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風太
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2003年01月31日(金)
mother2



「蛮ちゃあん」
ややあって、夕焼け空を仰いだまま半分居眠っているかのような蛮の隣に、銀次が転がり込むように駆けてきて坐った。
「お、もう終わったのかよ?」
「うん。みんなこれから、ジュクとかに行くんだって」
「へー、ガキも結構忙しんだ」
「勉強とか、大変なんだって」
「ふーん。・・・で?」
「で?」
「勝ったのかよ?」
「トーゼン!」
「ま、ゲットバッカーズのナンバー2が、小学生相手に負けてちゃ、目もあてられねーわな」
「アハ」

夕陽がだんだんに沈んでいき、1つ2つ公園から人影が減っていく。
塾の鞄を肩にかけて手を振る小学生に、銀次が手を振り返して言った。
「ねー、蛮ちゃん」
「ん?」
「ゆうべさ、あ、けさなのかな。めずらしくお母さんの夢みたよ?」
「ふーん」
ああ、それで・・と蛮が思う。
それで明け方、あんなつらそうな顔で眠ってやがったのか・・・。
消え入りそうに、祈るように、「置いてかないで・・」と呟いた声に驚いて目を覚まし、一筋だけこぼれ落ちてきた涙を指で掬い取り、そっと肩を抱き寄せてやると、また安心したように眠った。
そんな夢、見てたのかよ・・。
「時々さ。オレのお母さんって、どんなヒトかなあって最近になって思うんだよね・・ 今までは、そんなこと考えたこともなかったけど。こうやって、小さい子たちと遊んでるお母さんたちを見てっとさ。オレのお母さんも、本当はオレとこんな風に公園で遊んだりとか、したかったのかなあって」
「・・・・・・・・・」
「でもオレが、フツーの子じゃなかったから、それで、出来なかったのかなあって。こんな妙な力があったりしたから・・・」
少し淋しそうに黙ってしまった横顔をちらりと見て、蛮がポケットから煙草を取り出すと、その紙箱を手にした煙草の先でトンと叩いた。
”聞いてやっから、話してみな”というサインのように。
銀次がそんな蛮を見て、小さく”うん・・”と頷く。
「前に、10円クンにさ。オレが小さい頃に無限城に捨てられたことがあるって話、したことあったんだ。その時に、昔はどうして捨てたりしたのか恨んだこともあったけど、今は、ちょっとちがってて、きっと、どうしてもそうしなくちゃならない理由があって、それで、泣きながらオレを置いていったんじゃないかって。そう思うって・・。なんかその時にそう思ったまま言っちゃったんだけど・・・・・・」
それで声をつまらせて、じっと足下の自分の影を見る銀次に、蛮がライターを取り出し、ジジ・・と煙草に火を点した。
一息吸って、空を仰いでふう・・っと紫煙を吐き出す。
「・・・で?」
「あ・・・うん・・。でも、よく考えたらさ。何も無限城じゃなくても、よかったんだよね・・。育てられない理由があったんだとしても、病院とか施設とか、そういうとこでもよかったんじゃないかなあって。生きるよりも、死んでしまう可能性の方が遙かに大きい無限城に、置き去りにしてくってことはさ・・。やっぱり、このまま、もう、ここで、いっそ死んでくれって・・」
「銀次!」
叱りつけるように名前を呼ばれて、はっとなる。
顔を上げて蛮を見、その目が怒っているのではなくて、包み込むように自分を見ていてくれることにほっとして、銀次がふっと笑みを浮かべた。
「・・でもね、そう思っても・・そう思ってさえも・・・どうしても、恨んだり憎んだり出来ないんだ・・ こんな風に、公園で子供たちと遊んでるお母さんたち見てると・・さ」
呟くように言って、そろそろ帰ろうかと砂場で遊んでいたおもちゃを片づけて、帰り支度をしている母子らを見る。
蛮も同じようにそれを見ながら、ややあって、ふいに言った。
「無限城じゃないといけねえ理由でも、あったかもしんねえな」
「・・・え・・?」
銀次が、その唐突な言葉に驚いて、蛮を見る。
「あそこは確かに、捨てられたガキの命の保証なんて全くねえとこだけどよ。猿マワシや紘使いみてーに、外の追っ手から逃がれるには打ってつけの場所だ。・・ガキを逃がして、隠すにも、な」
「蛮ちゃん・・」
「捨てたんじゃなくて、助けようとしたのかもしんねえな、オマエのコト。・・オマエの親はよ」
ぶっきらぼうな口調だが、それでも慰めようとしてくれているのがわかる。
真実など今さら誰にもわかりはしないし、そんな憶測は一時の気休めにしかならないのかもしれないけれど、でも、それを今、蛮の口から聞けることが銀次にはとても嬉しかった。
「うん・・!」
笑顔になる銀次に、蛮が笑いながら、くしゃくしゃっと銀次の髪を掻き混ぜながら言う。
「ま、テメエの母親なら、べっぴんさんで、やさしくて、お人好しな女だろうさ」
「え・・・」
「テメエに似て、な」
言うだけ言って、さっとベンチから立ち上がる蛮に、銀次が思わずばっと頬を染める。
「蛮ちゃん・・!」
呼ぶ声を無視して、蛮がとっとと歩き出した。
「オラ、さっさと来い! なんかメシ、調達に行くぞー」
「え、あ、あ、ちょっと待ってよ・・! 蛮ちゃん!」

