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風太
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2003年04月15日(火)
101匹銀ちゃん


オレたちは、今、IL奪還というお仕事で、無限城にきています。
なんとなく、もうあと少しでマクベスの元にたどり着くって所です。

原爆っていうのが何なのか、オレにはよくわかんないけれど。
それがもし爆発でもしたら、たくさんの人が犠牲になって死んでしまうのです。
それとILっていうのがどう関係あるのか、いまいちよくわかんないんだけど。
大変なコトになってしまうってことだけは、オレにだってわかります。
だから、とにかくマクベスは止めなくちゃいけないのです。


それはそうと。
マクベスの作るバーチャルは、すごいです。
本物そっくりなのです。
ちょっとやそっとじゃ、見分けがつかないくらいなのですが、だから余計に赤屍さんが大量に現れた時は、もう気を失いそうになってしまいました。
1人でも充分怖いのに、あんなにたくさんいたら、卒倒してしまいます・・!

「銀ちゃん、こっちよ!」
ヘブンさんが、そんな混乱しているオレを、別のドアから呼んでくれて、キキイッパツ!
オレは、赤屍さんの大群から逃れることができました。
ありがとう、ヘブンさん!
きれいなだけじゃなくて、イザって時には頼りにもなる仲介屋さんなのです。

が、まさかそれまでバーチャルだったなんて!
妙な殺気に振り返ると、そのヘブンさんが、オレに向かってナイフを振りかざしていました!

ひ、ひぇ・・・。

怯んで反応が、100分の1秒くらい遅れたと思った瞬間。


「ボケッとしてんじゃねえぞ、銀次ィ!」

グワッシャ・・・!!

「ば、蛮ちゃん・・!」

蛮ちゃんは、あっというまにヘブンさんのバーチャルを壁にたたきつけて殺害してしまいました。

「うわああ、蛮ちゃんがヘブンさんを殺害したああぁぁ」
「アホ! 見りゃわかんだろ! バーチャルに決まってんだろうが!」

オレ、本当にヘブンさんが殺害されたのかと・・・!
心臓ばくばくしました。
絵的には、とっても怖かったです。



でも・・。
いくらバーチャルでも、そんな容赦なく出来るもんなんでしょうか。



「行くぞ、銀次!」
「う、うん!」

もしも、オレのバーチャルでもそうなのかなーと、なんとなく思ってみたりします。
赤屍さんはそりゃもう、嬉しそうに楽しそうに、オレを切り刻んでましたけど・・!
蛮ちゃんも、スネークバイト炸裂で、オレはどんどんコロされていくのでしょうか・・・。


それを見るのって、なんかやだな。
あんま、見たくない。
蛮ちゃんが、オレを殺すとこなんて、やっぱ絶対に見たくない。

誰だってそうだよね?
大好きな人が、いくら本当の自分じゃないにしたって、自分を殺すとこなんか、普通は見たくないものでしょう。


ああ、どうか。
願わくば、蛮ちゃんの前にオレのバーチャルが現れたりしませんように。



―― って、言ってるそばから、これってアリなんでしょうか!


だ〜か〜らー!
お願いしてるんだけど!

マクベス〜〜!!!!


わーん、やめてよおお!!


なんか一気に広いとこに出たかと思ったら、部屋中のオレです、オレ!!
オレだらけです!!
100人はいると思われます!



※そうです、オレだって100ぐらいなら数えられるのです!
  (そういう問題じゃありません)



・・・蛮ちゃ〜ん。

あの。
これ、全部やっつけちゃうんですか??
赤屍さんみたいに。
スネークバイトで全部・・・。

やだな。
すごくやだな・・。

見たくない。
見たくないよう・・・。

あ、オレ、目つぶってようかな?
それともここはオレが戦って、蛮ちゃんに先に行ってもらえば・・・。
でも、オレのバーチャルってことは、電撃はきかないってことだよね・・?
余計元気になっちゃうだけだもん。
ってことは、オレが戦ったって意味ないのです。

どうしよう。

やっぱり、どうしても耐えられない気がしてきました。
吐き気まで、しちゃいます。
蛮ちゃん、オレ、泣きそうです。


「ったく・・・。1人だけでも手がかかりやがるのによー。んなに、銀次ばっかいて、どーするよ?」


蛮ちゃんは、独り言みたいにブツブツ言ってます。
声、怒ってるみたいです。
そっと横から、顔を盗み見ました。
言いつつ、なんか、どこか嬉しそうです。

やっぱ、ここは一つ、一気に全員皆殺し・・・・なのでしょうか?
でも、そうしないと、ここを突破できないしね?
邪眼、使い切っちゃったしね?

覚悟を決めるしかありません。
そんなことを言っている間にも、怖い顔をしてオレたちを睨んでいる100人のオレのバーチャルたちは、今にも電撃を出しそうです。


深呼吸。

・・・よし、あとは邪魔になんないとこに下がって、目を閉じておけば・・・。


「ぎーんじv」

「へ?」

蛮ちゃんが、いきなり百人くらいのオレのバーチャルに向かって呼びました。

・・・はい?

いつもの、というより、ちょっとオレがふてくされたりした時に言ってくれる、ご機嫌とり(ゆえに滅多に聞くことのできない)の呼び方です。


なぜに?

と思った途端。


100人のオレが一斉に、にぱっ!!と笑いました。


「蛮ちゃん!」
「蛮ちゃ〜ん」
「ばんちゃあん」
「ばーんちゃんv」
「蛮ちゃああん」

口々に蛮ちゃんを呼びながら、すんごく嬉しそうに蛮ちゃんに近づいてきます。


こ、怖・・・・!


ば、蛮ちゃん、ここはオレにまかして逃げて〜!と言おうとしたのですが、蛮ちゃんはさも嬉しげに、次々と蛮ちゃんの首に抱きついたり、腕にしがみついたりするオレを好きにさせています。

「あ、あの・・・」

はっきり言って、こわいです。
自分が、蛮ちゃんに甘えたり、すりよったり、背中に飛びついたりしている様を見るのは初めてなもんですから!
しかも、それがたくさんいるのです。


お、オレっていつも、蛮ちゃんにこんななの???

