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風太
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2003年04月04日(金)
愛のホンキートンク


(またしても、マガジン18号ネタバレSSです。スミマセン・・!)
















やれやれ、蛮のヤツ・・。
相変わらず、口の悪いこった。
同じことを言うにしても、もーちょっと気の利いた言い方があるだろうに。

店の中で、「蛮ちゃんに見捨てられた〜」とタレて号泣しつつも、ヘブンに低周波治療器がわりに使われている銀次を見て、波児がはーあ・・・とため息をつく。

まったくよ。
アイツの口の悪い「捨て台詞」に、今まで何人のオンナがこの店に怒鳴り込んできたことやら。
言うだけ言って雲隠れして、その後はいっつもコッチに押しつけやがる。
オマエに対する罵詈雑言を、愚痴愚痴聞かされるのを宥めすかして旨いコーヒーで誤魔化しつつ話を聞いて。
そういうコッチの苦労に、ちっとは感謝したことがあるんだろうか、アイツは。

ま、もっとも。
今回のことは、まるで違うがな・・・。


「僕はダメ人間なんだ〜」

やれやれ・・。

「まあまあ。それより人間低周波治療器ってカンバン出しゃあ、奪還屋よりよっぽど儲かるぞ?」

「やっぱ、ダメ人間だ〜」

泣くなよ、オイ。


大洪水の銀次を見て、波児がまたはあ・・・とため息をつく。
となりで夏実が「蛮さんはきっと銀ちゃんのためにそうしたんだと思うな」と絶妙のフォローをし、「本当は一緒にいたいのよ」と笑顔でなぐさめている。
それでもレナの「でも役立たずの足手まといだから置いてけぼりにされたコトには変わりないですよね?」の一言に撃沈する銀次には、それも聞こえているのやらいないのやら。



「・・・・あら?」

ふと夏実が耳をすますようにする。

「マスター? ケイタイ鳴ってますよ?」

店の奥に置きっぱなしになっているケイタイの音を聞きつけ言う夏実に、波児がちょっと首を傾げて奥に消える。
よろず屋、王波児として仕事に使ってる携帯は、最近はあまり頻繁に鳴ることはないのだが。


「もしもし?」
『波児か?』
聞き慣れすぎているその声に、奥の部屋のドアを開けつつ、波児が思わずニヤリとする。

ほっぽらかして捨ててきたものの、どうなったか気にするなんざ、今までのオマエじゃ考えられないよなあと思いつつ、それでも素っ気なく返事を返す。

「おう、どうした?」
『・・・・アイツ・・。ちゃんとソッチに行ったか?』
「アイツ? コッチにゃ別に誰も来てねーが。あ、ヘブンならいるぜ?」
『ヘブンじゃねえっての! いやがんだろ・・・? そこに』
「あー銀次か? アイツならさっき帰ってきたけどな。真っ青な今にも自殺でもしそーな顔でさっき出てったぜ?」
『な・・! なんだとぉー!! テメエ、なんでそれを放っておきやがんだ!! クソ・・』
「あー! オイこら切るな!! 冗談だ、冗談。ちゃんといるぜ、安心しな」
『・・・・・・・・てめえ、波児・・・!』
「怒るな、蛮。こっちも泣きつかれて大変だったんだからよ。それぐらいの冗談言わせろよ」
『・・・チッ・・・・ で? 今、どうしてんだ? あのバカ』
「人間低周波治療器がわりになって、ヘブンの背中やら腰やら揉んで、アンアンよがらせてるぜぇ?」
『あ゛!? あのアホ、人の気も知らねえで何を楽しげなコトを!! ったく、アッタマくんなー、クソったれが!』
「まあまあ、そう言ってやるな。店に来た時は、本当に飼い主に捨てられた子犬みてえに頼りない泣きはらした真っ赤な目して、見てるだけで可哀想になっちまうぐらい酷ぇ有様だったんだぞ?」
『・・・・泣いてたか・・? 銀次』
「そりゃ、泣くだろうぜ。役立たずだ、使いモノにならねーから失せろって言われりゃーな」
『・・・役立たずとまでは言ってねえ』
「同じだろーが。ま、なんでソコまで言ったかぐれぇは察しがつくけどよ」
『・・・・・・・・・・すまねぇが・・』
「ああ、わかってる。ツケで飯たらふく食わせておくさ。腹が膨れりゃ、ちったぁ元気にもなるだろう」
『・・恩にきるぜ、波児』
「しかしま、オマエもいいトコあるじゃねえか。昔のオマエじゃ考えられねーよなあ。捨てたオンナのコトが気になって心配で電話よこすなんざ」
『な、なんの話してやがんだ!? だいたいオレァ別に銀次を捨ててなんか・・・』
「そりゃーそうさ。常日頃からオマエが猫っ可愛がりしてる、大事な大事な相棒だもんなぁ?」
『あ゛!? ったく、何言ってんだテメエはよー! とにかく飯の件は頼むな! じゃな!』
「へいへい・・」