「「待ってー」」
銀次の”待って”にハモるように、幼い声が砂場の遊具の上で聞こえた。
「うん?」
立ち上がりかけたまま動きをとめて、銀次が声のした方を見る。
つられて蛮も、声の主を見た。
少し行ったところで、母親らしい人が歩き出しながらそれを待っている。
「早くして、タケシ!」
「ちょっと待ってよお!」
遊具から降りてきた5歳くらいの子が、慌ててその後を追う。
「早くったら、もう! タイムサービス終わっちゃうー」
「あーん、待ってえ」
「さっさとしないと置いてっちゃうよー!」
「待ってたらあ、母ちゃん!」
やっと追いついてきた子を見て、母が軽くポカッとその頭をなぐった。
「ったく、もう。遅いっ!」
「いてえ! もう、母ちゃんてばいたいよお」
それでもその子は嬉しそうに母親の腕にじゃれついていき、母はそれを笑いながら見下ろして、くしゃくしゃと頭を撫でる。

どこかで聞いた(見た)ような、やりとりだ。

「・・・・・・・・・・・・・・」

母と子が仲良く手を繋いで公園を出て行き、すっかり見えなくなってから、その場に固まったままそれをじっと見ていた銀次が、鼻の下を指でこすりながら言った。
「もしかして、夏実ちゃんの言ってたのって、このコトかな・・・?」
「・・・・・・」
苦虫を噛み潰したような?顔をして、蛮が無言になって新しい煙草を取り出す。
「てへv」
「何が嬉しいんだ? テメー」
夕日に頬を染めて、なんだか照れたように笑う銀次を蛮がじろりと睨んだ。
「だって、なんか、へへ!」
「気味わりー笑い方すんじゃねえ」
「だってー。なんか、嬉しいなあって」
「“ガキと母親”に似てるっつわれて、なんで嬉しーんだ?!」
「蛮ちゃん、嬉しくない?」
「嬉しいワケねーだろが!」
“ったく、そんなことかよ、つまらねー。ふざけたことを、あのテンネンが・・”とぶつぶつ言いつつ煙草に火を点ける蛮に、銀次がにこっと笑って、その腕にじゃれついていく。
「蛮ちゃあん」
「あち! あぶねえだろが! んだよ、いきなりなつくな!」
「だって、へへ! あんな風に見えるんだ、オレと蛮ちゃんてv」
「オレは、別に嬉しかねえ!」
「そうなの? でもまー、今更かな? オレにとってはさ、蛮ちゃんはもう“家族”みたいなもんだしさ!」
“家族”という言葉に、心の奥がぴり・・と反応する。
蛮がそれをさりげなく無視して、けれども、しがみつかれた腕は振り解くこともなくそのままにして、仏頂面を装って言った。
「家族、ねぇ・・」
「うん!」
それでも、めいっぱい嬉しそうな顔をされると、つい表情が緩む。
「・・・・ま、そーいえばな。一緒に寝て、一緒に食って。一日中べったり一緒だかんな」
そういうのが別に“家族”というわけでもないのだろうが。
実際のところ二人とも、“家族”なんてものに無縁すぎてよくわからない。
一緒にいて、あったかい。
そういうのを言うのだろうか?
もしそうなら、確かに銀次は、オレにとって・・。
「・・でしょv オレにとって蛮ちゃんは、お父さんでお母さんで、お兄ちゃんで・・・」
・・・・・・。
なんとなく、ちょっと、ちがうような気もするが。
「こういうのさ、“当たらずといえども、トウガラシ”っていうんだよね!」
「“遠からず”だ! ボケ!!」
「いてっ! あ、でも、なんかさ! オレと蛮ちゃんだったらさ。どっちかっていうと、親子ってカンジよか、夫婦ってカンジかな」
「・・あ゛あ゛?! なんだって、オレとテメエが夫婦なんだぁ!? 気色悪ぃコト言うんじゃねー!」
「えー? だってさあ」
言いながら蛮の背中にくるりと回って、甘えるように後ろから飛びついてくる。
・・・なんとなく、嫌な予感がした。

