「蛮ちゃん!!」 「おう、銀次」 「おかえりー! 何も言わずにどっか行っちゃったから心配したんだよお」 ホンキートンクに入るなり、子犬が尻尾を振って飼い主を見つけて駆け寄ってくるような、満面の笑みで腕に抱きついてくる銀次を、蛮がやれやれ・・という顔で見つめた。 「大のオトコが、んなことで、いちいち心配すんじゃねーよ」 「アンタが、ほってくからでしょー」 横から、カウンターに頬杖をついて、ヘブンが呆れたように言う。 「よお、ヘブン。おっ、何だよ仕事かぁ?」 「ちょっと、士度クンのことで話があっただけよ。そしたら、銀ちゃんが”蛮ちゃんがいない〜”って」 「だって、こんな時だし・・。心配だったんだもん・・」 「ちょっといなくなったからって、本当にテメーはよー・・」 コドモのような目で見つめてくる銀次に、蛮がコツンとその頭を拳で殴りつつも、やさしい目をして笑みを浮かべる。 それに、安心したように銀次が笑った。 「ちょっとやーね! アンタたちって! 何、人前で堂々とオトコ同士でいちゃついてんのよ!!」 蛮の後ろから扉を開けて入ってくるなり、いきなり目に入ってきた蛮と銀次のじゃれている姿に、ムッとしたように卑弥呼が怒鳴る。 「あら、レディポイズン。蛮クンと一緒だったの?」 「別にィ。ちょっとソコで会っただけよ」 「ふうん」 「ちょっと何よ、仲介屋! 喧嘩売ろうっての!」 「喧嘩って、アタシは別に何も言ってないじゃない!」 「今なんか、言いたげにさ!」 いきなり、噛み付きだしたオンナ二人に、ぎょっとしたように慌てて銀次が(よせばいいのに)止めに入る。 「ちょ、ちょっと二人とも、なんで会っていきなり喧嘩すんのー。仲良くしようよ、ねっ。卑弥呼ちゃんも」 「気安く呼ばないでよね! だいたい、なんでアンタに”卑弥呼ちゃん”なんて呼ばれなきゃなんないのよ! 気持ち悪い!」 「き、気持ち悪・・」 「ああ、もう、アンタのそういう間抜けツラ見てっと、なんかむっしょーに腹がたってくるわ!!」 「・・・かなり機嫌悪いわね。アンタ・・ オトコにでもフラれたの?」 「うるさい! 関係ないでしょ、この乳デカ女!」 「な、なんですってええ! それは、胸のナイもんのヒガミってもんでしょーが!!」 「何ィ!?」 「やる気?!」 「上等じゃない! オモテ出なさいよぉ、オモテー!!」 「・・・・・あ、あの」 「いいから、ほっとけ、銀次」 「え、でも、蛮ちゃん」 「いいからいいから。んじゃな、波児」 「お、おい蛮! なんとかしてくれよ、おい!」 波児の助けを求める声をシカトして、銀次の腕をひっぱって蛮がとっとと店を立ち去るべく、扉に手をかける。 「で、でも蛮ちゃん」 「おら行くぜ、銀次」 「あ、でも、なんで卑弥呼ちゃん、あんなに怒って・・・」 「知らねーよ。ハタ日なんじゃねーのかあ?」 「は・・・?」 「ほら、オンナはよー、月に一回・・」 「蛮―――!!!」 蛮の台詞にかぶるようにして、真っ赤になった卑弥呼が怒号を上げる。 蛮はそれにけらけら笑いながら、銀次をひっぱったまま、店の外に出た。 「怖ぇ・・。おら、行くぜ」 「え? うん・・・」 まだ何か言いたげな銀次の後ろで、物が壊れる派手な音がして、波児の悲鳴がこだました。
スタスタと行ってしまう蛮を追いかけて、スバルの駐車場所まで辿り着くと、さっさと運転席に滑り込む蛮に慌てて銀次もそのサイドシートに転がり込む。 そう、自分の指定席に。 「何、慌ててんだよ?」 「え? だって・・。置いてかれるかと」 「バカ。置いきゃしねーだろ?」 「・・うん」 いつになくやさしく言われて、銀次がちょっと驚いた顔をして、シートに坐ってベルトを締める。 蛮は、どこに行くとも告げるわけでもなく、車を発進させた。 走り出す車の中で、銀次が蛮を見ながら、ちょっと悲しそうに言う。 「ねー、蛮ちゃん」 「あ?」 「卑弥呼ちゃんはさー、どうしてあんなにオレのこと嫌うのかなー?」 唐突な問いに、蛮が驚いたように銀次を見る。 「別に。単に虫の居所が悪かっただけだろ?」 あっさり返され、ちょっともじもじしながら、銀次が蛮を見た。 「・・でもさー。あ、、さっきまで一緒だったんでしょ? 何か言ってた?オレのこと」 「いや、仕事のハナシしてただけだ。色々、あんだよ、運び屋業界ってヤツもな」 「そっか・・・。