こんなに、こんなに、やたらめったら、甘えてる??

は、は、は、恥ずかしくない・・・・・??


「ああ! もうウゼェな」

ほ、ほら、蛮ちゃん、怒ってるよ。
面倒臭そうだよ。
やめた方がいいよ。
今に、ゴン!って鉄拳がとんでくるから。



「しゃーねえな! まとめて面倒みっか」

「はい?」

蛮ちゃんが、100人のオレに向かって言います。


「いっしょに来っか?」

「うん!」
「うん!!」
「うん!!!」
「うん・・っ!」
「うんっ」

そんなにみんなで返事しなくても。


「んじゃあ、ついてきな・・!」

「わーい」
「わぁい」
「わあい」
「わーぃい」
「わぁーい」
「わあい、わぁい」」



え、ちょっと・・!

ちょ、ちょっと、待って!
そそそれは、オレの蛮ちゃんでしょうに!!
いくら、オレのバーチャルでも、オレの蛮ちゃんとらないでよ〜!
あ、でも本当はオレだから、とられたことにはならないの???
でも、バーチャルってのはオレだけどオレじゃないわけで、でもデータはオレだから、やっぱオレ???
ああ、わかんない〜!!


「おい、ぼけっとしてるそこの銀次もついてきな!」

「え? オレ? オレのこと?」

「おうよ、行くぞー!」

「はーい」
「はい」
「はあい」
「はーい」
「はい」
「はあい」

なんか頭が混乱するオレをよそに、100人のオレを周囲にぞろぞろとはべらせて、蛮ちゃんが歩き出します。


「なーんか、こういうのも悪くねえなあ」

ハーレム状態だぜ。
とか、何とか言ってるのが聞こえたけど。


は、はーれむ?


悪くねえって!
わ、悪いよ、これからてんとう虫くんでどうやって寝るの・・!
第一さ、
蛮ちゃんに甘えたくても、順番なかなか回ってこないし〜!

ごはんだって、今までもろくにあたってなかったのに、101分の1になっちゃうんだー!
ってことは、トロとかウニとか、どーなんの!
蛮ちゃんと、二個ずつにしてたアレは、いったい!
2個を101人で割るの?
ムリムリ、そんなの絶対無理!
オレ、計算できないし!
どっちにしたって、1人余るから、もしかしてオレはガリだけ?!
焼き肉だって、オレが焼いてるそばから、そばから、みんな食っていっちゃうんだ〜!
オレのバーチャルだもん、きっとたくさん食べるにちがいないよ!
ショートケーキだって、イチゴ絶対食べられないじゃないー!
今までだって、オレ好きなの知ってて、蛮ちゃん、すぐに取っちゃうし!
コーヒーだってさ、
デラックス弁当だってさ、
ハンバーガーだってさ。

あたんないよ、
あたんないよ、きっと!


どーなんの、オレ!


・・・って。
オレ、さっきから食べることばかりです・・・。
ああ、もう。


まあね、こんな風に大勢で暮らすのも、確かに悪くはないけど・・。
でも大半がオレ、っていうのはちょっといやです。
せめて、この半分くらいが蛮ちゃんだったら、いいのですが!


・・・・・・・。

けど。

蛮ちゃんは、次々に甘えてくオレに、口では迷惑そうにしながらも、目はずっとやさしいです。

いつも、こんな風にオレをみてくれたの?
そんな包み込むような、やさしい目、してたの?
ゴン!って、殴る時も、そんなやさしい顔で笑ってたんだ。


「んだよ、抱きつくなよ」
言いつつ、嬉しそうです。

「暑苦しいっての」
でも、迷惑そうじゃないのです。

「重ぇよ」
けど、笑っているのです。

「こら、どこさわってんだよ」
それでも好きにさせてくれます。

「バーカ」
優しい目、優しい声。



オレ、しあわせです。
いつも、こんなにしあわせそうに、
蛮ちゃんに甘えて、たわむれて、
蛮ちゃんに、やさしい目で見てもらって、
頭、くしゃくしゃ撫でられて。


・・・すごく、しあわせです。











なのに。

泣きたいのは、どうしてでしょう?


泣きたいっていうか・・・。

他のオレに混じって笑ってるケド、本当は泣きたいです。






蛮ちゃん・・・。

蛮ちゃん。

オレはここだよ。

本当の。

本当の、オレはここだよ。

笑ってるけど、

本当は、

そばにいけなくて、

そばにいきたくて、

とても、淋しい。

とても、

とても、

とても淋しいんだよ、蛮ちゃん・・・。







「なぁに泣いてんだよ? ぎーんじ?」

・・・え・・・?


「こら、そこのホンモノ。泣いてねぇで、とっととオレの隣に来いっての!」


蛮ちゃんが、突然振り返って、オレに向かって手を差し出しました。
ぱあっと、目の前のオレのバーチャルたちが二手に分かれて、オレの前に道を作ってくれます。

「蛮ちゃん・・・」

オレが、わかるの?
オレ、だって、みんなと同じように、笑ってたよ?
心の中では泣いてたけど、オレ、ちゃんと顔はしっかり笑ってたよ?


そんなオレをよそに、蛮ちゃんは今度はオレだけを真っ直ぐに見つめて、こう言ってくれたのです。


「やっぱ、銀次は1人で充分だよなァ」


その途端。
100人のオレが、まるでオレを映す鏡のようににこっと嬉しそうに微笑んで、それから、ブワァ・・ッ!と一瞬で、一斉にその場から消えてしまったのです。


え? どうして・・?


呆然としているオレに、蛮ちゃんがそばに歩み寄ってきました。
ゴン!