「だって、オレたちってさあ、キスもするし、時々エッチしたりもするもんねー!!」

浮かれているその口を、もっと早くに閉じておくべきだった・・・と、蛮は後悔した。
まだ公園に残っていた親子らと、会社帰りらしきOLたちと、犬の散歩に来ていた老人たちの視線が、その一言にいっせいに蛮と銀次に集まった。

「・・・・・テメーな・・」
「・・・あり?」


「・・今ので、テメエの好感度、だだ下がりだかんな・・・・」



その場は結局、劇の練習だなんだと苦しい言い訳をして、早々に銀次の首ねっこを捕まえて退散し、後で「んな公園のど真ん中でカミングアウトしやがんじゃねえー!! このバカ!」とさんざん叱りつけて、蛮はやれやれ・・とため息をついた。

まあでも。
悪かねえけど。

「家族」と言われたことをふと思い出し、なんだかちょっとくすぐったい気もして、蛮は叱られてしょげてしまった銀次の髪を、またくしゃくしゃっと撫でてやった。
銀次がぱっと笑顔になる。

血の繋がりとか、そういうヤツとは関係なしに、
孤独に堪えきれなくなって、一緒にいるようになった二人が「家族」になる。
ベタな話だが。
そういうんでも、いいさ。
そういうのも、悪かねえ。
かけがえのないヤツが、そばで笑っているんなら。
そんだけで充分だ。


そして、銀次も思っていた。

お母さんのことは、もう考えない。
まあ。時々はきっと、思い出したりはするだろうけど。
オレには、蛮ちゃんがいるから。
ちゃんと「家族」がいるんだもんね。
それだけで、ほら、
こんなに、暗くなって寒くなってきた空の下にいても、
何だか、とってもあったかいんだから。






そして、結局のところ。
心配された(?)公園での銀次の好感度は下がることもなく、どういうわけか、気のせいか、逆に上がってしまったようで。
なにやら「がんばってv」だの「仲良くねv」だの、わけのわからない励ましまで頂戴するようになり、それはそれで、蛮を困惑させたりもした。
銀次は意味もわからず、「ありがとうv」だの「うん!」だの答えて、また蛮のゲンコを喰らう羽目になったけれど。










END







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

銀ちゃんのお母さんというか、親の話はちっとも原作でも出てこないので書いていいものかなと悩みましたけど。
それを言いかけると何もかけなくなるGB(謎多すぎ・・。でもこの「永遠の絆〜」編で大分解き明かされるのかな)なので、いろいろ想像して書いてみました。
ちょっと「女神の腕〜」の時に銀ちゃんの台詞であった、「あんたたちは兄弟だよね。だったら案外わかんないもんさ。身内には見せたくない姿が誰にだってあると思うし・・」っていうのが気になってるのですけど。何か含みがあるのでしょうか?

でも、本当に書きたかったのは、母親のことじゃなくて、今は蛮ちゃんという「家族」がいるんだよねv よかったねv ってことなのです。
なので、タイトルは「マザー」ではなく「ファミリー」でもよかったんだけど、なんとなく、それはちょっと・・な気がしたので、やっぱり「mother」に。




2003年01月30日(木)
mother1

めずらしく、その日は母親の夢を見た。
といっても、自分に母親と呼べる人がいたのかどうかさえ、
実のところ、よくわからないんだけれど。
夢の中で、母らしいその人は、オレを離れたところからじっと見て、
哀しみとも、憐れみともとれる瞳でオレを見つめ、さっとその目をそらした。
長くは見ていたくないと、いうように。
手をのばせば届くくらいの距離にいるのに、オレにふれようともせず。





