






・・・ああ、明日も晴れっかな? 

明日はオレも、ワックス手伝わせてもらおう。








なーんちゃって。


つまるところ。


蛮ちゃんといるとオレの心はそんな風に、いつも晴天の青い空なのです。










END






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ええっと・・。原稿は??? 
あははは・・。(いや笑いごとでは)

いえ、今日は梅雨なのに、とてもいいお天気だったので・・。
つい、こんなお話を書いてみたくなってしまったのです。えへv





2003年06月13日(金)
「パパは奪還屋」

だから言わんこっちゃねえ。
嫌な予感はしてたんだ。
チャイナストリートの上空を雲が覆い、雷鳴が轟いたその時から。

白紋を押し退け、「羅網楼」の最上階への階段を駆け上がるオレの胸でさらにその予感は膨らんで。

「やめろ、銀次!!」

叫んだが・・・。
遅かった。
ヤロウは、天空から落ちてきた雷をその身体にまともに受け、一気に力の放出をしやがった。

そんなことをしたら、どうなるか。
よく言ってきかせてただろうが!
ったく、バカヤロウめ・・!
人の話をちったぁ真面目に聞け!ってんだ。

大爆発が起こり、辺りは炎に包まれ、女郎蜘蛛はとっとと退散しやがった。

オレは、ただ。
ただもう、呆然と。
呆然と、そこにへたり込む銀次の小さな背中を見つめるほかなかった。



やれやれ・・。
カンベンしてくれってのー。
また、かよ・・。



「ばんちゃあ・・・ん・・・オレ・・・・・また・・・」

「おう・・」


炎の中で、オレを振り向き、べそをかいて申し訳なさそうに言う。



「オレ、また・・・・ちいさくなっちゃったぁ・・・・」

「・・・・・ああ」



見りゃわかるって。

だから言っただろうがよ・・。
力の大放出をした後はよ。
テメエ、ガキまで退化すんだから。
気ィつけろよって。
・・・さんざ、注意しただろうが。


アホ。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「うわあん、ばんちゃあん」
「ああもう! うるせえ!」
「だってぇ!」
「ついて来んな!」
「ちょっと、蛮! コドモ相手にそれはひどいんじゃない?!」
「そうですよ、銀次さんは今はどう見ても5歳の幼児なんですから。そんなにひどい言い方しなくてもいいでしょう!」

チャイナタウンの一角は雷帝の力で吹っ飛んで、辺り一面もうもうと煙が上がり、街はすっかり大騒ぎだ。
とりあえずは脱出したものの、んなガキつれて、これからいったいどーしろってんだ!
鬼里人の谷に向かおうって時に!
すげなく、絡みついてくる小さい手を振り払うと、いつのまにか現れた糸巻きまでが銀次を庇いやがる。
まあ、相手は確かに5,6歳くれえのガキだ。
なんで退化するたんびに、黒髪でオーバーオール姿になるのか今もって謎だが、そんなことはこの際どうだっていい。