「いてっ!」
「バーカ、何やってんだ、テメエは!」
「あ・・・うん」
「ったくなあ、ホンモノがバーチャルに遠慮してどーするよ?」
「え、だって・・。蛮ちゃん、楽しそうだったし」
「ホンモノほっぽって行って、バーチャルとつるんで楽しくたって、しょうがねえだろが?」
「うん・・」
「そういうコトを、テメエはあのパソコン小僧に伝えにいくんじゃねーのか?」
「そ、そうだけど・・・」
「だったら、もっとピシっとしろ!」
「う、うん」
「おら、行くぞ!」
「うん・・!」

叱りつけるように言いながらも、蛮ちゃんはオレの手をひっぱってくれます。



そうです、
そういうことを、マクベスに伝えなきゃいけないのに。
大事なことを、忘れてました。
思い出させてくれて、ありがとう。蛮ちゃん。


オレは、いつまでもダメですね。
蛮ちゃんは、初めて会った時といっしょで、いつもちゃんと自分の立っている足下をしっかり確認しているのです。
本当のことをいつもちゃんと見分ける、鋭くて、それでいて暖かい目を持っているのです。


オレも、しっかりしなくちゃ。
マクベスの目をさまさせられるくらい、しっかりするんだ。






でも、その前に。
一つだけ、聞いていいですか? 蛮ちゃん。


「ねえ、蛮ちゃん」
「あ・・?」
「あんなにたくさんオレのバーチャルが居た中で、どうして本物のオレがわかったの?」


不思議そうに尋ねるオレを振り返って、蛮ちゃんは、吸いかけの煙草を指に取って、さもおかしそうに笑って教えてくれました。







「テメエが、一番間抜けヅラしてやがったからな」






END









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アニメ感想ニッキの中でちょこっと書いたショートコントをSSに書き直してみました。
いや、結構愉しかったのでv
ちょっとシリアスにもなってしまいましたが。

これで、「101匹蛮ちゃん」とかも一瞬考えましたが・・・。
怖くなって、やめました。
・・・銀ちゃん、壊れちゃいそうです・・。(いろんな意味で)
でもって101人蛮ちゃんの、「銀ちゃんの争奪バトル」とかに発展していきそうだし!
今夜は誰が銀次の相手をするか!とか・・・。はははは・・・。(渇いた笑い)



2003年04月04日(金)
愛のホンキートンク


(またしても、マガジン18号ネタバレSSです。スミマセン・・!)
















やれやれ、蛮のヤツ・・。
相変わらず、口の悪いこった。
同じことを言うにしても、もーちょっと気の利いた言い方があるだろうに。

店の中で、「蛮ちゃんに見捨てられた〜」とタレて号泣しつつも、ヘブンに低周波治療器がわりに使われている銀次を見て、波児がはーあ・・・とため息をつく。

まったくよ。
アイツの口の悪い「捨て台詞」に、今まで何人のオンナがこの店に怒鳴り込んできたことやら。
言うだけ言って雲隠れして、その後はいっつもコッチに押しつけやがる。
オマエに対する罵詈雑言を、愚痴愚痴聞かされるのを宥めすかして旨いコーヒーで誤魔化しつつ話を聞いて。
そういうコッチの苦労に、ちっとは感謝したことがあるんだろうか、アイツは。

ま、もっとも。
今回のことは、まるで違うがな・・・。


「僕はダメ人間なんだ〜」

やれやれ・・。

「まあまあ。それより人間低周波治療器ってカンバン出しゃあ、奪還屋よりよっぽど儲かるぞ?」

「やっぱ、ダメ人間だ〜」

泣くなよ、オイ。


大洪水の銀次を見て、波児がまたはあ・・・とため息をつく。
となりで夏実が「蛮さんはきっと銀ちゃんのためにそうしたんだと思うな」と絶妙のフォローをし、「本当は一緒にいたいのよ」と笑顔でなぐさめている。
それでもレナの「でも役立たずの足手まといだから置いてけぼりにされたコトには変わりないですよね?」の一言に撃沈する銀次には、それも聞こえているのやらいないのやら。



「・・・・あら?」

ふと夏実が耳をすますようにする。

「マスター? ケイタイ鳴ってますよ?」

店の奥に置きっぱなしになっているケイタイの音を聞きつけ言う夏実に、波児がちょっと首を傾げて奥に消える。
よろず屋、王波児として仕事に使ってる携帯は、最近はあまり頻繁に鳴ることはないのだが。


「もしもし?」
『波児か?』
聞き慣れすぎているその声に、奥の部屋のドアを開けつつ、波児が思わずニヤリとする。

ほっぽらかして捨ててきたものの、どうなったか気にするなんざ、今までのオマエじゃ考えられないよなあと思いつつ、それでも素っ気なく返事を返す。

「おう、どうした?」
『・・・・アイツ・・。ちゃんとソッチに行ったか?』
「アイツ? コッチにゃ別に誰も来てねーが。あ、ヘブンならいるぜ?」
『ヘブンじゃねえっての! いやがんだろ・・・? そこに』
「あー銀次か? アイツならさっき帰ってきたけどな。真っ青な今にも自殺でもしそーな顔でさっき出てったぜ?」
『な・・! なんだとぉー!! テメエ、なんでそれを放っておきやがんだ!! クソ・・』
「あー! オイこら切るな!! 冗談だ、冗談。ちゃんといるぜ、安心しな」
『・・・・・・・・てめえ、波児・・・!』
「怒るな、蛮。こっちも泣きつかれて大変だったんだからよ。それぐらいの冗談言わせろよ」
『・・・チッ・・・・ で? 今、どうしてんだ? あのバカ』
「人間低周波治療器がわりになって、ヘブンの背中やら腰やら揉んで、アンアンよがらせてるぜぇ?」
『あ゛!? あのアホ、人の気も知らねえで何を楽しげなコトを!! ったく、アッタマくんなー、クソったれが!』
「まあまあ、そう言ってやるな。店に来た時は、本当に飼い主に捨てられた子犬みてえに頼りない泣きはらした真っ赤な目して、見てるだけで可哀想になっちまうぐらい酷ぇ有様だったんだぞ?」
『・・・・泣いてたか・・? 銀次』
「そりゃ、泣くだろうぜ。役立たずだ、使いモノにならねーから失せろって言われりゃーな」
『・・・役立たずとまでは言ってねえ』
「同じだろーが。ま、なんでソコまで言ったかぐれぇは察しがつくけどよ」
『・・・・・・・・・・すまねぇが・・』
「ああ、わかってる。ツケで飯たらふく食わせておくさ。腹が膨れりゃ、ちったぁ元気にもなるだろう」
『・・恩にきるぜ、波児』
「しかしま、オマエもいいトコあるじゃねえか。昔のオマエじゃ考えられねーよなあ。捨てたオンナのコトが気になって心配で電話よこすなんざ」
『な、なんの話してやがんだ!? だいたいオレァ別に銀次を捨ててなんか・・・』
「そりゃーそうさ。常日頃からオマエが猫っ可愛がりしてる、大事な大事な相棒だもんなぁ?」
『あ゛!? ったく、何言ってんだテメエはよー! とにかく飯の件は頼むな! じゃな!』
「へいへい・・」