「おら、行くぞ! 銀次」
「あ! 待ってよー、蛮ちゃん!」
「おっせー。グズグズすんな!」
「いてっ」
HONKY TONKのカウンターから先に席を立った蛮が、振り返らずに乱暴に言い放ち、それでも店の扉の前で一応慌てて追いかけてくる銀次を待ち、追いついてきたところをポカッとやる。
それでも、銀次は嬉しそうに「えへへ」と笑って、その腕にじゃれついていき、またぽかっと殴られた。
すっかり日常風景となっているそんな二人のやりとりに、カウンターでそれをにこにこと眺めていた夏実がふいに、「そっかー」とポンと両手を合わせた。
「あ゛?」
「んあ?」
「そっかあ、そーだったんだ・・・。わかっちゃったあ」
やっと何かを思い出したというような満足げな夏実の顔に、隣にいる波児と、扉の前の蛮と銀次が「なんだぁ?」と顔を見合わせる。
「蛮さんと銀ちゃんのカンケーって、何かに似てるなあって、ずっと思ってたんですよねー」
「・・・あんだぁ、そりゃあ?」
いぶかしむような顔で、蛮がじとっと夏実を見る。
波児が、笑って言う。
「いじめっ子と、いじめられっ子かい?」
「えー、ひどいなあ、波児さん」
確かに言えてっけど、と銀次がこぼして、また蛮にボカ!と殴られた。
「やだなー。ちがいますよぉ」
くすくす笑っている夏実に、今日はどんなボケた発言が飛び出すかと、持っていた新聞の上から期待に満ちて覗く波児の顔は楽しそうだ。
「で? 何だったんだい? 夏実ちゃん的には」
「ああ、それがですねえ。じゃあ、発表しまーす! じゃじゃーん! ”お母さんと小っちゃい子”!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・はあ゛?」
「んあ?」
「ぴったりでしょう! 我ながら、うまいたとえだと思うんですよねー」
「・・・・・・・・やっぱ、天然だな、オメエ・・」
「はい?」
「ねえ、夏実ちゃん? ソレって、子供はオレ?」
「そう!」
「ってことは、蛮ちゃんがお母さん????」
「そうそう!」
「・・・・・・なーんでオレがお母さんなんだあ!? あ゛あ゛!? バッカバカしい! お子ちゃまの言うことにゃついてけねーぜ、ったく! オラ、行くぞ銀次!」
憤慨したカオで、銀次の襟首を後ろからひっぱる蛮に、波児が低く笑いながら言う。
「いや、でもまあ、言い得て妙というか、当たらずといえども遠からず、というか・・。銀次が無限城から出てきたばっかりの頃って、結構お前、献身的に銀次の世話やいてたもんなー」
「出てきたってなんか、オレ、ムショ帰りみたいだよ、波児さぁん」
情けない声で言う銀次に、蛮がちょっとキレ気味に反論する。
「あん時ゃ、コイツが右も左もわかんねーバカだったからしようがなく、だ!! 別に献身的っつーほど、世話やいてたワケじゃねえ! ま、もっとも、バカは今でもちっとも変わんねーけどよ」
「ひどい、蛮ちゃん!」
「ウルセエ! ・・んじゃな! ほら、さっさと来い、銀次!」
過去のコトをほじくり返されてはたまらないとでも思ったのか、蛮がとっとと店の外に出ていき、襟首から手を離された銀次がちょっと慌ててそれを追う。
「じゃあね、波児さん、夏実ちゃん! あーもう、待ってってば、蛮ちゃん!」
慌てて店の外へと、蛮の背中を追いかける銀次を、「ほーらね、やっぱりそうですよー」とニコニコ顔の夏実が見送った。
波児が、カウンターに置かれた蛮たちのコーヒーカップを『やれやれアイツら・・』と下げながら、笑いを漏らす。
そして、「で? どういう意味があるんだい?」と、洗いものの準備をしている夏実に興味津々に問いかけた。
「ああ、それなんですけどねー」