でもさ、卑弥呼ちゃんってさ、蛮ちゃんのコト好きなんだよね?」 またしても唐突な問いに、蛮が思わずアクセルを踏み込んでしまい、車がギギィインといきなりスピードを増す。 何をいきなし言いやがるんだ? 卑弥呼よりも、精神年齢じゃ全然お子サマの癖しやがってよ・・! と、内心焦りつつ、思わず怒鳴る。 「あ゛あ゛?! 何言ってんだ、テメー! んなわけねーだろ、アイツとオレとは兄妹みてーなもんだしよ!」 「でもほら、蛮ちゃんが、そうでも卑弥呼ちゃんはさー・・。だから、いつも一緒にいるオレが疎ましいっていうかさー オレがいるから、蛮ちゃんと二人きりになれないし・・」 ・・・へえ、オメエにしちゃ、えらくマトモな考察だ。 まあ、そんなとこもあるだろーが、本質的にゃそういうコトじゃなくて、だな。 言いかけて、次の銀次の一言に、蛮ががっくりと肩を落とした。 「蛮ちゃんも、オレがジャマな時あったら、遠慮しないで言ってよね? オレ、鈍感だから気がつかなくてさ」 ・・・・ほら、やっぱりはき違えてやがる・・・。 卑弥呼が仮にオレに惚れてるとして、そんで八つ当たりされてるってのは、確かにテメエが原因なんだが、なんでそういう結論になるよ? オレの気持ちがどっち向いてるとか、そういうハナシにゃ、ならねーか? この鈍感! 「いてっ!! な、なんで、いきなり殴るの〜!」 「なんか、ムカついた」 「なんかって、ねえ・・・!」 殴られた頭を押さえて蛮の方に身体を向けて、銀次がちょっと何かに気づいたような顔になる。 後部座席から、卑弥呼の香水の匂いがする・・。 ・・あれ? オレいなかったのに、何で後部座席?? 隣に坐らなかったのかな?卑弥呼ちゃん。 思って、つい、不思議そうな顔で蛮を見た。 「・・・・んだよ」 「え・・・・あの」 「言いたいことがあったら、はっきり言いやがれ!」 怒鳴られて、思わずビクついて、ついつい思っていることがそのまま口から出てしまう。 「あ・・・あの、蛮ちゃん。蛮ちゃんて、オレいない時も、誰かスバルに乗せる時は、ココに誰も座らせないんだって、ヘブンさんが言ってたけど・・・? それって」 銀次の口からついて出た言葉に、蛮が思わずムッとなる。 ・・・ヘブンのヤツ、余計なことを・・! 思いきし、チチ揉むぞ、テメー。 事実とはいえ、本当のことだけに、誰かに指摘されるとどうにもこうにも腹が立つ。 「運転してる時に、隣に誰かいやがると気が散んだよ!」 「え〜!ってことは、オレも後ろに行った方が・・」 「だ〜! そうじゃなくてよ!」 「だって、気が散るって」 「だからよ、最後まで聞けって、このドあほ!! テメエ以外のヤツがそこに坐ると、なんかわかんねーけど苛ついちまうって、そう言いたいんだよ、オレは!!」 蛮にがなられて、銀次がきょとんと目を丸くする。 「オレは・・・いいの?」 「ったりめーだろが」 「なんで?」 「なんでって。テメエの指定席だろが、ソコは!」 言うだけ言って照れたように、暗くなってきた運転席側の窓にフイと顔を背ける蛮に、銀次が呆然としたようにそれを見つめ、それからゆっくりと笑顔になる。 「・・・蛮ちゃん・・」 「オレ様の隣にそうやって居すわってられんのは、テメーぐれえのもんだ。光栄に思えよ」 「うん!」 ハンドルを右にきりながら、隣のシートをちらっと見る。 ・・たく、嬉しそうな顔しやがって。意味わかってんのかよ? それから、たぶん銀次のことだから、訊きたくてもきっと聞いてこないであろうコトも、ついでだからと一緒に答える。 「卑弥呼んことは・・・・オレにとっちゃあ、親友の忘れ形見みてえなもんだから」 「うん・・」 「気にすんな」 「蛮ちゃん・・」 「あれで、結構テメエのことは気にいってんだ。意地っ張りなのと、ちょっとヤキモチやいてやがるだけさ」 「・・・うん。だったらいいけど・・・・ あ、でも、きっとそうだね」 「ああ」 蛮の言葉なら何でも信じると、そう言いたげに頷く銀次にやさしい瞳を返して蛮が言う。 「なあ、銀次」 「ん?」 「オレの隣は、テメエの指定席だっつったろ?」 「うん!」 「誰かに譲れとか言われても、安請け合いすんじゃねーぞ。オレは、ぜってぇに、オメー以外のナビなんていらねーんだかんな!」 蛮の強い言葉に、弾かれるように銀次が頷く。 