切れた電話をしばし見つめ、低い笑いを堪えるようにする。


・・まあ、な。
いくら泣いてたって、アイツにもきっとわかってるさ。
オマエがどんだけ、アイツの事を想ってるかぐれぇは・・な。


奥の部屋から出てきた波児の和らいだ表情に、夏実がそれに気づいてパッと嬉しげに微笑んだ。

レナとヘブンもそれを見て、軽く目配せしてみせるが、背を向けてそれどころではない銀次は、まだヘブンの背中で低周波治療器になったまま落ち込んでいる。

波児がそれを肩を竦めて見やり、わざとらしく咳払いしてから、ちょっと吐き捨てるように言う。
「しかしま、本当にロクでもねえ男だよなー。蛮ってヤツは。昔っからああいう冷たいところがあったが、そこまで冷酷な奴とはなあ」
その顔をちろっと見て、夏実がにっこりする。
「用がなくなった相棒をぽいって捨てちゃうなんて、人間のすることじゃないですよね」
「まあ、所詮ああいうヤツなのよー、蛮クンて。自分に都合のいい人間としか組まないんだから」
低周波治療器タレ銀次を背中にのっけたまま、首だけ振り返ってヘブンも言い、うんうんとレナがそれに同意を示す。
「オニのような性格ですよね!」


「え・・・・? あの・・・・・」
なんだか、唐突に雲行きの妖しくなってきた4人の会話に、銀次がゆ〜っくりとそれを振り返る。
そしてヘブンの背中からちょこんと降りると、リアルモードに戻って、まじまじと4人の顔を見比べた。

「だいたい、冷たいんですよね、元から!」
「まあ、過去に色々あったみたいだしさ。そんなカンジで誰かれなしに、色んな人を傷つけてきたんじゃないの?」
「え・・・ あ、あのヘブンさん・・?」
「いろんな人から恨み買ってるみたいだし」
「あの口の悪さが原因かも!」
「ああ、確かに、あれで敵を作っちまうんだな。アイツにゃ、思いやりのカケラもねえから」
「ぽ、波児さん・・!」
「我が儘だし、金遣いは荒いしギャンブル好きだし。いいトコなしよねー」
「よーく、今まで銀ちゃんも我慢してましたよねー?」
「な、夏実ちゃん? さっきと言ってるコトがちがうんじゃ・・・」

険悪なムードに汗をかきつつ、銀次が思わず笑顔をつくる。
「や、やだなあ。みんなどーしたの? 蛮ちゃんは確かに口も悪いけど、ほら、その分ココロはやさしいっていうか・・」
「まあ、銀ちゃんたらヤサシイわねー。あんな仕打ちされて、まだ蛮クンを庇うなんて」
「いや、あの、そうじゃなくて」
「だって電撃出来なくなっただけで、ポイされちゃうなんて」
「銀ちゃんの力だけが目当てっていうかさー」
「利用価値がなくなったら、とっとと放り出すなんてな。残酷すぎるよな」
「まさに使い捨てってカンジです」
「あ、あの、みんな。蛮ちゃんは、そんなさー・・」
「いいんだぜ、銀次。別に遠慮はいらねえ、普段思ってる不満をこの際ぶちまけちまえば」
「え、オレ、別に蛮ちゃんに不満なんて」
「そうかな〜 きっとあると思いますよお。私はこの機会に、いっそコンビ解消してもいいんじゃないかなーと」
「レ、レナちゃん!」
「ああ、それもいいかもね。そーだ、士度クンと組むってのはどう? 士度クンのが絶対やさしいし! 金運もいいし!」
「ヘブンさん・・」
「ああ、それいいかもな。その方が、ウチもツケが減りそーだ。だいたい、蛮に金なんざ持たしてたら、一生かかったって、オマエら住むとこなんか持てねえぞ」
「そ、そうだけど、でも」
「そうだよね、これを機会に! チャンスかもしれないですよ、銀ちゃん」
「銀ちゃんを見捨てた蛮クンなんか、この際」
「こっちからポイしちゃったらいいんですよ!」
「アイツは、所詮1人のが気楽でいいってヤツなんだよ」
「冷血ヘビだもん」
「オニですから」
「乱暴者だし」
「人でなしだしな?」


「・・・・・いい加減にしてよ・・!!」

ガタッと背を向けたまま、そう怒鳴るように言ってボックス席から立ち上がった銀次に、皆が驚いて一斉に口を閉ざす。


「みんなひどいよ!! どうして・・・!? なんでそんな、蛮ちゃんの悪口言うんだよ・・・?! そりゃあ、蛮ちゃんは口も悪いし、言葉で気持ち言うの上手じゃないし、ついつい素っ気ない態度とったり、言い訳とかもしないから、よけい誤解されちゃうんだけど! でもココロの中はすんごく優しくてあったかくて、ちょっと淋しがりやなトコもあって・・。オレのことだって、ボケとかアホとか言いながらも、いつもちゃんとわかってくれてて、助けてくれたり心配してくれたりして・・・! 不器用だし、照れ屋だから、そういうのはっきりは言わないけど、オレちゃんとわかるから! 蛮ちゃんは、蛮ちゃんは、そんなことくらいで、オレのこと、絶対見捨てたりしないんだ・・・!!」