「でもさー。いっくら考えても変だよねー。蛮ちゃんが、お母さんてさ」
「あったりめーだ」
「お父さんだったら、まだしもね」
「そういう問題じゃねーだろが」
「そっか」
「何考えてんだか、よ」
「だねー。 まあ、夏実ちゃんって、ちょっと天然ボケ入ってるからねー」
「テメーが言うか? そういうのをな、銀次。目クソ、鼻クソを笑うっつーんだ」
「んあ? どういう意味? ねえ、蛮ちゃん、オレが鼻クソってこと?」
「じゃあなくてなー」
「んじゃ、オレ、目クソなの! ひどい〜!」
「あ゛?? なんで鼻クソより目クソのがひでぇんだ?? あー、なんかテメエと会話してると、オレまでアホが感染しそうだ・・! つまり、どっちもどっちだってコトだよ」
「あん? どっちもキタナイってコト?」
「ああ、もう! まーいいけど、ドッチでもよ!」

いつのまにか、公園の駐車場にスバルを置いて、そこで寝るのが常になってしまっていた。
とりあえず駐禁はまぬがれるし、タダというのが何よりだったし。
それでというわけではないが、夕暮れ時にはこうやって、二人で公園のベンチでぼけっと過ごすのも、また日課になりつつあった。
缶コーヒーを片手にとりとめもない話をしつつ、広場でサッカーをする子供たちや、砂場で遊ぶ母子をぼーっと見ていると、なんだか妙に所帯じみた気分になって、蛮は最初こそそれを嫌ったが、それもいつのまにか慣れてしまった。

ふいに、サッカー少年の1人が銀次に向かって手を振った。
「ねー銀ちゃーん! サッカー、オレのチーム1人足りないんだけど、また入ってくんない?!」
「えっ!? ああ、えーと。蛮ちゃん?」
声をかけられ、ちょっと驚いた顔をしつつも蛮を見て、”いい?”と尋ねるような表情をする。
”おう、行ってこいよ”とコトバにはせず蛮が頷くと、「うん!!」とはじかれたように笑んで、コーヒーを一気に飲み干しゴミ箱に投げ入れて、嬉しそうに子供たちに向かって走っていく。
「やったあ、銀ちゃん。頼むねー!」
「うん、まかせてーv」
「あー、銀ちゃん入れるなんてズルイぞー! んじゃさ、ハンデに、こっちにあと3人くれよ!」
「3人? うーん、ま、いいか」
「じゃあ、やろうぜ!」
「よぉし」
「銀ちゃん、あんまりムキになんないでよね!」
「わかってるよv」
小学生に言われてやがら。と、蛮がそれを見ながらくくっと・・と笑いを漏らす。
もっとも、はしゃいでボールを追いかけている姿は、まるきり小学生と変わらないのだが。
楽しそうな笑顔に、こっちもついつられて笑みを浮かべてしまう。
蛮は、照れ隠しのように、指の先でグラサンをちょっと上げた。

フシギなヤツだ。

銀次のそばには、こんな風にいつも自然に人が集まってくる。
子供たちがいつのまにかなついてきたり、小さな子たちまでもが銀次の後ろにくっついてくる。
最初、ヒソヒソと怪しいモノを見るような目で見、遠巻きにしていた母親らにまで、最近では「こんにちは」と挨拶されるようになってしまった。
公園にアルミ缶を集めにくるホームレスたちともすっかり顔なじみになって、時には食べ物を分けてもらったりまでする。
さらにはこうやってベンチに腰かけていると、猿回しのおトモダチなのか、鳩さえも、食べるものもないのに警戒せず近寄ってくきやがるし。
いったい、コイツからは、どんなオーラが出ているんだろう。
蛮は、時々、不可思議に思う。
そして、そんな銀次の隣にいるせいなのか、自分にも気安く声をかけてくる者が多くなった。
1人でいた頃には、有り得なかったことだ。
声をかけてくる者どころか、視線を合わそうとする者さえいなかった。
見てはいけないものを見てしまったように、さっと視線を反らすもの、あからさまに嫌悪を示すもの、そうでなければ怯えてびくびくしているような、そんな目・・。
そういう視線に晒されることに、慣れていた。
別にそれを憎んだり、ましてや悲しいとかどうとか思ったことはない。
ごく、当然のことだと思っていた。