「だからテメエが、とっととホンキートンクにこのバカ預けてこいっつってんだろーが、糸巻き!」
「ですが」
「やだ! オレ、ばんちゃんといくー!!」
「そんな小せぇナリで何が出来るってんだ。ええ?!」
「でも行きたいもん!」
「遊びに行くんじゃねえんだぞ!」
「でも、ばんちゃんとはなれるのなんか、ぜったいやだー!! うわあああん」
「あーよしよし」
涙をぼろぼろ流して、鼻もついでにだらだら流して、銀次が困ったような顔の卑弥呼に頭を撫でられ、今度は卑弥呼に懐いていく。
タレてんのが気持ち悪いとか言うわりには、コドモになった途端、えらく銀次に甘いのはどういうこった? 卑弥呼。
テメー、ショタかよ。
「はいはい、いい子」
「ひみこちゃあん・・」
「なつくな、テメエ!」
「ばんちゃんがおこったー」
「蛮、怒鳴らなくてもいいでしょう! こんな小さい子に向かって」
「・・・・・テメエらなあ」
脱力するオレに、卑弥呼の腕から飛び降りて、きっ!と涙目を向け見上げるようにして銀次が言う。
「ばんちゃん、オレ、ついてくー!!」
「・・だめだ。オメーは来んな、足手まといだ」
「ひどいよぉ」
「ホンキートンクで、タダ飯食ってろ」
「1人じゃやだ!」
「あのなあ」
「やだやだやだ! 一緒に行く!」
「失せろっての! テメエみてぇなガキ、使いもんになんねーんだよ!」
思わずギロッと睨み付け、凄みをつけて言った言葉に、銀次の小さい体がビクッとなる。
さっき以上に、でかい大粒の涙が、また新たにぼろっとその瞳を溢れた。
「う・・・・・」
「お・・?」
「うわぁぁああぁああぁぁ〜〜〜〜っ!!」
「・・・・・え゛?」
「うわあああああーーーーっっ」
「お・・・おいおい」
「わああああぁぁ〜〜〜ん!」
「そ・・・そんなに泣かなくてもよ・・・」
「だって、ばんぢゃんがぁああぁああぁぁぁ〜〜〜!!」
「ちょっ・・・・泣くなってぇの・・。おい」
涙と鼻水の大洪水になって、大声で泣かれると、さすがにどうにもこうにも面食らうというか・・。
思わず屈んで、ヤツと同じ目の高さになって、くしゃくしゃの黒い髪を余計にくしゃくしゃにしつつ撫でてやる。
なーんか・・・。
やたらとやわらけー髪だ。
オメー、もとはこんな猫っ毛だったのか。
思いつつ、銀次の頭を撫でるオレが余程困ったような顔をしていたのか、涙を拭いながらちろっとオレを見、銀次がしゃくり上げながら、なんとか泣きやもうと唇を噛む。
・・・・アホウ・・。
まだ泣きたいのなら、泣いていろ。
ガキが、人の顔色伺ったりすんじゃねえ。
頬を手のひらで撫でてやると、ちょっと切なそうな顔で言った。


「だって・・・ひっく、ばんちゃん・・・・・っく・・・・ げっとばっかーずの”ず”は・・・・・」
「・・は?  ”ず”?」

それを言うなら、「GetBackers」の”s”は・・・・だろうがよ?

「”ずーっといっしょ”って意味の、”ず”じゃなかったの・・・?」


え? そ、そうだっけか・・?


「・・・あ? いや、ちっとチガウような気もすっけど・・」
「ぢがうのー!?」
「いえ、ちがいません!! そのとーりです!」
「本当!?」
「・・・まあ、本当・・・じゃねぇけど、本当・・・・つうか」
「よかったv」
「いいから鼻ふけ!おら」
「ズズズ・・・!」
「かむなー!」
思いきり人のハンカチで鼻をかんだ後、片膝をついた状態のオレの身体にもたれ掛かるようにして、鼻をくすんと鳴らして銀次が言う。
「・・・・いっしょにいく・・・」
「・・けどな、銀次」
「いっしょにいたいの。はなれたくないの・・」
「・・・・・」
「オレがいっしょじゃなかったら・・。ばんちゃん、いっぱいピンチになりそうが気がする・・」
「・・・ヘッ、オレはでーじょうぶだって! 無敵だって知ってるだろうが。テメーも」
「でも・・。やっぱり一緒じゃないとだめ。オレ、小さくなっちゃっても、ゲットバッカーズだもん・・」
「銀次・・」
「それに、ホンキートンクにいたってコワイ虫さんがきたらいっしょだし・・。ばんちゃんといっしょの方がいい」
「まーそりゃあ・・・」
確かに波児と夏実とヘブンしかいねぇ店に、鬼里人の差し向けた刺客が来たら、こんな小さいガキじゃひとたまりもねえ。
・・そっちのが危険と言や、危険か・・。
それにしても。
「ね?v」
「なぁんか・・・・・テメエ・・・ ガキでいる時の方が、頭の回りがよかねーか・・?」
「んあ?」
まーいいけどよ。
「んじゃよー。銀次、テメーずっとココにいるって約束できっか?」
「ココ?」
ココってドコ?と首を傾げる銀次に、ポンと自分の胸の叩く。
「一番、安全な場所」
その言葉にきょとんと首を傾げて少し考え、ややあって答えを見つけて、
満面の笑みで頷く。
「うん!!」
「よーし、来な」
屈んだまま左腕を伸ばすと、そこに飛びつくようにして入り込み、オレの片腕に抱き上げられて首にしがみつく。
「わーいv」
「落っこちんじゃねえぞ」
「うん!」
「オレの指示なしに、勝手に降りんな」
「はーいv」
オレの言葉にさも嬉しげに、、銀次が、さらにぎゅっと力を込めてオレの首にしがみついた。