叫ぶように言って、ぎゅっと唇を噛み締める。


「オレ・・・。そんな蛮ちゃんが・・・いいんだから・・・・ いつもお腹へってても、住むとこなくても・・・・・ 蛮ちゃんじゃなきゃ・・・・イヤなんだ・・・・から・・・・」


最後の方はくぐもったような声になり、手をついたテーブルの上に、ポタポタと涙の滴が落ちた。









「そんだけわかってんなら、上等じゃねーか?」

「え・・・?」

波児の声にはっと顔を上げると、波児、ヘブン、夏実、レナの明るい笑顔が瞳に映った。


「そうですよねー」
「ホントにv」
「その通りよね」


「みんな・・・?」



呆然とする銀次の頭の中に、今しがた自分が叫んだ言葉がリピートされる。



  『蛮ちゃんは、そんなことでオレを絶対見捨てたりしないんだ!!』






「あ・・・・」


・・・・・オレ、何やってんだろう・・・?


蛮ちゃんは、あんなコト本気で言ったりするわけがないのに。
本当に見捨てるんだったら、あんな風に雷帝のコトも、電撃が出来ないコトも、わざわざオレに言ったりはしないよね・・。

・・・・オレにわからせるため・・・?


『だって、殺されかけてたし・・・  何がなんだか・・・・』
『いいわけすんじゃねえ!!』



もしかしてオレは、
いざとなったら雷帝にナれることや、電撃が出せることに、
まだ、どっかで頼っていたかもしれない。


まだ、蛮ちゃんや、自分自身のそうゆう力に、どっかで甘えていたかもしれない・・ね?



殴られた頬が、今になってじんじん痛む。

・・・蛮ちゃん、ゴメン。


オレ、たぶん、あの時も蛮ちゃんが、オレに何が言いたかったかわかってたと思う。
たださ・・。
いつも、どんなに怒鳴っても叱りつけても、追いかけてくオレを振り返るか立ち止まって待ってくれた蛮ちゃんの背中が、オレを待たずに目の前から消えてしまったことと、オレを拒絶してるみたいに見えたこと・・・。


それがつらかったんだと思う。

とても――




でも。
そっか。
いいんだよね?
オレ、追っかけてってもいいんだよね?
蛮ちゃんを。


マドカちゃんを奪り還えさなくちゃ。
士度と約束したんだから。



泣いてる場合じゃ、ないんだよね?





波児が、宙を見据えたまま、ゆっくりと瞳に力を戻していく銀次を見、静かに微笑んだ。

「銀次」
「え・・・っ?」
「とりあえず。なんか食うか?」

二ヤリとして言う波児に、銀次が笑顔になってそれに頷く。

「・・・・・・・・うん!!」


さっきは食欲がないからと断ってしまったけれど、そんなこと言ってられない。
とにかく、食べて食べて、元気をつけなきゃ!
そのうち電撃だって、ちょっとは出るようになるかもしんないし!


銀次がカウンターにつき、メニューにあるものを片っ端から注文する。
「えっとねー。オレ、ハムサンドとオムライスとカツカレーとエビフライとハンバーグと・・・・」
「そんなに食えるのかあ?」
「え? だって、頑張って食べて電気出さないと! えーと、それからねー」
「やれやれ・・・。またオマエらの借金3桁になるんじゃねーか?」
「だーって、蛮ちゃんがツケでタダ飯食って来いって言ったんだもーん」
「ったく、蛮のヤツ・・・」

ぶつぶつ言いつつも、注文された料理に取りかかる波児に、銀次がにかっと笑ってピースサインを送る。
それを見ながら、クスっと笑って顔を見合わせる夏実らに気がつくと、銀次がいつもの笑顔に、あともうちょっと足りないくらいの笑みを返して、ぐーんとスツールに腰掛けたまま伸びをした。



その銀次の手の中で、ピシッ!と電気の弾ける小さな音がした。






蛮ちゃん、待っててよね!
オレ、少しでも早く、蛮ちゃんに追いつけるように頑張るかんね・・!



―― だから。待っててね・・・!










END


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マガジン18号、ネタバレSS再び・・。
まあ、バネさんのお迎えがあったので、こういう展開はもう有り得ないんですが・・。

みんなで示し合わせて、蛮ちゃんの悪口言ったりしたら、銀ちゃんてこういう反応するんじゃないかなーと思って書いて
みました。
なんのかんの言いつつ、一番蛮ちゃんのコトを知ってるのは銀ちゃんなんだし。
「あんな男やめちまえ」「とっとと別れた方がいい」とかって言われると、別れ話を考えてるコイビト同士も、結構「そんなことないわよ」と逆に燃えたりしません?
銀ちゃんも「蛮ちゃん、ひどいよ〜」って思ってても、こんな風に回りから言われた方が「そんなことないよ!」と、早く復活できるかも・・・。なーんてねv
バネさん、そういう役目してくれない・・・・だろうなー・・・。

タイトル・・・。他に思いつかなくて、陳腐でスミマセン・・。



2003年04月02日(水)
海より深く静かなブルー

(マガジン18号の激しくネタバレSSです! 
まだマガジン読んでない方で、ネタバレはイヤー!という方は絶対読まないでくださいねv!)


