切れた電話をしばし見つめ、低い笑いを堪えるようにする。


・・まあ、な。
いくら泣いてたって、アイツにもきっとわかってるさ。
オマエがどんだけ、アイツの事を想ってるかぐれぇは・・な。


奥の部屋から出てきた波児の和らいだ表情に、夏実がそれに気づいてパッと嬉しげに微笑んだ。

レナとヘブンもそれを見て、軽く目配せしてみせるが、背を向けてそれどころではない銀次は、まだヘブンの背中で低周波治療器になったまま落ち込んでいる。

波児がそれを肩を竦めて見やり、わざとらしく咳払いしてから、ちょっと吐き捨てるように言う。
「しかしま、本当にロクでもねえ男だよなー。蛮ってヤツは。昔っからああいう冷たいところがあったが、そこまで冷酷な奴とはなあ」
その顔をちろっと見て、夏実がにっこりする。
「用がなくなった相棒をぽいって捨てちゃうなんて、人間のすることじゃないですよね」
「まあ、所詮ああいうヤツなのよー、蛮クンて。自分に都合のいい人間としか組まないんだから」
低周波治療器タレ銀次を背中にのっけたまま、首だけ振り返ってヘブンも言い、うんうんとレナがそれに同意を示す。
「オニのような性格ですよね!」


「え・・・・? あの・・・・・」
なんだか、唐突に雲行きの妖しくなってきた4人の会話に、銀次がゆ〜っくりとそれを振り返る。
そしてヘブンの背中からちょこんと降りると、リアルモードに戻って、まじまじと4人の顔を見比べた。

「だいたい、冷たいんですよね、元から!」
「まあ、過去に色々あったみたいだしさ。そんなカンジで誰かれなしに、色んな人を傷つけてきたんじゃないの?」
「え・・・ あ、あのヘブンさん・・?」
「いろんな人から恨み買ってるみたいだし」
「あの口の悪さが原因かも!」
「ああ、確かに、あれで敵を作っちまうんだな。アイツにゃ、思いやりのカケラもねえから」
「ぽ、波児さん・・!」
「我が儘だし、金遣いは荒いしギャンブル好きだし。いいトコなしよねー」
「よーく、今まで銀ちゃんも我慢してましたよねー?」
「な、夏実ちゃん? さっきと言ってるコトがちがうんじゃ・・・」

険悪なムードに汗をかきつつ、銀次が思わず笑顔をつくる。
「や、やだなあ。みんなどーしたの? 蛮ちゃんは確かに口も悪いけど、ほら、その分ココロはやさしいっていうか・・」
「まあ、銀ちゃんたらヤサシイわねー。あんな仕打ちされて、まだ蛮クンを庇うなんて」
「いや、あの、そうじゃなくて」
「だって電撃出来なくなっただけで、ポイされちゃうなんて」
「銀ちゃんの力だけが目当てっていうかさー」
「利用価値がなくなったら、とっとと放り出すなんてな。残酷すぎるよな」
「まさに使い捨てってカンジです」
「あ、あの、みんな。蛮ちゃんは、そんなさー・・」
「いいんだぜ、銀次。別に遠慮はいらねえ、普段思ってる不満をこの際ぶちまけちまえば」
「え、オレ、別に蛮ちゃんに不満なんて」
「そうかな〜 きっとあると思いますよお。私はこの機会に、いっそコンビ解消してもいいんじゃないかなーと」
「レ、レナちゃん!」
「ああ、それもいいかもね。そーだ、士度クンと組むってのはどう? 士度クンのが絶対やさしいし! 金運もいいし!」
「ヘブンさん・・」
「ああ、それいいかもな。その方が、ウチもツケが減りそーだ。だいたい、蛮に金なんざ持たしてたら、一生かかったって、オマエら住むとこなんか持てねえぞ」
「そ、そうだけど、でも」
「そうだよね、これを機会に! チャンスかもしれないですよ、銀ちゃん」
「銀ちゃんを見捨てた蛮クンなんか、この際」
「こっちからポイしちゃったらいいんですよ!」
「アイツは、所詮1人のが気楽でいいってヤツなんだよ」
「冷血ヘビだもん」
「オニですから」
「乱暴者だし」
「人でなしだしな?」


「・・・・・いい加減にしてよ・・!!」

ガタッと背を向けたまま、そう怒鳴るように言ってボックス席から立ち上がった銀次に、皆が驚いて一斉に口を閉ざす。


「みんなひどいよ!! どうして・・・!? なんでそんな、蛮ちゃんの悪口言うんだよ・・・?! そりゃあ、蛮ちゃんは口も悪いし、言葉で気持ち言うの上手じゃないし、ついつい素っ気ない態度とったり、言い訳とかもしないから、よけい誤解されちゃうんだけど! でもココロの中はすんごく優しくてあったかくて、ちょっと淋しがりやなトコもあって・・。オレのことだって、ボケとかアホとか言いながらも、いつもちゃんとわかってくれてて、助けてくれたり心配してくれたりして・・・! 不器用だし、照れ屋だから、そういうのはっきりは言わないけど、オレちゃんとわかるから! 蛮ちゃんは、蛮ちゃんは、そんなことくらいで、オレのこと、絶対見捨てたりしないんだ・・・!!」