呪われた右腕と邪眼を持つ男。
忌み嫌われて、当然だ。


「アメ、あげるー」
煙草を吸っていた蛮の前に、とことこと2歳くらいの女の子(オンナかな、コレ)が歩み寄ってきて、蛮にアメを差し出した。
「あ゛?」
驚いて、思わず煙草を落としそうになってしまった。
「タバコ、おノドいたくなるでしゅよ? あいv」
「・・はい?」
差し出されたアメについ手を出して受け取ると、女の子がにこっと嬉しそうに笑ってほっぺを真っ赤にする。
手に置かれたアメを見ると、「かりんのど飴」とか書かれているから、つい笑ってしまう。
リボンを結んだちっちゃい頭に、怖がらせないようにそうっと手を置いて、蛮が微笑んだ。
「ありがと、な」
「うん!」
女の子は満足げに笑むと、踵を返してぱたぱたと向こうで待っている母親の元へ帰っていく。母親は、蛮を見ると微笑んで小さく会釈し、そのまま小さい手をとって歩き出した。
それに笑みを返し、自分で自分に照れて、らしくねぇと空を仰ぐ。

逆によ。
こういうのの方が、慣れねえんだよ・・。


ボールを追いかけつつも、それを盗み見ていた銀次が、くすっと小さく笑みをこぼす。

あたたかい笑顔、あたたかい夕暮れ。
こんな何でもないことがひどくシアワセだ。






2につづく





2003年01月23日(木)
トラブル・チャイナストリート

永遠の絆を奪り還せ!8 のチャイナストリート・ミニコントです。ネタバレ注意!



「マドカちゃんは、奪り還す。士度と約束したんだ」

「・・・・・・」  <白紋、銀次に惚れたか?>
無限城、東南ブロックのチャイナストリートの先を見据え、銀次が誓うように静かに言った。
それを無言でじっと見、縄で拘束された捕獲状態の白紋が返す。
「やられるね」
「いや、大丈夫」
「いや、絶対やられるね」
「いや、絶対大丈夫!!」
銀次と白紋のやりとりから、ちょっと遅れる蛮に気づいて銀次が振り返った。
「・・・何やってんの? 蛮ちゃん?」
「お・・おい、あれ・・・」
蛮がそう言った先を見ると、巨乳の美少女が3人、客引きのように通りの横でなまめかしいポーズを取っている。
「い〜い乳だ。いや実に・・」
蛮がさも嬉しげに言った途端。
ズゴォンッ!
蛮の後頭部は、銀次の手に突如現れたハンマーでしたたか殴られていた。
「あにすんだ、テメー!!」
「マジメにしましょう。マドカちゃんの一大事なんですから!! たしかにカワイイ女の子ですが!!」
恐ろしくもデカイ顔のタレ銀に押されて、一応、蛮がフォローに回る。
「ジョークだよ、ジョーク・・ でもあの乳は揉まれるのを待ってるぞ?」
「本気で怒るよ?」

<ここから、妄想炸裂>

「ったく、いちいちチチぐれーで、うるせーんだよ。だいたいテメエ、ここんとこ、なーんかやたらとオレに態度デカかねえか?」
「蛮ちゃんが、マジメにやってくれないからでしょ!」
「マジメにやってやってんだろーがよ、こんな無限城くんだりまで来てよ。ちょっと、チチ見たぐれーで文句抜かすな!」
逆ギレ発言に、銀次がちろっと蛮を睨む。
「蛮ちゃんはね・・!蛮ちゃんはね!! この大変な時に、マドカちゃんの奪還と、女の子のチチといったいどっちが大事なんだよ!」
「・・・・・・・・チチ」

しーん

「〜〜〜〜あーあ、そうですか、わかりました!! そうだよね、蛮ちゃんは士度の依頼なんかより、チチの方が大事なんだよね!」
「って、オメーなあ。冗談だっつってんだろ!」
「いいよ、もう! だいたいにして、今だに気乗りしてないみたいだし、なーんかオレが頼んだから仕方なくって思ってんでしょ!」
「んなこと言ってねーだろが!」
「もお、いっつもチチ、チチって!」
「なんだ、テメエこそ、女のチチを目の敵にしやがって!? チチに罪はねえだろが!」
「ないけどさあ、蛮ちゃんのそのこだわりがねえ・・!」
「しつけーなあ! 悔しかったら、テメエもでけえチチになってみろ!!」
「・・・!」
蛮の一言に、銀次がぐっと口をつぐんだ。
「テメエの、筋肉しかねえ、真っ平らなムネさわってたって、面白くもなんともねえんだよ!」
尚も追い打ちをかけるような蛮の毒舌に、銀次がフイと蛮から背中を向けた。
「・・・あっそ」
「あ゛?」
「わかったよ! 蛮ちゃんがそんなに言うんなら・・!」
なんとなく、ちょっと語尾が震えたりしているような気がして、さすがに言い過ぎたかと、蛮もちょっと声を落とす。
「・・・そんなに言うんなら・・あんだよ・・」
「・・わかったよ、よーくわかりました! 蛮ちゃんは、男のオレなんかより、いいチチしてる女の子だったら誰でもいいんだよね!!」
「そんなこと言ってねーだろが!」
怒鳴りつけて、背後から腕を取るなり、銀次がそれをばっと振り払う。
「離してよ・・!」
「んだよ、いい加減にしろよ! テメエ」
「もういい・・! 蛮ちゃんなんか、大嫌いだーー!!」