「やめろ、銀次!!」


叫ぶなり、雷帝化したヤツの回りでピシッ!とプラズマが弾けた。
「あ・・・」という声に、オレの声が届いたかと思った瞬間。


「ウワアアアアア・・・・ッ!!」


ヤツの身体から放出された凄まじい雷が、辺り一面を、その強烈な閃光で真っ白に覆った。


「やべえ・・! 卑弥呼、加速香だ!!」
「蛮・・! あんたは!?」
「オレの事は心配ねえ! 早くしろ!!」
「わかったわ・・!」


次の瞬間、轟音とともに大爆発が起こり、オレはその中心にいながら、火を噴いて崩れていく床に、ゆっくりと足を掬われるようにして気を失っていく銀次を両腕に抱きとめ、猛然と業火の中を脱出した。




振り返れば、その背後で「羅網楼」が、上半分を炎に包まれたまま崩れ落ちていくのが見えた。
爆発は、むろん、そこだけでは収まりきらず、チャイナストリートの至るところで火の手が上がっている。


「蛮・・!」
「卑弥呼。無事だったか」
「何とかね。けど、いったい・・・。ここまで凄いことになっちゃうなんて、コイツ・・。いったいどうしちゃったの?」
「・・・ああ。とりあえず、ここにいちゃヤべえな・・。路地裏に回っか」
「うん」


細い薄汚れた路地裏に回り、銀次を腕に抱いたまま、建物の影に座り込む。
1つ大きな通りを挟んだ繁華街は、消化活動を行う消防車やパトカーのサイレンが鳴り響き、その音を聞いているだけで頭の奥がぎりっと嫌なカンジに痛んだ。

「・・ねえ、蛮・・」
「悪ィけどよ、卑弥呼」
「・・え?」
「被害状況、見てきてくんねえか? ケガ人とか、それから・・」
言葉を濁したオレを見て、言いたい事を悟ったらしい沈痛な面持ちで卑弥呼が頷く。
「わかったわ・・」
「頼むな」


路地の外へと駆けていく卑弥呼を見送り、それから腕の中でぐったりしている銀次を見下ろす。
立てた片方の膝の上に上体をもたらせかけ、できるだけ楽な姿勢を取れるように足を伸ばさせて、頭を胸に抱き寄せる。
エネルギーの過剰な放出のせいか、抱いた身体はひどく冷たかった。


青白い顔を見つめ、額にかかる前髪をそっと指先で掻き上げる。
薄く開いた唇も、色を無くして白い。

「バカ野郎が・・・」

あれほど言っておいたじゃねえか。
「雷帝」は諸刃の剣だと。
敵を灼き尽くし消滅させる代わりに、てめえの身体も同時に灼き尽くすんだと。
目に見える傷は雷帝化で治せても、目に見えねえ無数の傷をテメエの心と身体につけるんだと。
ちゃんと、教えておいたじゃねーかよ。







『猿マワシの依頼受けるのは、いーけどよ。テメエ、わかってんな。今度もちゃんとオレとの約束をだな』
『わかってるよ、蛮ちゃん! マリンレッドの時もちゃんとナらずに切り抜けられたし、だーいじょうぶだよ!』
『あん時ゃあ、その分オレが・・! ・・まーいいけどよ。わかってんなら』
『うん!』
『けどな。銀次・・』
『うん?』
『これだけは、覚えてとけ。”雷帝化”はテメエにとっちゃ”諸刃の剣”だっつーことをな』
『もろは・・?』
『あ? ・・だからよ、一方ではプラスになるが、逆にその他方ではマイナスになる危険を持ってことだ。わかっか?』
『うん・・』
『”雷帝化”することでテメエは無敵になれっけど、その分、テメエの身体への負担も大きい。無限城の外なら尚更だ。一回全身虚脱で入院したろ?』
『あ、でもアレは、電線に感電したら直ったよ?』
『毎回、そうじゃすまねえってことだ。今にテメエの身体は”雷帝化”によってコワされる。そうなってからじゃ、遅・・! 聞いてんのか、テメエ! 何ニタニタしてやがるんだよ!』
『だってー! オレ、嬉しい!! 蛮ちゃんが、そんなにオレのこと考えてくれてるなんてさー!』
『あーのなー・・』
『蛮ちゃん、大好き!!』
『うわ、運転してる最中に抱きつくなっての! だから、わかったのかよ!? もし、命に関わるような事になったりしたら・・』
『うん! わかったよ、蛮ちゃん! オレ、ナらないでも勝てるように頑張るから! 』
『・・・本当にわかったのか?』
『うん、わかったってば! 雷帝化は、”モロヘイヤ”なんだよね!!』
『ちっともわかってねーじゃねえか! ”諸刃の剣”だっつーんだ、このボケがぁ!!』
『いだだだだ〜!! ごめ゛んなさ〜い゛!!』






オレが。
そばにいてやりゃ、よかったな・・・?
特に、相手がオンナとくりゃあ、余計に危なっかしいのによ。


何、言われたよ?
あんなになっちまうぐれえだから、相当、心も身体もダメージを受けたんだろ。
何があった・・?

まったくよ。無限城で育ったというのに、テメエは、つまんねーとこで純粋培養だかんな。
また、蜘蛛オンナに騙されたか?
いい加減おぼえやがれ。
誰もがテメエみてえに、やさしい、あったけえ心を持ってるわけじゃねえ。
テメエのソレが、まっすぐに、届いていかねえヤツだっていんだ。
その度、傷ついてズタボロになってくテメエを見なきゃならねえ、オレのツラさもちったぁわかれよ?


思いつつ、そっと背中に腕を回して体ごと抱きしめる。
「銀次・・」
愛おしむように、やさしく髪を撫でて、冷たい頬にそっと唇を寄せる。
「銀次・・・」

ずっとこうしててやりてえよ。
テメエの心の傷が癒えるまで。
奪還の仕事なんか、蹴散らして、よ。

コドモみてえな無垢なカオで、寝息をたてているオマエが今はつれぇよ。
出来ることならこのまま、この際何も起こらなかったことにして、事が収まるまでずっと眠らせておいてやりてーな・・。

思って、自分でおかしくなる。
いつからこんな甘ぇ男になっちまったんだろう、オレは。

それでも。
体温が奪われただけで、命まで奪われてかなくてよかった・・。
業火の中で崩れ落ちていくオマエを見た時は、マジでぞっとした。
まさか、オマエを失うのかと・・・・。
力の解放で、オマエの身体まで溶けて消えてしまうんじゃねえかと。
正直、怖かった。