叫ぶように言って、ぎゅっと唇を噛み締める。


「オレ・・・。そんな蛮ちゃんが・・・いいんだから・・・・ いつもお腹へってても、住むとこなくても・・・・・ 蛮ちゃんじゃなきゃ・・・・イヤなんだ・・・・から・・・・」


最後の方はくぐもったような声になり、手をついたテーブルの上に、ポタポタと涙の滴が落ちた。









「そんだけわかってんなら、上等じゃねーか?」

「え・・・?」

波児の声にはっと顔を上げると、波児、ヘブン、夏実、レナの明るい笑顔が瞳に映った。


「そうですよねー」
「ホントにv」
「その通りよね」


「みんな・・・?」



呆然とする銀次の頭の中に、今しがた自分が叫んだ言葉がリピートされる。



  『蛮ちゃんは、そんなことでオレを絶対見捨てたりしないんだ!!』






「あ・・・・」


・・・・・オレ、何やってんだろう・・・?


蛮ちゃんは、あんなコト本気で言ったりするわけがないのに。
本当に見捨てるんだったら、あんな風に雷帝のコトも、電撃が出来ないコトも、わざわざオレに言ったりはしないよね・・。

・・・・オレにわからせるため・・・?


『だって、殺されかけてたし・・・  何がなんだか・・・・』
『いいわけすんじゃねえ!!』



もしかしてオレは、
いざとなったら雷帝にナれることや、電撃が出せることに、
まだ、どっかで頼っていたかもしれない。


まだ、蛮ちゃんや、自分自身のそうゆう力に、どっかで甘えていたかもしれない・・ね?



殴られた頬が、今になってじんじん痛む。

・・・蛮ちゃん、ゴメン。


オレ、たぶん、あの時も蛮ちゃんが、オレに何が言いたかったかわかってたと思う。
たださ・・。
いつも、どんなに怒鳴っても叱りつけても、追いかけてくオレを振り返るか立ち止まって待ってくれた蛮ちゃんの背中が、オレを待たずに目の前から消えてしまったことと、オレを拒絶してるみたいに見えたこと・・・。


それがつらかったんだと思う。

とても――




でも。
そっか。
いいんだよね?
オレ、追っかけてってもいいんだよね?
蛮ちゃんを。


マドカちゃんを奪り還えさなくちゃ。
士度と約束したんだから。



泣いてる場合じゃ、ないんだよね?





波児が、宙を見据えたまま、ゆっくりと瞳に力を戻していく銀次を見、静かに微笑んだ。

「銀次」
「え・・・っ?」
「とりあえず。なんか食うか?」

二ヤリとして言う波児に、銀次が笑顔になってそれに頷く。

「・・・・・・・・うん!!」


さっきは食欲がないからと断ってしまったけれど、そんなこと言ってられない。
とにかく、食べて食べて、元気をつけなきゃ!
そのうち電撃だって、ちょっとは出るようになるかもしんないし!


銀次がカウンターにつき、メニューにあるものを片っ端から注文する。
「えっとねー。オレ、ハムサンドとオムライスとカツカレーとエビフライとハンバーグと・・・・」
「そんなに食えるのかあ?」
「え? だって、頑張って食べて電気出さないと! えーと、それからねー」
「やれやれ・・・。またオマエらの借金3桁になるんじゃねーか?」
「だーって、蛮ちゃんがツケでタダ飯食って来いって言ったんだもーん」
「ったく、蛮のヤツ・・・」

ぶつぶつ言いつつも、注文された料理に取りかかる波児に、銀次がにかっと笑ってピースサインを送る。
それを見ながら、クスっと笑って顔を見合わせる夏実らに気がつくと、銀次がいつもの笑顔に、あともうちょっと足りないくらいの笑みを返して、ぐーんとスツールに腰掛けたまま伸びをした。



その銀次の手の中で、ピシッ!と電気の弾ける小さな音がした。






蛮ちゃん、待っててよね!
オレ、少しでも早く、蛮ちゃんに追いつけるように頑張るかんね・・!



―― だから。待っててね・・・!










END


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マガジン18号、ネタバレSS再び・・。
まあ、バネさんのお迎えがあったので、こういう展開はもう有り得ないんですが・・。

みんなで示し合わせて、蛮ちゃんの悪口言ったりしたら、銀ちゃんてこういう反応するんじゃないかなーと思って書いて
みました。
なんのかんの言いつつ、一番蛮ちゃんのコトを知ってるのは銀ちゃんなんだし。
「あんな男やめちまえ」「とっとと別れた方がいい」とかって言われると、別れ話を考えてるコイビト同士も、結構「そんなことないわよ」と逆に燃えたりしません?
銀ちゃんも「蛮ちゃん、ひどいよ〜」って思ってても、こんな風に回りから言われた方が「そんなことないよ!」と、早く復活できるかも・・・。なーんてねv
バネさん、そういう役目してくれない・・・・だろうなー・・・。

タイトル・・・。他に思いつかなくて、陳腐でスミマセン・・。