ぴきーん

「だ・・・・・」
だいきらい・・・・って。
さすがの蛮も、ショックで固まる。
「もう知らない!」
その間に、銀次はとっととストリートの向こうへと走り出してしまっていた。
「ちょっ、ちょっと、ちょっと待てえ!! おい、嬢ちゃんはどーすんだ! オイこらああ! 戻ってこい、銀次ー!」

行ってしまった銀次を呆然と見送って、蛮がやっとして我に返ってぼそ・・と呟いた。
「ったく、あのアホ」
「あーあ、かわいそーに・・」
縛られたまま肩をすくめる白紋を、蛮が思い切り不機嫌に振り返る。
「テメエなんぞに同情されたかねーわ!」
「テメエに言ってんじゃねー。あのカミナリのニイチャンのコトだ! ちらっと見えたけど、泣いてたぜ・・」
「う・・」
「あんな可愛いのに、何が不満かねー、アンタ」
責めるように言われて、さらにうっとなる。
「んだよ、別にテメエにゃ関係ねえだろが! ボケが! 第一、なんで泣かなきゃなんねーんだよ! チチ見るくれえで、何でそんなに」
「・・・アンタら、デキてたんだな・・」
しみじみ言われると、返答に困る。
毒蜂に続いて、こんな三下にまでバレてしまうとは・・。
「・・・・・・・・だったら、何だ」
「そりゃあ泣くわなー。あんな、でりかしーのないこと言ってちゃ」
「・・・・・だから、あんだっての!」
「オトコにチチはねーからなあ。いづれ、自分よかオンナの方がいいって言われんじゃねーかって思ったりすんじゃねーのかなー」
白紋のコトバに、蛮がはっとし、いきなりだらだらと汗を流しだした。
「・・・・・・・そ、そんな、あのアホが、そこまで思うたぁ・・」
「追いかけなくて、いいのかねえ」
「べ、別に! どうせ、すぐに反省して帰ってくるにちがいねえ!」
「ふーん・・・。でもあのニイチャン、東ブロックに向かってったぜ?」
「そ、それが、どーした」
内心焦っているのが見え見えの蛮に、今までの仕返しよろしく白紋が楽しそうに言う。
「知らないのか? 東ブロックってのはなあ、ヤミ医者が多いんだ」
「・・・・だから?」
さらにぼたぼた汗を落としている蛮に、にやりと笑う。
「性転換手術とかを、安くで引き受け・・・・」
「銀次ィイイイィイイイイイーーーー!!!!!!」
コトバの終わりを待たずに、凄まじい早さで突進していく蛮を、白紋がぼーぜんと見送った。
「早ぇな・・・」


「ところで、オレはどーなるんだ?」
1人、チャイナストリートに残された白紋は、巨乳の美少女を前に、ぼけ〜っとその場に立ちつくしていた。


「それにしても、あのカミナリのニイチャン、可愛かったなあ・・・v」



END


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日(1/22現在)発売のマガジンを読むなり、感想よりも先に書いてしまったミニコント?
白紋は絶対銀次に惚れたと見た・・!(おい)
妄想炸裂する前までは、ちゃんとマガジンのそのままの抜粋です。
その後は、ひたすら暴走でした・・。
いや、本当は銀ちゃんはいなくなったりせず、蛮ちゃんといっしょに巨乳の美少女に鼻血出したりしてましたけど(笑)
なんか、「銀ちゃんが蛮ちゃんを(ハンマーで)殴ったあ!」というコトに驚いて、ついこんなSSに!
30分ぐらいで書けちゃいましたv 楽しかったv
またマガジンを読みつつ、ネタがあったら、ミニコント(?)にしてみたいです。