どっちにしても。
あんな無茶な力の放出をしては、当分、フツーに電撃すら出せねえだろう。

こんな状態で。
連れてくわけにゃ、いかねーな・・。



第一、この街の惨状を見て、コイツが正気でいられるワケがねえ。
平気そうなツラしてやがっても、落ち込む時はとことん落ち込みやがるから。
それを気取られないようにしてりゃ、余計にそこに付け入られるスキも出来る。
・・・・危険すぎんな。


とにかく、この爆発で、死人が出てねえことを祈るばかりだ。
もしも、罪のねえ一般人が犠牲になったりしてたら、ましてやそれがオンナや子供だったら、
コイツは一生苦しんで生きてかなきゃなんねえ。
それだけは、どうか・・・。
そんな背負い切れねえような重い荷物を、テメエにだけは担がせたくねえから。

そんな風に、オマエが悲しむ姿なんざ見たかねぇんだよ・・。


「ったく・・・。どこまで、メンドーかけやがんだか・・・」




「・・・!」
近づいてくる足音と卑弥呼の気配に、そっと地の上に銀次を寝かせる。
ずっと抱いててやりてえけどな。
ま、そういうワケにもいかねーかんな。

「蛮・・」
「卑弥呼。どうよ? 被害状況は、よ」
「うん。とりあえず、死者が出てないのが不幸中の幸いだったって。怪我人もほとんどが軽傷で、なんだかこれだけの大爆発の割には、被害に遭った人が・・・ くわしい数まではわかんないけど、少ない方でよかったって。でも、建物の損壊はかなり酷いわ。それと火事がまだ・・。建物が入り組んでるから、消火活動がおっつかないらしくて、新たに応援の放水車が来てた。」
「そっか・・・」

それでも、死人が出なかった事に、とりあえずは心から安堵する。
卑弥呼も、オレが一番知りたかった事を察していたらしく、ほっとした顔で少し離れて横に腰掛けた。

「それより・・・コイツ、大丈夫なの?」
「ああ・・。たぶんな」

あんま大丈夫でもねえだろうが。



それにしても。
雷帝化しても、無限城にいた時以外ではコイツはある程度、力の制御が出来てやがったはずだ。
にも、かかわらず。
こんな大規模に被害が出るほど、制御不可能なくらいの力を出し切ってしてしまうなぞ、どうしても府に落ちねえな。
やっぱ、”裏”が動き出してやがんのか・・。


んなら。
尚のこと。

今のままの、テメエじゃ駄目だ。






「ん・・・・」

小さく身じろぎして、銀次がゆっくりと目を開ける。


「あ・・・れ・・・ ここは・・・?」
不安げにあたりを見回し、オレに気がついて、問うようにオレを見る。

「蛮ちゃん・・・」
「・・・・・・」
「そっか・・・ オレ・・・ また雷帝になったんだ・・・
雷帝になって―― それで・・・」


何も言わないオレに全てを察したのか、愕然としたように、炎の上がる街を見上げる。


痛ぇな・・・。




「銀次ィ・・」


それでも。
テメエに、してやんなきゃなんねえことがある。

ちっとばかり、キツイが。
我慢しろよ。



「!?」

――ガッ!!


いきなり、思いきり殴りつけられて、吹っ飛んだ銀次が驚いたように瞳を見開いてオレを見る。
「・・・蛮ちゃん!?」
「テメェ、調子こいてんじゃねえぞ。あんなガスタンクみてーな危なっかしい違法ビルん中で雷帝なんぞになりやがって!!」
「で、でも殺されかけたし・・・自分でも、何がなんだか・・」
「いいワケすんな!!」
殴られ怒鳴りつけられて、見る見る涙が滲むでっかい目に、心の奥がずきんと痛む。


無限城で初めて出会ったあの日を最後に。
一度だって、こんな風にはテメエに手を挙げたことなんてなかったから。
コッチだってな。
テメエを殴った手が痛ぇんだ。
ばかやろう・・。


抱きしめてやることなんか、いくらでも出来る。
甘やかすことも、今更たやすい。
だけど、それで何になる。
つらかったな、よしよしと、頭を撫でてやって、それでテメエの傷は癒えるのか。



克ちてえんだろ、雷帝に。
だったら、向き合え。
逃げずに、オレに殴られた意味を考えろ。






「オメーは来んな」

「えっ・・・」

「足手まといだ」

「そんな・・。もう、大丈夫だよ!! 身体もなんともないし・・・」



なんともあるだろーが。
自分のコトぐれぇ気がつきやがれ、アホが。


「だったら電撃トバしてみろ。おもいっきし」
ぐっと銀次の手首を掴んで、自分の胸元に引き寄せる。
「え・・・」
「いいからやれよ」
「ちょ・・ちょっと蛮」
「ウルセー だまってろ。やれよ銀次。それとも嬢ちゃん奪り還すってのは口だけか?」
「う・・・」


バカ銀次。
そこまで言わすな、オレ様に。


キツイ台詞に、歯を食いしばるカオが痛々しい。


・・怖ぇかよ、銀次?
電撃が出来なくなってりゃ、テメエはまったくの丸腰状態だ。
まさか、そんなこと・・と恐れを抱いているのが手に取るようにオレにゃわかる。
オレを電撃でブッ飛ばすことより、オレが自信満々にそう言ってることに怯えている。
もしも、本当にそうだったら・・と。


かわいそうによ・・・。


なんて。
オレは今、どんなカオをしてるのだろう。
まさかコッチのが泣きそうな顔してんじゃねーだろな?



