JIROの独断的日記 DiaryINDEX|past|will
◆これほど文章を書いた音楽家は少ないと思います。 私の日記で、音楽関連の記事には、非常に頻繁に 岩城宏之さんが、書いていたが と言う言葉を使いますが、これは、中学生から大学生まで、私が音楽、とりわけ オーケストラの音楽に興味を持っていた頃、岩城さんの本を沢山読んだからです。 といっても、岩城宏之さんの本の多くは「エッセイ集」で大真面目に音楽を取りあげた本は むしろ少ないのですが、所々にオーケストラ、或いは指揮者のウラ話、が書かれていて、 私にとっては、つくづく面白い文章だったのです。 そして、多分、世界中見回しても、現役バリバリの音楽家で、音楽活動をしながら、 岩城さんほど、大量の文章を残した人はいないのでは無いかと思います。 私は出版業界についてもド素人ですが、多分、今の週刊誌の編集長が聴いたら気絶するのでは ないかと思うことがあります。 岩城さんは世界中を指揮して飛び回り乍ら、「週刊朝日」に毎週エッセイを書き続けたのです。 今でも文庫本になったのが、入手できます。 棒ふり旅がらす (朝日文庫)です。 「落ちた」(休載した)ことは無いはずですが、何が「今の編集者なら気絶」かというと、 これは1982年から1983年にかけて連載したのですが、タイトル通り、岩城宏之さんが、 世界中を指揮して飛び回り乍ら、原稿を編集部に文字通り「送った」のです。 当時、勿論、インターネットなどありません。FAXも無いところがあったそうです。 そういう場合は、とにかく岩城さんは、年中世界を飛び回って顔が広いので、知り合いの商社員などで 海外出張中の人に生原稿を手渡し、週刊朝日編集部に届けてくれと、頼むのです。 その他に、 ハニホヘト音楽説法 全て、私は面白かったので、お薦めしますが、皆さんにとっても面白いか否かは 無論、保証致しかねます。悪しからず。 ◆岩城宏之さんは、失礼ながら、今だったら、プロの音楽家になることができなかったでしょう。 今、例えばプロのヴァイオリニスト(オーケストラ・プレイヤーだろうが、ソリストだろうが)は、多分 ◆学習院で「小出先生」に出会う。 やがて、お父さんが東京に転勤となり、岩城宏之さんはどういういきさつか、 「安川加寿子という人がピアノを弾くけど、あの人は日本でいちばんうまい人だが、あの人の見どころはお辞儀なんだ。 その「解説」があまりにも面白いので、岩城さんは、演奏会当日最後まで飽きずに音楽を聴くことができたそうです。 岩城さんは、 これが、もし、面倒な解説を押しつけられ、後で感想文など書かされたら、音楽嫌いになっていただろう と書いていますが、その通りですね。 さて、ある時、小出先生が音楽の授業の終わりに、 何でもいいから楽器が出来るものは次の時間に持ってきなさい と言いました。 次の音楽の時間、学習院のお坊ちゃん、お嬢様のピアノ、ヴァイオリンに混じって、 岩城さんは例のオモチャの木琴で、おそるおそる、モーツァルトの「トルコ行進曲」を弾きました。 勿論、一番上の旋律を叩く訳ですけれども、楽譜も読めず、全くの独学で、そこまで弾けるようになっていた ということは、やはり才能でしょうね。 演奏がおわったら、小出先生が言いました。 もうじき君たちの学年の送別会がある。その時に君は今のを弾けよ 送別会当日、ピアノやヴァイオリンを器用に弾く友だちの後から、岩城宏之さんはオモチャの木琴を持って ステージに上がりました。皆がどっと笑います。伴奏のピアノは小出先生でした。 先生は黙って微笑んで頷いて下さいました。岩城さんは、「トルコ行進曲」の演奏を始めました。 弾き始めた途端、ざわついていた会場がピタリと静まりました。 必死の思いで最後まで弾きました。そうしたら、今まで自分をイジメていた連中、 とりわけ、一番しつこく、陰湿なイジメをしていた級友が、一生懸命、本気で手を叩いていました。 万雷の拍手です。岩城さんは、あっけにとられました。それだけでも信じられないような出来事でした。 ところが、まだ、ありました。拍手が鳴りやんだとき、小出先生の言葉が続きます。 君はこの調子であと一年もやれば、商売になれるよ。 岩城さんは驚嘆しました。自分が「音楽」を「商売」に? 信じられないような言葉でした。 勿論、実際には「あと1年」では商売にはなりませんが、岩城宏之さんは、その後 歴としたプロの音楽家になりました。小出先生の目(耳)は正しかったのです。 小出先生がいらっしゃらなければ、岩城宏之さんは、音楽家を目指そうとはしなかったでしょう。 兎にも角にも、この日の演奏が「音楽家・岩城宏之」が誕生するきっかけでした。 良い話ですね。今だったら音楽家になれなかったかもしれないけど、当時の カリカリしない世の中の大らかさと、小出先生という恩師に出会ったのは、 岩城宏之さんにとって、とても好運なことでした。 私はこのエピソードが大好きなので、2回目ですが、ご紹介しました。 【読者の皆様にお願い】 是非、エンピツの投票ボタンをクリックして下さい。皆さまの投票の多さが、次の執筆の原動力になります。画面の右下にボタンがあります。よろしく御願いいたします。
2010年06月14日(月) 【追加】【お知らせ】後で差し替えますが、非常な名盤(CD)を見つけました。
JIRO
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