「うん!!」 それに満足げに笑みを返すと、蛮がハンドルを持つ手を持ち替えて、左手でくしゃくしゃと銀次の髪を掻き混ぜた。 そして、思う。 ま、ナビっつっても、地図もロクに読めやしねーんだけど。 どっちが北か南かもよくわかってねえしよ。 それでもいいんだ、そういうポンコツナビでも、コイツがいいんだ。 どんなに狭い車で、肩の触れ合うくらいの距離にいても、1人で乗ってる以上に、銀次の隣でハンドルを握るのは心地がいい。 「蛮ちゃん・・」 「あ?」 「あんがとね?」 「何言ってんだ、バーカ」 肩をすぼめるようにして、ちょっと頬を染めて満面の笑顔の相棒に、蛮はやさしげに微笑むとコン!とその頭をこづくと、照れ隠しのようにアクセルを踏み込んだ。
・・・スバルが、夕闇の街の中に消えていく。
「しかし、アンタもまー、惚れた相手が悪かったわよねぇ・・」 「あ、あたしは別にさー!」 「まーしょーがないじゃない。アイツらは、二人で1人みたいなとこあるからー」 「・・・・・・・・・・」 「でも、まー。アンタもさあ、レディポイズン。けっこうカワイイんだし、もーちょっとその意地っぱりで気の強いとこ何とかしたらさあ、なかなかイケてると思うけどなー」 「そ、そう? そう・・かな」 「そうよ! これからよ、これから! これからアンタが、どんどんイイ女になってきゃあ、そのうち蛮クンも振り向いてくれるわよ」 「う。うん・・!」 「ま。今夜は飲み明かしましょーよー つきあって上げるからさあ」 「そ、そうね。アンタ、見かけによらずにいいヒトよね、仲介屋!」 「見かけによらずは、余計だけどねー」 すっかり夜も深まって、あれからなんだかんだと言いつつ、酒を開けだしたオンナ二人は、同じような会話をぐるぐる繰り返しつつ、すっかり上機嫌に出来上がりつつある。 「ねー、これからさあ、アイツらも呼び出してやんないー?」 「おっ、ソレいいわねえ、仲介屋! 呼び出して、たんまり飲ませちゃおうかー」 「そうよ、それで、オトコ二人の赤裸々な日常生活を聞き出すのよ・・!」 「ば、ばっかじゃないの、何言ってんのよ、このオンナー!」 「だってさあ、オンナ寄せ付けない上に、車で二人で生活してんのよお、絶対アヤシイって!」 「やめてよお、ヤラシイわねー、アンタってー!」 「何もヤラシイことなんか言ってないじゃーん、何考えてるのよお、アンタってば。ひゃははは・・・」
妙なことで盛り上がり、しかもすっかり壊れている女二人に、カウンターの波児はすっかり声を掛けそびれたまま、隅から隅まで読み尽くした新聞を、また1面から読み出して、深々とため息をついた。
「というか、お二人さん・・・。とっくに閉店時間は過ぎてるんだけどな・・・・」
END ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長いわりには、中身のないハナシですみません〜! 2002年最後に書いたのがコレかと思うと、ちょっとなんだか・・・。 基本的に卑弥呼ちゃんは好きなんですよv つか、ヘブンとの組み合わせが好きv いや別に、CPとかそういうのではなく!(笑) 単にオンナ二人で、結構喧嘩しつつも仲がイイみたいな感じでv 卑弥呼とヘブンの、蛮銀ウォッチングみたいなハナシもまた書いてみたいなあv ええっと、このハナシでは何が書きたかったかというと、卑弥呼ちゃんに銀ちゃんをノロケる蛮ちゃんと、いつも女の子がのっても絶対スバルのサイドシートは銀ちゃんが坐ることから、あそこって銀ちゃんの指定席なんだなあと思ったことと。 (つか、蛮ちゃんが銀ちゃん以外すわらせないってコトだもんね、そこんとこ萌えv 銀ちゃんはきっと女の子にゆずると思うんだよねー ヘブンにしても卑弥呼にしても夏実ちゃんにしても。 でも蛮ちゃんが、「テメエはそこに坐ってろ!」とか言うんじゃないかなーと、勝手に思ってみたりして) 銀ちゃんのことも、何気に妹的に心を許している卑弥呼ちゃんには、いろいろ話してくれるんじゃないかなあと。 ま、卑弥呼ちゃんにはいいメイワクなハナシでしたが(笑)
なんだか締まりのないお話でスミマセン・・。反省。
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