銀次が唸るように声を上げながら、オレの胸にある手に力を集中させる。
本来ならこんな距離で、しかも心臓の近くに思いきしの電撃を喰らえば、こっちの命すら危ないとこだ。



・・・が。
予想通り、銀次の身体から、電撃は放たれなかった。


「電撃が―― 出ない・・・」
力がなくなってしまったことに愕然とする顔に、震える瞳に、追い打ちを掛けるように言い放つ。


「どうした。そんだけか?」

まだ・・と言うより先に、掴んでいた銀次の腕の振り払うようにして、路地の向こうにその身体ごとふっ飛ばした。
ゴミ箱がひっくり返り、ゴミがそちこちに散乱する。


おあつらえむきだ。
冷たい言葉を吐き捨てられるにゃ。
似合いすぎな、惨めったらしいシチュエーションだぜ。




「失せろ」


「テメエは、使いモンになんねーよ」





――― 銀次の瞳から、光が消えた。








見ちゃ、いられねえ・・。



力無くへたり込む銀次に背を向け、歩き出す。



「蛮ちゃあああああああん!!」



オレを呼んで、泣き叫ぶ声が背中から刃のように突き刺さる。
捨てられたとでも、思ってやがるのか。


何が「力がなくなったら、一緒にはいられないの?」だ!
アホが。


コッチだって、
大概、ギリギリなんだぞ?
テメエの泣きっ面見て、オレが嬉しいとでも思うのか。
けども、そうでも言わなきゃ、テメエ無理してでもついてくるじゃねーのか?
駆け寄って、「とっとと来い、このバカ!」と手を差し伸べたら、きっと犬みてーに飛びついてくるんだろうが。


テメエの身体がそんなじゃなかったら、
この先に底のない危険が待ってるとかじゃねえんなら。
力があろうがなかろうが、そんなことは関係ねえだろ。
テメエ以外に、オレの隣はいらねぇんだ。
どこへだって道連れにして、力の足んねえ分は、オレが必ず守ってやる。


けどよ、今は・・・。




一旦立ち止まると、銀次を待ってしまいそうな自分がいて、それを振り切るように大股に足早に歩いている後ろから、追いついてきた卑弥呼が呼ぶ。
「蛮・・!」
「・・・・・」
うるせえ。
「ちょっと、蛮」
ウルセエっつってんだろ。
何度も呼ばれて、うるさげに返事を返す。
「・・あ?」
卑弥呼がその振り返った顔に、ため息をついて肩をすくめる。
「どうでもいいけど。カッコつけといて、今更落ち込まないでよね」
「んだと! べ、別にオレはな・・!」
「よく、あんな事言えたもんだわね」
「・・・しゃあねーだろ。足手まといになるヤツを連れていけるようなトコじゃねえ」
「そりゃそうだけど」
「文句があんなら、テメエも別に着いてくるこたぁねえんだぜ?」
「文句があったって、あたしも一応仕事なんだからしようがないでしょ」
「・・・・ケッ」

「でもさ」
「・・・・あ?」
「あんたって本当に」
「・・・んだよ」
「アイツのことが大事なのね?」
「・・・何言ってんだ。このオンナはよ」
「切り捨てる気だったら、あんた、ワザワザあんな事言ったりしないでしょ?」
「・・・・誰がアイツを切り捨てるなんつったよ・・」
「あ、そう」
不機嫌に睨みつけると、あっさりと返された。
それに小さく舌打ちしつつ、さっさと話の矛先を変える。
「・・あ、それよか卑弥呼。猿マワシのヤロー、えれーヤツまで仕事依頼したって話じゃねーか」
「あ、赤屍のこと?」
「ちっと連絡しとけ。どーせ、嬢ちゃん見つからねーうちは運ぶモンもなくて、今ヒマしてやがんだろ?」
「いいけど。なんて?」
「ホンキートンクにウゼェ虫が行きやがるだろーから、始末しとけってな。チャイナストリート焼いといて、体調不良だからって見逃してくれるよーなヤツらじゃねえだろ?」
「つまり天野銀次を護って、体調戻ったら運んで来いってワケなのね?」
「誰も、んなこと言ってねーだろが!!」
「はいはい」
呆れ顔でケイタイを取り出す卑弥呼を横目で見つつ、銀次を置いてきたチャイナストリートを肩ごしにちらりと振り返る。



銀次の叫びが聞こえる。


まだ泣いてやがるのかよ・・。
とっとと、帰れよ、バカ。
糸巻きも、何してやがる。
さっさと連れてけってんだよ。
そこにいちゃあ、危ねえだろーが。




ぎーんじー?

銀次。

泣くな・・・。

いつまでも、泣いてんじゃねーよ。アホが。









ちゃんと待っててやっからよ。


腹いっぱいになって、
ココロもカラダも元気になったら、

しっかり追いかけて来い。


いいな・・!




GETBACKERSの"S"は、1人じゃねーって意味なんだからよ。
テメエがいねえとよ。


1人じゃ、カッコつかねーんだよ。





わかったかよ、このボケ・・!








END






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
思い切りネタバレでスミマセン!
どーしても、どーしても書きたかったので!
実はこういうネタで、夏コミ用の本の小説を考えていた私なのですが。
まさか原作に先を越されるとは・・! 夏コミ本に何を書けと!?(いや、そういう問題では・・)

しかし、スゴイです。
なんだかマガジン18を読んで、こんなに想われてる銀ちゃんが、ちょっと羨ましかった。
でもでも、もしかして「冷たすぎるよ、蛮ちゃん!」と非難が飛んでは蛮ちゃんがかわいそう・・と、つい応援SSみたいになってしまいました。
ちなみに、銀ちゃんが「ん・・・」と気がつくところから、「蛮ちゃああああん!!」の叫びまでは、原作そのまんまです。
どんどん同人の上をいく原作!
最後で赤屍さん登場なのは、実際は、誰が寄越したのかは、まだわかんないです。
でも、電気出せなくなってることを知ってたし、士度が仕事依頼してたのを卑弥呼ちゃんが知ってるはずだから、もしかして・・・とも思ったのですが。アリスちゃん(博士)とかだったら、かなりイヤ・・・。
こればっかはわかりません。同時にいくつも仕事掛け持ちしちゃう働き者のバネさんですから!
・・・・ちょっと間違ってる?
(くわしい感想は、感想ニッキで・・。って、まだ語るのですか、私!)