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2007年11月08日(木) |
「人違い? 患者撃たれ死亡 佐賀の病院、車で男逃走」←刑法の「錯誤」の問題です。裁判員制度大丈夫かね。 |
◆記事:人違い? 患者撃たれ死亡 佐賀の病院、車で男逃走 (11月8日16時45分配信 産経新聞)
8日午前7時40分ごろ、佐賀県武雄市朝日町甘久、篠田整形外科の2階病室で、
入院患者の武雄市山内町三間坂、板金工場経営、宮元洋さん(34)が男に拳銃で撃たれ、間もなく死亡した。
撃った男は車で逃走。県警は武雄署に捜査本部を設置し、殺人容疑で男の行方を追っている。
宮元さんに暴力団絡みのトラブルは全くなく、病院に暴力団関係者が以前入院していたとの情報があることから、
県警は人違いで撃たれた可能性もあるとみている。医師や看護師、ほかの入院患者らにけがはなかった。
◆コメント:裁判員制度なんてやって大丈夫ですかね。こういうのを「錯誤の問題」というのです。
裁判員制度は既に決まってしまったが、私は3年8ヶ月ほど前に、
「国民が刑事裁判に参加へ、裁判員法案を閣議決定」←止めた方がいいと思います
という文章を書いた。
理由はいくつかあるが、それはリンク先をお読みいただくとして、やはり、人を有罪にするか無罪にするかを決めるためには、
ある程度、法律(刑法、並びに広義の刑法)の知識を持っている人が決するべきではないか。「有罪っぽい」「怪しい」などで
決められたら、溜まった者ではない。
3年9ヶ月前の記事では、刑法における基本的な論点「因果関係の問題」について述べた。
今日の佐賀県のケースは、事実の錯誤の問題である。
◆刑法学上の「錯誤」。「法律の錯誤」と「事実の錯誤」
刑法学上の錯誤は、行為者の認識(意図)した事実と、実際に生じた事実に食い違いがある場合。これを事実の錯誤という。
もう一つは、その行為は違法行為なのに、違法行為だと知らなかった、という場合。これを法律の錯誤という。
今日のケースは犯人は逃走していることから、法律の錯誤である可能性はゼロに限りなく近い。
◆事実の錯誤の一つ。「客体の錯誤」
刑法学者さんたちは、行為者の認識した犯罪事実と異なる犯罪事実が生じたときに,
その発生した犯罪事実について故意を認めることができるかどうか、を厳密に考えたのである。
今日の場合犯人は、Aという人物を射殺しようとしたが、Bという人をAと勘違いして撃ってしまったのである。
こう言うのを「客体の錯誤」という、行為者から見て行為を仕掛ける客体を間違えたからである。
理屈っぽいことを言うと、犯人は、Aに対する殺人の故意はあったが、Bを殺す気がなかったのだから、
Bに対する殺人の故意はなく、過失じゃないか、ということである。
【事実の錯誤・方法の錯誤】
これは、Aを狙って撃ったのだが、ヘタクソでBに弾が当たってしまったという場合である。
◆結論:客体の錯誤、方法の錯誤いずれの場合にも、間違って撃ってしまった人を故意に殺した、とされる。(法定的符合説)
即ち、Aと間違えてBを撃ち殺しても(これが客体の錯誤)、
Aを撃つはずのところ弾が逸れてBを撃ち殺しても(方法の錯誤)、Bに対する殺人の故意があった、とされる。
刑法学者の間では議論があったようです。大きく分けると次の二つ。
【具体的符合説】この学説は方法の錯誤(Aを撃つつもりが撃ちそこなって、Bに当たった)のときは生じた結果に対して、故意を認めない。
しかし、客体の錯誤(Aと思って撃ったらBだった)の時には、殺人の故意を認める(殺人に限らないが今日の事件が殺人なので、殺人に限定する)。
【法定的符合説】具体的符合説より、きびしい。客体の錯誤の場合のみならず、方法の錯誤の場合にも結果に対する故意を認める。
この他に【抽象的符合説】という古い学説があるのですが、分かりにくいし、今では顧みられないので、省略する。
今は【法定的符合説】が支配的見解である。
◆結論を、今日の佐賀県の事件に当てはめる。
2007年11月8日、午前7時40分ごろ、佐賀県武雄市朝日町甘久、篠田整形外科の2階病室で入院患者の宮元洋さん
を撃った犯人は、その後の情報によると、先月同病室に組関係者が入院していたというから、ほぼ間違いなく、組関係者を
殺害すべく病院に侵入したが、たまたま病室にいた宮元さんを組関係者と間違えて(客体の錯誤)、発砲し、死亡せしめたのであるから、
明らかに殺人の故意犯として、裁かれるであろう。
◆「因果関係の問題」の時にもかきましたが、こういう事を全く知らないで、有罪とか無罪とか・・・。
素人が人の一生を左右して良いものでしょうか?
特に、日本人は周りの人と違ったことが出来ない。自分は無罪だと思っていても、
周囲全員が有罪と判断していることが、もし、分かったら(分からないような仕組みにしてもらいたいものだ)、
まず、間違いなく、自分の考えよりも、人と違ったことをしたくない、という心理が優先する国民である。
裁判員(陪審員)には、最も不向きな性向ではないだろうか。
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