ずっとしがみついとけ。
ここはお前の、お前だけの場所だから。
でかい図体に戻った後も変わりなく、ずっと。


「んじゃまー行くか」
「なんのかんの言いつつ、甘いですね。銀次さんには・・」
「なぁんで不服そうなんだ、糸巻き」
「別に。あ、重かったら、僕がいつでも変わりますから」
「けっ。んなの重さのうちに入るかっての。まあ、いつものあのデカイ銀次じゃあ、片手じゃちっとキツイんだけどな」
「・・・・・・へー。あんた、いつも天野銀次に、こんなことしてるんだ・・・」
「・・・あ゛?」
歩き出すオレたちの背後からの、卑弥呼の鋭いツッコミに、思わず固まるオレを無視して銀次が無邪気に言う。
「うん! ばんちゃんたらねー、すぐオレのこと抱っこしたがって、そんで服の下から手・・・」
「おわああ! ほら銀次、よそ見すんな! これから虫だらけのとこに行くんだからよ、ビビんなよぉ」
「うん、オレ、虫大好き! いっぱい採ろうねー!」
「おう! って、アホ。昆虫採集に行くんじゃねえんだぞー」
うまく誤魔化せた・・・はずもなく、背後から糸巻きからも殺気が漂ってくる。
「へえ、そうですかー。銀次さんの服の下から手をねー・・・」
「・・・・節操のない男・・」
「・・・・オメェらなぁ・・・」
「わーい。虫v」


なんとなく、前途多難な空気が既に漂いまくってはいるが・・。
まあ、お子様サイズになった銀次は、持ち運びにはラクだし、くっついてくる頬は、やわらかで気持ちいーし。
どうなることやら、わからねーが。
まあ、どうにでもなるか。
一緒ならな。
この腕から、コイツを離さない限りは。
オレ様の、無敵な強さもさらに無限大よ。





首洗って待ってろ。
鬼里人!










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「つーわけで。んじゃな、糸巻き。卑弥呼はまかした!」
「はい?! ちょっと待ってください、卑弥呼さんは、美堂くんが助けに行くんじゃないんですか!?」
「オレは銀次を守る。テメエは卑弥呼を助けろ」
「ええっ、あの・・!」
「テメエが卑弥呼を守れ。いいな!」
「ちょちょっと、美堂くん! キミは、邪馬人さんという人との約束があるんじゃあ」
「んなこと言ったってよ! んな崖、子連れじゃ無理だろーがよ。んじゃ、まかせた! こちとら忙しいーんだ!」
「美堂君!!」
「ばんちゃーん」
「おう、どーした」
「あっちにクワガタがいた!!」
「あ?」
「一匹ほしーv」
「おし、どこだ?」
「あっちあっち」
「よーし、捕まえんぞ! 網よこせ!」(←どこからアミ?)
「はい、ばんちゃん、頑張ってーv」
「おう、まかせろ!」




「だーかーらー!! 昆虫採集に来たんじゃあ、ないんですってばー!!」







END












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お粗末でした・・。
カヅッちゃん。ごめんなさい(笑)

ええと、このチビ銀は、前に書いた「Love&Battle」というお話の設定そのまんまで書いてます。
雷帝化して、力を使いすぎると5歳まで退化しちゃうのー。
知能、思考回路はともに幼児化しますが、前に書いたお話では記憶がなくなってたけど、今度は記憶はちゃんと18歳のまま。
だから、ボクではなくオレって言ってます。

またシリーズで書けたら楽しいかな〜v

いつも血飛沫に嗤わせてくださる、保護者モエな武東さんに捧げますv えへv