オレとばんちゃんは、山からおりてきました。 んん? 山じゃなくて、谷なのー? そっか、まあオレにはどっちでもいいです。
そんでね、オレ、力はちょっとくらい戻ったはずなんだけど。 なんでか、まだ小さいままなの。 どうしようねー。
ばんちゃんは、こんなチビに車暮らしは無理だって言って。 ろくじょうふたまのボロアパートをかりてくれました。 そんなお金、あったんだ? オレ、知りませんでした。 ばんちゃんはきっと、オレの知らないとこで、いっぱいへそくりとかしてるんだ。 ずっるーい。
あ、オレ、カラダは5さいくらいだけど、中身は18さいのままなんです。 うん。たぶん。 そのはず。 …っていうのも。 最近、だんだんあやしくなってきてるんだよねー、じぶんでも。 どうも、小さいカラダでいると、思考も幼児化するようです。 考え方とか、好みとか。 ばんちゃんは、てめえは前からそんなもんだったぞ?っていうけど。 オレ的には、絶対ちがうんだけど。 わかってないなあ。(どっちが?)
だって、ほら。 前はこんなのぜんぜんキョウミなかったもん。 テレビのさー。ようじばんぐみとか。 最近、オレ、だんぜん好きです。 ドラマとかぜんぜんわかんないけど、こういうの見てると、わくわくします。
ねえねえ。
新聞広げてるばんちゃんを呼びます。 「あ?」 「ばんちゃんもやろうよー! ぐるぐるどっかーん!って」 「……………あ゛?」 「たのしいよお、ほらほら。わんわんもやってるし!
♪うれしくなっちゃうなーあ! ぐるぐるぐるぐる… どっかーん!
「ねえねえねえっ」 「ぎーんじー」 ぴきっ!と青スジたててるのはわかりますが、オレは今いそがしいのです。 だから気にしません。 うたって、おどって。 けっこうコレ、いい運動になるのです! 「ねえ、ばんちゃんも、早く早くー! 終わっちゃうよお」 「ああ゛!?」 本気でおこってます。 ちぇー。 いいもん。 今度はぜったいやってもらうんだから! なんのかんのいいつつ、ばんちゃんは小さくなったオレのいうこと、なんでも聞いてくれちゃうんだもんねー。
「ねえ、ばんちゃーん。高い高いやってー」 「おう」 歌が終わって、ぱたぱた駆けていってばんちゃんの首にしがみつくと、ばんちゃんは新聞をおいて、ひょいとオレを抱き上げてくれました。 「わあい!」
それにしても。 なんで高い高いはやってくれんのに、ぐるぐるどっかーんは駄目なんでしょう。 小さくなったオレには、わからないことがまたたくさん増えたような気がします。
あ、それからね。 オレたちがこんちゅうさいしゅうした虫たちは、みんな谷で離してあげたんだけど。 一匹だけ、オレにくっついてきちゃったの。 カブト虫くん。 なんて名前にしようかなあ。 あ、オレ、あまのぎんじ。 なかよくしようね♪
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